二十四 〜黒幕〜
「藤堂流で掛かってくるなら、好都合よ!」
〈転〉で入って来たのは良いけどコイツ、両足がバタついてる、軸足とか利き足の概念は捨てて両脚をほぼ同時に使って地面を捉える歩法なのに、それじゃ片手落ちならぬ片脚落ちね。
この程度の練度で放たれる技なんて膝の動き見てたら分かるし、本当は袴履かなきゃいけないのよ。……私メイドでミニスカだけど。気にしたら負け。
ほら膝が外向いた。軸足そっちなら、〈膝撃ち〉でしょ? そんなの来るって分かってたら只の超跳び膝蹴りだし、大技いきなりは当たら……危なっ! 膝にそんな尖ったプロテクター付けないでよ。
お返しよ。宙に浮いたままの、死に体じゃ避けれないわよ。
「同じ技で返してあげる。〈膝撃ち〉はこうやんのよっ!」
運足がなって無いから膝と足の向きで技の起こりが見えてるのよ。だから五十点。百点とは行かないけど九十点はこう。
〈転〉を起こりに持ってきて両脚で踏み切る! 斜め前に飛ぶんじゃ無くて、垂直飛びを意識して、宙に浮いてる目標ーー良く見たら罅が入ってる胸甲部ーーに左膝を刺すっ!
「止めたわね?」
手がちょうど受けれる位置だもんね? 受けちゃうよね。でも私の両手は空いててアンタの足は私の身体に届く位置にない。頭捕まえーた。さっき踏み切って残ってる右膝をお届けしまーす。
「硬っ! さっきのセイバーも硬かったけど、ヘルメットはもっと硬いじゃないの!」
何でそんな硬いのよ! 壊せたけど、ムカつくから空中で回し蹴りも追加してから着地! アイツは体勢崩れたまま背中から落ちて、床滑って行ったわね。
手応え有り……訂正。蹴り起き上がりって元気アピール余裕じゃん。中まで徹せなかったか。
「頭部ユニット破損、状況記録、処理対応を背面ユニットへ移行、頭部ユニット破棄後の自壊プログラムを発動」
ヘルメットは見た目完全壊れたから脱ぎ捨てたわね。声もお顔も拝見と行こうじゃないの……何か聞いた事ある声ね?
「なにそれ……その顔……どういうことなの……?」
師匠っ?! 嘘? いや待て体型も髪型も髪色も違う、でも若い師匠なのよ、この娘! 似てるとかそんな次元じゃない、何で同じ顔?!
って忙しないわね! 混乱してる所に突っ込んでこないでよ!
粗い歩法だし、気の質も師匠とは違うから別人なのは間違い無いけど。
さっきので学習したのね? 大技は私には入んないわよ? かと言って今見たいな、手打ちのジャブとか片手で捌けるんだから。
それと蹴るなら、蹴り足はすぐ引かないと軸足刈られて、ほら。受け身取らないと痛いよ。取れないか。じゃあサッカーボールキックお見舞いしてあげるから離れてちょーだい!
「向井選手! クロスを上げたー!」
派手に十メートルぐらい転がったけどこれもダメージは殆どなし、すぐ起きるわよね。まあ、いいや距離取ったし、ちょっと考える時間出来た。
全体的に練度は低いのよね。〈転〉から〈足撃ち〉、そっから〈膝撃ち〉なり繋げて型だけど繋ぎはしてこない、いや出来ない? 教えて貰ってないのかな? この……何て呼べば良いんだろう、師匠と同じ顔の人をコイツって呼ぶの抵抗ある。
「今更だけどさ? 名乗ったりしてくれない?」
分かるよ? 分かる、その顔になるの分かる。何言ってんだコイツ? でしょ。
でも落ち着いて考えようよ。初めてあったら自己紹介でしょ? 殺しに来てるのは分かったけど。こっちはそんなつもりは無いんだから。
「私は向井良子。貴女は?」
「重火器類の使用許可申請……却下? 分類不能敵性体の予測出力を六倍に設定……エラー?」
重火器っつたわよ?! この娘!? さっきマシンガンぶっ放して、セイバーみたいなやつ振り回したじゃん、まだあんの?!
おーいジャパンですよー。法律って、知ってるかー。他の国でも軍隊ぐらいしか使いませんよー。それと無視は良くない。挨拶したんだから名前ぐらい教えてよ。
「ねぇ? 話が出来るならちょっと話そうよ」
「分類不能敵性体より交渉接触あり、状況記録」
「まず私は分類不能とかじゃ無くて向井良子って言うの、いいわね?」
師匠の声で無感情に喋るの止めて欲しいんだけど……ホント貴女誰なの?
「敵性体名:向井良子。記録完了」
完了。じゃ無いのよ。一応話は通じてるみたいだけど。
「後、敵とかね? いきなり襲ってきてるのは、そっちだから。 失礼なのはそっち。分かる?」
「交渉内容が不明瞭、回答についての必要性確認、必要性:低。討滅指示再確認、保留? ……おかしい今までこんな事は無かった」
うーん? この娘、何なのかしら、誰と話してるの? 独り言だとしたら中々、重症だけど、メカスーツで誰かと通信してるのかな。
「藤堂流は誰に習ったの?」
「藤堂流。マスタースオウより情報開示について事前許可あり。正式名称:藤堂無手勝流、初伝から真伝までの技術修得度合いを表す位階が存在し、真伝修得者が当代に就任する。ただし真の当代となる為には、もう一点条件があり神性体の神格完全破壊を達成することがその条件である。流派の要訣である技術、流転歩は人類種が神性体、霊性体への攻撃及び完全な討滅を可能にする唯一の技術である」
めっちゃ喋るやん……。
「唯一の技術なの? 他にも何ちゃら流とか外国とかにもあるんだと勝手に思ってた」
エクソシストとか? ……神殺しではないわよね、神の使徒だよね。外国はどうしてるんだろう? 神様暴走したら暴れっぱなし? もしや藤堂流海外支部があるとか?
「完全に討滅、つまり存在を消去する技術。それは藤堂流のみが有している」
最近まで空手の亜流だと思ってた。師範代だけど、知らんかった。ご飯食べ過ぎた後、型を延々と繋げて途切れさせないっていうダイエット体操にしたりしてたって言ったら怒られるかもしれない。
というか誰に習ったのかなんかはやっぱり教えてくれないのね。
「流転歩をマスタースオウが解析されプログラム化に成功。補助ユニットを装着する事で特殊な修練を実施しなくとも藤堂無手勝流の動作を可能にしている」
マスタースオウって誰やねん。名前の響きだけなら百点の悪の親玉感あるけど。
「二つほど補足がいるんじゃない? プログラム化したって言ってるけど完全じゃない、良くて初伝の再現度三割ってとこ、そんでその動きはアンタだから出来てるだけで普通の人がやればミンチになるわよ?」
あんな急制動で動く機械を着て動いてるのは自殺志願者ぐらいじゃ無いかしら。まだ名乗ってくれないこの娘は内功なのか何なのか知らないけど、やたら頑丈だし。
アーマーが硬いだけじゃ無いのよね。手加減したつもりは無くても、咲夜さんに撃ち込むぐらいの強さは間違いなく出した。外がいくら頑丈でもあれだけ元気なのは中身が頑強って事で間違い無いと思う。
それにウチの流派は初伝抜けるまで一番つまらなくて苦労するんだから。解析か何か知らないけど、あの苦労をすっ飛ばすのは……何? 水嶋、知りたいの?
そうね、参考迄だと……太極拳のみんなでゆっくりやるのあるでしょ。あれ。アレを藤堂の型にして一日十二時間ぐらいずっと、ずーっとやんの。ずーっと。
そう、完全に出来ると勝手に気が体内巡るようになるから。それが流転歩。早い人で二年? ぐらいで出来るみたい。私と春樹も二年やったもの。
「マスタースオウより音声受信、外部スピーカー展開」
背中からそんなのも出てくるのね。どうやって格納してたのか凄い謎。何かギミック的に動いて組み上がったわよね。何だかアニメのロボットっぽい。
『初めましてかな、向井良子さん』
おじさんの声。初めましてかな? その言い方は名前は知ってる感じよね。藤堂流なの? スオウ、周防? 何か分家じゃ無くて、何だっけあれ……思い出せん!
『君の事は良く知ってるよ』
私は知らないから早く帰って欲しい。
「……誰よ?」
『彼女の養子にはもうなったのかな? ああ失礼、私はスオウクニチカというんだ。今後会う事もあるだろう、今日は挨拶までとさせて貰うがね』
「展開早いと疲れるの私。ドラマとかは巻き戻ししながらじゃないとストーリー入って来ないから録画派なの、お分かりぃ?」
『人を喰ったその態度、いいねぇ。彼女を、名前を捨てた彼女を思い出すよ」
「おじさん、師匠の知り合いなの? この娘の顔が師匠に瓜二つなのは何でなの」
「いずれ答えよう。今ではない事は確かだ」
「スピーカー越しでも分かるわ。アンタ性格悪いでしょ? 高いとこから見下してる」
「見下すねぇ……君達こそ我々を嘲笑い、弄び、虐げてきた筈なのだが、まあ認識というのは人によって違う、今日その議論はやめておこうか良子くん?」
良子くんって……。そんな間柄じゃないよね。その呼ばれ方は社会人になって気になる先輩とかに飲み会で隣の席になった時に呼ばれて、良子って呼んでも良いですよ……ってする用なの! 何で顔も見た事ないおっさんに言われにゃならんの!
「この娘を帰さないっていったらどうする?」
「自決用プログラムが施してある、出来れば穏便に帰らせて貰いたいものだね」
このオッサン嫌い。マジで嫌い。苦手なタイプ。もしこの後会う事があったら半殺し決定。
『スズナ、逃走用にのみだが重火器使用を許可する。飛行ユニットは突入時の場所で待機中だ、任務は中止。帰ってこい』
「重火器使用許可確認」
腕のパーツが展開してガトリングガンみたいなのになった!
「水嶋っ!」
頼りになる男! 水嶋氏! 一声掛ければあら不思議。スライム壁の出来上がりぃ。銃弾なんて何のその……ガトリングガンでは試してないや……大丈夫かな? あれ? こっちを狙わず壁に向けて撃ってる?
うわぁビルの壁一面を吹っ飛ばすって、大騒ぎになるわよ。ああ、それが狙いか。派手な逃げ方。あっちの腕のパーツも先に捥いどきゃ良かった。煙凄いわ。外に出ようとしてる?
飛び降りた!
「ここ十五階よっっ!」
フワって飛び降りないの! 十メートル程度先! 【転】使っても届くかどうかっ?!
「向井良子」
「何よ!」
手を伸ばして……駄目届かないっ!
「変な服」
「うっさいわね!! アンタの方が変な服でしょうが!!」
飛び込めば間に合うかと思ってヘッドスライディングまでして突っ込んだのに! 勢い余って、おでこちょっと擦ったのに!
飛び降りた先に見た事ない乗り物が待機してて何ともないじゃないっ。おまけに助けようとしたわたしに悪口言ったわよこの娘。あんまり宜しくない距離感の詰め方よ、それ。
「また会う時があれば……」
そういやあのオッサン飛行ユニットやらどうちゃら言ってたわね。はぁーもう。心配して損した。
ところでその乗り物どうやって浮いてんのそれ? イカみたいな形したサーフボード? 立ったまま乗るの? 最後に困惑する物放り込んでこないでよ……空って道路交通法どうなってんのかしら?
お尻ぽっいとこから青白い光……意外と安全飛行ね……滑る様なスピード。行っちゃった。だから動力何なのよ。
「水嶋! 結局あれなんなの? デビなんとか、スズナって言ってた、後あのオッサンの名前、心当たりある?」
「機械仕掛けの悪魔は聞き齧った程度で先程よりの情報は持っておりませんが、スオウクニチカ、周防国親でしょうか。……藤堂一族と我が一族がまだ明確に敵対していた頃、その名が響いていたと聞いた事があります、もちろん悪い響き方ですが……確かあだ名は死神と」
「師匠に聞けば分かりそうね……」
確か藤堂に関係のある名前よ。周防って。
「当代と同じ顔をしておりました」
「そっちも聞かないとダメね」
もうお客さん来ないよね? 来ても相手する元気無いけど? 八尋達のとこ戻りましょうかね。
あの娘……また会うわね。私の予感全然当てになんないけどこれは多分当たる。




