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【完結】りょうこちゃん、せきらら。  作者: 山田 詩乃舞
職業:会社員(試用期間)
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二十三 〜機械仕掛けの悪魔《デビルエクスマキナ》〜


 そんな訳で部屋出て扉閉めてから二十分程度経過した訳ですが。


 何やってんのかしら? 八尋が仙術使う時の気配が途切れ途切れで伝わってくるけど。


 門番をお願いされたはいいけど誰も来ないし。やる事なし。水嶋と副社長室前にあったベンチで腰掛けて待機中。とにかく広くて落ち着かない廊下。


 この階どうなってんの? 中央部が副社長室だけどそれ以外は副社長室を囲う形で全部廊下。副社長室も四十メートル角ぐらいあったけどこの廊下も幅二十メートルぐらいある……階段とエレベーターの反対側にもドアがあるから、まだ部屋がある感じね。 


 人の気配がして無いから今のところは放置。探索したいけど外から見たらもっと大きかったから、確実に迷子になりそうだし。


「水嶋ー暇よ。ヒマっ。何かないの? 暇つぶし出来そうな話とか? そうだ婆娑羅の事情ちょっと教えてよ。それか花札」


 さっき婆娑羅が使ってた携帯、アイツ躊躇無く捨てていったし、自分のも持ってなさそうだもんね……SNSとか絶対しないだろうしメールアドレス教えたけど、そもそも家出中の未成年に携帯端末の契約なんて出来ないわよね? 


 良くない筋の人達にお世話になってるみたいな事言ってたし、未成年保護の観点からはあの場で待ってるから戻ってくる様にした方が良かった? バイタリティ溢れてたし大丈夫かな? たぶん、知らんけど。


「我が君、誠に申し訳ございません。花札は持ち合わせておりませぬ。婆娑羅の話もつまらぬお話になりますが」


「お出かけの時は花札ぐらい持っときなさいよ。紳士の嗜みよ? 婆娑羅は同門になるかもだし事情ぐらい知っときたいから話して」


 誠司兄ぃがそう言ってたし、間違いない。花札は紳士の嗜み。


「ではお耳汚しになり申し訳有りませんが。婆娑羅は久遠寺という水嶋一族の中の分家の一つの跡取りでございました。私とは又従兄弟という関係でございます」


 又従兄弟って従兄弟の従兄弟だっけ? まず気になる事から聞きたいわね。


「婆娑羅って本名なの?」


「母親の胎内にいる時に神格を宿した者は宿った神格の名をつけるのです。そのままつけると神格に呑み込まれ易くなるので字や音を変えてになりますが」


「神格を宿すって何なの?」


「厳密には宿すのでは無く、集まるという方が正しく事象を表してはいるのですが。説明させて頂きますと、神と呼ばれるエネルギー体が本来ある位相からこの現世へそのまま現界するのには、かなりの無理が伴います」


 そんな気軽に来られても困るわよね。無理があるぐらいで丁度良いでしょ。


「そこで一旦自身を構築する因子を最小単位にまで分解します。そうする事でそのまま現界するよりも遥かに無理なく現世へ渡る事が可能となるのです」


 分かりやすい説明どうも。疑問を持ったら進まない話だろうからそのまま鵜呑みにするしか無いわね。


「後はバラバラになった因子が留まりやすい特性を持つ母体に集まり、受胎時にそちらに同化する、と言われています」

 

「言われています?」


「見た訳では無いので、そう伝えられているのと感覚として違和感がありませんから、腑に落ちると言いますか」

 

「水嶋は名前、普通よね? 何でなの?」


 六郎だもんね。しかも芸名〈miroku〉だし。

 

「私は東王と呼称される神格ですが、厳密には滅んだ異世界の神格です。名前はもう失われており、全てを喰らう者と呼ばれておりました。ですが、それではこの世界に破壊を齎すだけの邪神ですので、こちらに渡った時に名を捨てたのです、未だにその邪神の名残があり東王と名乗る事でそれを封じているのです」


 今日は随分と喋ってくれるのね? 大事な話なんだろうけどスケールが大きすぎて途中から入ってこないんだけど。それと名前の呼ばれ方……ちょっと、涙目になるのは何でなのよ。


「我が君に契約して頂いた事で私は東王として真の役目を得たのです……先代は契約せずとも遥か高みの力を得、御しておりましたが私には出来ませんでした」


「分かったからさ、泣かないでよ。あれ? さっきの説明だけ聞くと先代とか言ってるけど同一人物じゃ無いの?」


 だってそうよね? エネルギー体が分解されてこっちに来て、集まるんでしょ? 同じ神様なら同じでしょ? ヤバい混乱してきた。


「現世で生命としての活動を終え、分かりやすく神界と言いますが。そこに戻ると記憶や人格はほぼ失われます。受肉する度に別人になるとお考え頂いて宜しいかと。同じ存在ではあるのでご理解頂くには難しい事ではありますが……ですので宿すというような表現が使われるというところです」


「神界とやらに戻らなくても待ってたら良いんじゃ無いの?」


「肉体が滅べばエネルギー体は維持出来ませんので再び最小単位の因子に分解されます。しかしそのまま現世に漂い続けると因子の変質を招いてしまいます。変質を防ぎ、かつ留まりやすい母体が運良く居れば別ですが、ごく稀ですので神界に戻るのが常ですね」


「変質って、どうなるの?」


「良い結果はほぼ得られていません……大抵が手近な生物や無理矢理に人間に同化して邪神であったり悪神と呼ばれる類の神になり、自身の一族により処理される事になります。手に負えない場合は、藤堂流や神殺しを生業にする者に依頼が出され、彼等に討伐されます」


「……そう。説明ありがと、婆娑羅の名前から随分、飛躍しちゃったわね。それで婆娑羅は何で家出したの?」


「師を殺されたのです……ですが仇討ちは一族として許可出来ませぬ。藤堂流との約定でもあるので」

 

「わが家絡みじゃん。誘って良かったのよね?」


「!……ご安心を、我が君のご判断は適切でございます。十六代目にお預け頂くご手配は最善でございます、彼女の管理下である事が良いのです。臣めの説明が不足しておりました」


「私はアンタ達の常識とかルールとか分かってないから、余計な事した時は言ってね」


「我が君の為される事に何の間違いが……」


 駄目。脳死回答は断固拒否よ。遺憾の意を表明して手かざし。


「遮ってごめん、でも私が間違えないなんて事は無いの、誰だってそう、大事なのは間違えた事を認める事、貴方が私を守ると言うなら、私の間違いを正す事も守る事だという事を含めてちょうだい」


「……御意」


 だからさ、まずは、その跪くのとか止めない? 


「ところでさ、八尋大丈夫かな?」


 こういう時は話題転換が一番よね。だから早く顔上げなさいよ。


「調停者であれば問題は無いかと思いますが」


「あんなに辛い表情は初めて見たからさ、心配になったの」


「この件については、事情を聞き及んではおりませぬので……」


 とか喋ってたら。


「「あっ……!」」

 

 声揃ったし、この気配。うげぇ。八尋の予感的中してんじゃん。咲夜さんと同格ぐらいかそれ以上の相手かしらこれ? 水嶋も表情険しい。


 隠す気なんてまるで無い、密度濃いめの気を周囲に撒き散らしながらこっちに近づいてる。


 どう考えても空中を伝って、こっちに向かってきてる。どうやってんの? 乗り物? 窓が小さくて向かってきてる方向は見えないわね……待たされるの嫌だわ。焦ったい。


 止まった……ちょうど廊下の曲がり角の辺りに居る。此処十五階よ? ベランダとか無いからやっぱり空中に浮いてる? ……焦げた匂い? 


「ねぇ水嶋、何が焦げてるのかしら?」


「わかりませぬ……ただあの曲がり角の奥に置いてあります、観葉植物の手前にバーナーのように見える光線、熱線でしょうか? 外壁を突き抜けて現れた様に思うのですが……」


 あっ、ホントだ。奥に移動して上に移動してー、手前に移動してー下に降りてきたら……壁がくり抜けちゃう。


 壁が吹き飛んだ! 白煙が凄い出てて、奥が良く見えない!


 煙の中から鎧? じゃ無いわね、もっと工業デザイン、近未来的……白いメカスーツ? それを着た何かが、見えてきた……けど。

 

 ちょい待ち。その手に持ってるのはどう見てもマシンガンとかそういうやつよね?!


「我が君お下がり下さい! ここは我が!!」


 撃ってきた! 凄い気軽に撃ってきた! タンタンタンタンって! こんな小気味良い音するもんなの?! ここ日本やで! 射線見えてるから避けれるけどっ! ……? あれ? 


「はえー、水嶋凄いわねー」


 形変わってますやん。それで人間って……じゃ無かった神様だこの人? 形容しがたいわね……透明なスライム状の壁? 頭も手も透明なそれになって、壁の様に私の前に展開して全弾止めてる。


 スライム壁に当たった弾頭がこっちに出る頃にはコロンって感じで優しく地面に落ちていく。これは……水嶋史上一番の輝きね。


 でも、鳴り止まない銃撃音。


 マズルフラッシュっていうのかしらコレ? 手元が光り続けて、一切遠慮が無いんだけど殺意高すぎ。私そんなマシンガン撃ち込まれるような事した覚えないけど。


 ヘルメット被ってて顔も見えやしないし、随分と趣味に走った形ね? ロボットに乗って闘うパイロットみたい。僅かに見えてる口元の感じで人間だって言うのは分かるけど。はぁ……撃ち終わったら帰ってくんないかな。


 あっ、音止んだわね? 水嶋も人間フォルムに戻った。戻れるのが凄い。マシンガンで撃たれたのも驚いたけど、シームレスにスライムから人間形態に戻るこの異形っぷりにも驚きよね。

 

『予備弾倉含め全弾使用。対象の生存を確認。近接戦闘に変更』


 帰らないのねー。マシンガン放り投げて突っ込んで来たー……ちょっ! その歩法っ!?


「水嶋! 受けちゃ駄目っ!!」


 速いっ、間に合わないっ! その貫手は受けちゃ駄目よっ! ああ……やっぱりっ! 受けようとした手ごと、お構いなしに貫いた! 


「グボッぁ、何故、貫かれて……ゲフッッ……」


 水嶋、何とか反応して肩口に逃したわね、あのままだと心臓辺りを貫かれた。——丁寧に返しも貫手で狙ってんじゃ無いわよっ!


「それ以上はダメ、させないわよ」


「ベハッッ!?」


 水嶋ごめん! 思いっきり回し蹴りでお腹蹴って、後ろに吹っ飛ばしたけど、ついでに刺さってた貫手も抜けて、何とか前に割りこみ成功っ! 


 返しで狙って来てた貫手を白刃取りの要領で掴んで止めれた……貫手から伝わるこの気の巡り、やっぱり〈流転〉を纏ってる。


 貫手で成人男性の身体に穴空けるって、私が言うのもなんだけど、人間技じゃないわね。藤堂流を殺す気で使うと、こうなるお手本が目の前に。師匠が私に手加減を徹底的に叩き込んで来たのが本当の意味で理解出来たかも。


 取り敢えず離れなさいな。離さないなら腕貰うからね。ケンカキックって知ってる?


「おりゃぁぁ!」


 胸甲部蹴り込んで派手に後ろに飛んだけど、自分から飛んで威力を殺したわね。遠当て気味にして中身にダメージ狙っとくんだった。


 殺しに来てる相手には手加減じゃ無くて半殺しって師匠に言われてんのに失敗だったかも。


 手に付けてたパーツみたいなのは引きちぎったけど、向こうには然程、支障は無さそう。むしろトカゲの尻尾にして衝撃から逃げられた感じ。


「水嶋! 大丈夫?!」


「障壁を貫かれたので面食らいましたが、大丈夫です。もう再生出来ております。割って入って頂かねば危うく、情け無し。申し訳ありませぬ……」


「良いのよ別に、生きてんだから、気付いたでしょ? 藤堂流使うわよ。この全身メカプラグスーツ娘」


 さっき蹴り込んだ時にはっきり分かったけど中身、女性。私が知らない同門は多いから、その繋がり? 分からない事を考えても仕方ないけど……落ち着かない。誰なの? 


 取り敢えず挑発。ほらほら、アンタのパーツ此処よ、ほら。ポイッと。反応うっす、意味なしか。冷静な相手は強いのよねー。嫌になってきた。

 

「初めて見ましたが此奴は機械仕掛けの悪魔(デビルエクスマキナ)と呼ばれる神格狩りかと思われます。聞き及んでいる特徴と合致致します。何故、此処にいて、どうして藤堂の技を使うのかは分かりませぬが……」


 こんなのが割り込んで来ると八尋がもし先に知っていたとしたら……丸刈りね。丸刈りで手を打とうじゃないの。ちょっと歪なラインとか入れて超ダサくするから。


「水嶋は影に入ってて、飛び道具が来たら、さっきの技で影から対応する様にして頂戴。その方が相手には嫌だろうから」


「承知致しました……」


 相性が悪すぎて残念だけど適材適所よ。銃とかの飛び道具での物理攻撃さえ完封してくれたら私が負ける可能性はほぼ無いから。


『神性体、一。分類不能、一。機銃掃射及び近接での討滅に失敗、状況記録、分類不能敵性体の予測出力を三倍に再設定、設定完了確認、ブレードの使用許可を申請ーー承認確認。討滅を再開』


 無機質な声ねー、機械を通した音だけどヘルメットから出てるのかしら。水嶋がシンセイタイ、神性体かしら? 


 あれ? 誰が分類不能やねん! うわっ! さっきより速い、ツッコミ入れる暇ぐらいくれても良いじゃんよっ!


 なにそれブレード? どう見ても光るセイバーなんですけど。峰に相当するであろう部分が三十センチ程度あって束口の部分から光が噴き出てる。


 さっき壁くり抜いたのこれね、当たると不味いわねーって、剣筋が粗いわよ? 避けー……熱っつ! 掠ってもアウトくさい!

 

 でも一呼吸で動けるのは……首狙いの横薙ぎ一回、三歩分下げて躱す。無理矢理胴薙ぎで返してきて二回、これも三歩分下がる。踏み込んで突いて来て三回、半身で躱す。


 ……身体が伸びたから止まるわよね。そのメカスーツがサポートしてその性能だとしたらちょっと安心、捌くのに問題はないわね。剣筋粗いから本当はミリ単位まで見切りつけたいけど、熱いのよこれ。


 また来たっ! 袈裟斬り、半身で横に移動しつつ外す、返して切り上げて来る、これも横に移動しながら躱す、無理矢理打ち下ろしてくるから、これも横に動くだけで簡単に外せる。それじゃ動きがそこで途切れるでしょ? 


 こんにちわ。懐にお邪魔します。その危ないの取り敢えず壊しとくね。他は熱いし束部分狙いで手刀。


 息を鋭く吐いて、斬り落とすつもりで撃ち込む! 


 ——硬い! だけど中身の部品は割れた手応え……煙出てないそれ? 爆発とかしないよね? やだ、あっち行ってよもう! さっき蹴ったところもう一回蹴りこんでやる! 


「離れなさいよっ!」


 また手応えが軽い。衝撃を逃すために後ろに飛ぶのはどうもあのメカの動きっぽいわね。ではさっきの結果は……煙もっと出てきた! セイバーから噴き出てた光みたいなのも停止、あっ投げ捨てた!


「爆発するっ! ……したけど?」



 案外と言うか期待はずれというか、さっきのマシンガンの音より小さい音の小爆発で済んだわね。逆に凄いんじゃ無いの? 


 あんな壁くり抜ける出力の装置から煙が出てあの程度って……そもそも電気じゃ無いよね? 理屈がわかんない、説明されてもきっとわからないだろうけど。


 メカスーツとかセイバーとかちょっとハイテク過ぎ。飛び道具とか反則アイテムもう無いよね?


『ブレード破損、近接格闘種B、動作補助プログラム作動』


「また、〈(まろばし)〉?! だから、誰に習ったのよ、それは!」



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