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【完結】りょうこちゃん、せきらら。  作者: 山田 詩乃舞
職業:会社員(試用期間)
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二十二 〜近付く心〜

 

「悪い予感が止まんなかった理由だな……兄ィを一撃で沈める相手かよ」


 なんでそこで私を見ながら悪い予感とか言うのよ。水嶋だって辺り一面塵にしてやる! とか息巻いてたし、私なんかよりよっぽど危ないわよ? 


 ところで水嶋、そんな技あんの? あっ、その顔、有るんだ。引いてないわよ? ちょっとお付き合いの仕方を考えようかな? って。


「東王がやり込められてる……命拾いしたな俺は、いや? むしろ先が見えたっつうか、よし決めた! ちょっと待ってくれよ? 貰ったスマホどこ置いたかなあ、ああ、そこか」


 誰かに電話しだしたわね。態々スピーカーにしたって事は私達にも聞かせたいって事かな。


『……婆娑羅? 依頼はどうなったの?』


 女の人の声……八尋、どうしたの? 顔色悪くなってるけど。


「ああ、遠藤副社長、すまねぇけど依頼はキャンセルさせてもらうぜ、料金もいらねえ、前渡しの分も返すからな」


『貴方!! 裏切るの?!』


「裏切るも何もアンタとは個人どうしのビジネスの付き合いじゃねぇか。組とは関係ェねぇって何度も念押ししたぜ? ただキャンセルするってだけだよ」


『和田組長は承知の事なの?』


「いや元々好きにしろって言われてんだ、だから好きにするさ」


『組が跡形もなくなってから後悔しない事ね』


「その事なんだがよ? まぁ仕事をこれまで回してくれた恩ってのもあるし、こりゃ忠告っつうかアドバイスっていうかなんだかだが……このままだとアンタ終わるぜ?」


『何をいうかと思えば、八尋か篠塚の爺いに吹き込まれたようね、負け犬にやる餌は無いから尻尾を巻いてお逃げなさい』


「いや、まぁアドバイスさ、アドバイス、早めに白旗上げる方が良いと思うぜ?」


『このままで済むとでも?』


 新しい電話の切り方だったわね最後、壁にぶつけたみたいな音がしてから通話切れたし。


「一応、義理は通したし、もういいだろ。さっきのが雇主だぜ。調停者の兄ちゃんは分かってたろうけど念の為にな。おーい! 社長さんよ。もう出てきて大丈夫だぜ!」


「婆娑羅くん、大事ないかい?」


「問題ねぇな」


 奥の扉から、老紳士が顔をひょこり出しながら出てきたわね。人の気配もしてたから、いるとは思ってだけど仲良過ぎない? 襲う側と襲われた側でしょ? どんな関係なの?


「八尋坊ちゃん……!」

 

「篠塚さん! ご無事でしたね……!」


 坊ちゃん。八尋坊ちゃん。ふふ。笑っちゃ駄目。でも紳士と坊ちゃんが抱き合ってる絵は中々インパクトよ? 坊ちゃん……ふふ。


 調子悪そうにしてたから心配したけど、社長さんと会えたからか元気出たのかな? 良かった。


「変な社長さんだよな? オレが押し入っても平然としてるし、茶でも飲もうって。付き合ってたら今の状況殆ど予測してるみたいなこと喋ってたし。挙句、オレを買収したいとか言うし、泰然としてるかと思いきや今はオロオロしてるし、全く読めねえ」


「やっぱり社長は無事だったわね、他の人も先に逃したんでしょ?」


「まあ、あんな気当たり感じたらすぐ逃すよそりゃ。……そういやオレはなんて呼べば良い。アンタのこと」


 お姉さんでもなんでも……呼び捨てはやめてね。それはいつか出来る筈の彼氏に取って起きたいからね。


「呼び捨て以外なら好きに呼べば良いわよ。あと紙とペンある? 私の師匠のところ、まあ私の実家だけど、行き先書いといたげるから訪ねてごらん、上手く行けば弟子入り出来るかも」


「ほいよ、紙は確かそこに。ペンは机にあったな。良子姉ェが教えてくれんじゃねぇのか?」


 社長室って紙とペンまで上等なのね。高そうなペンねこれ。紙も何これ、透かし入って無い? 


「馴染むの早いわねアンタ……姉ェって、まあいいけど。あのね? 私より教えるの百倍上手いわよ、私の師匠なんだから。私は時々手合わせしたげるってだけ、中国拳法の教え方なんて知らないし。ほら、これ行き先と私のメールアドレス書いといたから」


「そっか、ありがとな良子姉ェ。後でまた連絡入れる。じゃあ、ちょっと何人か世話になったやつらにズラかるよう説得しなきゃなんねぇからオレはもう行くぜ」


「じゃあね。説得もいいけどあんまり無理して厄介ごとに巻き込まれちゃダメよ?」


「違いねぇ、引き際きちんと見極めんのは間違えねぇ様にするさ。まだ強くなりてぇしな。あんがとよ!」


 忙しない子ね、建物の中は走ったら駄目だってば。先が開けて嬉しいのは分かるけど。


 師匠ならかなり伸ばしてくれそうだけど、まずはお行儀だろうなー。春樹にも良い競争相手になりそうだし、ひとまず良い出会いだったわね。


 でも、こっちのややこしい方はまだ終わんないんだろうなぁ……。感動の再会の後で坊ちゃんと爺やが深刻な顔してるし。


「坊ちゃん、申し訳ありません。お義母様の暴走を止める事が出来ず。面目ございません」


「いえ、誰も対処など出来ませんでした」


「あの男にお義母様は操られておるのです、あのように人を傷つけるような、そんな女性では無かった」


「そうですね、彼女は優しい女性でした」


 嫌な事情が耳に飛び込んできましたよ。


「ねぇねぇ?」


 流石に割り込む。家庭の事情に何も知らずに首突っ込みたくなんてないし。


「何でしょうか、良子さん?」


「まず事情を教えてくれると嬉しいんだけどね。なんか事情ありげな八尋のお義母さん? を何にも知らずに強制スリープしたりとかは流石にちょっと嫌」


「中々に説明しがたい事情で、説明するのに時間が必要になります。今は難しいので後から説明する時間を頂けますか? それと、ご心配には及びません、義母は私が対応します。良子さんは邪魔が入らないようバックアップして頂きたいのです」


 まあ家族の問題あんまり人に話したくないだろうし、後から説明するってんならいいけども……。


 八尋の顔がまたさっきみたいに辛そうに見える、本当に大丈夫なのかな。


「邪魔が入らないようバックアップ……って何すれば良いの」


「具体的には副社長室に乗り込んだ際に我々以外の者が部屋に入らない様に門番をして頂くことですね」


「分かりやすくて良いわね。でも婆娑羅が何人か引き上げさせるって言ってたし、残りも何か逃げていきそうじゃ無い? 誰も来ないんじゃ無いの?」


「で、有れば良いのですが……」


 はっきり言おう。はっきり。心配事は、はっきり言おうね? それと、こっち見ながら言われると私が原因みたいに思えてくるから止めようね。


「アンタ見通す者とか言われてんでしょ? 何かあるならはっきり言いなさいよ」


「いえ、それが良子さん絡みになると、とんと精度が落ちる様でして。いつもは、はっきりとビジョンと言いますか……視えるのですが」


 うわー。予測不能なのはアンタのせいってはっきり言われたー。


「私は至って普通の女です。そこんとこ宜しく」


「存じております。存じております」


 ちくしょう。二回言いやがったこいつ。ハイハイそうですねって何? これだから困るんだよなって顔しながら言っていいことじゃないからね。


「キィぃぃい! 何よりムカつく!」


 顔色悪いから心配したのに。猿みたいに回りをウロウロしてやる!


「副社長室はあちらの別棟の十五階です。行きましょうか」


「そしてサラッとスルーぅぅ! 投げ出したい! お金のことさえ無ければ! 投げ出したい!」


 地団駄ふみながら八尋をみてみる。よし。ちょっと笑ったかな……少しは元気出たのね? なら良いわよ。いきましょうか。


 ◇ ◇ ◇


 特に障害も無くやってきました副社長室。ノックしたら、どうぞって声が返ってきたからすんなり入ったけど。


「ーーーー! ーー! ーーー!」


 会話開始してから五分後にはもうこの金切声。かれこれ五分は続いてる。水嶋は部屋に入る前に影に入って避難済み。そういうところだと思う。ホント。後で話そうね? 


 八尋が真由美さんって言ってるの聞こえたけど、他は良く聞き取れない……ちょっと今、意識的に部分ミュート機能発動中。 罵詈雑言すぎて聞くに耐えないよ。


 初対面の印象としては、とても綺麗な人。ただ眼が冷たくて人を物か何かの様に見てくる。で、今は半狂乱で周りの物に八つ当たりしながら叫んでらっしゃいます……。この場にいるのは正直辛いわね。


 さっき事情がどうちゃらあったけど。ぐちゃぐちゃな叫び声を何とか拾いつつ整理すると。


 八尋のお義母さんの主張としては二十歳で結婚して旦那さんがすぐ死んで家の仕事も無理矢理させられている。


 彼氏っぽい人がいてその人との子供が欲しい、産まれた子供に会社を継がせる。


 会社は私の物だ! お前たちは会社を去れ。


 つまり、ちょっと何言ってるのか、よく分かんないのよね。


 八尋も聞いてるフリして超生返事してる。だけどやっぱり辛いみたい。八尋、手をそんな握り込むと指が食い込むよ、ほら、力抜いて。指解いてあげるから。


「すみません……ご心配をお掛けしてしまった様ですね」


「やっぱり食い込んで血が出てる。治せるのよね?」


「ええ、問題有りません後で治します、今は先ず」


 八尋が印を結び出した。


「ーーー! こうなったら! アンタ達には死っ……」


「定命……願い……応えよ……縛」


 真由美さんに八尋の手から出てきた光の縄が絡んで一気に締まったと思ったら、もう消えた。

新しい術じゃん、そんなのも出来んの? 立ったままで金縛りみたいにカチカチになってるし、意識も無いわねこりゃ。……あれ? 咒式? 一瞬アレの気配が……


「良子さん、少し作業を行いますので部屋の外で見張りをお願いできますでしょうか」


「了解だけどいいの? それ私の出番とか無い?」


「今回は私が対処致します、気になる事がありますので誰も部屋に入らないように見張って頂けますか」


 真由美さん、何かボタン押してたもんね、なんだろうあのボタン、ゲームとか漫画だと落とし穴とか床がパカーンってなって落とされるパターンだけど、どっかに知らせただけかな?


 


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