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九 〜外法咒式〜

 

 「とりあえず確認もう一個なんだけど、結局のとこ咲夜さんの娘さんはどうしたいのか聞いてもいい?」


 これ大事なのよね。要らぬお世話にお節介、呆れる程に空回りと。そんなの嫌だしね。


 「咲夜さん、宜しいですか。良子さんが納得する形で依頼に臨んで頂きたいので希望のぞみさんとお話しさせて貰えますか」


 「構わないけど、娘が話したくない事までほじくり返すような事は許さないよ。希望! こっちに来てくれるかい!」


 「お母さん〜? もうそっち行っても大丈夫〜?」


 ありゃ、店員さんじゃん。面影一ミリも無いんだけど、母娘ってのはわかんないぐらい似てないわよね。 んーよく見ると眼の色、ホントね、ちょっと薄い紫だわ。一緒の色してる。近くでよく見ないと分かんないのね。


 この筋肉からこのスレンダーは想像つかないわね〜。旦那さんが華奢なの? 店主? チラッと奥で蕎麦打ってるの見えたけどそんなに細い感じには見えなかったけどなぁ。まぁいいや、それより。


 「希望さん、身体の調子はどう? さっきはお蕎麦に夢中だったから気付かなかったけど、今よく見た感じだとかなり気脈狂ってるし、整えるだけなら今出来るけど? 話はまずそれからで良い? ていうか私が気になるから。ちょっとそこの座敷借りて施術するわよ」


 さあさあ良子ちゃんのスペシャルマッサージの時間ですよ。結構自信あるのよ。


 


「八尋」


「何でしょうか」


「あのお嬢ちゃんはいつもああなのかい?」


「本日も通常運行ですね」


「娘の気脈が狂ってるのはアタシだって分かってるが、とてもじゃないけど手が出せる代物じゃない」


「呪いの類いですからね」


「あのお嬢ちゃんなら出来ちまうかもか……。さっき殴られた時の気の徹し方。あんなに綺麗に徹されるなんて綺羅とやった時ぐらいだしな」


 また名前言ってる……知らないよ? それに、何が呪いか、大袈裟ね。こんなのめっちゃ凝ってるだけだっちゅうの。ほれほれ、横なって。師匠直伝スペシャルマッサージご案内ー。


 ……一通り触ってみたけど、この古傷みたいに見える痣は背中とお腹の間になんかいるやつの仕業かな。こういうときわー、掌あったかー……グリっとコリッとジワワワ〜ぁぁっ、ポンッとな!


「なんか出た!」


 うっそ! なんか出た、なんか出た、なんか出たー! 今までちょっとモヤッとした奴は出した事あったけど、気の澱みだったし、別に珍しくも無かったけど! こりゃたまげた。超ビッグサイズじゃん。しかもツヤっと黒光り。アナコンダサイズの蛇みたいなナニか!


 ……なによ、生意気にこっちに敵意向けて来てるじゃん。やんのかコイツ。


「八尋、これは何なの?」


外法咒式(げほうじゅしき)と呼ばれる呪いの類です。誰かの負の感情を糧にして発動します」


「よくわからないけど、とりあえず壊して良い?」


 生き物じゃ無いわね……気脈を感じない。ヘドロを燃料に動いてる蛇型ヌルヌルロボットって感じ。臭いは無いけど、視界に入れると吐き気が。


「構いません。良子さんであれば壊せます、打ち抜けば良いだけです」


 私なら壊せる? ……んじゃまあ遠慮なく。


 生き物じゃ無いなら全力いっちゃうわよ。普段やらないぐらい力いれるかんね。今の訳が分からない状況に感じてる私のストレス全部ぶつけてやる。


 大きく〜息を吸い込んでからの。ゆっくり、出してー。溜めて、溜めきって。整えてからのここっ!!


 手加減なしの全力【足撃】!


 『ギッッ! ギュー!』


 気の抜けた断末魔。取り敢えず木っ端微塵。灰が飛び散るみたいに消えていく。

 久々、出せたわね全力正拳。単純にして至高のストレス発散。ごちそうさまー。


「……八尋、アタシはあの類の咒式があんな風に破られるのは初めて見たよ……綺羅ですらあそこまで非常識な事は出来ないぞ。それに調息した後の動きは何なんだい? 音も出なけりゃ、打ち抜く動作も見えやしない、まるでお嬢ちゃんが殴った結果だけが突然現れたとしか思えない。一体、何者なんだい……」


「私の店のウェイトレスです」


「ちっ……答えるつもりは無いってかい」


「今はまだ何をお答えすべきかも分かりませんので」


 八尋はすぐに匂わせトークするから。……まぁ放っときゃいいや。希望さんの様子見よう。


 モヤモヤぶっこぬいてから、見た感じ気脈整ってきてるけど、どれどれ、ちょっとお腹触りますよっと……おっ! 痣も薄くなってるし、気脈も大分整いましたなこりゃ、よしよし。


「身体の重さは取れたでしょ?」


「……嘘…本当に苦しくない……」


 ちょっ! ちょっ! ちょっ! そんなに涙流さなくてもいいってば!


「あっ……あっ……りがと……ござい……まず……」


「大した事してないから気にしないでね、お腹は冷やさないようにね? 暫く、そうね、大体一週間ぐらいで完全に復調出来ると思うわ」


 そんなに泣かれると、こっちがアタフタしちゃう。


「アタシからも礼をさせてくれ。ありがとう、この借りは必ず返す」


「あっ、はい」


 借りもなにも先程、貴女の事を物理的にボコボコにしてましたが。それと帳消しぐらいでどうですかね? 謝らないとは言ったものの気まずいのには違いなくてですね? 


 ……最初からこのマッサージしてりゃ痛い思いもせずに済んでたのに、借り返すって言われても、ちょっとむず痒い。


 ……あっ。『スペシャルマッサージはお金を貰うようにしなさい』って師匠に言われてるの忘れてた!


 ……まぁノーカン、ノーカン。言わなきゃバレない。師匠、貴女の言いつけは守れませんでしたが、情けは人の為ならず、善行はいつか報われるというものですよ。言い訳じゃなくて、全部八尋が悪いんです。と。


 よし! 懺悔完了!


 うん? これもう相手のとこ行かなくてもいいんじゃない?


「八尋! 解決! 解決! まるっと治ったんじゃない?」


「……そうもいかねぇんだ、お嬢ちゃん」


「何でですか? 娘さんの身体も治りますし、相手に怒ってた原因はもう取り除けたでしょ?」


「希望の恋人が相手方の頭領の親類でな……うちの娘と良い仲になったんだが向こうにも、その幼馴染というか頭領の娘ってのがいてな。その娘の横恋慕、言い方は悪いがそう言う状況だったのさ。たが何をとち狂ったのか、保管していた願いの像って言う神像に願えば想いが叶うなんて、その娘を唆す(そそのか)奴がいてな。願った結果、何でかその像から外法咒式が飛び出してきた」


「……救われない話ね」


 いるのよねー。人の恋路を邪魔するばかりか陥れる奴って、馬に蹴られて死んじまえってやつね。


「その幼馴染の娘も希望と同じく、外法咒式が取り憑いちまって同じ症状になってな。その娘の手前、うちの希望だけ助かりました。結婚もしましたじゃ、妙なしこりが残っちまうんだよ。希望は私の血が濃く出てるから肉体は頑強だ。咒式が悪さしてても死にはしなかったが、あっちの娘はいつ死んでもおかしくない」


「話しがややこしくて理解が出来て無いけど、咲夜さんはどうしてカチこもうとしてたの?」


「外法咒式なんて代物、あっちには作れる奴がいねぇ。あっちの誰かが良からぬ外部と繋がってる筈だ。それを炙り出す協力してくれって内密に打診はしたんだが、反応がねえ」


「希望さんの輿入れはあまり歓迎されていない状況ではありましたので……ダンマリというか、声を大きく出来ない状況のようです……そこで外部、つまり私に依頼が来ました」


 結婚に反対してる人達がいて解決させない様な動きを取ってる、一方では賛成だし女の子達には助かって欲しい人達がいると……内部で潰し合うわけにも行かないと。


「何で結婚に反対なの?」


「異種族交配は力の強い個体が出やすくて火種になりやすいからな」


「火種?」


「あいつらは純血主義つぅか、これまで長い間、外の血が入ってこなかったせいで排他的だし、視野が狭い連中なんだよ」


 限界集落一直線。普通に衰退を辿る未来しか思い浮かばないわね。


 ところで咲夜さんも大分視野狭くなってたけど。大分落ち着いたわね。闘う前の顔付き、鬼だったもんね。鬼か。


「……そんなに見なくても分かってるよ嬢ちゃん……どの口が言ってんだかだろうけど、アタシは馬鹿だから自覚してるよ」


 私、この鬼さんと仲良くなれそう。失敗をちゃんと認めれるのって、凄いことだもの。


「向こうにも改革派みたいな奴らがいてな、そいつらがこのままじゃ駄目だって事で色んな異種と交流して外にも出ようとしてたのさ。そんな中、交流の一環で希望は向こうの里に通っててな、男も出来て幸せな時にって訳だ」


「とばっちりが来たと」


「まぁそんなとこと思うがまだ裏がありそうだ、アタシの感でしか無いが」


「カチ込んじゃっても良かったんじゃないの? 八尋?」


「そこまで簡単ではありません、人死にを伴う戦になりかねない状況です。元々は良子さんと二人で乗り込んで解決する手筈でしたし、それが先方の次期頭領、次郎坊氏からの本来の依頼です」


「ごちゃごちゃ言わずにアイツが……次郎坊が希望のとこに来て二人で暮らしていくってんなら、アタシだって飲み込んで我慢出来るさ! 一回りも歳下の幼馴染の想いがそこまでになってんのにも気付けねぇわ、いざとなったら希望より一族優先ってのが気に食わないね!」


「お母さん! 次郎さんはずっと考えて動いてくれてたよ! それに必ず迎えに行くって! 伊吹ちゃんの事も助けてあげたいのよ……あの子は何にも分かって無かったんだから!」


「悪かったよ、あんたの事になると血が昇って抑えがきかなかったんだ、……ごめん希望」


「さて、鬼ヶ崎さん……私の提案内容はご納得頂けたでしょうか?」


「自信満々で言うから、ブチ殺してやろうかと思ったけど、アンタの手管を忘れてた。確信してなけりゃアタシに向かってあんな啖呵は切れねぇ。さっきの何手かでもお嬢ちゃんの底がまだ見えてねぇしな、恐れ入ったよ、納得の手札だな」


「ではこの件、私に預けて頂きます。成功報酬は鬼ヶ崎一族全体で良子さんの後見をして頂くこと、失敗した場合には私の生命与奪権を担保として設定致します、これらは今この時に契約として成立させます」


 また喋りながら手をバッバッ! ってしてるじゃん! 怪しげな術! それどうやってんの? 最近は光ったりオーラ(笑)出したり流行ってんの? 


 どうなってんのよそれ。ちょっとだけじゃ無くて結構真剣に真似したい……あぁ、みるみる間に格好いい文字か絵だかわかんないけど空中に浮いて青白く光って、シュッパって……消えた。


「ーー誓詞約定ーー。……それでは先方に良子さんと伺いますので咲夜さんと希望さんは此処でお待ち下さい」


「ところで相手方はどんな感じなの? 鬼? 妖怪的な?」


 もうあんまり驚かないわよ? 鬼と闘ったんだからね。


「天狗ですね」


 テング? それってあの天狗? 

 




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