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昨日の敵は今日の友 前編

 ストリア帝国、リリィ達の活動する大陸にある三つの大国の一つ。

 他二つとの相違点として、最も特徴的なのは、他の三つの国よりも、軍事力方面への政策が強いという面が有る。

 それ故か、他の二つの国が、魔王との戦いによって滅んでしまった国のおこぼれで、勢力を拡大した事に比べ、この帝国だけは、その強大な軍事力により、運よく生き延びたというよりは、自力で勝ち抜いた面がある。

 その根底にあるのは、良質な鉱石の取れる数々の鉱山と、その鉱石を有効に扱うだけの技術力が関係している。

 それも、鉱石の類の知識や技術に置いては、右に出る者はいないとされているドワーフ達の存在のおかげでもある。

 ドワーフ自体は、この世界に数多く点在しているのだが、彼らの文明が発祥したのは、このストリア帝国の鉱山の何処かであるとする説が有る程だ。

 そして、リリィ達が向かっている鉱山の町は、ストリア帝国各所に存在する鉱山の中でも、特に良質なアダマントが採れる。

 それ故か、数多の武器商人や、鍛冶職人が集い、武器職人の町としても栄えている。


 空軍基地から逃げ出して早一週間、リリィとシルフィは、その目的地である武器職人の町、バルガに到着する。

 町に入った際の服装は、シルフィの場合、何時もの黒スーツの上に、マントを羽織るという物。

 リリィは、いちいちエーテル・ギアを取ったりつけたりでは、活動に遅れが出てしまうという事で、既に着用した状態の上に、マントを羽織っている。

 こうなったのは、そもそもこのスーツは異世界でしか着用されていないというのに、大来で見せびらかすのは変だと、シルフィが進言したからである。

 結局の所、シルフィは単純に恥ずかしいというのと、リリィの場合、シルフィの身を案じて、こういった恰好をしている。


「此処が最初の目的地?」

「ええ、武器職人の町とも言われる程、武具の生産が盛んな町とされています、此処であれば、大尉の使用する刀に負けない位の装備が制作できると思います」

「成程……確かに、いろんな武器屋さんが有るね」

「ええ、職人たちの激戦区ですし、名の有る冒険者や騎士は、此処で武器をそろえる事も珍しくは有りません」


 到着した町では、あちらこちらに武器屋が点在しており、どれも値段相応の性能を持っている。

 だが、リリィが欲しているのは、ちょっとやそっとでは壊せないような頑丈な武器、その為にも、特に良質な武器が必要だ。

 露店やワゴンセールで売っているような安物では無い。

 じっくりと見たいが、今は宿を取り、此処に来るまでの道中で討伐した魔物の素材を、幾らか売却して、資金を調達しておきたい所である。


「先ずは宿を取りましょう、一週間野宿は、お辛かったでしょうし、今のうちに確保しておいた方が無難です」

「あ、うん、そうだね」


 宿を取る事を提案したリリィは、シルフィの腕に絡みつき、ぱっと見お熱いバカップルのような構図が出来上がる。

 リリィがシルフィに告白して以来、シルフィは色々なアプローチに、すっかり困ってしまっている。

 別にアプローチしてくる事自体は構わないのだが、同じく思いを寄せる身であるシルフィとしては、過度にアプローチされてしまえば、色々と支障が出てしまう。

 バスターソードによる戦闘は、シルフィには合わなかった為、その後は持ち出したエーテル・サブマシンガンや、ライフルによって、後方支援を行っていた。

 弓から銃に切り替えても、やはり集中力は必要不可欠であるため、過度にアプローチされてしまうと、狙いに支障が出てしまう。


「あ、あそこの宿がよさそうですね、さ、早く行きましょう」

「(緊張で銃身ブレるし、今は視線が凄いし、もう少し自重してよ~)」


 等と涙目になりながらも、見つけた宿へと、リリィはシルフィの腕を引っ張りながら突入する。

 初めて会った時と比べれば、随分と明るく成ったのはいいが、そのテンションに、シルフィが付いて行けていなかった。

 そんなシルフィの事を知ってか知らずか、リリィは開いていた部屋を取ると、続いてこの町に存在する冒険者ギルドへと赴いた。


「そう言えば、何か随分久しぶりな気がするね」

「そうですね、最近SFよりの話ばかりでしたからね、そろそろファンタジーも入れなければなりません」

「そう言う発言も、何か久しぶりな気が……」


 と言う話を挟みつつ、二人は冒険者ギルドに到着する。

 最初こそ、緊張でリリィを盾にしてしまっていたシルフィであったが、今はへんな視線を向けられようとも、堂々と一緒に入っていった。

 と言うか、今回はリリィがベッタリとくっ付いたまま入った為、別の意味の視線が向けられてしまっている事に恥じらいを覚えている。


「なぁ、兄者あれは」

「ああ、俺達が入ってはいけない世界だ、弟よ」


 等と言う、特に伏線でも何でもないモブ兄弟の会話が聞こえて来るが、今回の目的は、あくまでも資金の調達、特に気にすることも無く、手続きを開始する。

 道中で狩りまくった魔物の肉や皮、そして魔石の類を全て売り払ったおかげで、武器代だけでなく、この町の滞在費として使用しても、お釣りが来るほどの額を手に入れた。

 だが、それだけの金額をすぐに用意するのは難しいので、数十分程待つ事に成った。

 支払金の準備が整うまでの間、リリィとシルフィは、ギルドのテーブル席で、適当に休息を取り始める。

 ここ暫く、とても休めるような環境で無かった為、久しぶりの落ち着ける場所で、シルフィは気休め程度に、足の疲れを取りだす。

 ついでに、残り少なく成ってきた煙草をふかし、リリィと一緒に時間を潰し始める。


「ところで、リリィの心臓も、魔石で動いてるって事だよね?」

「はい、それがどうかなさいましたか?」

「えっと、魔石、全部売っちゃって大丈夫なのかな?って」

「問題有りません、量産型のエーテル・ドライヴと異なり、私に使用されてる物の寿命は、役五百年とされています」

「五百年!?エルフの半生分じゃん!!」

「ええ、何故それ程もつのか、私にも解らないのですけどね」

「そ、そうなんだ」

「……なぁ、お二人さん、ちょっといいかい?」


 適当に話ながら時間を潰していると、二人の事を見ていた冒険者が、リリィ達に話しかけて来る。

 それなりにガタイも良いのだが、見た感じでは中堅の冒険者と言った所だろう。

 少し警戒を行いながらも、リリィ達は彼の話に耳を傾ける事にした。


「その蒼い髪、そしてエルフを連れている、アンタ、まさか噂に聞くサイクロプス百匹殺しのアリサか!?」

「え?」

「(……何か、知らない所で話が凄い事に成ってる!!)」


 突然何を言い出したかと思えばと思ったが、よくよく考えてみれば、確かに百体近いサイクロプスと戦った事を、シルフィは思い出した。

 だが、何故ロゼ達やジャックではなく、アリサの事だけが噂になっているのか、少し解らなかった。

 考えてみると、民間人を主に助けていたのは、基本的にリリィとシルフィだった。

 恐らく、市民からして見たら、一番の功労者はリリィだったのかもしれない。

 とはいっても、町に出現したサイクロプスの過半数を討伐したのは、ロゼとジャックである事に変わりは無い。

 リリィ自身も、自分だけ評価されている事に違和感を覚えてしまっている。


「……人違いです」

「(あ、しらばっくれる気だ)」

「そ、そうか、だが、さっきアリサって呼ばれていなかったか?」

「……イエ、キノセイデス、ワタシはリリィです」

「それ明らかに図星の反応だろうが!!」

「……はぁ、仕方ありません、では、何の用ですか?」

「なに、野暮な話さ、良かったら、ウチのパーティに来ないか?」

「丁重にお断りします」

「(相変わらずの即答)」


 予想通りの言葉だったので、リリィは速攻で拒否した。

 今の所、誰かとつるむつもりも無ければ、そもそも今は人と関わるような事をしたくはないという状態だ。

 此処に居るという事は、相応に強い冒険者なのかもしれないのだが、スレイヤーのような相手が来た場合は、恐らく囮程度にしか役に立たないだろう。

 そういう事もあるが、リリィとしては、シルフィと二人っきりの空間に入ってほしくないというのが、一番の理由だ。


「……そうか、ま、俺らもお二入の間に入るのは、気が引けるしな」

「あ、えっと、私達まだそう言う関係じゃなくて……」

「おや、仲がよさそうだったから、てっきりそう言う仲かと」

「うん、色々問題有るから、やめてくれって言ってるんだけど、聞かなくて」

「ええ、お腹の中の子が、私達をちゃんと親と認識してくれるかどうか、それが問題で……」

「え」

「ちょっと!話を成層圏まで飛ばさないでよ!!」


 割とマジトーンなうえに、お腹をさすったりしながら言っただけあって、リリィの発した言葉を、話しかけてきた冒険者は一瞬だけ信じてしまう。

 だが、そんな事実も無く、した覚えもないので、シルフィは全力でそれを否定する。

 それでも、リリィの話を聞いてしまった途端、話しかけてきた冒険者は、少し引き気味に成ってしまう。


「ま、まぁ、その、なんだ、若いうちは、あちらこちら旅すんのも良いだろうからな、祝福するぜ」

「ど、どうも」

「ああ、腹の子供も、しっかり育つと良いな」

「だから居ないって!」

「冗談だ」

「私はシルフィの夜のオモチャですから、今後引き入れよう何て考えないでくださいよ」

「リリィ!!?」

「……そ、そうか、じゃ、邪魔したな」

「あ!今のも冗談だからね!勘違いしないでね!!」


 そそくさと仲間の方へと走り去ってしまう彼の姿をしり目に、リリィは何事も無かったかのように、料金の受け取りに行ってしまう。

 その間に、シルフィは、先ほどの冒険者の元へと向かい、先ほどリリィの言っていた言葉が冗談である事を伝えに行った。


「シルフィ、資金の受け取り、終りましたよ」

「あ、分かった、それじゃぁね」

「おう、これからもがんばれよ!」

「応援しているぜ!お嬢ちゃん方!」

「くれぐれも、悪い野郎に引っ掛かるなよ!」

「あ、あはは」


 見送ってくれた彼らに感謝しながら、シルフィとリリィは予め予約していた宿へと足を運びだす。

 その際、先ほどの冒険者と話していたシルフィが、ちょっとした情報を手に入れたので、リリィに開示していた。

 シルフィが得たのは、日本刀系の武器を作れるこの町で数少ない人物についての情報だ。

 先ほどのパーティにも、リリィと同じ日本刀型の武器を使用しており、丁度良かったので、情報を聞いておいたのだ。


「……マサムネ、ですか?」

「うん、何でも、葵さん達の故郷で修業を積んだドワーフで、リリィの使っている刀も得意らしいから、其処に行ってみようよ」

「そうですね、しかし、今日はもう遅いので、宿へ戻りましょう、ついでに、其処のタバコ屋で、煙草の補充もしておきましょうか?」

「あ……その、煙草、やめようかなって」

「……急ですね」

「まぁ、健康に悪いしね」

「そうですね」

「(本当は、リリィに臭いとか思われたくないから、だけどね)」


 先ほどの話の中で、冒険者の一人に、付き合っていた彼女に煙草臭いと怒られた事が有ったという事を、冒険者の一人からシルフィは聞かされていた。

 なので、リリィに臭いとか思われたくないと、シルフィは禁煙する事に決めたのだった。

 資金の調達は終え、日も傾き始めているので、再び宿へと戻って行く。

 シルフィも長旅で疲れているだろうと、今日の所は一先ず宿屋で休む事に成った。

 宿に戻ると、適当に食事を済ませ、リリィの取った部屋へと移動する。

 ようやく屋根と壁の有るところで寝られると、安堵しながら部屋へと入ったシルフィであったが、部屋に入った瞬間、硬直してしまう。


「……えっと、リリィ、どう見ても一人部屋何だけど」

「ええ、此処しか開いていなかったもので」

「え?え~っと、もしかして、此処を二人で?」

「はい」

「(相変わらずの即答!)」


 部屋に入ったのはいい物の、シングルベッド一つの一人用の部屋だった。

 嫌な予感が幾らか過ぎるシルフィであったが、もう休めればそれでいいとさえ思ってしまっている。

 だが、夜になってその考えが甘い物だったという事を思い知らされる。


 ――――


 その日の夜。

 ベッドインしたシルフィの横に、半裸のリリィも添い寝する形で入り込む。


「(やっぱこうなるよね!一緒に寝る事に成るよね!!)」


 同じベッドで、二人で寝る。

 過去に何度か有ったのだが、相思相愛と気付いた状態で寝るというのは、今までとはまた違った気分となっている。

 しかも、使用しているベッドはシングル、完全に肌と肌を密着する事に成る。

 リリィに至っては、襲撃が有るかも何て考えず、レリアと買い物した際に購入した下着姿で床に入っている。


「ね、ねぇ、リリィ」

「何でしょう?」

「そ、その、狭いから、私が床で寝ようか?」

「そんな事できません!貴女が床で寝るというのであれば、私が床で寝ます!」

「なら私が床で寝るよ!」

「であれば、一緒に床で寝るか、ベッドで寝るか、このどちらかしか有りませんよ!!」

「う」


 言い負けてしまったシルフィは、仕方なく一緒にベッドで寝る方を選ぶ。

 取りえず、できるだけリリィから距離を取り、壁際に寄りながら、シルフィは眠りにつき始める。


「……えい」

「ファッ!!?」


 眠ろうとするシルフィにリリィはバックハグを決める。

 しかも、ちゃんと胸の部分をシルフィに押し付けながらである。

 程よい加減で抱きしめ、苦しさよりも、包容の心地よさが出るように、リリィはシルフィの事を抱きしめる。


「では、おやすみなさい」

「(寝れるか!こんな状態で!)」


 リリィに抱きしめられた事で、心臓はバクバクと鼓動し、もう隣の部屋にまで聞こえてしまっているのではと、心配に成ってしまう位だ。

 ここ一週間の過剰なアプローチに、今こうして行っているあからさまなアタック、そろそろシルフィは堪忍袋の緒が切れてしまう。

 リリィの包容を退け、勢いよくリリィの方へと寝返りをうち、両手でリリィの顔をしっかりと抑える。

 すると、有無を言わす前に、リリィのおでこにキスをする。


「し、シルフィ?」

「じっとしてて(もう、このまま主導権握られっぱなしは癪だし、もっと)」

「ひゃっ!?」


 額のキスから、シルフィは思い切ってリリィの首筋へと、唇を移動させ、なめるようにキスをする。

 とてもリリィからは聞こえる事の無いような声が聞こえた気がしたが、気にせずに(会ったばかりの時の仕返しも兼ねて)耳や頬にも口づけする。


「今日までの、お返し」

「……」

「リリィ?」

「……」

「……もしかして、攻められるの、弱い?」

「そ、それは、その、シルフィが、急にやって来るから……恥ずかしいです」

「(その表情は反則でしょうが!!)」


 実際には顔が赤くなっていないにも関わらず、本当に赤くなっているように見えるリリィの表情に、シルフィは謎の興奮を覚える。

 何かは解らないが、とにかくリリィの恥じらう姿が、とても興奮する。


「(もう、こんなの寝れないでしょうが!!)」


 と、心の中でツッコミを入れたのだが、どんな状況下でも寝られるように訓練していたおかげで、この二分後に、ぐっすりと眠りについたシルフィであった。

 因みに、リリィの方は負けた気がしてならず、今後どうやって反撃するか、余計に熱を上げてしまっていた。


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