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口は災いの元 後編

 リリィ達がドワーフの鉱山に向かっている頃、カルミアはリリィ達の最終目的地である拠点に到着していた。

 愛機の整備の前に、先ずはヘンリーへの報告を行うべく、カルミアは執務室へと向かう道中、ラベルクと鉢合わせする。


「……カルミア様」

「あれぇ、ラベルクじゃん、如何したの?」

「如何したもこうしたも有りません、貴女の任務は、あの子を連れて帰る事であったはず、何故置き去りに」


 何時も無表情なラベルクであるが、今回は目に見えて怒った表情を浮かべてしまっている。

 そもそも、カルミアの任務は、リリィとシルフィを連れて帰る事だった。

 基地へ帰る途中で、襲撃が有った事を伝えられたカルミアは、一旦引き返し、可能であれば基地の防衛、その後、リリィとシルフィの連行。

 これが本来の任務だった。

 なので、久しぶりに会える愛妹を迎えるべく、ラベルクは待機していたというのに、帰ってきたのは、カルミアのみだった。

 明らかに任務を放棄しており、よくノコノコと帰って来る事ができたと言った所だ。

 憤慨するラベルクを見て、カルミアはあざとい笑みを浮かべながら、その理由を話す。


「まぁまぁ、落ち着いてって、聡明なラベルクお姉ちゃんなら、ちゃんと指令を確認しないと」

「……指令の変更は聞いておりません、貴女の独断であると、私は判断いたします」

「……じゃぁ、後でマザーを確認してみなよ、ちゃんと指令の変更命令が出てるから」

「あ、コラ!」


 生意気な感じに言葉を言い捨てたカルミアは、ラベルクの静止を振り切り、さっさと執務室へと走り去ってしまう。


 ―――――


 ヘンリーへの報告を終えたカルミアは、一目散にドックへと移動し、愛機の整備を一人で行い出す。

 カルミア専用機『レッドクラウン』

 エーテル・フレームを、アリサシリーズ様にカスタムした機体である。

 カルミアにとって、自分の体の一部であり、共に育ってきた姉妹でもある。

 だからこそ、他の連中に触らせたくも無いし、好き勝手いじられたくもない、大切な姉妹だ。


「(何時戦うかもわからない、整備と点検は、しっかり行わないと)」


 レッドクラウンを弄っていると、不思議とリリィ達の会話を聞いた時の不快感が無くなる。

 それどころか、不思議と高揚感さえ覚える。

 一心同体に近い関係であるからこそ、一緒に居て落ち着く、カルミアが本当に心を許せる存在だ。


「(あ、そうだ、どうせならあいつに嫌がらせしてやるか)」


 整備を一旦切り上げたカルミアは、レッドクラウンのコックピットに入り込むと、報告に使用した音声データの一部を切り取り始める。

 不快な言葉のオンパレードであったが、何とか我慢して編集を行うと、そのデータをマザーへと送信する。


 ―――――


 その頃、カルミアの言動に疑問を抱いたラベルクは、急いでマザーと自身を接続し、傍受した通信を確認する。

 この基地での通信などは、全てマザーを介して発信される。

 独自の機器を作ったとしても、マザーの演算能力を用いれば、どれだけ暗号化したとしても、容易く傍受できる。

 そして、その管理を任されているラベルクには、任務に関する連絡等が発信された場合は、早急に情報を共有される。

 だからこそ、急な任務変更が有った場合は、ラベルクにもそのデータが共有されるはずなのだ。


「……確かに、任務は変更されていますが……一体何故」


 急いでデータを確認してみると、確かにカルミアに下されている命令に変更がなされていた。

 リリィ達は、カルミアの手で連れて帰るのではなく、自分たちの足で帰る事に成っている。

 それも、性能が未知数であるリリィのエーテル・ギア『アスセナ』の実証テスト等も兼ねているとの事だった。

 そして何より、現在稼働できるアリサシリーズは、リリィだけという状況。

 できる限りこの世界で戦闘を経験させ、その戦闘データをマザーへと送り、今後の戦闘の為にそれらの解析を行う。

 その為にも、リリィを泳がせておいた方が良いとの事だった。

 それでも、命令の変更が有った事に変わりは無い、であれば、その手の報告がラベルクへ送信されてもおかしくはない。


「(一体何が……)」


 明らかな異常事態と判断したラベルクは、すぐにこの部屋の監視カメラの映像の解析を開始する。

 この部屋だけでなく、部屋へと通じるルートまでのデータ、全てに目を通してみる。

 だが、如何調べても、誰かが部屋へと入った痕跡は見られなかった。

 その代わり、それらのデータに介入された形跡が見られた。


「(バカな、あり得ない、この基地には、私以外にマザーにアクセスできる者はいない筈)」


 この基地の重要機密は、全てマザーによって管理されている。

 監視カメラのデータであっても、マザーにアクセスできなければ、弄る事すらできないのだ。

 嫌な予感が過ぎったラベルクは、マザーの有る部屋より更に地下にある区画へ通じる隠し通路のコードを入力する。


「(まさか、まさか!!)」


 遥か地下へと通じる螺旋階段を物凄い勢いで駆け下りると、ヒューリーが死去する前、任されていた物を管理している部屋の扉を開ける。

 そして、その部屋の奥で管理されている筈の物の数を数える。

 厳重なロックのかけられている七つのラックの内、三つは埋まっているのだが、もう四つは空だった。

 それを見た途端、ラベルクは確信してしまう。


「やっぱり、エーテル・ドライヴが無くなっている!!」


 かつてヒューリーの制作した七つのエーテル・ドライヴの内三つ、此れはカルミア、ラベルク、リリィに使用されている。

 残りは予備として残されていたのだが、その内の一つが無くなっている。

 その犯人はすぐにわかった。

 カルミアと、彼女の制作したアンドロイド、カルドしか考えられなかった。

 恐らく、カルドの動力源には、ヒューリーの制作したエーテル・ドライヴが使用されている。

 だが、ヒューリーのエーテル・ドライヴを使用するには、一度マザーを介したアクセスが必須だ。

 そうしなければ、厳重なセキュリティの敷かれているエーテル・ドライヴを持ち出すことは、不可能と言える。

 何時行ったのかは不明だが、カルミアは何らかの方法でエーテル・ドライヴを持ち出し、カルドを制作したのだろう。


「(マズイ、あのエルフの介入だけでも計算外だったというのに、これ以上シナリオの加筆と修正は……)」


 ヒューリーの制作したエーテル・ドライヴ、此れは、現在使用されているエーテル・ドライヴとは全く別物だ。

 一般的なエーテル・アームズに搭載されているドライヴは、リリィ達の物とは異なり、使用限界は非常に短い物、もって精々三日。

 リリィのように長期間の活動は不可能だ。

 エーテル・ドライヴの中核は魔石、ミスリルでどれだけ効率よく魔力を取りだしても、限界はある。

 それをヒューリーは従来品を遥かに上回る期間の稼働を可能にしたのだ。

 その技術は、ラベルクにさえ知らされていない物だ。

 ヒューリー曰く、その材料は非常に希少で、採取も難しい為、此処にある七つを作るのがやっとだとの事だ。

 今後のリリィの強化のために、厳重に管理していたというのに、もう厳密な管理が難しく成ってしまっている。

 このままでは、予め示していたシナリオの修正は不可能と成ってしまう。

 場合によっては、非常手段を取る事だって視野に入れなければならない。


「……ロスター様」


 一人悩んでいると、何処からか、ラベルクに暗号化されたメッセージが送られてくる。

 其処に書かれているのは、やはり非常手段を推奨しているという事だった。

 ラベルクも、その事には賛成なのだが、返信のメッセージには、礼の言葉以外にも、非常事態発生の為、今後の連絡は控えて欲しいと返信した。


「……今後は、ロスター様と合流するまでは、私一人ですね」


 そうつぶやいたラベルクは、マザーの元へと戻る。

 その際、エーテル・ドライヴの管理コードを、気休め程度に変更しておき、先ほど届いたメッセージを、痕跡諸共消去した。


「……これで、どうにかなる訳ではありませんが、気休めには成りますね……ん?カルミア様?」


 そう思っていると、ラベルクはカルミアからメッセージが送られている事に気が付き、恐る恐る開いてみる。

 その内容は、リリィがシルフィに愛の告白をしている姿。

 しかもセリフ付き、そんな物を聞いた途端、現状がどうでも良くなったラベルクは発狂し、倒れこんでしまった。


 ―――――


「クク、いい気味」


 レッドクラウンの整備を終えたカルミアは、ラベルクの発狂する様をあざ笑うと、カルドの居る研究場まで移動する。

 カルドには、今までラベルクの行っていた任務、この基地の雑用の半分の他に、彼自身の任務が有る。

 それは、カルミアが現在行っている任務の補助だ。

 その任務は、現在使用されているアンドロイド兵よりも、数を用意できる兵器の開発だ。

 カルミアは、機械弄りを得意としているのだが、現在行っている研究は、一部彼女の専門外である為、それを補うためにカルドを制作したのだ。


「(あいつ等が戦えば、その分アタシも強く成るだけじゃない、今の研究も加速する)」


 妖しい笑みを浮かべるカルミアは、研究所に到着し、部屋の中へと入る。

 部屋の中には、大量のカプセルが並んでおり、その中に入っている物を、先に来ていたカルドが整理していた。


「整備は終わったのですか?」

「まぁね、そっちは如何?進んでる?」

「ええ、後は実地試験を待つだけです」

「そっかぁ、丁度いいや、あいつらの準備が整ったら、ぶつけてやるのも良いかもね、お互い、データを採取できるし」


 カプセルの中身を見ながら、カルミアは笑みをこぼす。

 自分の事を否定し続けてきた連中を見返す。

 その目的に一歩進ずつ、確実に進んでいる。

 そう思っただけで、笑いが止まらなくなってしまう。


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