口は災いの元 中編
ひと騒動有った後、リリィとシルフィは、先に進んでいた。
料理禁止を言い渡されてしまったリリィは、すっかり落ち込んでしまっていたが、今は元気だ。
山の中という、歩きにくい場所であっても、シルフィと一緒にハイキングでもしている気分になっているから、と言うのもある。
そんな中で、シルフィは背負っていたバスターソードを手にし、少し弄っていた。
「あの、如何かなさったのですか?」
「うーん、やっぱり、こういう大きい剣って、合わないなーと」
「確かに、シルフィはナイフのような小振りの片手剣の方が似合っていると思います、先ほどの戦いでも、振り回していたというより、振り回されていましたし」
「リリィも小振りの武器の押しが凄いよね」
「ええ、扱いやすいですから」
先ほど、リリィの召喚してしまった化け物との闘いで、シルフィは持ち出したバスターソードを使い戦っていた。
その際、特に鬼人拳法を使用するまでも無かったので、通常の状態で使用した結果、逆にシルフィの方が振り回される結果となってしまった。
基本的にマチェットやナイフ格闘を習得してきたシルフィには、リリィと同じ位のサイズの大剣は、少々手に余ってしまう。
そんなシルフィの感想を聞き、リリィは設計中の武器にデータの追加を開始する。
「(シルフィには大型武器は向いていない、となると……双剣や片手剣、ナイフ、打突武器等か)」
「リリィ?」
「あ、はい?」
「何でしょう?」
「なんか考え込む事多くなってない?」
「思考を武器の設計の方に回していますので、こちら側での思考がおろそかになっているのですね」
「どういう事?」
「今こうして話している時でも、私はシルフィの武器の設計を行っているんです」
「器用だね」
「ふふ、此れも私が高性能のアンドロイドだからですよ、二つ以上の事を同時に考える何て、造作も有りません」
「もう隠す気ゼロだね(後、以前より自信が凄い)」
「ええ、貴女が受け入れてくれたので、その必要が無くなりました」
リリィの器用な面を聞き、シルフィは改めてアンドロイドと言う存在に感服する。
今も、二人は軽い雑談を挟みながら、山を歩き、そして遭遇した魔物を狩り、目的地の鉱山へと向かっている。
そんな中で、リリィは常にシルフィの新装備の設計を続けている、自らを高性能と自称し、胸を張っている今でも。
サイコ・デバイスの搭載で、演算能力が格段に向上した事の副産物でもある。
「……あ、所でさ、一つお願いが有るんだけど、良い?」
「何でもどうぞ、私が可能な限りの望みであれば、何でも叶えます」
「えっと、その、タブレットっていう奴も、作れる?」
「は?」
「あ、えっと、無理なら、いいよ(目から光が消えた)」
シルフィのお願いを聞いた途端、リリィの青く輝く瞳に影が落ちる。
若干睨みつけるような瞳で、リリィはシルフィへと接近する。
シルフィであれば、緊張でドキドキしてしまうのかもしれないだろうが、今は別の意味でドキドキしてしまっている。
「浮気ですか!?親友判定だからって他の電子機器に浮気ですか!?」
「え、電子機器も浮気判定通るの!?」
「当然ですよ!私と言う科学技術の粋を集めて作られた電子機器が有りながら!ただの画面の方が良いだなんて言われているような物ですよ!!」
「其処まで言ってないよ!私はただ、その、アニメの続きが気になって……」
「その程度映写できますよ!なので、もう他の電子機器や女に目移りしないでくださいよ!」
「束縛が激しい!!」
何故シルフィがタブレットを注文したのかと言うと、単純に見ていた途中のアニメの続きが気になるからである。
ミーアにタブレットを返してしまった事に、多少の後悔もあるが、彼女にとって大事な物だったのだから、返しておいた方がよかった。
それでも、気になる物は気になって仕方がないのである。
だが、リリィにとっては理由どうこう以前に、タブレットを作って欲しいと言われた事に、怒りを覚えてしまう。
そして、リリィが意外と束縛の激しいタイプという、厄介な性格だという、知りたくも無かった事実に、少し落ち込むシルフィだった。
「とりあえず、私以外の電子機器の株を上げるような発言は、控えてくださいよ!」
「分かったから、そんな縛り付けないでって」
「心配です……が、まぁ、タブレットやスマホにはできない事を、私は沢山できますから良いでしょう、こうやって、シルフィの事をエスコートしたり」
「あ、ちょっと」
「疲れたら何時でも申してください、激戦の後の長距離移動なのですから、あまり無理はしないでくださいね」
そう言ったリリィは、シルフィの手を握り、山道をエスコートしだす。
その後も、他愛も無い話をするシルフィであったが、不意に一人の少女の事を思い出す。
床に就いていた時、結局何をしに来たのか、未だに解らずじまいの少女、カルミアの事だ。
本人曰く、リリィの妹と言う事なのだが、リリィはそのことを一度もシルフィには話していない。
とりあえずリリィの気をそらすべく、カルミアの話へと割と強引に切り替え始める。
「と、所で、リリィって、妹居たんだね」
「え?」
「リリィって、妹さんが居るんでしょ?カルミアちゃんっていう……」
「……」
「……」
シルフィが話題を振りかけた事で、何故か妙な空気が流れる。
何故かリリィの表情は、何か危ない表情を浮かべ、今にも包丁か何かで刺されそうな雰囲気が漂っている。
下手をすれば、哀しみの向こうへと旅立ってしまう危険性だってある。
「あ、ちょっと、えっと」
「――ですか?―の――は」
「え?」
「何処のロボのネジですか!そのガラクタはっ!!?」
「ロボのネジ!?は、別に良いとして……妹じゃないの!?AS-103-02って言ってたよ!!」
「知りませんよ!そもそも、103型は私だけです!第一、アリサシリーズは、もう私と姉さま以外に、もうこの世には存在しませんよ!!」
「ええええ!?じゃぁ、あれはやっぱり夢?でも抓られた時痛かったし」
「何者であれ、私からシルフィを寝取る輩は許しません!そのポンコツクソ雑魚アンドロイドの特徴を言ってください!」
「別に寝取ろうとしてる訳じゃないよ!」
「うるさいです!たとえ寝取られる可能性が0.1の百乗だとしても、警戒に越したことは有りません!!」
「警戒しすぎ!もうちょっと譲歩してよ!!」
「そんな事より!特徴を教えてください、妹キャラという俗な属性で攻めて来る可能性が有るので、要注意人物として登録いたします!」
「別に良いけど……」
「何ですか?」
「……差し出がましい事言うけど、リリィも妹キャラだよね?」
「あ」
完全なブーメラン発言に気付いたリリィを他所に、とりあえず、シルフィはカルミア特徴を、覚えている限り話した。
身長はリリィの半分程度で、若干猫目、四肢の先が完全に機械化されている少女。
特徴を伝えられたリリィは、そんな機体は、やはりデータベースには無く、違和感を覚える。
「……そんな機体、聞いた事が……」
「え」
「そもそも、四肢を機械化する意味が解りません、活動可能な環境が限られますし、強度面も、同じ重量なら、人工筋肉単体だけの方が高いです、損傷の方も、人工筋肉の方が早く治ります」
「え~」
「それに、身長を私の半分程度にしたら、接近戦では、重量不足で十分な火力は出ませんし……潜入ようとして運用しても、四肢を機械化してしまうと、音が……」
「えっと、リリィ?」
「そうなると、大型のエーテル・ギア、あるいは、エーテル・アームズの移動式コア・ユニットか?それらな、サイズや機械化された四肢にも説明が……」
「(好きな事に成ったら、急に早口に成るタイプ?)」
「でも、そうなると、アリサシリーズとしての基本コンセプトが成されていない、どういう事だ?」
「基本コンセプト?」
「アラクネさんから聞いているかと思いますが、アリサシリーズとは、我々アンドロイドを、新たな人型種族として加えるという事を目時として作られています、貴女の言うカルミアと言う存在は、異質すぎます、仮に私の推論が正しかったとしたら、ただの兵器の部品と成ってしまいますので、それはマスターの意にそぐわない設計です」
「あー、そんな事言ってた……じゃぁ、あの子って」
「(……だが、アリサシリーズ用のエーテル・フレーム、確かに強力だ、その気になれば、成層圏の外まで攻撃ができるような兵器だって運用できる)」
シルフィの武器設計そっちのけで、リリィはカルミアの正体についての思考を巡らせる。
全長五メートル近くの巨人に、スレイヤーでもない一般人が乗り込んだ場合、一歩進んだ時の振動は、スーツを着ていたとしてもかなりの負担になる。
エーテル・アームズに使用されている人工筋肉は、リリィ達と同じ物で、動力にエーテルを用いている。
その気になれば、五メートルの巨人が、リリィと同じ動きができるように成るのだが、その場合、パイロットの負担は洗濯機にでも放り込まれたような物になる。
なので、必要以上の駆動を行えないように、リミッターが設けられている。
当然、人間の扱えるものではないのだが、リリィ達のようなアリサシリーズであれば、その程度の負担はあまり気にする所ではない。
無人機にするという話もあるようだが、人間のような柔軟な対応能力が得られない、という事で、不採用になっている。
その点も、アリサシリーズのような高性能のAIであれば、ある程度の柔軟な対応が可能だ。
そして、貯蔵できるエーテルの量も、そのサイズに比例する為、リリィの宇宙艇を撃ち落とした時のような長高高度狙撃も可能だ。
ずっと引っ掛かっていた事だ。
一体誰が、何の目的が有って、宇宙艇を撃ち落としたのか。
「(となると、私を撃ち落としたのは、そのカルミアという事に成る、そうなると、その理由は?目的は、なん、d……)」
思考をグルグルと巡らせていると、リリィの視界は暗転、リリィの機能は停止してしまった。
――――
「リリィ?リリィ!?」
いきなり機能を停止してしまったリリィは、まるでマネキンのように動かなくなってしまう。
瞳の光は消え、表情は停止する直前のままだ。
人形であると聞いていたとしても、リリィが急に硬直してしまった事は初めてだったため、シルフィは慌ててリリィを呼びかける。
そして、数分間呼びかけた末に、リリィの瞳に光が戻る。
「は、私は一体」
「良かった~急に硬直するからびっくりしたよ」
「え……まぁ良いでしょう、とりあえず、私以外の電子機器の株を上げるような発言は控えてくださいよ!」
「え?あ、うん(あれ?話戻ってる?)」
「心配ですが、まぁ、スマホやタブレットに出来ない事を、私は沢山出来ますから良いでしょう、たとえば、貴女の事をエスコートしたり」
「リリィ?」
話が戻ってしまっている事に疑問を抱きながらも、リリィはシルフィの手を取り、先へと進む。
さっきも同じやり取りをしただけあって、今の状態のリリィを、シルフィは気に掛ける。
「ねぇ、リリィ」
「何でしょう?」
「何処か、具合悪かったりする?」
「いえ、それより、シルフィはどうですか?激戦の後の長距離移動なのですから、あまり無理はしないでくださいよ」
「う、うん、わかった(このセリフも、さっき聞いた)」
「(なんか変な感じだな、此れと言って体調に変化はなさそうだが、今日は早めに休憩するか)」




