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大事な事は言葉で 中編

「おい、大丈夫か?」

「……胸の中を直接焼かれてるみたい」


 クラウスを焼き殺したジャックは、ハンドガンを片手に、ミーアの元へと歩み寄る。

 急所は外れているが、放っておけば、じきに死んでしまう。

 だが、ミーアからは死を渇望する音が響いており、ジャックは望みを叶えるべく、ミーアへと銃口を向ける。


「待って、最期にお礼を言わせて」

「言われる筋合いはない」

「そう、案外頭が固いのね、なら、最期にあの子に合わせてほしいわ」

「……心配するな、もう向こうからこっちに来ている」

「そう、手間が省けたわ」

「だな」


 ジャックの朗報に、ミーアは頬を緩める。

 だが、ジャックは少し目を細める程度だった。

 目の前で巻き添えをくらって死んだ民間人が居るというのに、罪悪感も何も無い。

 そんなジャックの耳に、シルフィが物凄いスピードで接近してくる音が入り込んで来る。

 音のする方を振り向き、ジャックはその顔面をシルフィに差し出し、襲い掛かってきた衝撃に身をゆだね、二人だけの空間を作る。


 その後、シルフィとリリィと戦い、そして、敗れた。


 ――――


 その戦いから一週間後、ジャックはこの基地での戦いで散った命に、最後の別れを告げていた。

 そんな中で、ドレイクはジャックに気になっていた事を打ち明ける。


「ところで、何故あのエルフを挑発したのですか?貴女らしくも無い」

「……何時もの事さ、そいつの大事な奴を殺した、だから、その咎を受けたに過ぎないさ、アイツには、シルフィには、俺を痛めつける権利が有る」

「そうでありましたか……しかし、アニメの悪役のようなセリフはどうかと……」

「アイツが人殺しをなんとも思わないような奴をどう思うか、そいつが知りたかった」

「結果は?」

「良い奴だったよ、本当にジェニーの奴の生き写し、いや、恐らくはそれ以上だ、アイツは、血のつながり何て関係なく、自分の道を進む道を進むだろうな」

「……また、新メンバーですかね?こちらへ来てくれなければ、彼女は、今の間違った道を進んだまま、死ぬことに成ってしまいますよ」

「如何かな?死ぬのは俺達かもしれない、それに、愚かな道であると自覚していても、人間は、自分の道は自分で選べる自由がある、そいつが人間とアンドロイドの違いだ」

「では、アンドロイドを挑発したのは、何故です?」

「リリィ、いや、アンドロイドの方を挑発したのも、大事な奴を守る為に動いた時どうなるのか、そいつが知りたかった」

「大尉って、時々手段の為なら、目的を選びませんよね」

「まぁな」

「やれやれ、では、そろそろ葬儀も終わりですので、私はこの辺で」

「ああ」


 地上から地下に戻って行ったドレイクを見送ったジャックも、改めて祈りを捧げ、地下へと戻って行く。

 そんな彼の後ろ姿を見ながら、ジャックは思う。

 あの二人ならば、長い間夢見てきたことを実現してくれる。

 自らの心を満たしてくれると、戦う目的を全て叶えてくれる。

 だが、まだ不完全だった。

 二人が、二人居て、初めて完全の存在となった時、ジャックの望みも、何もかもが叶う。

 そんな都合のいい未来を妄想し終えたジャックは、過去の事を再び思い出す。


「(あの村の生き残りが、まさかこんな所で医者をやっていたとはな)」


 ミーアの故郷の村で起きた出来事、連邦政府の手によって仕組まれていた、腹立たしい茶番劇。

 そもそも、連邦とナーダの政界は、戦争を止める気何て毛頭なかった。

 だからこそ、ナーダは大量のアンドロイド兵を村に駐屯させ、こっそりと整備を行っていた。

 その情報を掴んだ連邦政府は、これ幸いと、ジャック達を送り込んだ。

 この一件で生んだものは、結局恐怖心と報復心だ。

 村での一件は、連邦の情報操作によって、ナーダの企てようとしていた凶行の事故として報じられた。

 事故で終わったと言っても、再び戦火の火種が出てきた事に変わりは無く、民衆はナーダと言う敵は、まだ戦争をしようとしているのだと、そう言う恐怖を煽られた。

 ナーダ側では、和平を結ぼうとしていた連邦による、民間人を狙った卑劣な攻撃として報じられ、市民の報復心を煽った。

 結局、村の壊滅は、連邦政府の正当性や、権益を維持するための出来レースのような物に利用されてしまったのだ。

 それだけに飽き足らず、連邦政府は、連邦政府にとって邪魔な議員を、何人か処分した。

 更に、埋まりかけていた亀裂をもう一度引き裂く、それを確実にするための暗殺でもある。

 その事件も、政府の情報操作により、ナーダの犯行という事にされ、会談も取りやめと成ってしまった。

 そんな時期に議員の一人が暗殺されたと知れば、誰もがナーダのテロ活動によって殺されたと思うだろう。

 結局、今でもこうして、戦争は続く事となってしまう。

 ナーダと言う絶対的な敵の存在、彼らの悪行を世間に示し、連邦軍がまるでアニメや漫画のヒーローのように、彼らを潰す。

 そうする事で、今日にいたるまで、連邦政府は信頼を勝ち取ってきた。

 今回の異世界への進軍も似たような物だ。

 ようやく外宇宙へと旅立つ技術を手に入れたというのに、ナーダはそれを悪用し、力を蓄えている。

 そんな具合の報道をすれば、連邦の民たちは、ナーダと言う敵を許してはならないという感情を煽られる。

 此処まで連邦の民たちがナーダを憎悪するのは、戦争が始まったばかりの頃まで遡る。

 まだジャックが戦争に参加する前、ナーダ達は、連邦領の主要区域に、核攻撃に近い攻撃を行ったのだ。

 それによって、連邦の総人口の半分の命が失われてしまった。

 ナーダへの憎悪はそこから生まれている。

 民たちが憎悪する部分を、煽るだけ煽り、そして今、ナーダ達に止めを刺そうとしている。

 だが、ジャックにはそれが理解できなかった。


「(連邦のボケ共はこの後一体何をするつもりだ?此処に居る連中を片付けたら、今までの方法で民衆の支持を得る事は難しい)」


 今まで正義の味方を気取っていた連邦政府が、此処で敵を全て排除してしまう。

 そうなれば、今までのような正義の味方ごっこによる統治は難しく成る。

 考えられるとすれば、世界は平和に成った、争う事はもう必要ないと、民衆に都合のいい事ばかりを教えるという事だ。

 だが、そんな方法は恐らく長くは続かない。

 必ず腐敗が起こり、革命を名目にテロ活動が起こる。

 そして、再び連邦政府が偽善の正義を掲げ、テロリストを掃討し、正義を示す。

 ある程度、腐敗部分を綺麗にして。

 それだけで、市民はこれと言った不満は持たない。


「(……一先ず、エーラの所に行くか)」


 色々と気になる事はあるが、先ずはエーラに頼んでいた義手を受け取る為に、基地の研究棟へ向かう。

 当の本人は、今まで手に入らなかったアリサシリーズの技術や、この基地で独自の発展を遂げたエーテル技術を前にして、かなり興奮気味だった。

 今頃砂糖水同然の紅茶でも飲んで、眠気を覚ましつつ、作業に没頭している所だろう。

 等と考えながら、研究部屋に到着したジャックは、さっさと中へと入る。


「おーい、エーラ、使える義手有るか?」

「んあ?」

「……もうちょっと女らしくしろよ」

「口調が完全に男のお前に言われたくねぇ」


 等と憎まれ口を叩くエーラは、目の下に分厚い隈を形成し、髪も尻尾の毛並みも、酷い位ボサボサとなっている。

 どう見ても寝不足なうえに、ブラッシングも怠っている。

 そして今も、襲い来る眠気を気休めで飛ばすために、砂糖のたっぷり入った紅茶をグビグビと飲んでいる。

 本人曰く、エナジードリンクの類はあまり好かないとのことだ。

 そんな彼女の隣に、ジャックは座り、あらかじめ用意していたマジックポットとマグカップを取り出し、インスタントコーヒーを念力で淹れる。


「で?何の用だ?」

「義手だ、それから、脳みそコレクタークソ野郎の着ていたスーツの概要」

「……義手なら、使えそうなやつが幾らか有る、それと、あの野郎の着ていたスーツ、見つけるのに苦労したが、解析は終わった、それから、使用した弾丸だが……と、ほれ」

「……」


 キーボードを叩き、解析結果の書かれたディスプレイを、ジャックに見せる。

 コーヒーをすすりながら、ジャックはエーラの解析結果に目を通す。

 相変わらずの仕事の速さに感服しながらも、クラウスは相にも変わらずバカをやっていた事が判明し、ジャックは顔を歪ませる。

 どうやら、この世界でも、孤児や身元の無いエルフをさらっては、脳みそを弄り倒していたようだ。

 その結果、不完全ながら天の力の再現には成功したらしく、その属性を使用した技術も、幾らか制作していたらしい。

 スーツは、エーテルの持つ元々のステルス性に、天の力を加えた事によって、鋭敏な感覚器官による認識すら阻害してしまう程のステルス機能を付与したらしい。

 そして、ジャックに打ち込んだ銃弾は、ジャック本人の使用している物と同じで、弾頭に天のエーテルを仕込み、撃ち込んだようだ。

 そのせいで、再生が阻害され、リリィとの闘いに支障が出たのだ。

 結局、未完成の技術だったせいで、空気中のエーテル自体が消えてしまい、位置の特定が可能と成ってしまっていた。

 おかげで、位置の判明に成功し、撃退に成功した。


「相変わらずのクソ野郎だったようだな」

「ああ、同じ研究員として、私は恥ずかしいな、こんな非人道な実験」

「そーですねー(トラックで俺をひき肉にしやがった奴の言うセリフじゃねぇな)」

「だがまぁ、それはそれとして、首にアダマント合金を入れて正解だったな」

「ああ、おかげで生き延びたよ、また後で新しい奴頼むわ」

「後でな、腕と腹の再生治療の時に、新しい奴を入れるように、スタッフに言っておく」


 ジャックが生き残る事に成功した理由、それは、手術で首にアダマント合金を仕込み、首を斬られそうになった際に爆破できるようにしておいたのだ。

 リリィがシルフィの助力を得た事で、天の力を使えるように成るのは、ジャックとしても想定済みだった。

 下手をすれば、先の戦いで、殺されてしまう危険性が有った。

 幾ら死へ抵抗が薄いとはいっても、死ねない理由であれば存在する。

 その為にも、まだ生きて居なければならないのだ。


「それじゃ、俺は色々とやる事が有るんでな」

「ああ、それじゃな」


 話を終えたジャックは、さっさと義手を受け取り、研究所を後にし、事務所的な場所へと移動する。

 今回の戦いによるあれこれを、報告書にしたためなければならないのだ。

 こんな変態でも、軍の関係者であり、部隊長なのだから、それなりのデスクワークも存在する。


「(と、意気揚々と来たのは良いのだが、何だ?この書類の山)」


 デスクにたどり着くと、其処には色々な物理法則を無視して天上高く積み上げられている書類の山と、パソコンに送信されている異常なまでのメールの数々が有った。

 そして、現在進行形で、書類なんかを運んでくるドレイク達に、ジャックは質問を投げかける。


「おーいドレイク、これは何じゃい?」

「えっと、この基地を壊滅させたことに対する報告書と始末書、それから、エーテル・ギア、バルチャーの全壊に加え、目標二名の取り逃し、その他諸々であります」

「……期限は?」

「来週までであります」

「……なぁドレイク、一つ、少佐に伝言が有る」

「何でしょう?」


 ――三日後


 他の人間達よりも遅れて、少佐が基地へと訪問した。

 艦内での統制の引継ぎを済ませ、地上での現場指揮を執る為だ。

 と言う建前もあり、ジャックが大量の書類をしっかりと片付けているのか確認するべく、我先にと事務所へと赴いた。

 だが、明かりの灯っていないパソコンの液晶に『ゴメンちぃ(笑)』と書かれた張り紙が張られており、全く仕事が進んでいない事も、少佐はしっかりと確認した。

 当然プッツンと来た少佐は、武器庫からアサルトライフルとショットガンを持ち出し、それぞれを片手に装備。

 更には黒い革ジャンに長ズボン、そして黒いサングラスをかけた状態で、ドレイク達の居る食堂へとかち込んだ。


「ジャックは何処だぁぁ!!?アンのクソレズゥゥゥ!!!」

「魔王まで進化したスライムに喧嘩売りに行くと何処かへ行きました!」


 完全に何処かで見たことの有るやり取りの後、ジャックの捜索が始まった。


 翌日、完全に飢えた状態のジャックが、倉庫から見つかった。


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