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大事な事は言葉で 前編

 ジャックを倒したリリィとシルフィであったが、同時に二人も力なく倒れこんでしまった。

 リリィはオーバー・ドライヴ・システムによって、全てのエーテルを使い果たし、まともに立っている力すらなくなり。

 シルフィの場合、魔力の急激な消耗と、鬼人拳法の連続使用によって、全身に苦痛を覚えながら倒れてしまった。


「ヤバい、全身痛い」

「私も、ちょっと動けません」

「でも、勝ったよね、私達」

「だと良いのですが……まぁ、それはそれとして、何ですかさっきの技は?」

「えっと、どれ?」

「ジャックの炎が、私のブレードにまとわりつきましたよね」

「ああ、えっと、百鬼夜行の事だね」


 鬼人拳法・百鬼夜行、此れは仲間と一緒に戦っている状況を前提とした技だ。

 脳波を共有させることで、お互いの動きや技を共有しあうという物、その恩恵で、リリィも(あまつ)の力を使えるようになったのだ。

 リリィがジャックの炎を受ける直前に、技を使用した事によって、リリィがブレードに込めていたエーテルに、ジャックの炎がまとわりついたのだ。

 シルフィが使い方を思い出したのは、ジャックに吹き飛ばされ、瓦礫に突っ込んだ時。

 早急に脱出し、リリィを助けようと思っていたら、不意にクラブとの闘いで、彼女の魔法を自身の物として扱えた事を思い出した。

 瓦礫の下敷きになり、脱出しようとしていたら、偶然アリサシリーズようの格納庫を発見し、其処から幾らか武器を拝借。

 何とか脱出したら、リリィが危機に瀕していたので、狙撃を行って援護した後、イチかバチかの賭けで使用したのだ。

 腕に炎を宿したのも、シルフィ自身の力で発火させたというよりは、周囲のジャックの炎を自分の腕にまとわせたと言った所だ。

 ダメもとではあったが、ジャックの腕を破壊する事に成功した。

 その後で、リリィがジャックの炎に包まれかけた時に、ジェニーから教わったもう一つの技に賭けてみた結果、何とか勝利できた所である。


「ほとんどまぐれ勝ちですね」

「そうだね、でも、基地が……」

「……そうですね、もう敵の手に落ちてしまっているでしょうし、我々は、退散するとしましょう」

「え、良いの?」

「私も貴女も、こんな状態では戦えないでしょう」

「そうだけど」


 シルフィの不安を他所に、立ち上がったリリィは、近くに落ちていたジャックのウィングを拾い上げる。

 シルフィの攻撃の影響で、増設ユニットが損傷してしまっているが、ユニットを取り外せば十分使える。

 ウィングにはまだジャックのエーテルが残っていた事も幸いし、シルフィ一人を担いで飛行する程度であれば可能だった。

 ジャックとの闘いで、辺り一面が更地と化してしまっているが、連邦の本隊はまだ宇宙に居る。

 何時増援が来るかもわからないので、リリィはバスターソードをアイテムボックスに収納したシルフィを担いでさっさと基地から離れだす。


「(……ミーアさん、安らかに)」


 リリィに担がれながら、シルフィはミーアへの追悼の意を示し、共に基地を後にした。


 ――――


 リリィ達とジャックの戦いが終了し、一週間が経過。

 ジャックのせいで使用不能寸前まで壊滅してしまった基地であったが、せっかく手に入れた地上での活動拠点という事もあって、急速に復旧作業が行われる事となった。

 酷い被害であったが、鹵獲したアンドロイド兵や、基地の重機を使用したため、復興の速度はそれなりに早いペースで進んでいる。

 後一か月もすれば、空軍基地としての運用は難しくとも、それでも地上での活動拠点としては、十分運用可能だ。

 しかし、基地の運用が可能となっても、彼らからしてみれば、一つだけ大きな穴が開いてしまっている状況だ。

 ジャック、彼女がアリサシリーズのリリィに、敗北してしまったのだ。

 過去、幾度となく戦いを繰り広げては、互いに敗走し、最終的にはジャックの勝利に収まっていたというのに、今回は完全に敗北と言う結果に成ってしまった。

 シルフィと言うイレギュラーが居たとは言え、此れは兵士達の士気に影響する事だった。

 しかも、その二人は逃亡後、追跡隊を振り切り、現在行方不明である。

 ジャックと少佐の率いる部隊、ストレンジャーズの知るところで、破壊されていない唯一のアリサシリーズは、ラベルクのみだ。

 ラベルクは、かなり最初の戦いから、ジャック達と対立しては、何度もアップグレードを繰り返し、立ちはだかってきた。

 だが、それでもジャックを倒す程では無かった。

 つまり、リリィは歴代の中でも最強の存在なのだと、兵士達は内心怯えてしまっていた。

 極めつけとして、ジャックが病棟に入ったという事も、恐怖を煽る材料と成ってしまっている。

 ジャックの再生能力は、部隊の全員が知る事だ。

 ほとんど不死身に近い再生能力を持っているというのに、診断以外の理由で、医療班の世話になってしまっている。

 この事実もまた、部隊に多少なりとも影響が出ている。

 そして、ジャックは現在、治療と休眠を行い、歩ける程度まで回復していた。


「(あの二人でも、俺を殺すまでには至らなかったか)」


 病室で寝ていても暇だったジャックは、医師たちの目を盗んで抜け出し、地上を目指していた。

 大分復旧が進んできた為、戦死した者達の葬儀が執り行われるという話を耳にしたのだ。

 人間、死ねば敵味方関係なく、弔われる権利が有る。

 少なくとも、ジャックと少佐、一部ストレンジャーズ関係者は、そう思っている。

 色々と愚痴を零しながら、地上に出た頃には、葬儀は半分近く終わってしまっており、若干出遅れてしまった。


「(……合わせる手がねぇのが、やるせねぇな)」


 手を合わせる位の事はしたかったのだが、肝心の手がまだ治ってなかった。

 他にも、首や腹部も、未だに治りきってはいない。

 一応再生治療を施す為の設備は有るには有るのだが、他にも使用しなければならない兵士が居る為、彼らに優先的に使用させている。

 だが、色々と書かなければならない書類もあるので、葬儀が終わったら、エーラの所へ行って、義手でも借りようと考えながら、ジャックは黙祷を行う。


「大尉」

「ドレイクか」

「ええ、驚きました、もう歩かれて……」

「腕もげて、腹に大穴開いただけだ、手を使う事以外で、日常生活に支障はねぇよ」

「全然大丈夫に聞こえないのですが……」


 黙祷が終わった辺りで、ジャックに話しかけてきたのは、ストレンジャーズのエースの一人、ドレイク。

 種族はハーフ・エルフであり、ストレンジャーズの中でもかなりの古株一人。

 能力は非常に高く、単独行動の多いジャックの代わりに、他のエース二人と共に、部隊を率いている。

 先の戦いでは、コンドルに搭乗し、リリィを相手にしていたが、ジャックが相手取る事に成って、すぐに地下の攻略に移された。

 その前に、リリィの攻撃で墜落し、負傷してしまったので、頭に包帯を巻いている。

 だが、実力はジャックも認める程、今回は相手が悪かったと言える。


「……しかし、随分と残っていたのですね」

「ああ、この世界に逃れてなお戦おうって奴らだ、相当な気合が有る」


 次々と火葬される棺桶と、ドレイクの持ってきてくれた志望者リストを交互に眺め、ジャックは目を細める。

 中にはドレイクと同じくらいの古株も居る。

 そして、そのリストの中には、シルフィにやたらと肩入れしていた医者の名前まである。

 これらを見ても、ジャックは大それた感情は感じない、ただ貴重な戦力を失った程度の認識だけだ。

 無表情のジャックを見て、ドレイクはジャックの気持ちを察する。


「やはり、お辛くはないのですね、仲間を失っても」

「いや、辛くない事が辛い」

「それは、辛いですね」

「ああ、マジでしんどい」


 ジャックの気持ち、それはドレイクや少佐のような古株は、よく理解している事だ。

 彼女の体に投与されているナノマシン、此れは急速な再生能力をもたらすというメリットがあるがデメリットも幾つか存在する。

 その一つは、死に対する感情の希薄化。

 自身が死ぬ事を恐れず、他者の死を悔やむ事ができない。

 サイクロプスに襲われた町での一件、あれも自身が連邦に属しているから行った事だ。

 子供達の死だって、言ってしまえば、気に入っていたオモチャを壊された程度の感覚にしかならないのだ。

 人とはまるで違う感性である事は、ジャック自身も自覚している。

 今まで苦楽を共にしてきた仲間の死に、辛く思えない事に、ジャックは苦痛を覚える。

 だが、それもほんの僅かな時間、一日経てば、すぐに終わってしまう。

 二つ目は、死ぬことの感情の希薄化に伴っての虚無感だ。

 虚無感は、現実味の無さや、生に対する実感の無さを誘発してしまっている。

 それを解消するのは、性的興奮や、恋愛感情、ふざけたやり取り、そして戦う事によって出て来るアドレナリンやドーパミン等だ。

 何度かナノマシンの除去や、機能停止を試みたが、ジャックの体細胞を原料とし、ほぼ無限に増殖し、今の技術では回収不可能な量に成ってしまっている。

 オマケに、ジャックのエーテルを無理のない程度に動力源としており、不規則なアルゴリズムで変異している為、シャットダウンは不可能だ。

 ロストテクノロジーで作られただけあって、色々と解らない部分が多く、如何すればいいのか、エーラでも解らないのだ。

 最終的にわかった事と言えば、機能停止に陥る条件は、ジャックのエーテル消失、つまり死亡する事が、唯一の方法、という事だけだ。

 だが、それだけの事が有っても、思うところが無い訳ではない、同情位は有る。


「なぁドレイク、何年か前に、ナーダの疎開先の村潰したの覚えているか?」

「ええ、忌まわしい記憶です、早いところ忘れたい」

「……そうだな、あんなクソみたいな記憶、さっさと忘れてぇよな」


 ドレイクと話しながら、ジャックは一週間前の事を思い出す。


 ――――


 一週間前、ジャックは基地の内部へと侵入し、ミーアと出会い、話し合いを始めようとしていた頃。

 敵であり、なおかつ家族の仇であるジャックに心を許す気は、ミーアには無く、ジャックへの敵対心を解いていなかった。


「……アンタと話す事なんてないわよ」

「そう言うなって、アンタに無くても、俺には有る」


 彼女の思考を読み取り、何故怒りを露わにしているのかを感じ取り、随分と昔の話を始める。

 十年程前、連邦側が優勢となり始め、ナーダも戦う力を失い始めてしまった頃。

 双方の議会での和平交渉が行われていた。

 数十年以上にわたる戦い、それに終止符を打つための会談、それが控えていた頃だ。

 ジャックの手で、ミーアの故郷が焦土と化してしまったのは。

 当時、ジャックは少々血の気が荒く、他者への生に対する虚無感も影響し、町一つが滅ぼうが、ジャックにはどうでもよかった。

 そんな彼女へ、和平を良く思わないテロリストが、交渉を決裂させるための、テロを引き起こそうと企てているという情報が入った。

 その調査を行うべく、ジャックと護衛のアンドロイド数機が、村へと赴いた。

 そして、情報通りにテロを引き起こそうとしていた証拠、中隊規模のナーダ製アンドロイド兵が各所で発見された。

 アンドロイド兵のプログラム書き換えを行うべく、関係者数名を捕縛した時、事件は起こった。

 ジャックの護衛についていたアンドロイドが、ナーダのアンドロイド兵を戦闘モードで起動させたのだ。

 起動されたナーダ製のアンドロイド達は、村の外に出るなり、無差別に市民を攻撃し始めた。

 ミーア以外の家族も、疎開先として複数名の民間人が逃げ込んでいたその村で引きおこった大虐殺。

 此れを阻止するべく、ジャックは応戦し、全てのアンドロイドを破壊、その際に村を完全に焼く事と成ってしまった。


「と、まぁ、こんな感じさ」


 ジャックは、事の顛末を、ミーアに教えた。

 ジャックの話を聞いて、ミーアは更に機嫌の悪い表情を浮かべる。


「……だから、貴女は悪くないと?」

「いんや、俺がアンタの故郷を焼いた事実に変わりは無い、恨んでくれて結構だ、だが、俺がアンタと話したのは、アンタが大事な事を忘れているって思ったからさ」

「大事な事?」

「ああ、何でお前は医者に成った?何のために其処までの知識を得た?覚えているか?」


 ジャックの言葉を聞き、ミーアは思い出す。

 何故医者の道を目指したのか、それは、幼い頃の夢と、ミーアの祖父との約束だった。

 ミーアの祖父は、癌に体を蝕まれており、そのせいもあって、祖父はミーアの幼い頃に死んでしまった。

 子供の頃、ミーアは大人に成ったら、必ず祖父の癌を治すと約束したのだが、その夢がかなう事は無く、哀しみに明け暮れてしまった。

 自分と同じ哀しみに飲まれない様にする為にも、ミーアは医者になるという夢をあきらめず、勉強をつづけた。

 そして、医者になるという夢を叶え、家庭を持った。

 娘には滅多に会えなかったが、それでも、ミーアの娘は、医者である母に誇りを持っていた。

 何時かは、自分も母のような立派な医者になりたいと言っていた。

 娘にとって誇れる母親であり、救えなかった祖父の為にも、立派な医者であり続けた。

 それなのに、全ては奪われてしまった。

 全て、無意味と成ってしまった。


「……そうだ、私は、家族の為に、誰も、悲しまない為に……」

「そうか、なら、なおさら、お前は人を殺しちゃいけないな」

「うるさい!もう家族なんていない、誰も居ない、それなのに、何で、医者としていなければならないの?」

「アイツはどうした?あのエルフ、シルフィは?」

「ッ!」

「アイツがお前の事をどう思っているのか知らん、だが、少なくともお前には何らかの思い入れが有る、それなのに、裏切るのか?一時の感情で」

「それは、違う!私は!私は、あの子を、守るために……」

「だったら医者として守れ、お前は戦士じゃないんだ、無理する事は無い」


 ジャックの言葉に、ミーアは涙する。

 憎悪に飲まれた事で、ずっと忘れてしまっていたのだ。

 自分の生きる意味、医者としての誇り、その全てを忘れてしまっていたのだ。

 そんなミーアの音を聞き、ジャックは思う、もうミーアに人を殺すことはできないのだと。

 ならば、このまま見逃しても、ただの非戦闘員として扱われる。

 当初の目的を果たすべく、ジャックは動こうとした時、一発の銃声が鳴り響いた。


「ッ!!?」


 銃弾は、ジャックのわき腹を貫き、背後に座り込んでいたミーアの胸を打ち抜いた。

 痛みを堪えながら、ハンドガンを一丁引き抜き、周囲を見渡したのだが、肝心の射手が見つからず、何の音も聞き取れなかった。


「(クソ、傷が再生しない、一体誰だ!?)」

「クク、ハハハハ!遂にやったぞ、スレイヤー!」

「お前は!?」


 ジャックの前に突如現れたのは、クラウスだった。

 彼も黒いスーツを着込んでいるのだが、ジャックから二メートル程度しか離れて居ないというのに、心音すら聞こえないのだ。

 かろうじて聞こえるのは、半分開いているヘルメットの筋肉の収縮音程度だ。

 標的が姿を現したことを認識した、ジャックはすぐにハンドガンの照準を合わせる。

 だが、ヘルメットを閉じたクラウスは、完全にジャックの視界から消えてしまう。


「(ステルス迷彩?違う、音も無い、それどころか脳波まで遮断されていやがる)」


 ジャックの感覚器官から、クラウスは完全に消えてしまう。

 戸惑うジャックに、クラウスの物と思われる打撃が、加えられる。

 ただの科学者の打撃であれば、たいした事は無いのだが、スーツの恩恵かある程度のダメージが通っている。

 そして何より、先ほどの銃撃でできた銃創を中心に攻撃されている。


「ははは!いくら貴様でも、見えない敵が相手では、如何しようもあるまい!!」


 クラウスの声は、漂うエーテルと空気に乱反射する形で響き、クラウスの声による認識さえ不可能だ。

 だが、ジャックは高笑うクラウスの腕を、力強くつかむ。


「そいつは、如何かな!!」

「何!?」


 クラウスを勢いよく地面に叩きつけたジャックは、大体の予想でクラウスの頭を探し当てると、ヘルメットを強引に引きはがす。

 すると、クラウスの顔だけが明るみになり、音も良く聞こえるように成る。


「よう、脳みそコレクター、その節はどうもだ!!」

「ま、まて!」


 クラウスの静止を聞かず、ジャックはそのムカつく顔を叩きつぶし、頭と胴体を引きはがし、頭部を燃やし尽くした。


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