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自慢話ばかりする奴は大体ろくな奴じゃない 中編

 リリィ達の居る空軍基地での戦闘。

 いつの間にか銃声は途絶え、連邦側のナーダ側も、基地の地下へと避難するかのように入り込んでしまった。

 基地の内部で、戦闘は継続しているものの、地上で戦闘を行う者は、もはや彼女達三人だけだった。

 連邦軍強戦力の一角であるジャックと、ナーダの切り札とも言えるリリィと、その仲間のシルフィ。

 この三人の戦いは、今までで類を見ない程の苛烈を極めた。

 特に、実力を解放したジャックを相手に、アップグレードしたリリィと、パワーアップしたシルフィが二人同時にかかっても、ほとんど寄せ付けない程だ。

 ジャックの着用するエーテル・ギア、バルチャーの存在も、二人を苦しめる要因となっている。

 単純な強度でも、かなりの物である装甲材、ネオ・アダマント合金に、ジャックのエーテルを浸透させることで、更なる強度を有してしまっている。

 そのおかげで、シルフィの打撃も、リリィの斬撃も、ほとんど意味が無くなってしまっている。

 しかも、装甲にはある程度のエーテル制御機能も付いている為、簡易的なスラスターとして利用できる。

 その恩恵によって、アーマーを着用した事で発生するウェイトは無いと言っても他言ではなく、重量から発生する慣性も無いと言える。

 しかも、アーマーの重量は無くなっているわけでは無いので、スラスターによる加速と合わさり、攻撃力の更なる向上に繋がっている。

 同じくエーテル・ギアを装着するリリィも、ジャックと同様の恩恵を受けているのだが、それでも、ジャックに及ぶ程では無かった。

 相違点として、ジャックの体の各所から吹き出ている炎、此れはただの見かけ倒しでは無く、実際に攻防一体の障壁として立ちはだかっている。

 吹き出る炎の衝撃で、二人の攻撃を防御し、同時に反撃と攻撃を行っている。

 炎はバルチャーの各所からも吹き出しており、翼もスラスターとしての役割の他にも、火球を飛ばす事による遠距離攻撃を可能としている。

 それが起因し、バルチャーのもたらす恩恵は、リリィのアスセナ以上だ。

 そして何より。


「桜我流剣術・翔炎っ!!」


 ジャックの使用する剣術も、二人を苦戦させる要因となっている。

 炎を纏った斬撃を遠くへと飛ばす遠距離攻撃である翔炎の炎は、少し近づくだけで、火傷してしまう程の熱を帯びている。

 その温度は、シルフィ達の着用しているスーツの耐火能力を完全に無視してしまう程だ。

 横数十メートルに伸び、かなりのスピードで進む一つの斬撃は、基地を焦土に変えながらリリィ達に接近する。

 そんな斬撃を、リリィはシルフィを抱えながら空中へと逃れる。

 結果、炎の斬撃は素通りし、ジャック本人の意思によって、基地の外に行く前に、炎を爆散させ、二次被害を回避させる。

 だが、あまりにも高い温度の斬撃によって、補装されている地面は赤く染まり、近くに放棄されていたビークルは、その異常な熱で、燃料に引火し、爆散してしまっている。

 そんな惨状を、空中から見るシルフィは、恐怖に顔を染めていた。


「何なの、アイツ」


 リリィと共に上空へと避難しているというのに、汗ばんでしまう程の熱気が、シルフィを襲い続ける。

 ジャックが豆粒程度に見える程上昇しているのに、まるでサウナに入っているかのような暑さなのだから、ジャックの居る場所は、火災現場以上に熱いだろう。

 だというのに、ジャックは平然と立っている。


「アイツ暑くないの?」

「彼女の耐火能力は異常です、しかも、其処にエーテル・ギアの防御力も加わっていますから、溶鉱炉に沈めようが、太陽に突っ込もうが、あの人は生還するでしょうね(シルフィの汗、嗅ぎたいし舐めたい、でも、そんな事したら嫌われるよな、我慢我慢)」


 そんな事をしているリリィ達を、ジャックは眺め、不敵にほほ笑む。

 増設パーツを取り付けたバルチャーの翼には、スラスターとしての使い道の他にも、内蔵火器としての機能が幾らか存在する。

 その内の一つは、威力が高すぎて、確保する予定である基地を壊滅させかねない物なので、使用を控えていたのだが、二人が空中に居る事を利用し、テストしてみることにする。

 問題なのは、回避しきれずに、二人が蒸発してしまう結果に成る事であるが、別に構わなかった。


「(まぁ、死んだら其処までの連中だったって事で)」


 背部のスラスターを二枚とも前へ向け、胴体の装甲を一部変形させ、発射体制に入る。

 ヘッドセットのサイコ・デバイスから、ディスプレイを展開し、専用のOSを起動させ、照準を合わせると、ウィングの間と、展開した装甲部分に、紅い光が収束し始める。


「バルチャー・クラッシャー!!」


 ウィングのエーテル操作システムを応用し、膨大な量のエーテルを圧縮し、腹部装甲の射出機を使い、一気に放出する。

 先ほどの斬撃以上の威力を誇るビーム攻撃に、リリィは急いで回避行動をとる。


「クソ!」

「危なっ!!」


 何とか回避に成功するが、シルフィを優先的に庇った事で、リリィの脚部は少し損傷する。

 ビームに直接当たった訳では無く、発生した熱によって、脚部の装甲は一部融解し、駆動系にも問題が出てしまったのだ。

 だが、飛行には問題は無く、ジャックの方へと一気に接近する。


「ちょっとリリィ!如何するの!?」

「あれだけの砲撃と成れば、使用するエーテルの量は膨大です、恐らく、駆動系に支障が出て来る程、今のうちに」


 リリィの読みは当たっていた。

 ジャック自身の消耗をできる限り抑える為に、アーマー全体に行きわたらせているエーテルも、砲撃にするべく、システムが勝手にエネルギーを回したおかげで、若干の機能停止状態に成っている。

 先ほどの兵器の威力は、単純に計算しても、山一つ吹き飛ばす事は容易い物だ。

 エール保有量さえ常人離れしているジャックであっても、そんな威力の砲撃を放っては、流石に疲弊してしまう。

 そのおかげで、バルチャーの装甲表面の温度は下がり、吹き出ていた炎は収まってしまっている。

 しかも、再起動させる為のエーテルは、ジャック本人から供給されている。

 着用しているスーツのコネクターを通じて、エーテルを装甲や駆動系へと急速に供給する事で、若干の疲労感がジャックに襲い掛かっていた。

 攻めるのは今しかないのだ。


「(たく、要改良だぜ、この兵器)」


 接近してくるリリィとシルフィを前に、まだ供給の済んでいないバルチャーを、その怪力で強引に動かし、迎撃態勢をとる。

 だが、今のジャックでは、二人の攻撃に対応できる程の瞬発力を持っていなかった。

 エーテルによる慣性制御を失い、ジャックの動きは先ほどまでよりも緩慢な物と成ってしまっている。

 このチャンスを無駄にしまいと、二人は一気に攻勢に出る。

 今のジャックのアーマーは、素材本来の強度しか無く、リリィの斬撃、シルフィの打撃で、簡単に損傷する。

 そして、エーテルの防御能力が無く成った事で、衝撃はジャックの肉体に伝わり、明確なダメージが与えられるようになっている。

 防御力が低下した事で、シルフィの打撃でヒビ割れ、脆くなった部分にリリィの斬撃を加える事で、完全に砕かれ、内部のスーツは勿論、ジャックの肉体さえも切り裂く。

 更に、リリィは容赦なく、装甲の破損し、むき出しになっているジャックの腹部へと、ブレードを突き立てる。

 それだけに止まらず、最初からむき出しになっているジャックの顔面に、シルフィの膝蹴りがお見舞いされる。

 その衝撃で、ジャックは吹き飛ばされ、ブレードも腹部から引き抜かれる。


「はぁ、はぁ」

「今のうちに!」


 垂れ出る鼻血を抑えるジャックへ、二人は追撃を行うと接近する。

 だが、チャンスタイムは、既に終わりを告げていた。


「図に乗るな!!」


 傷を全て治癒させ、エーテルの充填を終えたジャックは、接近してくる二人に【炎討ち】を繰り出し、迎撃する。

 当然、発生した炎の威力はすさまじく、その熱量を目で感じ取ったシルフィは命中する前にバックステップで回避する。

 だが、リリィはそのまま突っ込み、刀を回避、炎による熱は完全に無視し、ジャックへと斬撃を繰り出す。


「フッ」

「なッ!?」


 ジャックに差し掛かろうとしていたリリィのブレードは、ジャックの手によって折られてしまう。

 まるで、寄ってきたハエを追い払うような仕草をして、ブレードを簡単にへし折ったのだ。

 リリィの使うブレードは、簡単に折れる事は無い。

 リリィのような高性能アンドロイドが使用すれば、分厚い鉄塊ですら両断しても、傷一つ付かない程だ。

 それでも、簡単に折られてしまったのだ。

 だが、ブレードが折られる事は、既にシミュレーション済みだ。

 すぐにブレードの形状を、刀からナイフへと切り替え、格闘戦を開始する。


「利口になったな!」

「当然です!」


 ナイフによる格闘に移行した事で、小さく成った間合いに対処するべく、リリィの戦い方は、トリッキーな物になる。

 ジャックのバルチャーと異なり、無駄の無い状態のアスセナは、かなり身軽である為、そのような攻撃も可能なのだ。

 しかし、接近すればするほど、ジャックの炎の熱をより強く受けてしまうのだが、リリィは平然としている。


「(流石、俺達を殺すために作られただけのことは有る、この程度の温度じゃ、無理か)」


 アスセナを着用しているとはいっても、リリィの顔面は一部露出してしまっている。

 熱に弱い精密機器の塊であるリリィが真面に戦えるのは、彼女の人工皮膚は特注で、熱への耐性が非常に高いのである。

 炎使いのジャック、その妹の七美は雷使いと、アンドロイドにとっては相性の悪すぎる事もある為、耐性は万全に施されている。

 だが、そんなリリィが相手であるからこそ、ジャックは燃えだす。

 比喩や心意気だけでは無く、物理的に更に燃焼を開始している。

 まるで、ジャック本人の闘争心に比例するかのように、ジャックの体温、発生している炎の温度は、どんどん上昇している。

 ジャックの中心は、正に炎の中であり、リリィの義体に熱対策を施していなければ、あっという間に熱暴走を起こしていたかもしれない。

 それでも、リリィの駆動系に問題は無く、ジャックを相手に何とか立ち回っている。

 そんな二人の戦いを、シルフィは遠くから見ていた。


「(凄い、百メートル位離れてるのに、焚火に顔を近づけてるみたい)」


 ジャックより発している熱は凄まじく、スーツを着ていない部分のシルフィの顔面は、まるで炙られているような痛みを味わう事に成る。

 このまま加勢できずに終わる何て結果は、シルフィの望む事でなく、何とかリリィを助けようと、思考を巡らせる。


「(……そう言えば、あの時、私の魔力をぶつけて、風を消せた筈)」


 思い出すのは、クラブとの闘いで、偶然行えた魔法の無効化。

 本当に偶然に近いのであるが、最近忘却していた記憶が呼び出された事で、その魔法の使用方法を教わった事も思い出している。

 それを使用すれば、魔力で発生している炎や熱も、ジャックの再生能力も無効化できる筈だ。


「(……でも、属性を付与すると、余計に負担がかかるんだよね)」


 使用する前に、シルフィは訓練の当時の事を思い出す。

 ようやく三十分近く連続して使用できるように成った頃、属性付与による強化を教わったのだが、その時は一分足らずで倒れてしまった。

 だが、得られたバフの倍率は飛びぬけて高かった。

 実際に、目の前でジャックが使用しており、その恩恵がどのような物なのか良く解る。


「お願いだから、もってよね」


 少し湧き出て来る恐怖をこらえ、シルフィは全身に巡らせている魔力に、属性を付与し始める。

 クラウスの言っていた天の力、忌まわしい物であるが、それでも今は使用するほかない。

 覚悟を決めたシルフィは、大きく深呼吸を行う。


「鬼人拳法・悪鬼羅刹」


 使用により、全身が焼けるどころか、火が吹き出ているような熱さを覚える。

 だが、強くなっているという事は、体感で解る程だ。


「待ってて、リリィ!」


 地面を抉れてしまう程の力で蹴り飛ばし、シルフィは再びリリィに加勢する。

 接近しても、ジャックより放出されている熱の影響は受けず、更には魔力によって発生している炎は、シルフィの接近で消滅している。

 シルフィが戦線に加わった事で、周辺の熱は下がり始め、更に強化された身体能力のおかげで、ジャックへの攻撃に成功し始める。

 シルフィの攻撃を受けた部分の熱は、急激に下がり、ジャックの炎の壁は機能を失い出す。

 しかも、シルフィの力は、熱だけにとどまらず、バルチャーの駆動系にまで影響を及ぼし、ジャックの戦闘能力を低下させる。

 そのチャンスを、リリィは逃さず、ナイフでバルチャーの表面装甲を破壊する。

 使用しているナイフの刃渡りは、スーツ越しでもかろうじてジャックの体に届く程であった為、しっかりとダメージは与えられている。


「このまま合わせてくださいよ!」

「解ってる!」


 徐々にではあるが、ジャックを圧倒している。

 この事実に二人は緊張する。

 どんでん返しで敗北してしまう不安と、このままジャックを圧倒し、勝利するかもしれないという希望が、とてつもない緊張を誘発させる。

 そんな緊張の中、シルフィは渾身の蹴りを、ジャックのわき腹に繰り出す。


「ガッ!!」

「え?」

「は?」


 それなりに強く蹴った事で、ジャックは異常なまでの苦痛を覚える。

 だが、蹴り飛ばされたジャックの表情に、シルフィとリリィは違和感を覚える。

 確かに強く蹴ったつもりではあったが、攻撃をくらった時のジャックの苦しそうな表情は、先ほどの蹴りだけで出るような物には見えなかった。

 拷問にも耐えられるように、痛みへの耐性を持っているジャックが、蹴り一つで浮かべるようには思えない表情だった。

 先ほど何度も殴ったからこそ、シルフィは一瞬の疑問を浮かべてしまう。

 だが、今は戦闘中、同様にして疑問を抱えてしまったリリィは、すぐに考えを振りほどき、シルフィを叱咤する。


「シルフィ!!」

「あ」


 気のゆるみは、リリィの一声で何とか引き締まり、攻撃を続行する。

 今の一撃は、ジャックにはかなり堪えたらしく、動きは更に緩慢になってしまい、二人の猛攻を、真面に受けてしまう。

 バルチャーの装甲は半分近く剥がれ、破れたスーツからは、止血しきれなかった血が吹き出て来る。


「(行ける!このまま続ければ、ジャックを倒せる!)」

「(大尉、貴女に一切の恨みは有りませんが、任務に従って、貴女を排除いたします!!)」

「……るな」


 勝利を確信する二人であったが、ジャックは刀を全力で握りしめ、渾身の力で刀を振り回す。


「調子に乗るな!小娘共!!」

「ッ!!?」

「リリィ!!」


 怒りの籠ったジャックの言葉と同時に、ジャックは【炎鬼牢】を全力で使用する。

 その威力は異常であり、まるで強力な爆弾が爆発したかのように、無数の斬撃が四方八方に発生する。

 周辺の施設や滑走路、地面は吹き飛び、そびえ立っていた管制塔は、輪切りに成ると同時に、崩れ落ちてしまう。

 そうなる直前で、いち早く反応したシルフィはリリィの事を突き飛ばし、爆発から回避させる。

 だが、その代わりに、シルフィは炎の斬撃に巻き込まれ、吹き飛ばされてしまう。


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