キノコとタケノコどちらがお好き?
作者はキノコです。
互いのステータスが判明した二人は、今後の方針を決めるべく、適当な所で話し合いをしようとしていた時、事件は起こった。
「よう、お嬢さん方、ちょっといいかい?」
話し合いをしている中で、ちょっとチャラい男が1名と、その取り巻きと思しき男が数名、アリサたちの目の前に現れる。
チャラ男は、取り巻きをアリサたちの周囲に配し、自分はアリサの事を見下すようにして、目の前に立ちふさがる。
彼らの威圧に、シルフィは怖気づき、自分よりも小さなアリサの事を盾にしてしまっていた。
「何の御用でしょうか?」
セーフモードに入っていなければ、目の前に居る野郎どもなんて、簡単に叩きのめす事ができるが、それができない以上、交渉で何とかしようと試みる。
アリサの言葉が、耳に入ったと思うと、見下した笑みを浮かべながら、アリサの腰に下げているブレードを奪う。
「あ」
ブレードを奪ったチャラ男は、刀身を鞘から抜き、刃をじっくり見たり、適当に素振りをしたりと、勝手に検め始める。
「フーム、軽いな、しかも細身、こんなガラクタで冒険者になろうなんざぁ、百年早いぜ、使う得物と言ったら、やっぱりコイツだろ」
そう言って、チャラ男は背中に携えていた大剣を、床に突き刺し、その迫力を見せびらかせる。
鉄塊ともいえる質量の剣は、床に無造作に突き刺しただけで、軽い地鳴りのような物が起きる。
「でかい魔物を殺すのなら、やっぱりこれさ、こんな細い剣で、何ができるんだ?」
「……言ってくれますね、そんな大剣なんて無くても、私は問題ありませんよ」
そう言ったアリサは、奪われたブレードを取り戻す。
チャラ男から見れば、持っていた筈のブレードが、突然手から消えたように見える程、素早い動きだった。
そんな行動に、チャラ男は一瞬戸惑うが、すぐに我に返り、やはり見下すような目でアリサを見る。
「スピードは、自信有りか」
「ええ、大剣なんて、でかい獲物以外には、役に立ちませんよ、時代はもう小型なんですから」
「小型だぁ~?笑えるぜ、むしろそんな紙見たいに軽いヤッパが、何の役に立つんだい?おチビちゃん」
「は?デカくて重いだけの鉄くずこそ、何の役に立つのですか?脳筋野郎」
「あ?」
「お?」
何時も能面のように無表情のアリサが、珍しく怒っているかのように、表情を動かし、チャラ男を睨みつけると、チャラ男の方も、アリサを睨みつける。
正に一色即発、何らかの刺激を入れようものならば、殴りあいにでも発展しそうな空気だ。
流石にマズイと感じたシルフィは、二人の事を止めに入ろうかと、悩みだした瞬間。
「よろしい!ならば戦争じゃぁ!!」
「よろしい!ならば戦争じゃぁ!!」
二人は同時に叫ぶ。
マジで戦い出しそうな空気に発展し、此処で暴れられないように、シルフィが止めに入ろうとしたと思ったら。
「え?何?」
止めに入ろうとした筈のシルフィは、誰かに拘束され、椅子に座らせられると、横で先ほどの受付嬢が、マイクらしき何かを持ちながら、いつの間にか、目の前に置かれていたテーブルに片足を乗せ、意気揚々と実況を始めた。
「さぁ、始まりました!大振り対小振りの武器、どちらが冒険に優れているかの論争が!!」
しかも、此れから殴り合いでも始まるのでは?という空気だったというのに、気づけば、ギルドの内装は入れ替わり、アリサとチャラ男、両者の額にはハチマキが巻かれていた。
アリサの方には小振り、チャラ男の方には大振りと言う文字が書かれ、更にはそれぞれの文字の書かれたハチマキを巻いた、別の冒険者たちが、二人の背後に回っている。
見るからに、何らかの派閥争いが起きているような状況に成っていた。
「何してんの受付さん!?あといつの間に用意されたの!?このテーブルとイス!」
「実況は、私受付、解説の方はアリサさんのパーティであるシルフィさんにお任せします!」
「お任せします、じゃねぇよ!こっちは状況飲み込めてないんだけど!何でみんな知っている風なの!?何、私だけ知らないの!?」
「おーっと!そうこうしている間に、小振り陣営が動いた!!」
「聞けや!!」
受付嬢の言う通り、アリサの目の前に置かれたテーブルの上に、後ろに居る冒険者たちより借りたナイフ類を広げる。
「良いですか?小振りの武器と言うのは、威力はそちらと比べ、やはり劣るものがあります、しかし、最大の特徴は、何といっても軽い事です、これにより、女性でも軽々と扱えるのです、しかも、軽く、小さなものは、細かい作業にうってつけです」
後方に居る小振り派から、拝借したナイフやレイピア、自身の持っていたサバイバルナイフを見せつけ、その有用性を解説する。
それに同調するように、彼女の派閥に付いた冒険者たちも、うなりを上げ、中には大振り武器の侮辱を言い放つ者もいるくらいだ。
しかし、チャラ男たち大振り陣営は、そんな説明、聞き飽きたといわんばかりに、アリサたちの声を受け流す。
「成程、一理ある、だが、弱いな」
「何?」
「武器は敵を倒すだけが使い方ではない、重要なのは、どうやって生かすか、それができて、真の冒険者に一歩近づく」
やれやれと、言わんばかりに首を横に振ったチャラ男は、やはり見下すような目で、アリサを見る。
そして、アリサが言っていたように、敵の倒し方を編み出すだけが武器の使い方ではないと、知らしめる。
「そして、大振り系の武器にはな、お前ら小振りにはできない事がある」
「フム、そうでしょうか?脳筋の武器に、何の有用性が?」
「それは……」
遂にチャラ男は、武器ではない使い方を口にする、しかもドヤ顔で。
「刃の形がちょうどよければ、その場で火にかけ、バーベキュー用の鉄板にできるのだよ!」
「いや、どんな使い方!!?」
「グハアァ!!」
「アリサ!?」
使い方をチャラ男が述べた時、間髪入れずにシルフィのツッコミが炸裂した。
そして、それと時を同じくして、アリサが突然吐血し、片膝をついてしまった。
「おっと!ここでアリサさん大ダメージ!」
「いや、戦っても居ないのに、何で吐血してんの!?どんなルールなのこれ!?」
「確かに、大型の剣や斧は、そのまま火にかけることで、鉄板として使えます、しかし、それだけでこれほどのダメージを受ける物でしょうか!?」
「それ以前に、何で、言い争いで吐血すんの!?」
シルフィの言い放った疑問に答えるべく、チャラ男が理由を答え始める。
ただ単に、肉や野菜を焼くだけが、大剣の使い方ではないと、ただの鉄板としての使い方ではないと。
アリサはそのことに気が付いてしまったのだ、しかし、気づかない鈍感なやじ馬たちに、思い知らせた。
「おまけに、その辺の鉄板のように、平ではない、しかも、フライパンのような縁も無い、すなわち、余分な脂は落ち、クドい焼き上がりを防ぐ事ができるのだよ!!」
追加の解説をした瞬間、アリサの後方に居る小振り派の方々も、急所に一撃入れられてしまったような反応を見せる。
「クソどうでもいい事だった!」
「調理器具としても優秀な大振りの武器、果たして、この使い方を超える返しをできるのでしょうか」
「無駄だ、見てみろ、もはや戦闘不能だ」
「言い争いで戦闘不能!?」
チャラ男の言う通り、アリサは先ほどのダメージで、行動不能と思えるほどに弱っており、早くも、此れで終わりなのか?という空気が漂い始める。
「まだだ、まだ終わって無い!!」
しかし、アリサは立ち上がった。
目の前のテーブルに、装備を追加しながら。
目の前に出された追加の装備、ハチェットとバールのような物を、チャラ男の目の前に出した瞬間、チャラ男は後方に大きく吹き飛ばされてしまう、例に倣って血を吹き出しながら。
「ゴファァァ!!」
「おおっと!こちらも滅茶苦茶吐いたぁ!!」
「何でお前まで!?しかも今度は吹っ飛んだよ!何!?そういうルールなの!?」
「ほう、ハチェットとバールのような物ですか」
取り乱しているシルフィを他所に、いつの間にか二人の後ろに居た謎の老人が、かけていた眼鏡をクイっと持ち上げると、何故チャラ男があのようなダメージを受けたのか、解説を始める。
「ハチェットにバールのような物、両者とも、投擲武器としても扱えるだけでなく、多少の刃こぼれをしても、打撃武器としても使える為、継続戦闘能力に優れます、しかも、ちょっとした崖をよじ登る、古くなった扉をこじ開ける、用途は様々、切り身であれば、お肉も焼けます、これはかなりの高得点だ」
「うちのお父さんも似たようなこと言ってたけど、何で、口論でダメージ受けるの?そしてあんた誰?」
「私はただの通りすがりです、ではこれで」
そう言い残すと、老人はギルドから出ていってしまった。
何しに来たのかと、シルフィは心の中で突っ込んだ。
いい加減頭がおかしくなりそうなシルフィを他所に、同じ派閥の仲間達によって、立ち上がるのを手伝ってもらったチャラ男は、再び大振りの武器の魅力を語る。
「やるじゃねぇか、だが、こちらもとっておきを出すとしよう」
「とっておき?」
「どうせくだらない事でしょ」
「まぁ、今度は本体じゃなくて、此奴さ」
そう言って、チャラ男が目の前に出したのは、自らの大剣を納めている鞘、それを見せつけられたアリサたち、小振り派の冒険者たちは、一歩引いてしまう。
何時も無表情、それ以前にアンドロイドの筈のアリサは、顔を青ざめ、冷や汗のようなものまで出している。
「貴方、まさか」
「そう、大剣の鞘は、場合によっては、大容量の水筒代わりに使えるのだよ!!」
「意外と真面目な奴来た!」
「しかも、先端を取り外し、素材を火に強い物にすれば、鍋としても使える、最低限の調理器具全てを賄える、それが大剣のすばらしさだ!」
「結局調理器具かよ!」
結局調理器具としての使い方ではあるが、聞かされアリサの方は、後方に大きく吹き飛び、壁に激突、そして、衝突した壁は、彼女の形がクッキリ残る位、陥没する。
周りのメンバーたちも、体の至る箇所を抑え、苦痛に喘ぐような素振りを見せる。
「もういい、もうツッコまない、あんたらのリアクションには!」
「終わってなぁい!」
「もう終われ!!」
それからも、両陣営の討論は続いた。
お互い、自らの推す武器の魅力を伝えあい、どちらの方が優れているかの言い争いが続く。
あるものは、決定的な欠点を突かれ、卒倒し。
あるものは、アリサ同様に吹き飛び、壁や柱に衝突する。
もう一度言う、言い争いである、皆一切合切、直接手を下していない。
「白熱してきました!!果たして、どちらが勝利するのでしょうか!?」
「それより、私達は何を見せられてるの?口論ってこんな出血したっけ?吹き飛んだりして壁や柱が壊れる物だっけ?」
「このバトルロワイヤルに勝つのは、一体誰でしょうか!?」
「もうツッコムのも面倒くせぇ」
~しばらくして~
いつの間にかボロボロと成ってしまったギルド内部、其処では、血だらけで横たわる冒険者たちと、散らかった調度品の残骸たちが散乱している。
そんな中で、傷つき、弱り果てながらも、経ち続ける二つの影が有った。
片や、少しチャラ着いた服やアクセサリーを身に着け、大剣を携える青年。
もう一方は、蒼髪で、黒い服を纏う少女。
二人は、清々しい笑みを浮かべながら、武器を捨て、互いに握手をしあう。
互いに互いを認め合った、素晴らしいワンシーンだ。
その光景を見ていた受付嬢は、感動で少し涙目に成りつつも、自らの本来の役割を全うするべく、実況を再開する。
「ふふ、どうやら、引き分けのようですね、そして今回、最後まで生き残ったのは」
彼女たちの名を、受付嬢は高らかに宣言する。
「Cランク冒険者、蒼髪の美しい、『クジャク』さん!そして、同じくCランク冒険者、無駄に着飾っている『オセロット』さんだぁぁ!!」
「一切描写されてない人達が勝っちゃったぁぁ!!」
因みに、両陣営のリーダーであるアリサとチャラ男が、破壊された調度品たちの山に、埋もれていたところを発見・救出されたのは、この三十分後であった。
最後の二人は今後登場する予定はありません。