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自慢話ばかりする奴は大体ろくな奴じゃない 前編

 リリィの言葉で、二人は落ち着きを取り戻し、話はシルフィの親についての事へとシフトチェンジしていた。


「で、何で黙ってたの?」

「いやぁその、こういうのは、黙っていた方が良いかと…何せ四百年越しの黒歴史ですし、お寿司」

「ダジャレで誤魔化さないで」

「も、申し訳ございません」

「はぁ、とりあえずそう言う事は、ちゃんと教えてね」

「はい」

「という訳で、もう一つ聞きたいんだけど」

「何でしょう?」

「被検体E-203って、何?」

「あ…えっと……ちょっと失礼」


 シルフィの思いがけない質問に、リリィは顔を青ざめ(ているような感じになり)ながら、ジャックの方へと向かう。

 持ち前の地獄耳である程度聞いていたジャックは、なんとなく事情を察し、リリィの到着を待つ。

 そして、ジャックの元にたどり着いたリリィは、一緒にシルフィに背を向けつつ、しゃがみ込むと、ヒソヒソ話を始める。


「あの、如何すれば良いでしょうか?」

「いや、俺に聞くなや」

「だって、あの子の親御さんの製造コードだなんて、言える訳無いじゃないですか」

「まぁ確かにな」


 シルフィの質問である、被検体E-208、これはシルフィの母、ジェニーがナーダ側で被検体と成っていた時の製造コードである。

 クラウスの研究所で、非人道的な実験を受け、肉体を強化されていたのが、シルフィの母、ジェニーである。

 研究所自体は、ジャックの手で破壊され、被検体唯一の生存者となったジェニーはジャックの手で救出された経緯がある。

 当然、リリィもその作戦に関するデータを組み込まれている。

 そのおかげで、ジェニーの出自も知っているのだが、そんな経緯で親が生まれたと言われて、シルフィがどのような心境に成るのか解らない。

 おかげで、どのように質問を返せばいいのか解らず、ジャックに相談することにしてしまったのだ。


「とりあえず、基本無神経な貴女であれば大丈夫でしょうから、貴女が言ってください」

「誰が無神経だ、それにあれだ、直接伝えようなんて考えるからいけないんだ、子供に、子供はどうやって作るのかって聞かれて、ストレートにいう奴はいないだろ、此処はオブラートに包もう、保健体育の教科書みたいにストレートに教えるのではなく、理科の教科書で伝える感じだ」

「理科の教科書って、雄しべと雌しべを云々って感じですか?」

「そうそう、実はお前のお母さんは、腰じゃなくて試験管を振って生まれたって言えばいいんだよ」

「いや、准尉って元ストリートチルドレンですよね、どちらかと言えば前者では?」

「そ、拉致られて、脳みそクチュクチュされた挙句、えぐり取られて、コレクションされて、実験を受けた中で唯一生き残ったって感じだ」

「そうなのであれば、試験管を振って生まれたって言うのは語弊が……」

「肉体の方は、試験管を振って生まれたのは間違いないだろ、クローン精製されて、その中に脳みそ入れらたんだから」

「そうですが……」

「という訳で、お前の方から説明頼むわ、そもそも、アイツに惚れてんなら、それ位教えてやりなさいって、それが一番の親切よ」

「べ、別に、惚れている訳では……と言うか、単純に貴女が言いたくないだけですよね」

「まぁな」

「部下の娘さんなんですから、上官の貴女がいうべきでしょう」

「いや、相棒のお前が言うべきだろ」


 等と言う話をするジャックとリリィであったが、どちらが真実を話すべきであるか、擦り付け合いが始まってしまう。

 そんな二人の会話を聞くシルフィは、モヤモヤとした気持ちになりながら、二人の事を見ていた。


「(あの二人、本当に敵なの?モヤモヤするからやめて欲しい……でもまぁ、私のお父さんの事について何だから、こうなって当然だよね)」


 睨みつけるような眼光で二人を見るシルフィは、モヤモヤを抑えつつ、二人の会話が終わるのを待ち続ける。

 つもりでいたのだが、シルフィの中のモヤモヤは、徐々に大きく成ってしまい、居ても立っても居られなくなってしまう。

 そして、気づいた頃には、リリィの元に近寄り、怖い眼で睨んでしまっていた。


「ねぇ、まだ?」

「あ、えっと……大尉、お願いしま、って、どこ行った!?」


 シルフィの威圧に恐れをなしたリリィは、ジャックに助け舟を求めたのであったが、当の本人は既に何処かへ行ってしまっていた。

 そのせいで、リリィが説明する羽目となってしまったので、仕方なくシルフィの質問に答え始める。

 できる限りシルフィにも解る様にかみ砕いた説明と成ったが、一先ずシルフィの質問を答える事には成功する。


「……そっか、あのクソ爺が、ねぇ」

「ええ、そうです」


 クラウスの研究がかなり危ない物であるという事は、療養中に聞いた話であったが、あまりにも非人道な研究の話に、シルフィは怒りを吹き出してしまう。

 だが、それでもクラウスの研究で得られた力は、強力な物だ。

 それこそ、使いこなせば、ジャックさえ容易く葬れる程の力を得る事だってできる。

 そんな事よりも、リリィから聞かされた親の話を、シルフィは再び頭にリピートする。

 身寄りのない状態で、訳も分からず連れ去られ、脳を取り出され、弄繰り回され、別の肉体に放り込まれてしまった。

 そんな忌々しい研究の果てに生まれたことへのイラ立ちもあれば、その研究が有ったからこそ、生まれてこれた喜びもある。

 だが、クラウスの顔を思い出すと、怒りが込み上げてきてしまう事に変わりは無い。


「……やっぱり、顔面殴った方が良かったね」

「それは良いですが、また壁を破壊しないでくださいね」

「う、わかった」

「話は終わったか?」


 話の終わりと同時に、何処からともなくジャックは現れる。

 そして、ジャックの存在に気付いたリリィとシルフィは、ジャックの方を向く。

 気持ちの整理が、完全についたという訳ではなくとも、今は目の前の決着をつけるべく、シルフィは構えを取る。


「……出自に関しては大体わかったけど、一先ずは、アイツだね」

「そうですが……あの!申し訳ありませんが、お着替えタイムを設けてもよろしいでしょうか!?」

「リリィ!?」

「そんな恰好では戦えないでしょう……」


 完全に戦闘する気満々であったシルフィだったのだが、リリィが放ったジャックへの言葉に、すっかり気分が萎えてしまう。

 だが、冷静に成ったシルフィは、今着ている服の状態を検め始める。

 よく見れば、服の一部は黒焦げに成り、先ほどの無茶な動きや、戦いのせいで、所々破れてしまっている。

 ほとんど裸ともとれてしまう今の状態に、シルフィは気づいてしまい、両腕で気休め程度に隠し、顔を赤らめながら、ジャックに了承を取り付け出す。


「えっと、良い?」

「良いぜ、バックパックの中にジェニーのお古入ってるから、それ使え」

「あ、ありがとう」


 ジャックの了承を得たシルフィは、早速バックパックの中から、ジェニーのお古と言うスーツを取り出し、着替えを始める。

 そして、何時ものピッチリ黒スーツに着替え終えると、動作に問題無いかを確認する。


「ふぅ、何かこれ、最初は恥ずかしかったけど、慣れると結構落ち着くね」

「まぁ、体に完全にフィットするようになっていますからね」

「……所で、これ、お父さんのお古って言ってたよね」

「はい」

「サイズって、これどうなってるの?」

「えっと、性別さえ合っていれば、ある程度は自動的にフィットするようになっています、加えて、すぐに着られるように、使用者に応じて、形状等の方は固定されます」

「そうなんだ……(あれ、そうなると、前のスーツも、胸の部分はたいして大きくなかったから、最初から私に希望何て無かった!?)」


 何て事を考えてしまったシルフィであるが、戦う準備を整え、気を引き締めたシルフィは、ジャックの方を向いてみる。

 視線の先には、背後を向けながら紫煙を吹かすジャックの姿があり、とてつもなく呑気に見える。

 とてもシルフィやリリィの事を敵と認識しているようには見えないのだ。

 元狩人であるシルフィからしてみれば、標的を目の前にして、背後や急所等を晒すなんて、自殺行為にも程が有る。

 罠であれば頷ける状況なのだが、今のジャックは完全に無防備な状態である。

 まるで、ジャックにとって、シルフィとリリィは、標的ですらないかのような振舞だ。


「……(考えてもみれば、何で私達は戦っているの?リリィの敵だから?ミーアさんを殺されたから?……そうだ、アイツはミーアさんを殺した、それだけじゃない、他にもたくさんの人を殺してる、まるで遊んでいるみたいに、そうだ、それが戦う理由だ……でも、アイツが私達と戦う理由って何?)」

「あの、シルフィ?」

「……ゴメン、何でアイツと戦っているのか、急に解らなくなって……でも大丈夫、アイツを倒す理由、ちゃんと有るから」

「……シルフィ」

「難しく考える事は無いぜ」


 戦う理由を改めて認識したシルフィであったが、ジャックの戦う理由に引っ掛かってしまった。

 何とか自分が戦う理由を見出したのだが、ジャックの戦う理由を思い出してみても、とても漠然としており、的を射ていなかった。

 そもそも、ジャックの目的が何なのか、そもそも知らないのだ。

 そんな悩みを抱えるシルフィの気持ちを知ってか知らずか、シルフィの方を振り向いたジャックは、助言を始める。


「今は戦争だ、お前たちはナーダに付いている、そして俺は連邦に付いている、善悪も関係ない、派閥の違い、それこそが、俺達の戦う理由だ、単純で分かりやすいだろ?」

「なら、貴女が戦争に参加する理由は?こんな事をする理由って、何なの?」

「……言っただろ、目的の為さ」

「その目的を聞いてるの」

「……空っぽと成ったこの心を満たす為だ、その方法の一つは、敵を殺す事、快楽を得る事だ、俺は敵を殺す事で、女を抱く事で、快楽を得られる、此れで、俺はこの虚無から脱する事ができる、特に、対象が強敵であればある程、俺は快楽を得られる、その為に俺はお前を強くした、お前たちと言う敵を作る為に」

「……その程度の理由で、貴女は戦うの?こんな生きる為の狩りでもなく、ただいたずらに意味のない破壊や殺人をするだけの行いをする理由なの?」

「破壊、確かにそうだな、だが、戦争で死ぬという事は、言ってしまえば、地震やらの天災に遭った事と同じ、如何しようもない事だ、諦める他ない、自然の摂理であり、弱肉強食の理、つまり、当たり前の事なのさ」

「待ってよ、自然災害なら、確かに諦めて、犠牲者を悔いる事しかできないけど、戦争は人間が勝手に起こしている事、災害でも何でも無いでしょ!?自分勝手な行いを、自然の摂理何て呼んで良いの!?」

「人の生み出す〈技〉、此奴もまた自然の一部、であれば、人の〈業〉である戦争さえ、自然の一部だ、死んだら死んだで、あの医者のように諦め、死を受け入れ、お前も、生き残ったら、生き残ったで、死んだあの医者を悔やみ、生き残った事を幸運に思いながら、生きていけばいいのさ」

「(……何だ?ジャックの奴、シルフィを煽ってる?だが、こんなにも相手を煽るような事をするような奴じゃなかった筈、それに、彼女の究極の目的は……)」


 不敵にほほ笑むジャックの言葉に、シルフィは体を震わせる。

 特に、あの医者、ミーアの事を話に出したことで、その怒りは更に向上する。

 ジャックからしてみた命の重さ、それはもはやワタ埃程度の重みしかない、という事が、良く解った。

 彼女にとって、人を殺すという事は、本当に蚊を潰す程度の軽い認識なのだ。

 戦争の光景が惨いと言っていたのも、今思えば、騒音などで不快に感じる程度なのかもしれなかった。

 だからこそ、戦場と言う凄惨な現場であっても、ふざけた言動ができるのだ。

 そんな人間を前にしたシルフィは、怒る。

 だが、あのドロドロを発生させない様に、自制心を強く持ち続ける。

 今度は、自分の悪意からでは無く、これ以上の理不尽で死んでしまう人を、少しでも減らす為にジャックを倒す事を決める。


「良く解ったよ、貴女は、必ず倒さないといけない、空っぽの悪だって事が……リリィ」

「……あ、はい」

「やるよ」

「そうですね」

「……戦う気に成れたか?」

「おかげさまで」

「そうか」


 完全に敵意をむき出しにしたシルフィを見て、ジャックは上空で待機させていたバルチャーを呼び寄せ、装着する。

 その際、ライフルは捨て、身軽できる限り身軽にする。

 背後のウィング型スラスターだけは残し、リリィに対しての空中戦に備える。

 対して、リリィもエーテル・キャノンのような、重量の増す装備は全て捨て、自身の強化に必要な分だけのアーマーを残す。


「さてと、お互い準備運動は此処までにして、そろそろ本気で行こうや、万全のお前たちを殺す事ができれば、俺はより満たされる、その為に色々待ってやったんだ」

「ええ」

「(本気?)」


 ジャックの言葉に、首をかしげるシルフィであったが、その理由はすぐに判明する。

 バルチャーを付けた状態で、刀を構えたジャックは、大きく深呼吸を行い、目を見開く。


「鬼人拳法・悪鬼羅刹」

「そんな!?」


 目の前の事実に、シルフィは少し後ずさりをしてしまう。

 ジャックの使用した鬼人拳法・悪鬼羅刹、これはシルフィも使用している身体強化の一段上の技。

 つまり、ジャックは今まで本気ですらなかったのである。

 本気を出したジャックの威圧感や圧迫感は、今までの比では無く、今のシルフィであっても、息をする事すら難しく思える。

 しかも、ジャックの体の各所や、背部のウィングから炎が吹き出ており、外観の迫力も向上している。

 だが、それでも湧き出てきた闘争心が、シルフィを奮い立たせる。


「さぁ、始めようか」

「ええ」

「(今度こそ、終らせる、たとえ、お父さんの恩人であっても)」


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