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雨が降るときはちょっと臭う 後編

 ジャックが基地の上空に出現する少し前。

 外宇宙航行艦ムラサメと、その随行艦の間で、作戦のブリーフィングが行われ、導入する戦力が決定された。

 当然、ジャックの参戦は最初から決まっており、攻撃の第一段階として、敵の対空防御網等の破壊を行う事が、最初の役割だ。

 次に、内部へと入り込み、新型のアリサシリーズの破壊、並びに、シルフィの連行が、今回の主な任務である。

 そして、任務開始時刻に成る前に、整備されたエーテル・ギアを取りに、ドッグへと赴いていた。


「お、エーラ、整備の方はどうだ?」

「ああ、丁度終わったところだ」


 整備ドックに到着したジャックは、早速整備を行っているエーラに話しかけ、整備の終わったというバルチャーを目にする。

 リリィと戦っている時とは違い、最初から増設パーツの翼が付けられており、其処に幾らか装備も取り付けられている。

 カラーリングも、黒一色から、少し紅い部分が追加されている。


「ほう、結構かっこよく成ったな」

「そうだろ、このホットロッド感がまた良いだろ」

「ああ、全くだ」


 新しいカラーリングをうっとりと見つめながら、ジャックはバルチャーの周囲をグルグルと回る。

 紅と黒と言うなんとも厨二感漂うデザインに、ジャックはうっとりとしながら見つめる。

 更には、装着しないまま自撮りまで始める始末だ。

 あまりにも長く観察するので、いつの間にか降下時間と成ってしまう。


「おい、いい加減にしろ、もうそろそろ降下時間だろ?」

「おっとそうだな、仕方ないから、さっさと降下しちゃいますか」

「ついでに此奴も持っていけ、サイコ・デバイスだ」

「おう、サンキューな」


 ジャックはエーラから渡されたヘッドフォン型のサイコ・デバイスを取り付けると、取り付けられているスイッチを押す。

 すると、内蔵されているナノマシンが、フルフェイスヘルメットを形成したのを確認し、バルチャーを装着する。


「よし、準備完了、チナツ、いつも通り、サポート頼むぜ」

『了解しました!』


 チナツの、アンドロイドにしては快活な返事を耳にしたジャックは、支給されたライフルを持って、カタパルトデッキへと移動する。

 そして、ハッチが開くと同時に、翼を展開し、出撃準備を整える。


「さて、行きますかい!!」


 勢いよく出撃したジャックは、ナビゲーションに従いつつ、目標である基地へと一直線に進む。


 ―――時はジャックが基地の上空にたどり着いた時。


 突然の異常事態に兵士達はパニックになりながらも、訓練で体中に沁み込ませた動きで、戦闘態勢に入るべく動き出す。

 だが、既に準備万端の状態で現れたジャックの方が、いち早く行動を行う。


「悪いが制圧させてもらう」


 翼を大きく広げたジャックは、つい最近完成したばかりの新兵器を起動させる。


「脳波同調、エーテル・ドローン、テイクオフ!!」


 多少の頭痛を感じながら、ジャックは背後のスラスターから八枚の剣状の物体を繰り出す。

 八枚の剣は、エーラ達技術研究部が死に物狂いで作り出した誘導兵器の一つ。

 エーテルの散布された空間内では、誘導ミサイルの類が使用できなくなるというデメリットが存在する。

 だが、ジャック達が感知している脳波は、大気中のエーテルが濃い場合、送受信の精度が向上する。

 其処に目を付け、サイコ・デバイスで増幅された特定の脳波を受信する事で、攻撃を行える兵器を開発したのだ。

 制作されたドローン達は、スラスターの類は無く、ジャック自身の念力によって浮いている。

 そのおかげで、縦横無尽に動かすことだってできる。

 そして、ジャックの使用しているドローンたちは、ジャック自身の意識に従い、次から次へと、基地の内部へと侵入する。

 そして、搭載されているエーテル・ガンによって、出撃途中の敵ビークルを破壊し、兵士達に対しては、直接体当たりを繰り出し、首を切断する。

 同時に、照明等の電源設備を破壊し、基地の機能を麻痺させる。

 外では、戦闘準備の整ったナーダ軍兵士達が、空に向けて攻撃を開始していた。

 だが、ただでさえ高機動で動くというのに、翼以外はただの人間の大きさでしかないジャックに、無誘導の兵器を当てる事は至難の技だ。

 対して、ジャックは空中から一方的な射撃を行い、地上の制圧を開始する。

 しかも、ジャックは基地内部に入り込んでいるドローンを操縦しながら、ナーダ達の対空攻撃を回避し、更には反撃として射撃を行っている。

 接近戦を主な戦法としているとしても、やはり銃による戦闘も視野に入れて訓練をしているだけあって、狙いは正確、次々と命中させる。

 外側と内側から、基地の防衛機能を可能な限り奪った事を確認したジャックは、空中で通信を開始する。


「さて、第一陣はこんなものか……チナツ、後続の到着は、後どれくらいだ?」

『はい、後続部隊の到着は、あと五分です、大尉は予定通り、基地内部へと侵入してください』

「OK、バルチャーは外で待機させて、先に突入する」

『はい、健闘をお祈りしております!』


 通信を終了したジャックは、ライフルを格納し、上空でバルチャーを脱ぎすて、基地へと突入する。

 内部へと侵入すると、何時も愛用している二丁のハンドガンを構え、基地内に散らばらせていたドローン達を回収し、ヘルメットも邪魔なのでヘッドフォンに戻す。

 ある程度基地の設備を破壊しておいたので、敵の増援が外に出るまで多少の時間を要する。

 それまでに、目標の一人であるシルフィを確保しておきたいところだ。

 新型のアリサシリーズ、リリィはシルフィに対してかなり強い思い入れがある。

 ならば、シルフィと言う存在は、リリィにとってかなりの弱点と成る。

 戦場で勝てる可能性を少しでも上げる事の出来る要因が有るのであれば、その全てを使って味方を勝利に導く、それがジャックのやり方でもある。

 だが、もう一つ目的が有る。

 部下の一人であるジェニーについての情報、ずっと何の手掛かりも無かったというのに、こうして目前に手掛かりが有る。

 此れを利用しない手は無い。


「さぁて、シルフィ君、何処にいるのかな?」

「居たぞ!スレイヤーだ!!」

「……男には興味ねぇよ」


 電源設備をやられ、明かりの灯らない基地の内部を歩き回っていると、武装を完了した歩兵部隊と鉢合わせする。

 歩兵たちは、一瞬だけではあるが、ジャックという存在に驚きを上げてしまうが、すぐに冷静さを取り戻すと、小隊全員による機銃掃射を開始する。

 ジャックに対し、射撃というのは、其処まで意味を成すものではない。

 敵の脳波を聞き取れるジャックは、どの位置に、どのタイミングで射撃を行うのか、手に取る様にわかる。

 それ故に、射撃能力が高ければ高い程、ジャックにとっては避けやすい攻撃と成ってしまうのだ。

 しかし、大人数で、しかも閉所での戦闘では、全てに反応できるという訳は無く、不覚を取ってしまう事も稀にある。

 だが、今は違う。


「畜生!攻撃が届かないぞ!」

「怯むな!撃ち続けろ!」


 ジャックの周りに浮遊する八機のドローン。

 彼らは剣の形状をしているおかげで、多少ではあるが、シールドとしての役割を果たしている。

 しかも、ジャックのエーテルを遠隔で注ぎ込むことにより、防御能力も強化されている。

 防御を行いつつ、持て余しているドローンと、自身の持つハンドガンで反撃を開始する。


「クソ、退避しろ!」


 ナーダ兵士たちも、ジャック達と同様に、全身を包む黒いスーツを着用している。

 非常に優れた防弾性を持っており、ハンドガン程度の威力では傷つける事は難しいのだが、彼らが恐れるのは別の物だ。

 ジャックの放つ弾丸は、かなりの威力の爆発を引き起こす。

 これは、ジャックが今まで猛威を振るってきたことも在って、全ての兵士が知る事である。

 そして、ジャックの繰り出した銃弾は、次々と爆発し、爆風によって兵士達を吹き飛ばす。


「畜生、スレイヤーめ!!」

「よくも家族をぉぉ!!」

「戦友の仇だ!絶対に殺してやる!」


 爆風に巻き込まれて尚、立ち上がった兵士達は、銃撃を繰り出そうとするが、彼らの思いは、すぐに踏みつぶされてしまう。

 攻撃の手が止んだ事で、攻撃に回せるドローンが増えた事により、異常聴覚で捉えた兵士達の首を、ジャックは切り落とす。


「……悪いな、俺にも、果たすべき目的が有る」


 向かってきた兵士達を全滅させたジャックは、先を急ごうとする。

 恐らく、シルフィに与えたダメージから考えて、医療棟に居る可能性が高いと踏んで、その方向へと進む。

 その道中でも、数名の兵士と出会っては、まるで道端の石ころを蹴り飛ばすかのように、一人残らず殺害する。

 照明が落ちている事で、ほとんど視界が機能しなくとも、ジャック自身の異常聴覚で、敵の位置は全て把握できている。

 その特性を利用し、無双ゲームの主人公のように、ただひたすらに殺しを続ける。


「随分とまぁ残ってるな、あらかた片付けたと思ったんだが……」


 弾倉を取り換えながら、思っていた以上に残っていた残党の数に驚かされる。

 もはやナーダの幹部と言える人物は、ヘンリーのみとなり、組織としての形は、もはや存在を無くしつつある。

 それなのに、こうして抵抗できるだけの兵士をそろえている。

 幾らかアンドロイド兵でカサ増ししているが、それでも生身の人間も非常に多い。


「……さてと、エルフィリア君、いるのなら、俺を感じ取ってみろ」

「待ちなさい!」

「およん?」


 シルフィが居ると思われる場所へと、足を進め続けるジャックの元に、一人の女性が現れる。

 小動物のような耳と尻尾を持った、獣人の女性、ミーア。

 医者であるにも関わらず、護身用で持っているハンドガンをジャックへと向ける。


「……医者か、一般人を徴兵するくらい、お前たちは追い詰められているのか?」

「う、うるさい、あの子の所には、絶対に行かせない、貴女は、私が倒す」

「阿保、訓練は受けているんだろうが、そんな物で俺を殺せると思うか?」

「それでも、一矢報いるのよ、貴女に、私は全てを奪われた、その上、あの子、シルフィまで、貴女に奪われる訳にはいかないのよ」

「……そうか、向かってくるのなら、誰だろうが、容赦はしないぜ」


 なぜそこまでシルフィに肩入れするのか、ジャックには解らないが、邪魔をするのであれば、容赦するつもりはない。

 ジャックは、ハンドガンを構えながら、ミーアの間合いを詰めていく。

 できる事であれば、恐怖で逃げ出す事を祈ったが、ミーアは逃げずに佇み続ける。


「(よし、そのまま、そのまま、来なさい、あの子を逃がすために用意したつもりだけど、この際だからアンタに使うわ、そしたら、この混乱に乗じて、あの子を……)」


 拳銃を片手で構えながら、ミーアは調合しておいた溶解液を取り出す。

 兵士に見つかったり、隔壁を溶かす為に用意したのだが、今回ばかりはジャックに使用するつもりで持ってきた。

 この溶解液は、ジャック達の着ているスーツでさえ溶かしてしまう程の威力を持っている。

 しかも、人間にかかれば、跡形も無く溶かしてしまう程だ。

 当然、着用者であるジャックも、同様にただでは済まない。

 ジャックの再生能力は、確かに強力であるが、酸等で体を溶かされた場合、その再生能力には支障が出て来る。

 再生しても、体に付着している溶解液を振り払う事はできないので、継続してダメージを与える事ができるのだ。

 完全に倒す事が出来なくとも、シルフィを逃がすための時間稼ぎには成る。

 そして、ミーア自身の力で投げ飛ばせる距離まで近づき、瓶を準備する。


「くらいなさい!」

「おっと」


 だが、一瞬にして背後に回り込んでいたジャックは、ミーアの持つ瓶を取り上げてしまう。

 同時に、拳銃も取り上げ、使用不能にしたうえでその辺に放棄する。


「……おいおい、こんな危険な代物用意していやがったのか、医者のやる事じゃねぇよ」

「うるさい!今の私は医者なんかじゃない!あんたを殺すのが目的よ!私の家族を殺した罪、此処で払わせてやるわ!」

「悪いな、俺はまだそう言う訳にはいかない、アンタの家族を殺した罪は、世界を平和にした後で、きっちり償ってやるさ」

「何が平和よ!アンタは戦争を拡大して、激化させている張本人でしょ!」

「そうかもな」


 そう言うと、ジャックはミーアの事を壁に突き飛ばす。

 そして、座り込んだミーアは、ジャックの事を睨みつける。

 そんなミーアの前に、ジャックは銃をしまいながら座り込み、よく見つめ、音を聞き取る。


「まぁそんなかっかするなって、ちょっと話をしようや」

「話?」


 怒りや憎しみに駆られ、正常な思考を維持できていないと解ったジャックは、ミーアと面と向かって話す事にする。

 洗脳してやろうとか、そう言う感じのつもりは一切無く、ただ単に、話がしたいと思っただけだ。


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