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時には休息も大事 後編

 シルフィが壁をぶっ壊した二日後。

 その日を境に、シルフィはミーアも驚くレベルで回復を始め、逆に心配に成るレベルだった。

 そして、今日の夕食を終えたシルフィは、ベッドの上に座りながら、ボーっと天井を眺めている。


「(暇だ、アリサとも会えないし、暇だ、やることは有るけど、アリサに会えない)」


 目覚めたシルフィの一日のルーティーンは、朝食の後に事情聴取、昼食後、リハビリや壁の修理、シャワー、夕食後、自由時間からの就寝。

 夕食までは、一先ず暇ではないのだが、夕食後の二時間の自由時間、本当にやることが無い。

 テレビもパソコンも無ければ、窓もない、ただ殺風景な個室に、シルフィはずっと捕らわれている。

 運動も、ミーアの監督が無ければ、やってはいけないと、釘を刺されてしまっている。

 オマケに、バックパックを落としてしまったので、煙草も吸う事ができないし、そもそも吸うなと言われてしまっている。

 できる事であれば、リリィに会いたかったのだが、基地の人々はそれを許してくれなかった。

 シルフィがどう取り繕うとも、リリィは軍事兵器であることに、変わりは無い。

 そんなリリィと、易々と合わせる訳にいかなかった。

 一先ず、シルフィは過去に教わっていた瞑想を思い出しながら行って時間を潰す事にした。


「……」


 瞑想をしつつ、時計の針がカチカチと動く音を聞いていると、この部屋の唯一の出入り口からミーアが入って来る。


「あ、ミーアさん」

「かなり暇そうね」

「あ、いや、そうでもないけど、ちょっと寂しいかな」

「そんな貴女に、プレゼントがあるわ」

「プレゼント?」


 そう言って、ミーアは一枚の板をシルフィに渡す。

 大きさはシルフィが両手で持っても、持て余してしまう程大きく、薄い黒い板。

 所謂タブレットだが、少しひび割れているのが気に成る。


「それからこれも、プレゼントというよりは、返す奴ね」

「あ、その石」

「貴女のお友達が持っていた奴なんだけど、転がしていたら盗られるかもって、くすねておいたの、ついでにヒモも付けておいたわ、そのせいで、返すの遅れちゃって、ゴメン」

「あ、ありがとう」


 タブレットと一緒に、ミーアが渡したのは、糸を通してある緑色の石。

 シルフィの親御さんの形見の石を、ミーアが手を加え、ペンダントの様にしたようだ。

 ペンダントを首にかけたシルフィの姿を見て、ミーアは首をかしげる。

 先ほどから、タブレットの画面をただじっと見ているだけで、何もしようとはしないのだ。


「……貴女、それの使い方、分かる?」

「えっと、これ、何をするの?」

「……まずは、ここを押してみて」

「ここ?ッ」


 ミーアに言われた通り、シルフィはタブレットのスイッチを入れる。

 すると、画面に明かりが灯り、シルフィは驚きを上げる。

 現代で生まれ育ったミーアからしてみれば、普通の事であるが、異世界で生まれ育ったシルフィにとって、とても不可思議な現象だ。


「(そう言えば、以前アリサも似たような物見せてくれたっけ?)」


 とても興味深そう画面を眺めるシルフィに、ミーアはレクチャーを続ける。

 そして、最低限の使い方を教え終えると、入っているアプリのレクチャーに入る。

 アニメ、漫画を見る事の出来るアプリ、これらの使い方と、おすすめの作品をいくつか教えてもらった。


「凄い、何て言う魔法なの?」

「ふふ、魔法じゃないわ、でも、こういうのも、魔法って呼んじゃうのかしらね、でも、これで退屈しなくても済むわ」

「……ミーアさん」

「何?」

「何で、私にそんな優しいの?」


 シルフィにとって疑問なのは、ミーアの過保護ともいえる優しさだ。

 当初、看護対象だから、仕方なくそう言う風に振舞っていたのかとも思えたが、最近はまるで、自分の子供と接するかのようだ。

 そんな質問をしたせいなのか、ミーアは急に顔を赤らめると、いそいそとシルフィの部屋から出て行ってしまう。


「え、えっと、私まだ仕事が有るから、これで……あ、これ充電器、好きに、使って良いからね」

「え?あ、うん?」


 随分とよそよそしい反応だった事に多少の疑問を抱きながらも、シルフィは早速消灯時間まで、タブレットで時間を潰し始めようとした時だった。

 再び部屋の入口が開き、誰かが入って来る。

 ミーアが忘れ物でも取りに来たのかと思い、シルフィは扉の方を向くと、そこに立っていたのは、ミーアでは無かった。

 視界に映ったのは、リリィよりも小さな少女。

 風貌はリリィに似ているが、目を引くのは、四肢が解りやすく機械化しているというところや、若干猫目という所だ。


「……」

「やっほ~、私はAS-103-02カルミア、よろしくねぇ」


 等と自己紹介してきたリリィにそっくりな少女を見るなり、シルフィは思考を停止させる。

 彼女は見覚えがある。

 何時だったかに見た、悶々とした夢、それに出てきた少女にそっくりなのだ。

 あの時は、確か普通の四肢で有ったのだが、それはそれとして、シルフィは、目をパチパチとさせながら、カルミアを見つめる。

 そんなシルフィの反応に、カルミアも少し困惑を始めていると、シルフィは布団を被って、眠りについてしまう。


「また変な夢、見ちゃった」

「誰が夢じゃ!ちゃんとした現実だわ!!」


 カルミアは、シルフィが被っていた布団を引きはがし、たたき起こすと、夢では無く、現実であるという事を証明するべく、シルフィの頬を抓る。


「ひょっほ!いひゃい!」

「痛いでしょ、これはちゃんとした現実、言葉分かる!?」

「わかっひゃ、わかっひゃから!はなひて!」


 涙目のシルフィの頬を抓る手を離したカルミアは、少し怒りながら話を始める。


「全く、アンドロイドと仲良くしようなんて言うもの好きが、どんな奴かと思えば、随分と胡散臭い奴」

「私、そんな胡散臭い?」

「……ま、その辺はさておき、アンタ確か、シルフィでしょ?」

「え、うん、よく知ってるね?」

「そりゃ、アイツ……アンタと一緒にいたあのアンドロイドのレポートにしつこい位乗ってるから、アンタの名前」

「へー」

「そこで、ちょっと聞きたい事があってね」

「聞きたい事?」

「……何で?」

「は?」

「何で、アイツと仲良くするの?それも、普通の人間と接するみたいに」


 猫の様に鋭い目つきで、シルフィを睨むカルミアは、シルフィに聞いてみたかった事を尋ねる。

 最初、シルフィはカルミアの問いかけに、キョトンとしてしまうが、一先ず考え始める。

 何故仲良くするのか、それも人間と接するみたいに。

 カルミアが、どういった思いで、そんな質問をしたのか、シルフィには解らないが、とりあえず、最初に思い浮かんだ言葉を、カルミアに返す。


「仲良くしちゃ、ダメなの?」

「は?」

「私は、アリサと仲良くしたかったら、仲良くした、それだけだよ」

「……いやいや、他に何か有るでしょ?情報を得る為にアイツを利用したかったとか、捨て駒に出来るようにしたかったとか」

「うーん、最初は、外の事を知りたくて、ちょっと利用している感じは有ったけど、森から出た後は、最初にできた外のお友達として、今後も仲良くしていきたかったって言う感じの方が強いかな?」

「……」

「カルミアちゃん?」


 シルフィの返しを聞くカルミアは、目を見開きながら、硬直してしまっている。

 口の方も、一見すると笑顔にも見えるのだが、どちらかといえば、引きつっているようにしか見ない。

 しかも、今の彼女からは、何処か怒りに近い感情が漂っている様に、シルフィには見える。


「ねぇ、アンタ」

「何?」

「私達アンドロイドと人間が、仲良くできるって、本気で思ってるの?」

「え?だって、私とアリサが仲良く成れたんだし、何より、アリサ達はヒューリーさんが、そうなる事を願って作ったって、聞いたよ、それに、仲良くできるなら、私は仲良くしたいよ」

「……そ、じゃぁね」

「え、もう行っちゃうの?」

「アタシはアンタやバカ姉みたいに暇じゃないの」

「バカ姉?(あの子、アリサの妹なの?)」


 機嫌の悪いまま、カルミアは部屋を後にする。

 取り残されたシルフィは、結局カルミアが何をしに来たのか、解らずじまいで、ポカンとしてしまっていた。


「何だったの?」


 シルフィが首をかしげ、カルミアの目的が何だったのか、軽く考えている時、部屋の外ではというと……


 格納庫に通じる通路をカルミアは急ぎ足で歩いていた。

 まるで、ストレスを発散するかのように、機械でできた足の金属音を響かせている。


「(シルフィ・エルフィリア、噂に聞くエルフィリアの子供か、どんな経緯で生まれたのか知らないけど、ただの偽善者じゃん)」


 シルフィの言葉や笑顔を思い出すと、無性に腹が立ってくる。

 そして、過去に受けた自らの仕打ちを思い出しながら、シルフィの言っていた言葉を思い出す。


 ――仲良くしちゃいけないの?


「(アイツは本当にアンドロイドと仲良くできると思っている、人間と、アンドロイド、この二つが仲良くできる世界、それは素晴らしい物なのだろうな、とっても、とても素晴らしい世界、だけど……)」


 ヒューリーが思い描き、実現したいと願う理想郷。

 戦争も、人種の差別も無く、更には人間やアンドロイドの隔たりさえも無い、とても素晴らしく、優しい世界の夢を、シルフィも見ている。

 カルミアからしても、その世界はとても素晴らしい物だ。

 そんな世界になれば、カルミアの機械化されている四肢も、普通の人工筋肉の物に変えて、呑気に車やバイクをカスタムしたり、パソコンを組み立てたりしていただろう。

 だが、そんな平和な世界を思い描いていると、カルミアはまた目を見開き、口を引きつらせる。

 そして、込みあがって来る怒りが抑えきれなくなり、歩みを止めたカルミアは、ふと呟く。


「気に入らない、あの女、アイツは、何であんな女の事を好きに成ったんだ?」


 ムカムカする思いを抑え、見開いていた目を戻し、口もムスッとした感じに戻す。

 そして、ラベルクやリリィにシルフィの三人の事を思い出す。

 この三人は、カルミアにとって、最も腹立たしい存在達と言える。

 ラベルク、リリィの二人は、明らかな特別扱いに虫唾が走り、シルフィは善人気取りの部分がなんとも気に食わず、反吐が出て来る思いだ。


「(まぁ、実際は吐けないけど……ここで怒るもの軽率か、もう少しゆっくりと見せてもらおうか、シルフィ・エルフィリア)」


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