第七話 夢の有る職ほどブラック
森を出てはや二日、二人はようやく、最寄りの町へとたどり着いた。
道中、魔物にばったり出くわしたり、相変わらずの沈黙が続いたりはしていたが、徐々に二人の仲は打ち解け(ているように見え)はじめる。
シルフィも、アリサとであれば、何とか目を見て話せる程度であれば、何とかできるように成った。
活動資金の方は、シルフィの父親が、何時か家を出るシルフィの為に、貯めていた金銭があるので、これと言って手持ちは困っていない。
服装の方は、さすがにあれでは目立つので、アリサはマントを纏い、シルフィは自前の衣服を着用していた。
最初、自分の服を着ないかと、シルフィから勧められたが、動きにくいという理由で、断られてしまっている。
町にたどり着いたシルフィは、先ずは里よりも賑やかな町を目にし、大いに戸惑いながらも、アリサの案内で、観光を満喫した。
出店の食べ物を食べたり、物珍しい装飾品を見たり、里には無い様々な文化に触れあった。
しばらくして、楽しみにしていた冒険よりも、これからの生活を如何するのか、と言う方向に、考えがシフトチェンジしてしまっており、先ずは職探しをすることに成った。
因みにアリサは、このままのたれ死なれても目覚めが悪い、という事で、職探しを手伝っている。
インプットされているデータをもとに、シルフィにぴったりな職を選び、提案する。
「一先ず、冒険者と言うのに成ってはいかがでしょうか?」
「冒険者?」
「はい、それであれば、先ほど支払った通行税が免除されるらしいですし、ドブさらい等の、雑用なども行えるらしいので、丁度いいかと」
数ある仕事の中で、アリサが選んだのは、冒険者と言う職業。
そもそも冒険が目的で、森を出たというのであれば、ぴったりな職だ。
アリサから見て、シルフィは戦闘のセンス自体はかなりの物、本人曰く、初めてスーツを着用したとは思えない程、意外と使いこなせている。
二人の装着しているスーツは、あらゆる耐性を持った素材で構成され、内包されているゲル状のナノマシンが、着用者の身体能力や防御力を底上げしてくれる。
ただし、そのスーツは、訓練を受けていなければ、身体強化もろくにできない、ただの服である代物。
癖は強いが、慣れれば一般人でも重機並みのパワーが出せる代物だ。
その補助もあってか、道中に出くわした小物の魔物を、簡単に排除できていた。
魔物退治などを行えたり、通行税が免除される冒険者であれば、シルフィにはぴったりといえる。
ただし、今は職よりも重要な問題がある。
「なるほど、だったら、その、冒険者になるのが良いかもね、それと……森から出る時にも言ったけど」
「ええ、里の暗殺部隊ですね」
この町は、シルフィの故郷である里の住民たちが、情報収集で立ち寄る町のひとつ、このままこの町にとどまっていては、発見されてすぐに抹殺と言う目に遭いかねない。
極刑の判決を受けているアリサも、例外ではなく、今は互いの身の安全を第一に、一緒に行動した方が良い、と言う旨を、町に到着するまでの間に、話し合っていた。
と言っても、それはアリサにとって、建前でしかない。
本当の理由は、あまりにも謎の多すぎるシルフィを、このまま野放しにしているよりは、同行して、監視を行った方が良いという考えの元、発言したことだ。
気がかりなのは、森の中で襲ってくると思われていた部隊は、全く姿を見せず、無事此処まで来れたことである。
まさか、市街地で白昼堂々暗殺を仕掛けてくるかもしれないと、先ほどから周囲を警戒している。
しかし、その行いも虚しく、屋根の上はもちろん、人ごみにもそれらしい人物は発見されなかった。
一先ず、冒険者になる為の登録を行うべく、ギルドの方へと、二人は足を進めていく。
「ごめんね、付き合わせちゃって」
「いえいえ、こうして一緒に冒険者に成って、Cランク当たりの、先輩冒険者にいびられるまでが、今回のノルマですから」
「それ言っちゃって、大丈夫なの?」
「まぁ、その有無に限らず、何かあるのが関の山でしょう」
「そんな喜劇みたいなこと、早々起らないでしょ」
そんな軽口をたたきながら、目の前にあるギルドの扉を開ければ、中には何やら柄の悪そうな男たちが屯し、酒やたばこの匂いが充満している。
扉を開いた瞬間、全員の視線が彼女らに向き、鋭い視線が突き刺さり、シルフィは心の中で叫ぶ。
「(前言撤回、絶対何か起こる!そしてアリサは何でそんなにズカズカ行けるの!?)」
完全にアウェイ感漂う中を、アリサはどんどん進んでおり、彼女の背中を追う形で、シルフィもついていく。
辺りを見渡しても、女性の姿は一切なく、男の姿しかない。
そもそも、血なまぐさい魔物退治なんかを、主な生業とする連中が屯しているのだ、女性が入ることは本当に稀である。
そのせいなのか、ナンパをしようとしているような節が見られる会話が、二人の耳に入る。
だが、シルフィにとって嬉しかったのは、こんな男所帯であっても、受付が女性であったことが、唯一の救いであった。
「こんにちわ、冒険者ギルドへ、ようこそ、依頼の場合は、内容と報酬をご提示ください」
「いえ、今回は、私共々、ギルドに登録したく、参った次第でございます」
アリサの切り返しに、驚いてしまう受付嬢であったが、登録を求められれば、受け入れるのが、受付の仕事、仕方なく書類などを渡す。
読み書きの方は、アリサは予めインプットされており、シルフィは父親から教えられていたので、問題なく書き留めていく。
書類を書き終えると、今度は冒険者の簡単な説明が行われる。
冒険者には、F~Sまでのランクが存在し、こなした依頼の内容、討伐した魔物の質や数、それらをポイントに換算し、一定の量に達すると、どんどんランクが上がっていくというシステムであると、説明がなされた。
「(このアルファベット方式は、宇宙共通なのか?まぁ、大方作者の手抜きか)」
ランクを上げるメリットは、より難しい依頼を任されたり、緊急クエストと言う依頼への参加が許可および、各地にあるダンジョンに入る許可が得られる。
収入を上げたければ、ランクを上げる事を推奨しているが、その分リスクも上がっていく。
その事もあって、ランクB以上の人間は、命知らずのバカであることが多い。
ギルドの説明を終えると、受付嬢より、木製の登録証が手渡された。
「これを手渡せば、通行税っているのがタダになるんだよね」
「ええ、身分証にもなるらしいので、持っていて損はありません」
「ですが、再発行の際は、再びFランクからの出発となってしまいますので、紛失にはご注意ください」
「うん、わかった」
「それでは、こちらのマジックアイテムに、手をかざして、魔力を流し込んでください」
ギルド証の次に、受付嬢がデスクに置いたのは、水晶にごちゃごちゃと装飾された何か。
受付嬢曰く、ステータスを照会する為のマジックアイテムだ。
最近、こそこそポイントばかり集め、形ばかりのランクを見せびらかすだけの、戦闘能力がない奴らが横行している。
そう言った連中は、いざと言うときに限って、しっぽを巻いて逃げ出す事が多い。
そこで、人の能力を数値化できるマジックアイテムが求められ、開発されたのが、今二人が目にしているアイテムである。
「じゃぁ、私から行くね」
先ず手を挙げたのはシルフィ。
受付嬢の案内を受け、水晶に魔力を流し込んで行く。
すると、水晶から、シルフィの数値化された戦闘能力や、使用できるスキルなどが表示された。
二人からしたら、良いのか悪いのか、よくわからないが、見慣れている受付嬢曰く。
身体能力の方は、平均より高く、魔力量はかなり高い方、しかし、魔法の適性値が圧倒的に低く、できても、せいぜい身体強化がやっとらしい。
エルフと言うのは、魔法の適性が人間よりも高い為、魔法の使い手が多い。
もちろん、シルフィもそのことは承知の上、そのせいか、表示された結果に、ショックを受けてしまう。
「やっぱ、私、魔法無理なんだ、エルフなのに」
「安心してください、私の故郷では、魔法が使えるエルフなんて殆どいませんでしたから」
「え、そうなの?」
アリサが慰めている中で、受付嬢は疑問を持った顔をし、シルフィに声をかける。
「あの、このスキルの欄にある、きじn『つ、次はアリサだね!!』」
何かマズイものでも見られそうになった男子中学生のごとく、受付嬢の言葉を遮り、アリサの腕を水晶に乗せると、先ほどまで映っていたシルフィのステータス欄が消失する。
「何ですか?急に」
「い、良いから、早くアリサの奴も見せてよ、き、きっと高いんだろうなー」
アリサの疑問さえも遮るように、苦笑いを見せつつ、とてつもなく動揺しきった口調でごまかす。
明らかに何かを隠している様子で、アリサも受付嬢も、不自然な行動に小首をかしげる
しかし、他人のプライベート、特に能力に関する情報を、簡単に漏らすようなバカは居ない。
とりあえず、今回はスルーする方向にしたアリサは内心。
「(これ、アンドロイドでも測定できるのか?)」
等と心配しながら、水晶の上に手を置き、一先ず自分に流れているエネルギーを、水晶に流し込んでみる。
このまま何もしないと、色々と面倒な事になりそうな感じがしたのだ。
一応アリサが使用しているエーテルガン等のエネルギーは、アリサ本人からのエネルギー供給を受けて、使用できるようになっている。
同様にエネルギーを送り込む形式をとる水晶であれば、無理矢理ではあるが、似たようなことができるのかもしれないと、賭けに出た。
ただし、言ってしまえば、これはレギュラー車に、軽油をぶち込んでいるような行為に近い。
その影響で、高価そうなマジックアイテムを破壊してしまわないか、と言う心配を巡らせながら、エネルギーを移してみる。
結果、うまくいったらしく、アリサの目の前に、シルフィと同じステータス欄が表示される。
よく能力が高すぎて、計測器がぶっ壊れる、ス〇ウター現象が起きるか、桁が違いすぎて軒並みゼロとなる場合があるが、表示されたアリサの能力値は……
「えっと、全部ゼロですけど、本当に、大丈夫なんですか?」
「あー、えっと、その、強い事には変わりないから、多分、大丈夫、だと、思う」
本当に全部ゼロだった。
三桁ゼロ表示とかではなく、きっかり一桁でゼロ、赤ん坊でも、小数点込みで表示されるというのに、本当にゼロだった。
しかも、スキルも何も無い。
そのせいで、本当に活動できるのか?と言うよりは、何で生きているのか?と言う心配そうな視線を、アリサに向けてしまっている。
「(あー、これ、高すぎるとかじゃなくて、単純に規格が違うせいで、計測できないだけだわ)」
一先ずマジックアイテムが壊れなくて、安心したアリサであった。