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諦めたらそこで試合終了なんてルール無くとも、諦めちゃダメ 後編

「……あーあ、スピーカーまでイカレていやがる、嫌がらせにも程が有るぜ、全く」


 気絶から回復したジャックは、目の前に落ちていた音楽プレイヤーを拾い上げ、状態をチェックしていた。

 あの地獄のような歌のせいで、何故かデータは全て吹っ飛び、どういう訳か、プレイヤー自体使えなくなってしまった。

 何故かエーテル・ギアも、故障気味であったが、そこは何とか修復できた。

 その後、ジャックはリリィ達と戦っていたポイントまで戻り、辺りを見渡す。

 あまり覚えてはいないが、首を切られそうになっていた時、腹部に刀を刺しまくった際に、何かが落ちる音が聞こえた。

 恐らく、シルフィの付けていた何かだろうと思い、特に出血の酷い場所を見渡す。

 そこには、血に塗れたオリーブ色のバックパックが落ちており、ベルトは斬れていた。


「有った」


 見つけたバックパックの中身を、ジャックは確認し始める。

 どうも疑念が晴れずにいた。

 シルフィというエルフは、かつて失踪した親友に面影が有った。

 戦闘スタイル、顔立ち、魔力の質、それらがそっくりな事に加えて、装備は友人と全く同じだった。

 性根に至っては、生き写しと言ってもいいくらいだった。

 疑念を晴らすために、ジャックはシルフィのバックパックを徹底的に探り始めると、驚きの連続を味合う事に成る。


「どういう事だ?あれだけ捜索したにも関わらず、手掛かりは何一つ見つからなかったというのに、何故こんなにも」


 出て来るのは、今まで捜索しても見つからなかった手掛かりばかり。

 全て失踪した当時の任務に持って行った備品や私物。

 決定的な証拠となったのは、旧式のインスタントカメラだ。

 これは、初給料の記念に、一緒に購入しに行った物で、思い出、だと言って、後生大事に持っていたのだから、間違い無い。

 オマケに、このカメラで撮影されたと思われる家族写真も入っていたので、これも裏付けの証拠に成る。

 一緒に入っていたキセルが少し気に成ったが、恐らくシルフィの私物だと思われる。


「何故だ、アイツは、彼女と、ジェニーと、どういう関係なんだ?」


 ジェニー・エルフィリア、ジャック自身の右腕になれる程の実力を持っていた女兵士。

 姉妹がいるなんて聞いたことも無いし、何より、彼女の出自を考えても、それはあり得ない。

 娘か何かかとも思ったが、その可能性も低い。

 シルフィはどう見ても四百歳前後は行っている。

 対して、失踪直後のジェニーの年齢は、大体百七十歳、どう考えてもシルフィの方が年上だ。


「どうにも解らない事だらけだ、畜生」


 一先ず、シルフィのバックパックを、ジャックのバックパックに詰め込むと、エーテル・ギアを長距離用の通信機に切り替える。

 今のエーテル濃度では、通常の通信機では部隊と交信が取れないのだ。

 時期的に考えても、そろそろ到着していてもおかしくは無いと思い、この世界の軌道に向けて、交信を開始する。

 一先ず、アリサシリーズとは接触し、この世界の情報はある程度収集できた。

 今帰ったとしても、これといってお咎めは無い筈。

 何より、敵の基地の位置は掴んでいる。


「お、かかった」


 多少のノイズはあるが、数分程通信機を弄っていると、聞きなれた女性の声が聞こえ始める。

 連邦製アンドロイドのオペレーターモデル、少佐の側近であるチハルの姉妹機、チナツの声だ。


「こちらスレイヤー2、どうぞ」

『チナツより大尉へ、お久しぶりです』

「ああ、久しぶりだな、突然で悪いが、今、どのあたりに居る?」

『現在、当該惑星の軌道上ですが……どうかなされたのですか?』

「……パーティの準備をしたい、少佐にも、そう伝えてくれ」

『了解しました、ですが、現在の装備では、自力での大気圏突破は不可能では?』

「エーラに聞いてみろ、バルチャーの増設パーツを、その艦は積んでいる筈だ」

『了解しました』


 通信を終了したジャックは、装備の到着する二十分間、紫煙を吹かせながら待機する。

 そして、二本目を吸い終わったあたりで、ジャックの耳に、装備品の投下音が入り込んで来る。

 吸殻を携帯灰皿に捨てたジャックは、早速ヘルメットを被り、投下された装備品をセットする。

 増設パーツは、主に背部のウィング型スラスターの物だ。

 放出されるエーテルの量を増やし、推力を向上させるための物であり、単独での大気圏突破を行える。

 増設よって、正に猛禽類の如く巨大な翼を模った外観となる。


「さて……まずは、葬儀だな」


 羽ばたいたジャックは、先ずは海へと向かう。

 現在地からは、かなりの距離が有るのだが、増設パーツを使えば、僅かな時間で到着。

 そして、海に到着したジャックは、血に染まる布を取り出し、約束事を果たす。


「……じゃ、これでお別れだ……次は真っ当な人間に成れよ」


 フーリの首を、海へと水葬したジャックは、手を合わせながら黙祷を行い、宇宙へ向けて出発する。

 星の重力をものともせず、衛星軌道上へと飛び出ると、ジャックは周囲を見渡す。

 もはや見慣れてしまった宇宙の景色であるが、元の世界とは、少し星の並びが異なっている。

 暫くキョロキョロしていると、ジャックの装着するヘルメットに、母船のポイントが表示され、ナビゲーションに従って移動する。


「えーっと……あれか」


 数分程移動していると、ジャックの目は、今回の作戦の為に、特別に建造された外宇宙航行艦『ムラサメ』と、その随行艦四隻の姿が見えて来る。

 建造の際に何度か目にしていたから、間違いはない。

 艦に接近すると、誘導灯が灯り、その誘導に従って、ジャックは艦内へと入り込む。


 ――――――


 ムラサメに乗艦したジャックは、首にできてしまった傷の治療を行い、異世界で起きたことの報告書をまとめた。

 敵アンドロイドとの接触、並びに、三年前に失踪したジェニーの手掛かりについての事が、特に話題へと上がり、話はそちらを中心に執り行われた。

 先ず、シルフィの持っていた装備品、これらをエーラの手で鑑定に掛けた結果、全てジェニーの物である事が判明する。

 しかも、バックパックに入っていた写真に、本人が映り込んでいたことも、裏付けの材料となった。

 そして、接触したアンドロイド、コードネーム・リリィについての報告。

 こちらは、シルフィの妨害と、アリサの巧妙な罠(笑)のおかげで、完全に逃してしまい、少佐からかなり怒られてしまった。

 今回の任務では、異世界の調査が主体であり、アリサの処遇については、ジャック本人にゆだねられている。

 だが、仮に破壊等をする場合は、確実に行う事になっていた。

 音楽プレイヤー1つの為に、任務を放棄したのだから、怒られるのは仕方のない事だ。

 そして、数時間にわたる少佐からの説教が終わると、ジャックは笑顔で少佐に両手を差し出した。


「……何だ?」

「何だって、あれですよ旦那ぁ、俺が買い損ねた姉妹百合物の」

「……はぁ、全く、君という奴は、反省しているのかね?」


 そう、ジャックが異世界へ来る前に買い損ねてしまった姉妹百合の新刊である。

 上司から説教をくらった後に、物を要求できるジャックの肝の座りように、内心呆れながら、少佐は懐から例の本を取り出す。

 すると、ジャックは目にもとまらぬ早さで漫画を受け取ると、即行で休憩スペースの椅子に座り、熟読を始める。

 しかも、いつの間にか用意していたコーヒーを傾けながら。


「はぁ~この二人のもどかしい両片思い、尊いな~」

「……大尉」

「お、サービスショット!やっぱり姉妹で体格同じっていうのも個人的には萌えるな!!」

「ジャック……」

「ウヲォォォ!告ったぁぁぁ!!?」

「軍人としての気構えは無いのかキサマァァ!?」

「アパアアア!」


 軍事施設の中に居るというのに、実家の安心感で読書にふけるジャックの頭に、少佐はホットコーヒーの入っているマグカップを叩きつけた。

 急いで適当に入れたせいなのか、熱湯といえる温度のせいで、ジャックは頭を火傷してしまうが、漫画の方は咄嗟に守ったおかげで無事である。


「何しやがる!?大事な漫画にかかったらどうする!コーヒーのシミは、服でも漫画でも大惨事なんだよ!!」

「知るか!こんな所で呑気に漫画読んでたら、士気に影響が出るんだよ!何年軍人やっているんだ!?それくらいわかるだろうが!!」

「わかるさ!わかるからこそ、こうしてリーダーとしての余裕を見せているんだよ!」

「余裕すぎるんだよ!誰も休日の縁側みたいな余裕は求めてないんだよ!」

「うるせぇ!今の俺の心の傷は、お姉ちゃん大好きというこのセリフだけしか癒してくれねぇんだよ!!気に入っていた再生機も壊され、任務も半分失敗した、この傷、どう癒せと!!?」

「自業自得で負った傷だろうが!」


 言い争いを続けるジャックと少佐。

 この二人のやり取りを「またか」という具合で冷やかす兵士たちは、すぐに私物を休憩室から持ち出し、テーブルなどの備品も運びだし始める。

 そして、最後に部屋から出た兵士は、二人以外誰もいない事と、備品がほとんどなくなった事を確認すると、外で待機していたチハルの肩を叩く。


「頼む」

「了解」


 そして、チハルは手に持っていた大量の手りゅう弾を放り込み、ドアを勢いよく閉める。

 チハルは聴覚センサーをオフにし、隊員達は、耳をふさぐ。

 数秒後、休憩室は爆発し、言い合っていた二人の断末魔と共に声も静まった。

 そして、屯する兵士たちを避けながら、白衣を着た獣人少女、エーラがやって来る。


「……またか?チハル」

「ええ、あの二人の喧嘩は、もう皆さん飽きてしまっていますね」

「何時もの事だからな、とりあえず、ジャックには聞きたい事が有るから、ちょっと入るぞ」


 エーラは、休憩室の扉を開け、全身ススまみれに成って倒れるジャックと少佐の事を確認する。

 一応二人ともギャグ補正で生きていた。

 倒れ込むジャックの頭を掴んだエーラは、一枚の写真をジャックに見せつける。


「ん?なんだ?」

「いや、ちょっと聞きたいことが有ってな、コイツについてだ」

「コイツ?ああ、このパツキンエルフか……なんかどっかで見た事あるな」


 エーラの指した人物を見たジャックは、何処かで見覚えがあると思いながら、記憶を巡らせる。

 と言っても、異世界に来てからというものの、金髪のエルフなんて見飽きる位見てしまっている。

 オマケに、ジャックの性格、もとい、性癖のせいで、ロリと友人以外の人間に対する記憶力はミジンコ以下である。

 だが、徐々に頭がクリアになり、写真に写る人物が誰なのか思い出す。


「(こ、ここ、コイツってぇぇぇ!!?)」


 ジャックは、写真の人物が誰なのか思い出した途端、口をあんぐりと開けながら絶句する。

 写真に写る金髪の女性、彼女は、かつてジャックが口説こうとしたエルフ。

 シルフィ達とどのような関係なのか不明だが、こうして一緒に写っている時点で、親密な仲である事は間違いないだろう。

 もしも、シルフィの心臓や腹に刀ぶっ刺したなんて知られたら、一方的に殺される未来しか見えない。


「あ、えっと、シラナイデス」

「そうか、言いたくないなら別に良い、今回の件とはあまり関係なさそうだしな、じゃぁな」

「あ、ああ」


 この先、よからぬ事に成らないことをジャックは祈るばかりであった。


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