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獲物を狩った時が一番危ない 前編

 前回までのあらすじ。

 怨敵たるエルフ達の襲撃を、命からがら退けたアリサ一行であったが、逃れた先は、なんと、危険なダンジョンの内部だった。

 しかし、そこでの新たなる出逢いが、二人の窮地を救い、脱出に成功する。

 当初の目的を果たすべく、目的地へと向かう二人の前に、更なる脅威が襲い掛かる。

 何と、エルフ以上の怨敵、ジャック・スレイヤーと鉢合わせしてしまったのだった。


「激突するアリサとジャック、宿命の対決を制するのは、果たして、どちらであろうか!」

「しれっと、誤魔化さないでください」

「ギャァァ!!」


 等というカンペを読み、先ほどの展開を誤魔化していたジャックの脳天に、アリサのブレードが振り下ろされる。

 血しぶきを噴き上げながら、ジャックはアリサのブレードを引き抜き、すぐに傷を再生させ、アリサへと怒りをぶつける。


「何しやがる!ブレードぶっさす必要ないだろ!」

「大ありですよ、勝手に物語改変しようとしないでください」

「だって!ようやくライバルキャラと主人公が会敵って言う胸アツ展開で、ライバルがか〇はめ波の練習してたとか、かっこ悪いじゃん!!前回のサブタイなんて、ライバルとの出会いは恰好よくなんて書いてたくせに、何この扱い!これならデパートでばったり出くわした方がまだマシだわ!!」

「知りませんよ、というか、その耳は飾りですか?私達の存在に何で気付かなかったのですか?」

「ちゃんと索敵したよ!つい十分くらい前に、人影無い事も確認して、音も無いの確認したよ!全く人の気配無かったから、全力で練習できるかと思ったんだよ!!」

「(ああ、私とシルフィが黙っている時か)」

「せっかく異世界来たんだからさぁ!何か新しい事できるようになっているとか思いたいじゃん!夢みたいじゃん!手から波ぁ!が出てもいいじゃん!そう言う練習してもいいじゃん!なんかロマンある技の一つくらい会得したって、別に良いだろうがぁぁ!!」

「波ぁも何も、貴女手から炎出るでしょう、炎使って撃てば、十倍ぇみたいな感じの奴でるでしょう」

「うるせぇぇぇぇ!!テメェに何が解る!誰だって、人生で一回は、かめは〇波撃ちたいって思うだろうが!!」

「今どきは、何とかの呼吸か、領域なんちゃら、ですよ」

「(……敵同士、だよね?)」


 まるで中学生の会話みたいな光景を、シルフィは少し離れた所で眺めていた。

 初めて浮かべたアリサの真剣な表情から出て来る言葉を聞く前に、ジャックの奇声という邪魔が入ってしまったが、今はそれよりも、この状況に小首をかしげてしまう。

 シルフィの記憶では、アリサとジャックは、犬猿の仲、出会ったらすぐに殺し合う仲の筈である。


 そして、遂にジャックが現れた。

 町でもしっかりその姿を目にしていたからしっかりと覚えている。

 だというのに、未だに戦っておらず、別の方向にバチバチ言っている。

 とても敵同士には思えず、ただの友人である。

 だが、この空気よりも、シルフィは二人のやり取りに、謎のモヤモヤを覚え、冷たい目でジャックを見始める。

 先ほどから繰り出される、ジャックのどうでもいいと思えるボケ、そして、それに冷静にツッコミを入れるアリサ。

 この異質な光景を見ていると、言い合いを続ける二人の間へと、気が付けば足を進めていた。


「およ?」

「シルフィ?」

「……」


 アリサの腕を取り、少しジャックから距離を取る。

 アリサは困惑しながら、シルフィの引っ張る力に従って、ジャックとの間隔を少し開け始める。

 そして、二人のやり取りを見ていたジャックは、少し目を丸めながら見つめる。


「(……え?何?そう言う感じ?そう言う感じなの?こいつ等?え?てか、あの町で見かけたエルフやん、誰か知らんけど……え?これ、俺が混ざったら、アカンやつ?)」


 自分の立ち位置に、謎の不安を覚え始める。

 一応、姉妹百合、オネロリ系漫画を愛読しているだけあって、こういう場合、あまり混ざらない様に立ち回ろうという本能が働き、自然と二人から距離を取り始めてしまう。

 そして、アリサの腕をとるシルフィは、少し目を細めながら、ジャックとアリサに質問をする。


「……ねぇ、二人は知り合い、なの?」


 話を聞く限りでは、二人に面識は無い筈なのだが、とりあえず聞かずにはいられなかった。

 二人の返答を待つと同時に、シルフィはアリサの腕から離れる。

 シルフィの言葉を聞いた二人は、数秒沈黙をした後、全く同じ答えを返してくる。


「いえ、今日が初対面です」

「いや、今日が初対面」

「あー、そう」


 その返答に、シルフィは困惑してしまう。

 一応解り切った答えではあったのだが、いざ返されてしまうと、変な気分である。

 しかし、そんなシルフィの気持ちなんて知らず、ジャックはシルフィへと質問を投げかける。


「ところで、誰だか知らんがお前はどうなんだ?さっきの奴かっこ悪かっただろ?リテイク必要だろ?」

「え~そんなのどうでもいいと思うけど……」

「良い訳有るか!主人公とライバルキャラの対面なんだと思ってんだ!!?」

「ああもう!分かったからそんな大声で叫ばないでよ!リトイスでもリコリスでもなんでもやったら!?」

「よし、お前らちょっと待ってろ今どうやって登場するか考えるから」

「予め考えとけ!」

「……もうパクリでもなんでもいいですから、早く決めてくださいよ」

「そうだな、面倒だからパクリで良いか……よし、何処かの赤い鬼の真似で行くか、ちょっと待ってろよ!!」

「早くしてくださいね~」

「(何やってるの?私達)」


 状況についていけないシルフィを置いて行き、ジャックは木陰の中へと隠れに行ってしまう。

 追わなくて良いのかと思ったシルフィであったが、一応ちょっと高めの木に登り、飛び上がろうとしている姿が見えたので、気にしない事にした。

 そして、五分ほど経過した頃、空高く飛び上がったジャックは、再びシルフィ達の前に現れる。

 砂埃をまき散らし、それっぽい感じの着地と、それっぽい音楽が、何処からか流れて来る。

 色々とツッコミたい所が有るシルフィであったが、それ以上に気に成る事が出来てしまう。


「す、スレイヤー、何故今……」


 シルフィの隣で、アリサがブレードを構え、戦闘態勢に入りながらリアクションを取っていたのだ。


「(アリサのノリが良い時と悪い時の境界が解らん)」


 しかし、これから、更なる戦いが引きおこるのだろうと、シルフィも身構え、ジャックの事を睨みつける。


「……白々しい」

「……ですね」

「は?」


 だが、シルフィの期待を裏切るかのように、二人は白けてしまい、構えを解除する。

 ジャックも、腰につけている音楽プレイヤーを解除し、BGMを切ってしまう。

 そんな二人の空気に、シルフィは再び緊張が解けてしまった。


「なんかぁ、来るってわってる上に、パクった登場だと、やっぱね」

「まぁ、もうこのままスタートでいいと思いますよ」

「え、こんなグダグダな空気の中で戦闘開始!?」

「安心しろエルフ君、こういう時は、更に意外な展開にしておけば、空気を戻す事ができる」

「誰がエルフ君じゃ」

「まぁ、そう言う事はさておき、さっさと始めますかい、タラリラッタラ~」


 何処かで聞いた事のある効果音を、ジャックは自分の口で言いながら、バックパックの中からとある物を取り出す。

 それを見た瞬間、シルフィは目を見開く。

 ジャックが片手で天高く持ち上げるそれは、アリサの使用している物と、同じデザインの箱。

 そう、アリサの使用している物と、同じボックスである。

 そして、ボックスへとジャックの魔力が流し込まれるなり、紅い線が箱の周囲を走りだし、大きく広がると、ジャックを包み込む。

 ジャックを包み込んだボックスは、アリサの物と同様に鎧となる。

 アリサの物とほとんど同じデザインであるが、一目見てわかる差異は、背中のデザイン。

 まるで鳥の羽の骨格を模したような羽が、ジャックの背中に一対生えている。

 その羽をはばたかせたジャックは、アリサ達より少し上に飛び上がり、刀を引き抜いて、戦闘態勢に入る。


「それは」

「何で、アイツまで」

「エーテル・ギアが自分たちだけの物だと思っていたのか?」

「いいえ、そろそろ追いつく頃だとは思っていましたよ、それに、貴女のスーツに、コネクターが付いているのも、かなり気になっていました」

「そうか、まぁ、せっかくだから紹介しておこう、連邦使用の試作型エーテル・ギア、バルチャーだ、結構カッコいいだろ?」

「ええ、あまり嬉しくは有りませんけどね」

「へ、それじゃ、行くか!!」


 そう言ったジャックは、背部のウィング型スラスターを吹かせ、アリサ達へと急接近する。

 アリサとシルフィも、その動きと時を合わせるようにして、武器を構え、アリサも瞬時にアーマーを展開する。

 だが、ジャックは悲鳴を上げながら、二人の間を通り過ぎてしまった。


「ダァァ!あのクソ狼また調整怠りやがったああぁぁぁ」


 ウィング型スラスターの凄まじい出力に振り回され、ジャックはそのまま隣にある山へと突っ込んでしまう。

 やはり、エーラの試作機は、絶対に恰好を付けて使わない方が良いと、ジャックは岩盤にぶつかりながら後悔した。

 そして、シルフィは、何時までもグダグダなジャックの事を、冷めた目で眺めていた。


「……本当に強いのか疑わしいんだけど」

「そう言っていられるのも今のうちですよ、あの人がマジに成ったら、生きて帰れるかどうか……」

「え、マジで?」

「そう、マジだ!…はぁ、はぁ」

「あ、戻ってきた」


 アリサの信じられないような発言を、半ば疑いながら聞いていたシルフィの前に、何故か徒歩で戻ってきたジャックが戻って来る。

 かなりの距離を走ってきたおかげで、既に肩で息をしてしまっているが、徐々に体力を回復させつつある。


「というか、はぁ、俺の事知らんとか、はぁ、お前モグリか?」

「そんな虫の息でいわれても……」

「そんな事良いですから、シルフィ、早く構えてください、ここからはマジにならないと、本当に死にますよ!」

「……あ、アリサが、そう言うんなら」


 アリサの忠告を聞き入れたシルフィは、弓を構える。

 そして、アリサはできる限り、シルフィを後方支援に回すべく、後ろへと下げさせ、かなり真剣にブレードを構える。

 その光景を見ていたジャックも、羽を大きく広げ、刀をしっかりと構える。


「さぁ、始めようか」

「ええ、始めましょう!!」

「……」


 あまりにも真剣なアリサの姿と、戦闘態勢に入ったジャックの気迫を感じ取ったシルフィは、自分の体の違和感に気が付く。

 弓を握る手が、震えてしまっている。

 武者震いかと思ったが、いつの間にか早くなっている鼓動と、流れる冷や汗で、その震えは恐怖からであると自覚する。

 今まで感じていなかったジャックの異常性に、シルフィ自身の本能だけが反応している。

 そして、シルフィは思い知る事に成る。

 スレイヤーの力という物を。


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