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ライバルとの出会いは、格好よく 前編

「な、なぁ、いい加減機嫌直してくれよぉ」

「案ずるな、ここから出た後、お主が可愛い声で鳴いてくれれば、すぐに治る」

「う(こういう時が一番ヤバいんだよなぁ)」


 未だに機嫌の悪い藤子をなだめながら、葵達はアリサをダンジョンの外への案内を続けている。

 一応、アリサの方は、シルフィが謝り倒したおかげか、多少機嫌が直っている。

 それでも、普通に会話をしている様に見えても、返答がいつも以上に淡白だった。


「しかし、あの二人、お付き合いしていたのですね」

「まぁな、二人とも幼馴染みでな、同じく東の方の国の出身なんよ」


 先に進む葵達を見ながら、アリサ達はその後に続いている。

 だが、仲たがいをしているにも関わらず、葵と藤子の連携に乱れはなく、魔物の一匹や二匹程度であれば、簡単に返り討ちにしている。

 とても喧嘩中とは思えない光景だが、やはり幼馴染という事もあって、息はピッタリのようだ。


「(お互いに認め合える仲だと、喧嘩していたとしても、ああして、協力しあえる、人間というのは、ほんとに解らんな)」

「それにしても、葵さん強いね」

「ホンマに、葵はんの剛力には助かっとる、この間も、開かなくなったジャムの蓋、簡単に開けとったし、ウチらのオトンみたいな感じや」

「その剛力、もうちょっと有効に使おうよ」

「もっと有効に……あ、そう言うたら、他にも開かなくなってもうた瓶の蓋、まだ有ったわ!」

「瓶の蓋はもう良いって!」

「でも、五個に一個くらいの割合で、瓶ごと握りつぶしてまうのが、玉に瑕やな」

「力の強い人も大変なんだね」

「せやな、この前酔ってもうた勢いで、人ん家壊してもうて大変やったわ」

「それは……本当に大変だったね」

「まぁ、ウチも発破が楽しすぎて、人ん家の畑粉々にしてもうたけどな」

「そっちの方が問題だよ!!ちゃんと謝ったよね!?」

「四人皆でちゃんと直したで、葵はんのせいで、地面えぐれて、余計に大変になったけどな」

「……」


 葵達の間柄を観察していたアリサであったが、そんな事よりも気になる二人に、目を奪われる。

 アリサの目の前を歩きながら、漫才まがいの事を続ける白黒エルフコンビの方に気が行ってしまっていた。

 二人の現状に、どういう訳かムカムカした気分になってしまっている。

 しかも、何故だか、心底二人の間に入ってでも、会話を止めたいという激情にかられかけてしまう。

 だが、こんな所で、そんなみっともない事はできないと、グッとこらえ続ける。


「あの~、アリサさん?」

「……」

「ちょっとぉ~」

「……」

「アリサさん!!」

「はい?」

「……手に持っている物、そろそろ許してあげては貰いませんか?」

「手?」


 ヘレルスの言葉に、アリサはようやく自分の行いに気が付く。

 アリサの手には、何時の間にか襲い掛かってきていたトロールを、徹底的に引きちぎりまくっている。

 トロールは、人間の大人位の大きさだが、現在は上半身のみの状態に成なっている。

 しかも、それなりに生命力は高いので、それだけでは死なず、それから数十分、アリサのオモチャにされてしまっている。

 全ての関節を逆方向に曲げたり、生皮を剥ぎ取ったり、とにかく死なない程度に痛めつけている。

 聖職者の身の上、魔物の退治や討伐程度であれば、これと言って口出しすることは無いが、やはりただ単に痛めつけるというのは、容認できないようだ。

 しかし、アンドロイドであるアリサにとって、拷問で苦しむ光景に対して、憐れみも喜びも無いが、そう言うのであればと、すぐに楽にする。


「ごめんなさいねっ!」

「(トロールさんんん!!)」


 地面に叩きつけられたトロールは、そのままアリサに頭を踏みつぶされてしまった。

 しかも、トロールに何か恨みでも有るかのように、全体重を乗せて、である。

 どう見てもイラついてしまっている。

 それからも、葵達が討ち漏らした魔物が、アリサに襲い掛かろうものであれば、速攻で返り討ちに遭い、魔石へと姿を変えてしまう。

 そのやり方も、まるで人間がストレスを発散するかのように、何らかの感情がこもっている様に見える。

 その光景を見るヘレルスは、こうなってしまった理由は、なんとなく察しはついていた。

 鬼人拳法についての相談を、葵と共にしてしまった辺りから、既に機嫌は悪く、すね気味だった。

 一応その後に、何度かシルフィが謝り倒し、ある程度は落ち着いたのだが、ほとんど間髪入れず、クレハと楽しそうに話始めてしまったのだ。

 その結果、魔物に八つ当たりするレベルで機嫌が悪くなっている。

 ここは聖職者として、勤めを果たすべく、ヘレルスは勇気を振り絞って、アリサに話しかける。


「あ、あの、アリサさん、何かお悩みのようでしたら、ご相談に乗りますよ」

「……相談、ですか」


 ヘレルスの突然の提案に、アリサは少しキョトンとする。

 考えてもみれば、相談なんてあまりやった事が無かった。

 姉のラベルクに、仕事についての質問を行うくらいで、ここに来てから一回もやった事が無い。

 アンドロイドのアの字も知らない小娘に相談しても、何も変わらないかもしれないが、とりあえず、言えば何かわかるかもしれないと思い、相談をして見る。


「……実は、最近シルフィが別の人と仲良くしていると、変な感じになるんですよ」

「は、はぁ(やはり、ただの嫉妬ですね)」

「それに、クレハさんとあんなに仲良く……そうか、シルフィは、ツッコミができれば、誰でもいいんですね」

「(この人の仲良くの定義って、一体……)」


 未だに漫才じみた真似を続ける白黒エルフを、鋭い眼で睨むアリサを、ヘレルスは引きつった顔で見つめる。

 もしかしたら、アリサ自身、自分が嫉妬している事に気づいていない可能性が有る。

 というか、ツッコミができれば誰でもいいという言葉に、多少の違和感を覚えるが、あまり深くは詮索しない様にした。

 だが、ヘレルスとて、聖職者の一人、彷徨える子羊を見つけたのであれば、手を差し伸べ、正しい道へと導くのも、神の教えだ。


「……どうやら、貴女は、嫉妬をしているようですね」

「……嫉妬?誰にですか?」

「(やっぱり気付いてなかった)シルフィさん、取られてしまったと、考えているのでしょう?」

「……そ、そう言うわけでは」

「でも、クレハさんや他の人と、仲良くしている姿が嫌、なのですよね?」

「まぁ、そうですけど」

「それが嫉妬ですよ」

「嫉妬、ですか(……そうなると、私は、シルフィの事を……いや、そんなはずはない、アンドロイドの私に、そんな事……やっぱりこんな小娘に聞いたのが、間違いだったな)」

「はい(ここまで言えば、自分の気持ちに、素直になれますよね)」


 ヘレルスの言葉で、嫉妬という感情を抱いているという指摘を受けたアリサであったが、あまり納得はできなかった。

 というのもアンドロイドである以上は、感情がある様に振舞えても、実際に嫉妬のような事をするなんて、あり得ないこと。

 だが、実際シルフィが楽しそうにクレハと話している姿を見ていると、嫉妬と呼べるような気持ちになってしまう。

 そうなると、ヒューリーはアリサに、違法である感情モジュールを搭載した事になる。

 基本的にヒューリーは法を順守する性格、悪ふざけで違法のモジュールを搭載することは無い筈だ。

 それなのに、こうして嫉妬してしまっている。

 仮に搭載したとすれば、恐らくそうせざるを得ないような状況に陥ってしまったと考えるのが自然だ。

 長らく一緒に居たからこそ、そうであって欲しいと、なんとなくであるが思ってしまう。

 きっと、ナーダの連中に脅されるなりして、仕方なく、搭載することに成ってしまったのだ。

 そうであって欲しいと、アリサはただひたすらに願うだけであった。


「アリサさん?如何かなさいましたか?」

「いえ、なんでもありません」

「そうですか」


 ヒューリーの疑念を晴らそうとしていたら、ヘレルスから心配の声をかけられてしまう。

 とりあえず、適当に流して置き、アリサは先を急ぐことに専念する。

 のだが、やはりシルフィの方をじっと見てしまう。

 ダークエルフは、喋り方の訛りが他と違う以外は、生物学的にエルフと同種族だ。

 単純に肌が黒いというだけで、性格も温厚である場合が多く、親しみやすいという印象が強い。

 アリサ達の世界でも、良いエルフはツッコミを入れる風潮が有るのとは反対に、ボケ倒すダークエルフは、良いダークエルフと呼ばれている。

 そのせいなのか、この白黒エルフの組み合わせで、漫才のコンビを組む場合が多い傾向にある。

 つまり、シルフィとクレハは、種族的に仲良くなりやすいのだ。


「……」

「はぁ、クレハさん、マシンガントークすぎ、疲れたぁ」


 クレハとのやり取りを終えたシルフィは、逃げるかのようにアリサの元に戻って来る。

 ツッコミ以外口数が少ないという事もあってか、クレハの大阪のおばちゃんの如きマシンガントークに、すっかり疲れ果ててしまっていた。


「……随分、楽しそうでしたね」

「え、あ、いや、確かに楽しかったけど」

「楽しかったけど?」

「やっぱり、私はアリサと一緒の方が、落ち着くよ」

「……」


 恐らく、シルフィ自身無自覚に言ったのだろうが、そのセリフを聞いたアリサは、目を丸くしてしまう。

 鼓動なんて無い筈なのだが、何故だか、胸が苦しい、というような感覚を誘発してしまう。

 そんな気持ちを誤魔化すべく、アリサは歩くスピードを速くし、シルフィから距離を取ってしまう。


「あ、アリサ!?(あれ?まだ拗ねてる?)」


 まだアリサが拗ねてしまっているのでは、と考えたシルフィは、今の自分の発言の、何処に問題があったのか、改めて考えてみる。

 数分考えた結果、これといって問題が無かった様に思っていたのだが、最後の最後で、シルフィは自分の発言の問題点を発見する。

 ――アリサと一緒の方が落ち着く。

 これはどう考えても、口説いている様にしか聞こえない。

 そんな言葉を言ってしまった事を自覚し、シルフィは顔を真っ赤に染め上げる。


「(私、何言っちゃってんのぉぉ!!?)」


 自分自身にツッコミを入れ、少し深呼吸で落ち着きを取り戻していくと、自分の行いを反省し始める。


「(……私みたいな奴に、そんな事言われても、そりゃぁ怒っちゃうよね)」


 微妙にずれた解釈では有るが。

 因みに、少し急ぎ足気味となってしまったアリサはというと。


「(馬鹿か私は!チョロすぎるだろ!今の安っぽいセリフで、こんなに嬉しく思うなんて!!)」

「あ!バカ!先に行くな!」


 葵達を追い越してしまう勢いで歩きながら、普通に喜んでいた。


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