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本当の鬼は、人の中に居る 中編

 鬼らしき少女と出会ったアリサ達は、数分後に彼女の仲間と合流した。

 どうやら、鬼の少女こと『葵』は冒険者の一人だったらしく、ここで仲間と一緒に稼いでいたようだ。

 そして、彼女ら曰く、ここはダンジョンと呼ばれる場所のようで、しかもかなり高難易度の下層部分らしい。

 おかげで、何故こんな所に、新人冒険者であるアリサ達が居たのか、全く解らないという空気になってしまった。

 そもそも、ダンジョンに入るには、ランクをC以上に上げる必要があり、入る為にはチェックも有るため、この空気は当然だ。

 だが、適当な具合に話を捻じ曲げ、倒そうとした魔物が、苦し紛れに放たれた転移魔法によって、ここに送り込まれてしまったという設定で話を進めた。

 エルフ達の事を話すと、色々面倒な部分も話さなければならなくなるので、黙る事にした。


「しかし、妙な話じゃのぉ、苦し紛れに転移魔法とは、死ぬかもわからぬ方法が、最後の抵抗とは」

「かなり錯乱している人物でしたので(やっぱり話すべきか?いや、でも色々と面倒だし良いか)」

「まぁ、そんな小難しい事は置いておいて、こんな危険な場所に飛ばされちまったのは事実だ、ここで会ったのも、なんかの縁だろうし、外まで案内してやろうや」

「はぁ、お主のお人よしは相変わらずじゃのぉ」


 葵と共に話しているのは、陰陽師のような服を着る、狐の耳と尻尾を持つ獣人の女性、『藤子』は、扇子で口元を隠しながら、アリサの事をまじまじと怪しい眼で見つめる。

 どうやら、アリサの作り話や、存在そのものに違和感を覚えているようだ。

 しかし、葵の言う事は、割とすんなり聞き入れ、仕方が無くアリサ達に協力することを決める。

 そんな中で、シルフィは葵の仲間の二人から、治療を受けていた。


「いや~、それは大変やったなぁ、これ、筋肉痛によく効く薬、遠慮せんとつこてぇや」

「では、私は回復魔法をかけさせていただきますので、じっとしていてくださいね」

「あ、ありがとう」


 シルフィへ筋肉痛に効くという薬を渡してくれたのは、葵の仲間の一人『クレハ』は、民族衣装のような服を着込む、ダークエルフの少女。

 因みに、ダークエルフ達は基本的に関西弁のような訛りで話す傾向にある。

 そして、白い修道服を着た人間の少女、ヘレルスの回復魔法で、薬の効果をより高めている。

 しばらくしてシルフィの応急処置が済み、食事を摂った後に、移動を開始する。


「よし、そんじゃ出発するか」

「はい」


 葵の言葉で、移動を開始する事となり、長時間能力を酷使した影響で、動けないシルフィを、アリサは担ぎ上げる。

 背中の部分の鎧を開放し、背負子の様に変形させて運び出す。

 そのせいで、背中がむき出しになり、突起が少し邪魔となるが、背負って貰っているのだから、シルフィは文句を言わずに運ばれる。


「ゴメン、世話焼かせちゃって」

「良いですよ、こうして世話を焼くのは、好きですから」

「(仲ええなぁ~)」

「そんな心配するな、お前らの事は、アタシらが守ってやるから」

「は、はい」

「ど、どうも」


 余計なお世話といえるような発言を聞いた時、アリサとシルフィは、近寄ってきた葵の事を見上げる。

 改めてみると、葵は少女という表現が明らかに間違っている程、大きな体格を持っている。

 遠近法のせいで、小さく見えていたが、近づいてみると、ゆうに二メートルはある巨体を持っている事が判明している。

 朗らかな表情であっても、巨体過ぎて普通に怖い。

 だが、シルフィには、もう一つの部分も視界に納めながら、目を細めていた。

 そんな二人の反応に、葵は小首をかしげる。


「如何した?」

「あ、いえ、大きいなぁと(身長が)」

「うん、大きいよね(胸が)」

「そうか?アタシの種族だと、これ位が平均だぜ」

「そ、そうなんですね」

「そう、なんだ(アリサの嘘つき)」

「(なんか、後ろから殺気が)」


 レリアと買い物した際に、アリサから和服を着ている人たちは、小さい人が多いという言葉が嘘であった事に、少し腹立たしさを覚えるシルフィであった。

 そんなシルフィはさておき、アリサ達は移動を続ける。

 その道中は、気苦労が絶えなかった。


 ダンジョンの洗礼ともいえる危機に、何度も見舞われたのだ。

 サイクロプス級の危険で大型の魔物だけでなく、小型でも、並の人間では太刀打ちできないような、強力な魔物達。

 それらが群れをなし、仲間割れすることも無く、アリサ達に襲い掛かって来る。

 アリサ一人であれば何とかなるかもしれないが、シルフィも一緒に居る状況だと、少し難しいような難易度。

 だが、葵達はそんな物量に屈することも無く、次から次へと葬っている。


 葵の持つ金棒は、大型の魔物であろうと、硬い甲殻で覆われている魔物であろうと、一撃で吹き飛ばす働きを見せていく。

 正しく、鬼神の如き働きで、魔物達を倒す葵を筆頭に、他の三人は基本的にサポートに回っている。

 ヘレルスは、聖職者であることも在って、主に光魔法を得意としており、葵達へバフをかけ、行動をサポート。

 藤子は、装備である二つの扇から、炎や氷といった魔法を繰り出し、葵の攻撃の合間に攻撃するなどして、葵の負担を減らす。

 クレハは、閉所だというのに、容赦なく爆薬を使ったり、毒を塗った短刀を使い、忍者のような身のこなしで、討ち漏らしを片付けている。


「凄いね」

「ええ、できれば、敵に回したくはありませんね」


 流石のアリサも、四人の破天荒な戦闘能力を前に呆気にとられてしまっていた。

 彼女達にとって、二人のお荷物だけでは、枷にもならないようだ。

 このパーティは、葵のみAランクの冒険者らしく、他のメンバーは全員Bランクとのこと。

 冒険者として登録した時、一部Bランク以上は、命知らずのバカと言っていたが、どうやらこの四人はそのバカに部類されるようだ。


「ふぅ、大漁、大漁」


 討伐の完了した葵達は、意気揚々と魔石をバックパックへと詰め込んでいく。

 肉や皮等、素材になるような部分は、どういう訳か、ダンジョンの床や壁に吸い込まれるように消えてしまっている。

 そのせいで、魔石しか獲る物が無くなってしまうが、食べられる魔物は、半殺しに留め、消える事を防いでいる。

 この光景に、アリサは疑問しか出てこなかった。

 ダンジョンに関する詳細なデータは、任務に必要ないと、プログラムされていなかったので、仕方のない事ではある。


 一先ず、魔石の収集を手伝った後、移動を開始すると同時に、護衛役のクレハにダンジョンの事を聞いてみたところ、いくつか情報を得る事に成功する。

 このダンジョンは、魔王の暗躍と同時期に出現した謎の洞穴だという。

 現時点で解って居る事を上げると。


 ・この場で死んだ者は、魔物だろうと人間だろうと、魔石を除いて、全て蒸発してしまう。

 ・入り口は世界各国に無数に点在し、それらは全て、同じダンジョンに通じている。

 ・内部は魔物の住み家となっており、深く進むにつれて、魔物のレベルも向上する。

 ・外に居る魔物は、全てこのダンジョンから這い出た者とされている。

 ・ダンジョンの中には、オーバーテクノロジーで作られた武器や装備が、稀に見つかることが有る。

 ・こうした洞窟といえるような環境のほかにも、熱帯雨林、砂漠地帯、雪原等、様々な環境が、存在している。

 ・ダンジョンへの出入りは、専用の出入り口以外からは不可能。


 という事が、現時点判明している。

 だが、このダンジョンがどんな方法で作られたのか、それは一切解っていない。

 作られた目的は、魔王が世界を侵略する際為に、各国へ魔物を派遣するべく制作した、前哨基地という説がある。


 魔王が倒されたことで、主を失った魔物達は、それぞれ自分に合っている環境の区画で生活し、はぐれてしまった個体が、地上へ出て、地上の生態系に干渉している。

 これらが現在の定説だが、真実であるという確証はなく、現在は様々な謎を解き明かすべく、各国は冒険者を使ったり、騎士団を動員したりして、謎の究明にあたっている。

 だが、規模が大きすぎて、魔王の置き土産として残されたこのダンジョンの調査は、進んでいるのか進んでいないのか、全く解っていないのだ。


「なるほど、そんな物が地下に」

「地下にっちゅうよりは、ほとんど異空間って感じやな、マナもめっちゃ濃いやろ?」

「ええ、確かに」

「この環境のおかげで、魔物はん達もお天道様か何かが無くとも、十分に生活できるみたいでなぁ、ホンマ、魔物達の為の空間ってことやな」

「〈……ねぇ、アリサ〉」

「〈どうかなさいましたか?〉」


 クレハの説明を聞いていたシルフィは、一つの疑問が浮かび上がる。

 それは、何故専用の出入り口でなければ入れない場所に、あんな乱暴ともいえるような方法で、ここに出てしまったのか、である。

 彼女達には、エルフ達の事は黙っているので、念のため、アリサ達の言葉で、シルフィはアリサに訊ねた。

 シルフィの疑問に同調したアリサは、その事も、クレハへと尋ねる。


「あの、クレハさん」

「ん?どないした?」

「ここへは、転移等の魔法で来れるのですか?」

「うーん、転移自体、かなり高度な魔法やから、失敗して変な所に出るかもって、皆試さないで……あ、でも、転移で入ろうとしたら、ダンジョンやあらへん所に出てしもたって話は、聞いたなぁ」

「そうですか……(となると、言い訳のチョイス、ミスったな)」


 クレハの話を聞く限り、どうやら転移で来れるような場所ではないようだ。

 そうなると、藤子がアリサ達を疑ったのも、頷けてしまう。

 藤子は、魔法の扱いにはこのパーティの中で一番長けているようなので、今まで誰も成功したことがないような事を、こうして成功させてしまっては、疑ってもおかしくない。

 小難しい顔をしながら、考えるアリサを見ながら、クレハは逆に質問を返す。


「ところで、お二人は付き合ぉてるん?」

「うぇっ!?」

「いえ」

「え、えっと、私とアリサは、あくまでも友達であって、別に付き合ってるとかそう言う感じじゃなくて、もっと掘り下げるなら、お互いに利害が一致しているから一緒に行動しているってだけで、そもそも私みたいなコミュ障がアリサみたいな可愛い子と付き合うなんて絶対あり得ないでしょ(なんだろう、言ってて悲しくなってきた)」

「(シルフィの場合、コミュ障というより、人見知りじゃね?というか、シルフィ史上一番の長文)」


 クレハのいきなりの質問に、シルフィは驚き、アリサは冷静に返す。

 そして、動揺に動揺を見せるシルフィは、顔を真っ赤に染め上げながら、あからさまな感じに否定し始めてしまう。

 明らかに反応が逆である所を見て、クレハは二人の関係を何となく察しだす。


「(ああ、片思いっちゅうことやね)」

「(てか、ヤバい!心臓早くなってきた!変な事言わないでよクレハさん!!気づかれたらどうするの!?)」

「(なんか、急に心拍数が上がったな)」

「(葵はんと藤子はんのもええけど、この子の初心な反応もええなぁ~)


 結局、歩き続ける事数時間、アリサ達は休息を挟む事に成る。

 その頃には薬が効いたのか、シルフィの激痛も治り、自分の足で歩けるように成ったので、恥ずかしい状況から、何とか脱した。

 その際、シルフィは意識してしまうという理由で、極力アリサから距離を取って休息をとっている。

 そんな中で、ヘレルスはシルフィに近寄り、ちょっとした雑談を挟んで来る。


「あの、シルフィさん、でしたよね」

「え、ああ、はい」

「お体の方、大丈夫でしょうか?かなり悲鳴を上げていたようでしたし」

「ああ、もう大丈夫、薬と魔法のおかげで、もう痛くは無いよ」

「それは何よりですが……恋の病は治せませんので、頑張ってくださいね」

「ブフォ!!?」


 シルフィの回復に、ヘレルスは満面の笑みを浮かべると、耳打ちをしながら別の話題へと切り替わる。

 そのおかげで、せっかく意識せずにいられたシルフィは、また意識し始めてしまう。

 一応、アリサは葵達と今後の事について話しているおかげで、シルフィ達の方には気は向いていない状態だ。


「その様子だと、片思い、といった具合ですね」


 ヘレルスの言葉に、シルフィは無言でうなずき、肯定する。

 初心な反応を見せるシルフィの姿を、クレハは微笑ましい眼で見つめているが、そんな事気にせずにヘレルスは、話を続ける。


「でも、胸に秘めたままでは、何も進展いたしません、よろしければ、ご相談に乗りますよ?」

「……良いの?」

「ええ、私達聖職者は、お悩み相談もしていますから」

「……じゃぁ、お願いしていいかな?」

「はい、ぜひとも」


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