四つの戦い・2 前編
シルフィ達が戦いを繰り広げている時。
ロゼはスティーブンとの闘いを繰り広げていた。
スティーブンは、風の魔法と徒手空拳を組み合わせた攻撃方法という、至ってシンプルな戦法を取っている。
対して、ロゼは二刀流という事を利用し、手数を増やしながら、スティーブンの素早い動きに対応している。
だが、強力なヒーリング能力を持つスティーブンに対し、ロゼはヒーリング能力を持っていない。
回復は何時もレリアに任せていたことも在るが、そもそもロゼは、回復等が主な魔法である光属性に適性が無く、習得が不可能だ。
もう一つ、悪い事にスティーブンの戦闘力は、ロゼの一枚上を行っている。
それでも、ロゼは持ち前の反射神経と、手数を活かして、何とか対応している状況だ。
「ケダモノの割に、随分とやるな!俺と正面から戦えるのは、ウチの頭位なものだ!」
「貴様に褒められた所で、嬉しくはない!!」
「そこは喜んで欲しい物だ、俺は滅多に人を褒めないからな!」
会話を挟みながら、二人は町の建築物を破壊しつつ、激闘を続ける。
攻撃がぶつかり合うごとに、ソニックブームが吹き荒れ、踏み込みの度に、石畳の地面に亀裂が入っている。
風と雷のぶつかり合いは、徐々に大きく、鋭くなる。
どう見積もっても、一般人が入り込める領域ではなく、もしも力が無い者が入り込めば、死しかない空間が出来上がっている。
その激しい死闘で、ロゼは何度も首を狙い、剣を振るうが、スティーブンはその再生能力を乱用していると言っていいほど、体の欠損に躊躇が無い。
そのせいで、剣の軌道がぶれ、急所を斬る事ができずにいる。
「素晴らしい剣筋だが、お前は俺には勝てない、その理由が解るか?」
「知らん!」
「こういう事だ!!」
その叫びと共に、スティーブンの膝蹴りが、ロゼのわき腹に直撃する。
衝撃であばらの骨が折れ、内臓に数本ばかり突き刺さる。
骨折程度であれば、レリアの回復魔法でどうにかなるが、内臓に骨が刺さってしまえば、完治は難しい。
口から血を流しながらも、ロゼは雷を纏った攻撃を使い、スティーブンより距離を取る。
「……で?私がお前に勝てない理由って言うのは、一体なんだ?」
「お前、脳みそが頭に詰まっていないのか?その折れたあばら骨で、どうやって戦う?」
「……言っている意味が解らん」
「やれやれ、まだ解らないのか?貴様がどれだけ俺を傷つけても、すぐに回復する、だが、貴様は如何だ?一切の回復ができない、コイツは致命的だろ」
「……何をぬかすかと思えば、そんな事か、そもそも、ヒーリングで傷を治せても、魔力までは回復しない、使えば使う程、魔力を消耗する一方だろ、何より……」
再度電撃を身にまとったロゼは、あばらの激痛を気にしていないかのような動きで、スティーブンへと接近する。
そして、距離が目と鼻の先程度にまで近寄ると、一言告げる。
「骨が三本、四本折れたから、一体なんだ?」
「ッ!?」
「ライトニング・ストライク!!」
ロゼは動揺を見せるスティーブンへと、両手に持つ剣を同時に振るい、全体重をかけた一撃を入れる。
剣の斧の部分を使う事で、攻撃の重量を増加させ、更に、追撃として稲妻を複数本出現させる。
ロゼの言葉によって、多少の動揺を見せてしまったスティーブンは、反応が遅れ、攻撃を受け、両腕を欠損してしまう。
だが、ロゼが第二撃を入れようとした時には、既にその傷は塞がり、スティーブンはすぐに反撃へと転ずる。
拳にまとわせた風は、ロゼの体を掠めただけで、鎧やロゼ本人に傷を形成する。
しかし、ロゼはそんな事は気にしない、まるで痛みを感じていないかのように、攻撃の手を緩める事は無かった。
「この、獣風情が!」
多少の恐怖を感じながらも、スティーブンはロゼのみぞおちに、鋭い拳を繰り出す。
その一撃は、鎧を着て居なければ、貫通していたかもしれない程の威力を持っており、胃や肺に溜まっていた空気が、一気に口から吹き出る。
だが、痛みに苦しむのは、ほんの一瞬。
すぐにロゼは目を鋭くし、スティーブンの首を、二本の剣で挟み込もうとする。
「ボルト・チョップ!」
「ッ!」
寸前で回避した事によって、ロゼの剣がぶつかり合うだけという結果に留まるが、徐々にスティーブンは、ロゼの異常性に気付き始める。
それからも、スティーブンは、即死しない程度に、ロゼへと攻撃を行う。
顔面を殴り、鼻先をへし折ろうが、左腕の骨にヒビを入れようが、ロゼは戦いを止めなかった。
そう、ロゼはとにかく異常だ。
痛みを辛い物であるという認識が無く、ダメージの蓄積という概念さえない様に思える。
だからといって、スティーブンは、ロゼに負ける気はしなかった。
それを証明するかのように、スティーブンは、ロゼの折れている左腕に、更にもう一撃入れ、重傷を負わせる。
そして二人は、互いに間合いを取ると、再び会話を挟みこむ。
「……お前が異常なのは、分かった、だが、お前は俺に勝てない事に変わりは無い」
「……」
「お前が俺にどれだけ攻撃を加えようが、こうして一瞬で完治する、だが、お前はどうだ?左腕に至っては、千切れて落ちかけているぞ」
「……」
スティーブンは、重症を負ったロゼを見下すような視線を送りながら、見せつけるように傷を回復させる。
スティーブンに言われ、ロゼは千切れかけている左腕を見ても、驚くような事は無く、少し痛がる程度だ。
そして、徐々に左手の力が無くなり、握っていた剣は、重力に従って、地面に落ちてしまう。
だが、ロゼは余裕の風貌を維持しており、傍から見れば、単純にやせ我慢しているようにか見えないが、ロゼは、本当に余裕を持っている。
「……確かに、今のわたしでは、お前に勝つことは、できないな」
「そう、だからさっさと諦めて、俺に殺されろ」
「あいにく、そうはいかない、私は、姫様への絶対の忠義の元、貴様を殺す事を辞める事はできない」
「そうか、諦めてくれれば、楽に殺してやろうかとも思ったが、これ以上抵抗を続けるのであれば、そうはいかないぞ」
「……余裕だな、能書き垂れてる暇あるなら、さっさと私を殺しておく事だったな」
「何?」
余裕の表情を浮かべるスティーブンに、ロゼは少し呆れ気味に忠告する。
そして、右手の剣をくわえると、先ほど落とした剣を拾い上げ、ドッキングさせる。
今度は槍の形態では無く、大剣の形態だ。
どんな事か、スティーブンには解らなかった。
片手剣を大剣に変えた程度で、ロゼの勝率が変動する訳がないのだ。
だが、スティーブンは、すぐに思い知る事に成る。
ロゼの言葉の意味を。
「もう一度、猛り狂おう、クイーンオブザナイト!!」
大剣を地面に突き刺したロゼの叫びと共に、周囲に黒い魔力が漂い、着用している鎧に変化が起こる。
全身に電流が駆け巡るかのような激痛を伴いながら、鎧は角張った禍々しい形に成り、悪魔の顔のような兜が、ロゼの顔を覆う。
変形によって、千切れかけていた左腕は繋がり、外から見れば、健康体同様に成る。
その面妖な光景に、スティーブンは、たじろいでしまう。
見る人が見ればわかる。
鎧の形が変わっただけだというのに、ロゼの戦闘能力が大幅に向上している。
だが、もう一つ変化が有る。
「ウ~」
「……コイツ、まさか理性まで」
兜の隙間からわずかに見える表情から察するに、今のロゼは、意識や理性がはっきりしていない。
であれば、ただ単に戦闘力を上げただけでは、勝率に変化はない。
幾ら戦闘能力を上げたところで、乱雑な型に成ってしまえば、動きにムラが生じてしまい、読まれやすくなってしまう。
「しょせん、獣か、そんな事で、俺に勝つ事は叶わない!」
ロゼを見下しながらも、念のためスティーブンは全力を出して、ロゼへと接近する。
先ほどまでスティーブンの居た場所は、地面がえぐれ、土煙が舞い上がる。
ロゼは、臭いをかぐ素振りを見せると、大剣によってスティーブンの一撃を防ぎ止め、数回の打ち合いが発生する。
その際、ロゼの変化に、スティーブンは気が付く。
鎧が変化しただけだというのに、まるで別人のように変わってしまっている。
あまりの変わりように、動揺してしまい、腹部にロゼの一撃を受けてしまう。
「ガハッ!!?」
その一撃は、今まで受けたどんな一撃よりも重い物だった。
内臓の空気だけでなく、内容物どころか、内臓そのものが口から吹き出してしまうかと思ってしまう程、重たい一撃。
そして、十数メートル程吹き飛ばされるが、持ち前の回復能力で、再生させると、向かってきているロゼの方を向く。
「そ、そうだ、そうでなければ面白く……」
――面白くない
そう言おうとした瞬間、黒い稲妻を纏い、更に巨大化しているように見える大剣を振るうロゼの姿があった。
完全に反応する事の出来なかったスティーブンの体を、ロゼの大剣と、同時に発生する黒い稲妻によって切り裂く。
「(バカな、たった一振りで!?)」
たった一振りしただけで、首がまだ動体とつながった状態のまま、バラバラになる。
あまりにも現実離れした状況に、呆気にとられてしまうスティーブンであるが、瞬時に体を再生させる。
「こんな事で、この俺が!!」
再生させた途端に、ロゼへと殴り掛かるが、目の前には、複数の大剣を振っているロゼの姿があった。
正確には、あまりにも早く振るっているせいで、ロゼの大剣が複数に見えてしまっている。
加えて、黒い稲妻が、刃の様に発生しており、その全てがスティーブンの体を切り裂く。
結果、スティーブンの体は、完全に切り刻まれ、何の言葉も残すことも、どんな事が起きたのか、認識する事すらできないまま、絶命してしまう。
「フゥ~」
目標の殺害を認識したロゼは、再び鼻を動かし、辺りのニオイを嗅ぎ取る。
体が熱くて仕方が無く、とにかく強者と戦いたいという衝動が、ロゼに襲い掛かり、異常な嗅覚によって、次の敵を探し始める。
辺り一面、被害者たちによって血の匂いが辺り一面に漂ってしまっているが、死人と生者の区別位はついている。
そして、この場に居る誰よりも、べっとりと血の匂いの染みついている存在を見つける。
「ッ!」
ベッタリとしている、血の匂いは、ロゼに麻薬のような中毒作用を引き起こし、衝動的に血の匂いのする方へと向かいだす。




