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四つの戦い1 後編

「……お邪魔だったかね?」


 アリサの血がべっとりとついている大剣を担ぎ、アリサ腕を持ちながら、ウルフスは二人の元へと歩いていく。

 そこに、完全に盲目となってしまったクラブと、戦闘不能になってしまっているアリサの姿がある。

 シルフィの方は、アリサの下敷きになっており、くすんでいた目は、アリサの惨状を目にした途端、光を取り戻す。


「アリサ?アリサ!?」


 アリサをゆすり、覚醒を促すシルフィであったが、人工血液の不足や、損傷の蓄積で、機能のほとんどを停止してしまっており、目覚める事は無かった。

 アリサをこんな目に遭わせたウルフスを見るや、シルフィはマチェットを握り直し、立ち上がった途端、吐血してしまう。

 本人はまるで気付いていなかったが、限界時間の五分はとっくに過ぎており、もう十分近く連続で使用していた。

 そのせいで、アラクネと戦った時以上の激痛を感じるシルフィは、立っている事すらままならず、地面へと倒れ込む。

 そんなシルフィを見て、ウルフスは座り込みながらその身を案ずる。


「おいおい、大丈夫か?」

「うるさい、よくも、アリサを」

「それより、コイツは返すぜ」


 倒れ込むシルフィへと、ウルフスはアリサの千切れた左腕をアリサの体に乗せる。

 その程度では、シルフィの怒りはおさまらず、激痛を無視しながら、生まれたての小鹿の様に、立ち上がろうとする。


「うるさい、よくもッ」


 そして、マチェットへと、あの特殊な魔力を流し込み、襲い掛かろうとするが、さらなる激痛を誘発させてしまう。

 全身に電気を流されているかのような痛みが走り、立ち上がる事は叶わなかった。

 心配に成ったウルフスは、シルフィの額に手を置き、シルフィの状態を見る。


「う、こんな時に……」

「無理すんな、全身の筋肉が泣きわめいてやがるぜ」

「……その声、ウルフスか!?」

「おう、大口叩いておいて、随分なありさまだな」


 シルフィの容態を見ていると、手負いのクラブは、ウルフスの存在にようやく気が付く。

 倒れ込むクラブを見ていると、ウルフスは、クラブの傷が全く癒えていないことに目を付ける。

 クラブも、ヒーリング能力を持っている。

 骨にまで届いているような切創であれば、再生させる位の事は、容易にできる筈だが、未だに出血さえ治まっていない。

 それに気が付いたウルフスは、ニヤリと微笑み、上半身の服を脱ぎ、胸に刻まれている奴隷の刻印を晒す。


「流石、エルフィリアの娘だ、コイツは思いがけない副産物だ」


 シルフィの魔力の込められているマチェットを拾い上げると、ウルフスは、マチェットを使い、首輪を切断し、胸に刻まれている奴隷の刻印を、皮膚事削り取る。

 この光景に、シルフィは驚きを上げる。

 両者は、ウルフスの脱走防止を行う物である為、無理に取ろうとすれば、本人が死にかねない代物。

 だというのに、ウルフスは何のへいがいも無く、その二つの枷を破壊した。

 驚かない訳が無い。


「ふぅ、ありがとうな、これで俺は自由の身だ、礼は弾むぜ」

「貴方、一体」

「ああ、お前の親とは、よく剣を交えた、まぁ、結局決着はつかなかったがな、その縁もある」


 マチェットをシルフィに返したウルフスは、倒れ伏すクラブに近寄ると、彼女のアイテムボックスの中より、一つの石を取り出す。

 クラブ達が、衛兵の死骸を集めた時に使用していた物と、同じ石。

 この石には、物体を瞬時に移動させるための魔法が込められている。

 ただし、今この石を使用すれば、転移先はシルフィの故郷である里に成ってしまう。

 そうならないように、ウルフスは少し魔法をいじり、転移先を自由な物にする。

 エルフだけあって、複雑な魔法であっても、転移場所を自由に設定する事位ならばできる。


「何だ?一体何を、している?」


 先ほどから、音で判断するしかないクラブは、ウルフスが何をしているのか、認識できずにいる。

 だが、少なくとも近くにウルフスが居るという事はわかる。

 そして、そのウルフスは、昼間与えた筈の命令を実行せずに、アリサ達に何か手を貸している事を、会話の内容から察する。

 怒りの沸き上がるクラブは、すぐに命令を下す。


「……おい、ウルフス、そこに居るんだろ?いるのなら、早く目標の連中を殺せ!私の目を潰したそいつを殺せ!命令だ!」

「悪いが、もうアンタの命令を聞く義理は無い」

「何だと?」

「見えないだろうが、奴隷の刻印みたいな枷は、全て外させてもらった」

「何を言っている!?」


 ごちゃごちゃとうるさいクラブを無視し、ウルフスは石に魔力を込める。

 弱ってしまっているシルフィ一人では、石のギミックを作動させることはできないようなので、少しでも負担を減らそうとしている。

 魔力が込められるごとに、石は輝きを増し、後少しで起動という所にさしかかる。


「エルフィリア、コイツに魔力を込めて、破壊しろ」

「え?」

「破壊するときは、何処に転移するか、強くイメージするんだ、そうすれば、確実に、とまではいかないが、お前が行きたい所に行ける」

「そんな事」

「信じられない、だろうな……だが、今は信頼しろ、ここに居ると、お前たちにとって、色々とマズイのだろ?」

「……それは」

「だったら、大人しく言う通りにしろ、それから、その蒼髪の嬢ちゃんに言ってくれ、次会った時は、また遊ぼうぜってな」


 シルフィに石を渡したウルフスは、大剣を担いで、どこかへと飛び去ってしまう。

 そして、シルフィは半信半疑でありながらも、ダメ元で石に魔力を込め始める。

 こんな状態では、クラブを相手する事は無理。

 オマケに、ここにはスレイヤーという化け物だっている。


 狙撃している時に見ていたが、あの異常な戦闘能力の前では、今の状態で立ち向かったとしても、相手にすらされない。

 しかも、当てるつもりは無かったが、なんとなく弓を引いただけで、目が合い、銃口を向けられた。

 シルフィ自身の最高射程距離間で、お互いに存在を認識しあったのだ。

 幸い、サイクロプスの横やりが入り、戦闘まで至ることは無かったが、その一瞬で、ジャックという存在の異常さはわかったつもりだ。

 だからこそ、今は何としてでも逃げなければならない。


 だが、ウルフス達の会話を聞いていたクラブは、それを許さなかった。

 ヒーリングが無効化されたせいで、激痛の走る体を引きずりながら、折れたサーベルを探り当て、シルフィ達の元へと向かう。

 折れているとはいえ、手負いのシルフィ一人を殺すには、十分な長さの刀身は残っている。

 シルフィより発される魔力を頼りに、クラブはシルフィ達の元へ、ぎこちなく向かう。


「何処だ?魔力で解るぞ!」

「(早く、魔力を)」


 そして、ギリギリの所で、魔力の充填が完了する。

 それを告げるかのように、石は光り輝き、クラブは急いでシルフィの元へ、折れたサーベルを向ける。


「死ね!!」


 逆手に持つサーベルを天高く掲げたクラブは、シルフィの存在を、様々な器官で認識し、力いっぱい振り下ろす。

 だが、クラブの最後の攻撃は、一つの炸裂音と共に、打ち砕かれてしまう。

 再起動したアリサは、シルフィのレッグホルスターから、ハンドガンを引き抜き、瞬時に照準を合わせ、射撃を行ったのだ。

 視力を失い、力の大半を完全に失ったクラブは、その奇襲を回避することはできず、手に持つサーベルを打ち抜かれてしまう。


「早く」

「……どうにでもなれ!!」


 銃を握るアリサの事を抱きしめながら、シルフィは石を地面に叩きつけ、転移の魔法を発動させる。

 幸い、今のシルフィでも破壊できる程、石は脆かったらしく、二人は転移に成功する。

 その事を、クラブは認識する。

 手遅れであった事に、クラブはサーベルを持っていた手を抑えながら、失意の念に苛まれる。


「(負けた、三度も、あの一家に……)」


 悔しさが沸き上がり、歯にひびが入りそうな程食いしばった後に、喉が張り裂けるレベルで叫ぶ。

 クラブの叫びは、夜明け前の町に木霊する。

 涙を流すクラブは、炎と雷で形成された光に飲み込まれて行った。


次回からロゼとジャックの視点が始まります

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