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巨人の戦場 中編

「早く!こちらから逃げてください!(クソ、まさかこんな事になるとは)」


 月の照らす夜空の下、エルフ達の手で呼び出されたサイクロプスの襲撃によって、町はパニックになっていた。


 現在、ジャックが敵をひきつけているこの状況を利用し、アリサとシルフィは、衛兵たちと合同で、避難誘導を行っている。

 少し前、洞穴内で消息を絶った子供達を探すべく、再びレリア達と合流した。

 それから三十分ほど一緒に探していると、町の中にサイクロプスの群れが出現し、急いでロゼと共に向かった途端これである。


 町の中心から次々出て来るサイクロプスから、市民を逃がすには、町の外に逃がすほか無く、仕方がないので、魔物避けの壁を破壊し、市民を逃がしている。

 設置されている門の大きさは、馬車一台程度であれば、すんなり入れる位の大きさだが、このような状況となれば、もはやただの壁でしかない。

 そんな小さな門では、逃げる足は止まってしまい、すぐに魔物どもの餌食と成ってしまう。

 だからこそ、壊す必要が有った。

 とりあえず、門を破壊し、逃げ道を広げ終えたら、避難誘導の方を衛兵たちに任せ、アリサは移動を開始する。


 道中のサイクロプスを倒しつつ、別の場所で滞ってしまっている市民たちの元へと向かう。

 その途中で、アリサは民家の上を転々とし続けるシルフィに連絡を入れ始める。

 シルフィの持つ超視力と狙撃能力を利用し、ジャックやロゼが討ち漏らした個体を狙撃させ、極力被害を減らしてもらっている。

 ロゼの方は、町が破壊されている様子を見たことで、怒り心頭となり、真っ先にサイクロプスの討伐を行い出した。


「シルフィ、戦況はどうですか?」

『今ロゼさん達がたくさん倒していってる、それと、町の外に行ことしている奴らは、私が狙い撃ってるから、大丈夫だよ』

「上出来です」

『えへへ』

「浮かれている場合ではありません」

『う、ごめんなさい』


 だが、問題なのは、町の中心にある広場からは、サイクロプスたちは際限なく出現してくる。

 もはや町の住民全員が人質といえるような状況。

 目的は不明だが、犯人は十中八九あのエルフ達だ。


 サイクロプスのような魔物をこれだけのペースで召喚し続けるには、膨大な魔力が必要になる。

 ならば、魔法に関してプロフェッショナルであるエルフに加え、恐らく子供達を生贄にでも捧げれば、これ位は納得できる。

 目的を果たす為であれば、たとえ同胞であったとしてもエサに使ったりするような連中が居るのだ。

 彼らからしてみれば、人間の子供十人程度殺すなんて、蚊を潰す程度の認識なのかもしれない。


「(……ごちゃごちゃと考えている場合じゃない、今は目の前の問題を片付けるか)」


 サイクロプスを次々と葬っては、町の住民を避難させるべく、壁に穴をあけていく事数時間。

 市民の避難を完了させたアリサも、前線へと移動し、サイクロプスの討伐に加わる。


 サイクロプスの数は徐々に減少、町民の避難が完了したおかげで、次第にジャックやロゼが使用する技が強力になり始めている。

 おかげで、アリサの予測よりも早い段階で、サイクロプスは壊滅する。


 ――――――


 町の方は、かなり破壊され、犠牲者もかなり出てしまったが、生存者はそれ以上だ。

 逃げ遅れてしまった市民は、瓦礫の下敷きになっていたり、サイクロプスの攻撃によって、潰されてしまった者もいる。

 アリサからしてみれば、この程度の被害はむしろ幸運ともいえる。

 十メートル近くの化け物が、無尽蔵に湧いてくるなんて状況、そう滅多に無く、シミュレーションした経験も無い。


 だが、スレイヤーの存在に加えて、ロゼまで加わってくれた。

 この二人が居なければ、もっと被害は大きくなってしまっていたかもしれないのだ。

 一先ず、シルフィの安否を確認するべく、再度無線を入れる。


「……何とかなりましたね」

『うん、だけど、やっぱり私のせいだよね、私が、里から抜け出したから』

「……過去を悔いている暇が有るのであれば、今を見てください、責任を感じるのなら、いまここで、責任をとってください」

『……ごめん』


 通信ごしであっても、シルフィの悲壮感は伝わって来る。

 こんな事になるのであれば、やはり外に出るべきでは無かったと、後悔しているのだろうが、もはやそれは過ぎたことだ。

 一先ず、シルフィと合流するべく、通信で位置を聞き出す。


「一旦合流いたしましょう、今、どこに居ますか?」

『ん、えっとね……え、な、何で貴女が』

「シルフィ?」

『うわあぁぁ!!』

「シルフィ!?」


 シルフィの悲鳴と同時に、それなりに遠くにあった民家が崩落する音が聞こえ、更に通信に酷いノイズが走り、通信は途絶してしまう。

 その方向へ急ぐべく、民家の上に乗りだすと、一人のエルフと鉢合わせする。

 自身の身の丈は有る大剣を所持している初老のエルフ、ウルフスだ。


「よう、お友達の所に行きたいのかもしれないが、ここで通せんぼだ」

「……邪魔です」


 恐らく暗殺者の一人なのだろうが、今は構っている場合ではないと、ウルフスを無視して通り過ぎようとする。

 だが、ウルフスのスピードは予想以上に早く、通り過ぎた瞬間、再び目の前に立たれてしまう。


「ッ!」

「無視は困るな」


 戦うしかないと判断したアリサは、間合いを取り、ブレードを引き抜いて戦闘態勢をとる。

 それを見たウルフスも、背負っている大剣を引き抜く。


「アンタに恨みはないが、覚悟してもらうぜ」


 ――――――


 その頃、サイクロプスを倒し終えたロゼは、一人のエルフと向き合っていた。


「何の用だ?」

「なに、上からの命令でね、アンタを足止めする事に成っているのさ」

「……悪いが、そう言う事は後にしてくれ、これからこの事件の犯人をしばきに行く所だ」


 ロゼは、その言葉の通り、エルフの青年を無視して、魔法陣が発生していた場所へと、向かおうとする。

 そんなロゼの背後に向けて、青年は打撃を繰り出す。


「臭う攻撃だ」


 青年の目にも止まらない速さの打撃を、ロゼは瞬時に防ぎ止める。

 というより、殺意の込められる打撃攻撃であった為、もはや腕一本持っていく勢いで剣を振るう。

 ロゼの攻撃によって、青年の腕は切り落とされるが、まるで、それが当たり前であるかのような表情を浮かべながら間合いを取る。

 そして、自らの傷口をロゼに見せつけていると、瞬く間に腕が生え変わる。


「良い剣だ」

「(ヒーリング持ちか、しかもかなり強力……厄介だな)」

「ところで、お前はこの事件の犯人を捜していると言っていたな」

「ああ」

「ククク、俺はスティーブン、今回の一件の犯人の一人さ」


 エルフの青年こと、スティーブンが、ロゼに自分が犯人の一人であると打ち明けた途端、ロゼの目から光が消え失せる。

 更には、顔中の血管を浮き上がらせ、完全に怒りに染まり切っている表情を、スティーブンへと向ける。

 完全にスティーブンの思惑通りであるが、レリアの愛する国にある町を半壊させた連中の一人であるのであれば、三下だろうと容赦する気は、ロゼには無い。


「コイツは、ご丁寧に、私はロゼだ」

「ロゼか、ウサギの分際で、その力、実に興味深い、是非とも一対一で戦いたい」

「そうか、遺言はそれだけか?」

「ククク」


 不気味な笑みを浮かべるスティーブンは、格闘戦の構えを取ると、手足の先に風魔法を纏わせる。

 その瞬間、悪意と野心に満ち溢れている匂いが、ロゼの鼻に伝わって来る。

 鼻の奥が痺れるような臭いに、ロゼはスティーブンの戦闘力を大まかに把握し、剣を握り直す。


「今のが遺言に成るか、それはお前の実力次第だ」

「そうか」


 ――――――


 サイクロプスの討伐が完了したジャックは、魔法陣の発生していた場所へと移動し、召喚を行った連中と出会う。

 クルーガーと、彼に協力する六人の魔法使い達。

 魔法陣の中央で、人間の生首を舐めるように見つめる彼とは別に、魔法使いの面々は、魔法陣の隅に佇み、魔法陣の維持を継続している。

 そして、ジャックの存在に気が付いたクルーガーは、生首を持ったまま立ち上がる。


「やぁ、君だね?俺が呼び出したサイクロプスを殺しまくったのは」

「ああ、所で、そいつらはなんだ?召喚の媒体か?」

「まぁね、でも、この首だけは使うのにためらっちゃって……見てよ、この顔、きっとさっきまで、生きたい、生きたいって、神様にすがり続けていたって顔だよ……はぁ、こういう最後まで希望を持って死んでいった奴の顔が、俺は大好きなんだ」

「……脳みそとかコレクションしてる奴なら見た事あるが、アンタも対外だな」


 なんとも気持ちの悪い感想を述べるクルーガーに対し、ジャックは目を細める。

 今までいろいろな連中を目にしてきただけあって、そこまで物珍しさは覚えないが、別段慣れるような事でもない。

 そんなジャックを完全に無視しているかのように、クルーガーは今日コレクトしたと思われる、別の死体に目移りする。


「はぁ~首も良いけど、こういう体も良い、死んだ時間から少し早い段階で硬直している、きっと必死に逃げたんだろうね、生きたかったよね?でも残念、運命には抗えないよ」

「なら、焼死体でも加えてやるよ、お前というクズのな」

「……焼死体か~良いかもねぇ、灼熱の中で苦しみ、もがきながら、忍び寄る死をゆっくりと味合わせる、フフ、俺の召喚獣達を殺したお前には、お似合いだ」


 鑑賞していた死体から目を離したクルーガーは、愛用の杖では無く、指揮棒のような物を取り出す。

 オーケストラの指揮者の様に、優雅に棒を操ると、周辺の魔法使いたちは、その指揮に従うかのように、フォーメーションを形成する。

 まるで、クルーガーの事を守るかのように、矢印状に配置され、装備している杖を、描かれている魔法陣に突き立てる。


「フォーメーション・イクシオシス」


 クルーガーの言葉と共に、振るわれた指揮棒に呼応し、魔法陣は光を強め、新たな魔物が出現する。

 装備を身にまとっているトロールや、騎士姿をしている魔物、スケルトン・ナイトが複数隊出現し、ジャックへと殺意を向ける。

 これが本来のクルーガーの戦法。

 基本的に数で劣りやすい里のエルフ達を勝利させるべく、数の利を得るための方法だ。


「さぁ、始めようか、デッドエンドワルツを」

「デッドエンドに成るのは、お前らだ」


 刀を再び引き抜いたジャックも、臨戦態勢に入る。


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