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歴史の授業は眠くなる 前編

 戦いが始まる数時間前、アリサ達はロゼの協力を得て、レリアの捜索を行っていた。

 アリサの科学的な捜索も、シルフィの狩人としての能力も、まるで役に立たなかったので、ロゼの異常嗅覚に掛ける事となり、臭いにやられ、寝込んだロゼの復活を待つはめに成った。

 おかげで、本格的に捜索に乗り出たのは、陽が上った後と成った。

 ようやく覚醒したロゼは、早急に鼻を洗浄し、早々にアリサらと共に、レリアの捜索を開始。

 その結果、町から少し離れた場所にある森へと足を踏み入れる事に成る。

 現在は、ロゼの嗅覚レーダーを頼りに、レリアが捕らえられている場所へと進んでいる。

 暫く進むと、歩哨らしき影に気が付き、その辺の草むらに身を隠して、様子を見始める。


「おい、何故こんなコソ泥の様に隠れなければならない、此処は騎士らしく正面から……」

「阿保ですか?姫様人質に取られている状況で、正面から行ける訳ないでしょう」


 民間の出とはいえ、ロゼとて一介の騎士、やはり武勲を上げるには、正面からの戦いが一番であるという考えが有る。

 そのせいで、今のコソコソとした感じのやり方には、少々御不満なようだ。

 だが、今のアリサ達からすれば、相手がどんな連中なのか解らない状況にあるのだ。

 その正体を探る為にも、先ずは三人揃って草むらや木陰を利用しつつ、目的地へと向かい続ける。

 音を立てず、風の様に早く動く、アリサは勿論の事、シルフィも使える芸当だ。

 ロゼはそのような技術を持ち合わせていないが、二人のやり方を見よう見まねで再現して、二人について行っている。

 突っ込んでいきたいという気持ちもあるが、今はそれをぐっと抑え、アリサ達に従っている状態だ。

 ただでさえ連れ去られるという失態を犯しているというのに、これでレリアが死ねば、もうロゼの生は終わったとしか言えない。

 仕方がないという事で、あまり目立たないように、鎧はロゼの持参しているアイテムボックスの中にしまってある。

 今は普段着と、愛用の剣二本しか持っていない状態だ。

 相手が相手であれば、今のロゼは少し危険な状態であるが、その心配はあまりないという事が、歩哨を発見した辺りで判明する。


「……あれって、盗賊か何か?」

「ええ、そのようですね」


 草むらに隠れていると、ツーマンセルで動く二人の歩哨を発見する。

 基本的に粗悪な感じの装備が目立つ所を見ると、三人の頭に盗賊の可能性が浮上する。

 しかし、問題なのは、ただの盗賊風情の実力で、アリサやシルフィに気付かれることなく、レリアを連れ去ることは可能なのだろうか?

 そんな疑問が浮かび上がる。


「……まぁ、その辺に関しては、後でわかるでしょう、今は、彼らの本拠へ行く事を最優先に考えましょう」

「そうだな……場所は、この先にある洞窟か何かだ、其処に姫様が居る……言っておくが、逃げるなら、今だぞ」


 この発言は、ロゼなりの親切からだった。

 はっきり言って、盗賊程度に後れを取る二人だとは、ロゼ自身思ってはいない、むしろ手伝ってくれていることは感謝しかない。

 だが、万が一失敗すれば、二人まで責任を追及される事に成る。

 しかし、昨日今日会ったばかりの関係である二人の事は、黙ってさえいれば、責任を取るのはロゼだけで十分だ。

 本当なら、二人まで此処に来ることなんてない、責任を感じる道理なんて無いのだ。

 だが、二人は逃げる気なんて、一切ない様だ。


「一人だけ恰好はつけさせません、姫さま救出は、私達の責任でもあります(まぁ、本当は、友好の為にも、此処で死なせる訳にはいかないだけだが)」

「決めてるから、私が犯した罪の償いの為にも、多くの人を助けるって」

「……そうか、ここから先に行くのなら、私はお前たちを庇ったりはしない、良いな?」

「構いません、救出すれば良いのですから」

「そうか」


 歩哨が通り過ぎたのを確認した三人は、移動を再開する。

 三人が共通して思っている事を、心の中で叫びながら。


「(((レリア救出隊、参る!!)))」


 意気揚々と草むらから飛び出た三人は、力強く次の一歩を踏みぬいた瞬間、三人の足は地面へと吸い込まれる。


「「「え?」」」


 情けない声を出しながら、設置されている落とし穴へと、三人は落下してしまった。

 その後、身動きの取れなくなった三人を、罠の発動によって響きわたった鳴子の音で、盗賊団が集まり、三人を捕らえた。

 そして、縄で三人一緒にグルグル巻きにされた状態で、アジトであるという場所へと、連行されていた。


「まさかあんな子供だましに引っ掛かるとはな」

「ああ、それに三人ともなかなかベッピンだぜ、しかも一人はエルフと来た」

「三日前の稼ぎもあるし、此奴はしばらく楽しめるな」


 談笑する盗賊たちの会話を、三人は苦渋を舐めるように聞いていた。

 だが、負け惜しみの如く、アリサは口を開いた。


「……さ、作戦通りですね、此れで誰も血を流すことなく、敵の懐に入り込めますね」

「そうだな、これも作戦のうちだ」

「そ、そうだよね、作戦、だよね……それで、この後如何するの?」

「「……」」


 当然、こんな状況が作戦であるわけがなく、シルフィの質問に、二人は黙ってしまう。

 一応説明しておくと、左からシルフィ、アリサ、ロゼの順番で繋がっており、一緒に並びながら歩いている状態だ。

 そして、黙ってしまったアリサに、隣で歩いているシルフィが更に問い詰める。


「ねぇ、作戦なら次あるよね?この次もちゃんとあるんだよね!?」

「うるさいです!作戦通りだって言ってますよね!」

「その作戦を言って欲しいの!この最悪な状況を打開できる方法有るんでしょ!?」

「ええ!有りますとも、そもそも作戦なんて九十九パーセントのノリと雰囲気と、一パーセントの何かで成り立ちます!」

「それ要するに何も考えてないって事でしょ!?成り立つ訳ないよ!」

「成り立ちますよ!最終的に目的果たした方が勝ちなんですから!途中が何であれ、姫様を助け出せば作戦成功です!!」


 二人が言い争っている中で、ロゼは脱出を行う為に、プランを練っていた。

 見つかってしまったとはいえ、今こうして捕まっているのであれば、恐らく敵側はもう、こちらには警戒してはいないだろう。

 と成れば、連行中のこいつらを無力化してしまえば、更に楽に敵のアジトに乗り込む事ができる。

 だが、今は体中縛られている状況であるが、歩ける程足が自由であれば、問題はない。


「フンッ!」


 地面を力強く踏み込み、で前方に居る盗賊に接近し、縄を持っている盗賊へと、ロゼは狙いを定める。

 まさか上半身を縛られている状態から蹴り飛ばして来るとは、盗賊たちも思っていなかったらしく、縄を持つ盗賊のマヌケな表情を浮かべる顔に、ロゼの足蹴りが炸裂する。

 蹴りによって、気を失った盗賊は倒れ込み、ロープを握る手もうっかり放してしまう。


「貴様!」

「しゃべるな」


 騒がれては、更に面倒な事に成ると、ロゼは次から次へと、盗賊たちを蹴り飛ばし、無力化していくと、連行していた盗賊たちのみ、全滅させる事に成功する。

 五人近くいた盗賊が、たった一人の少女、しかも上半身が使えない状況で、わずか数秒にも満たず、全滅させられる。

 この異様な状況に、アリサとシルフィはいつの間にか言い争いを止めていた。


「すごい」

「ええ、大した脚力です」

「全く、大口叩いたなら、少しは役にたてよな」


 何もせず、ただ言い争っているだけの二人に、そう言うと、ロゼは蹴り技を二人の縄に繰り出す。

 すると、まるでナイフで切られたように、二人の縄が切れ落ちる。

 自由に成った二人は、没収されていた装備品を回収し、至急ロゼの縄を切り落とすと、すぐにアジトへと足を動かした。


「すいません、いきなりあんなことに成ってしまって」

「全くだ、もう少し期待していたんだがな」


 歩哨のほとんどを倒したことで、完全に無防備になったアジトに到着する直前で、三人の動きは止まる。

 何故ならば、この辺りでは決して聞く筈の無い音が、三人の耳に入り込んだのだ。

 それは銃声、しかも、シルフィが使用している物よりもはるかに大きい物だ。

 聞きなれない音に、戸惑うシルフィとロゼであったが、アリサは違った。

 送り込まれたデータで何度も聞いた音、スレイヤーの一人、ジャックの愛用する454マグナムの銃声だ。

 銃声が無くなると、次は魔法で発生させた暴風に爆音が響き渡る。

 此れで、アリサは確信した。

 この先に、スレイヤーが居ると。


「ッ!」

「アリサ!?」


 アジトの有る場所から、更に異常な熱と、突如空に出現した複数の影を検知する。

 スレイヤーによる攻撃だとすると、この辺り一帯がどうなるのか解った物ではなく、急いでロゼとシルフィを自身の背後に立たせ、ボックスを巨大なシールドに変形させる。

 シールドの形成が完了すると同時に、ロゼとシルフィを自らの背後に立たせ、前方に巨大なシールドを構える。

 周辺にはフィールドを発生させ、抜かりなく防御態勢を敷き、此れから来る衝撃に備える。

 すると、まるで爆発でもあったかのように、熱風と爆音が響き渡り、アリサの展開するフィールドに襲い掛かる。

 周辺の木々がなぎ倒されるような熱風に襲われるが、アリサは踏ん張り、後ろの二人を守りぬく。


「何だ!?」

「何この魔法!?」

「スレイヤーです!」


 スレイヤーは現在、同じ武器や技を愛用する戦士は居ない、そして、そのどれもが、その辺の人間が真似できるような技でない。

 そうなると、この奥に居るのは、ジャック・スレイヤーである可能性が高い。

 ならば、レリアが妙な事さえしなければ、身の安全は保障される。

 爆風が収まり、数秒間が経過すると、地鳴りと熱風が発生する。

 これで確信する。

 間違い無く、ジャックが居る。

 そう考えると、シールドをすぐにアーマーへと切り替え、ブレードを引き抜いてアジトへと向かい出す。

 そして、アジトの前にできてある痕跡を目の当たりにする。

 大きく、広範囲にわたって焼け焦げた地面、強い踏み込みの跡、この二つが、スレイヤーの使用した技が何なのか、ある程度判別できる。


「(大量の薬きょうに、技二回、大方舐めプでこうなったと言った所か)」


 もしも、最初からジャックが本気で戦っていれば、この辺り一帯が吹き飛んでいただろう。

 だが、ジャックの耳であれば、既に自分達がこの近くに来ている事位は、認知していただろうから、最初から本気を出して、さっさと決着をつけていてもおかしくはない筈。

 そうしない理由の中で、わざわざ本気を出さなかった理由で、考えられるのは、子供が居る場合だ。

 彼女の子供好きは有名だ。

 だから子供を盾に使った作戦を行おうものであれば、基地そのものが消滅するほどの被害を出された事だってある。

 此処に子供が居るのであれば、巻き込まれない為にも、必要以上の力を使う事は無いのだ。


「……とすると、彼女はもうここに居ないか」


 一先ず、ここにレリアのみならず、子供まで居るのであれば、すぐにでも救出しなければならない。

 スレイヤーが居ないのであれば、後はレリアの安全を確保するだけで十分だ。

 ロゼの話の通り、戦場跡の近くにあった、洞穴内に入ったアリサは、熱探知以外の方法で、レリアと子供達を探し始める。

 周辺は、ジャックの戦闘によって、高温が維持されており、更には彼女から放出されたエーテルによって、レーダーの類も使えなくなっている。

 と成れば、音を頼りに動く他ないので、ソナーを駆使して、レリア達を探す。

 道中、罠の痕跡が見受けられたが、恐らくジャックの手によって壊されていたらしく、一つたりとも作動しなかった。

 そして、ようやくレリア達の居る檻へとたどり着くと、其処には何時にもまして神妙な顔つきで居るレリアが発見される。


「あら、アリサ、昨日ぶりね」

「あの、姫様、何か有ったのですか?」

「いえ、ただどうすれば今後戦争が起きない様にするにはどうすればいいのかと……後、ツッコミの居る幸せというのも、良く解ったわ」


 そのセリフを聞いた時、アリサは悟る。

 恐らく、レリアはジャックの前で、戦争とはどんなものなのかを尋ねたのだろう。

 あれからさして時間がかかっていない辺り、相当短縮した方法で彼女に説明したのだろう。


「(まぁ、彼女なら、あの方法で一方的に教えたって感じだろうな……それとレリア様、ツッコミ、お疲れ様です)」


 ジャックがどんな方法で話していたのか考えていると、後ろの方からロゼとシルフィも追いつき、何とか合流を果たす。

 そして、シルフィの存在を見たレリアは、急にシルフィへと抱き着くと、泣きながら喜びだしてしまう。


「ちょ、レリアさん!?何があったの?」

「シルフィさん、貴女本当にいい子です、ツッコミがあんなに大変だなんて!」

「本当に何があったの!?」

「あのジャックとかいう女、尋常じゃないレベルでボケ倒すものだから、本当に疲れたわ、ねぇ?良かったら、私の専属ツッコミメイドに成ってくれるかしら?」

「ツッコミメイドって何!?」


 涙を垂らしながら、シルフィに謎の勧誘をしだす。

 その発言を聞いたロゼは、自分はもう用済みなのかと、泣きつき出してしまう。

 そんな三人を無視しつつ、アリサは子供達の状態を確認、軽い脱水状態にあるが、それ以外は完全に健康体と言っても良いかもしれない。


「ツッコミをするエルフは良いエルフと聞いていたけど、貴女は本当にいい子よ、私が姫という身分を知っても、昨日今日の縁で来てくれるなんて」

「何!?そのエルフに対する偏見!」

「ロゼはツッコミ能力が足りないのよ、からかうのは楽しいけど、ツッコミにキレがないのよ!」

「姫様!?私のツッコミはそんなにキレがなかったでしょうか!?」

「今後どんな事が有ってもツッコめるように、優秀なツッコミ担当が欲しいと思っていたの、良かったら、私達と一緒に来ない?」

「姫様!?」

「え!そ、それは……」

「……」


 手を握ったりしながらぐいぐいと来るレリアに困り果てるシルフィは、チラリとアリサの方を見る。

 其処には、ちょっと不機嫌そうな雰囲気になっているアリサの姿があり、何時も一直線の口角も、地味に下がっている気がする。


「あ、アリサ?」

「何でしょう?」

「怒ってる?」

「……何のことでしょうか?」

「(なんか、いつも以上にツーンとしてる気が……)」

「それはそうと、子供達を解放させなければなりません、早く教会に話を」

「あ、そうだったわね、ロゼ」

「御意」


 レリアに命じられたロゼが教会から戻って来るまでの間、残った三人組は、子供達のお守りを開始した。


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