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子供好きも度が過ぎれば犯罪 後編

 時は少し遡り、スレイヤーことジャックは、マッドドッグサイエンティストに、トラックでドーンだYOされ、異世界へと放りだされた辺り。



 転移後、上空数百メートルに転送され、重力に従って落下、スーツの補助でどうにかなったのだが、不運にも、落下地点はゴブリンの集落、早速戦闘が始まった。

 ゴブリンどもを撃退し、情報とロマンを求めて、血のりと臓物まみれのまま町へと赴いた。

 衛兵に職質されたり、ナンパされたりされたが、適当に流して回避しつつ、テンプレ的な展開を期待したが、特にこれと言ったお約束も無く、時間が過ぎて行った。

 そして、何もないまま数日が経過し、酒場で声をかけられたガラの悪い男を一発でKOし、適当に飲んでいた。


「はぁ、異世界、思った以上に退屈だな」


 彼女が想像していた異世界は、もう少し殺伐とした空気が漂い、人間の手には負えないような化け物が屯している地獄のような所。

 しかし、ジャックが遭遇してきた魔物は、ゴブリンのような下級の魔物ばかりである。

 昔よく遊んでいたハンティングゲームに出て来るような、化け物と戦うのを期待していた彼女にとって、少し退屈な環境であった。

 多少のがっかり感を覚えながら、ジャックは煙草を吹かせだす。


「(後、そう言う化け物って、どういう味するのかも気になっていたんだがな~)」


 だが、冷静に考えてみれば、その理由は自ずと判明する。

 こんな民家の近くに、そんな化け物が居る訳がないのだ。

 もしもこの近くに居るとしたら、今頃周りで飲んでいる客たちは、そいつらに捕食されるか、蹂躙されている事だろう。

 もうこの際、バトルは目標のアンドロイドと戦うまでの間のお楽しみという事にして、犯罪的に不味い酒を傾ける。

 後はこの異世界へと来たもう一つの目的を果たすべく、行動に移そうと考えだす。


「(フム、やっぱりこんな場末の酒場じゃ、ロリは居ないか?……まぁ、せめて赤毛の小動物みたいな子が居るとよかったが)」


 その目的は、最低でも三人位は、ロリ娘と仲良くする事だ。

 異世界の酒場と聞いて、すぐに想像できるロリっ子を探し出すが、そんな都合のいい話があるわけ無く、周りには成人の男女しかいなかった。

 だが、どうしても諦めきれないジャックは、吹かせていた煙草の火を消し、テーブルの上で手を組み、耳を澄ました。


「(必殺、ロリロリセンサー!!)」


 ジャックの特技は、発生している音の全てを感じ取る事。

 能力をフル活用すれば、この近辺に居る人物を判別できるのである。

 本来は広範囲の索敵に使用する能力であるため、こんな用途はただの無駄遣いでしかない。

 その結果、後ろのカウンター席に一人、年齢は大体十三歳程のロリの音を検知する。


「(食べているのはクリームシチュー、飲み物はミルクか、ふふ、しかもエルフと来た、ロリババアでも、小さければOK!)」


 酒を一気に飲み干したジャックは、一目散に見つけた少女の元へと駆け付け、声をかけに行きだす。

 その速さは一秒にも満たず、わずかな時間でジャックは話しかけるしぐさ、セリフ、表情を、あらゆるパターンでシミュレート。

 おごるドリンクもしっかりと考えておいた。

 その結果、頬杖を立てつつ、澄ました笑みで話しかけた。

 典型的なチャラ男のナンパ風な感じである。


「やぁ、お嬢さん、俺といっぱt……一杯どうだい?」

「……」

「……」


 卑猥な言葉を言いかけ、すぐに戻したジャックが話かけたのは、出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる長身の女性だった。

 一応エルフである事に変わりは無く、食しているのもクリームシチュー、飲み物もミルク。

 ここまではジャックの読み通りであったが、外見はとても少女とは言えず、ジャックの予測からは完全に真逆の容姿を持っている。

 エルフの女性は、数秒間程フリーズ状態を維持した後に、ジャックへと向けた眼光は、今にも殺しにかかって来そうな瞳であった。

 一つ気に成るのは、額に大きな古傷が有る事だが、そんな事を気にしている場合では無かった。

 流石に能天気なジャックでも硬直し、大量の冷や汗をかいてしまっている。

 心境的には、青者の姉御にうっかり話しかけてしまったチンピラ、である。


「(あっるぇ~おっかすぃな~)」

「何?」

「え、え~っと~、まぁ、その、人違いでした~、あ、おじさん、お勘定、そ、それでは~」

「……」


 ぶつけられた眼光に圧倒され、ジャックは逃げるようにして店を飛び出した。

 店の扉を破壊しかねない勢いで飛び出たジャックは、道を歩き、少しずつ速度を速めだす。

 徐々に一般人ではとても出せないレベルの速度をたたき出し、民家の屋根に飛び乗り、そのまま町から脱出する。

 そのまま森の奥へ入って行き、洞穴の中へと入り込み、一息ついた。


「(ふぅ~む……アイツ、俺より強くねぇ?)」


 冷や汗を垂れ流し、異常なレベルで体を震わせながら、先ほどの金髪エルフの事を思い出す。

 一目見て、先ほどの女性が半端ない異常者で有る事を見抜いたジャックは、こうして洞穴の中まで逃げ込んだ。

 洞穴へと逃げ込んだ瞬間、安堵したジャックは、大量の冷や汗をかき、バクバクと鳴る心臓を必死に抑える。

 こんな心境になったのは、妹の七美が楽しみに取っていた限定販売のモンブランの上に乗っていた栗を、うっかり食べてしまった時位だ。


「……よし、任務続行、あんな奴と戦う機会なんて、先ず無い(まぁ、報告書には、注意・ツインテロリ魔王みたいな奴と出くわす危険性が有ります、って書こう)」



 ――――――


 現在


 ジャックが逃げ込んだ洞穴の奥にある盗賊団のアジトに入り込んだ後、黒づくめの謎のエルフと、ここの盗賊連中の怪しい取引を目にした。

 取引を見るのに夢中になっていたジャックは、背後から来た仲間に気付かず、後頭部に思い一撃を受けてしまう。

 ジャックは倒れそうなふりをしつつ、背後の仲間に一発入れ、暇だから来たと言って、自分からこの檻へと入って行った。


「そんで、ここの天使たちと出会って、しばらくここで暮らそうって事にした」

「天使って……」


 ここへ来た経緯を、ジャックは自身が異世界から来た事を包み隠しつつ、レリアに説明した。

 盗賊連中には、暇だからという理由を付けたが、実際は町で出くわしたエルフ少女に臆病風吹かれて逃げ込んだだけである。

 勿論、そんな事を知られる訳にはいかないので、そこも隠しつつ、説明した。


「お次はアンタだ、どこぞのご令嬢様」

「……私はカーミン・ロート、元貴族よ」

「……成程、俺は耳が良くてね、奥の部屋で頭目と何話したのかも、俺は聞いているから、それが嘘だって事、分かるぜ」

「……そう、それで、もう一つ聞いても良い?」

「何だ?」

「何をしているの?」


 金属音と、食材を焼く香りや音を響かせるジャックに、もう一つの質問を下す。

 ジャックは牢屋にぶち込まれているにも関わらず、当たり前のようにクッキングを行っている。

 しかも何処からとってきたのか、何かの魔物の肉に、ネギ、卵、ライスを、何処から持ってきたのか解らないデカ中華鍋で豪快に炒めている。

 火の方は、彼女の得意な炎魔法で発生させた超火力の炎を使っている。


「何って、飯だよ、この時間帯って、丁度腹減るじゃん」

「それはわかるけど、ここ盗賊のアジトなんだけど、何処からそんな材料持ってきたのよ?」

「決まってんだろ、外で、だよ、ここじゃ良質な豚肉も手に入らないからな」


 ここに居る子供たちの腹をしっかりと満たせる程の量のチャーハンを制作するジャックは、レリアの質問に答えだす。

 先ず檻のカギを壊し、見張りをKOし、歩哨もKO、町へ行き、食材を購入して、またここに戻ってきた。

 出来上がったチャーハンを盛り付けながら、呑気に解説するレリアは、体を小刻みに震わせだす。

 顔には青筋を浮かべ、口元はひくひくとケイレンしている。

 そりゃそうだろう、工程の一つに、外へ出るというのが有るのだから。


「ねぇ、貴女」

「何だ?まぁ、安心しろ、お前の分もある」

「そういう問題じゃなくて、四つ目の工程で貴女何してたの?」

「ん?町で買い物」

「その時子供たちも連れて行こうとは思わなかったの?」


 レリアの指摘に、ジャックはチャーハンを取り分ける手を止め、数秒後にはっと成り、我を取り戻して、一言叫んだ。


「その発想は無かった!!」

「その発想しかないでしょ!何考えてたの!?」

「子供たちの腹を満たす事だけ」

「立派だけど一番良いのは解放でしょう!?」

「成程、まぁ、一理ある」

「百理も千理もあるわよ」

「そうか、脱出プランも練っていたし、それで十分かと思ったんだが」

「……大丈夫なの?そのプラン」

「安心しろ、九十九パーセントのノリと雰囲気と、一パーセントの何かで考えた完璧なプランで、全員脱出させてやる」

「(一気に不安に成った)」

「そんな不安そうな顔をするな、俺は大人気ステルスアクションゲームシリーズ、その中でも特に神ゲーと言われている、カクレギア3の全難易度を本気でやった結果、称号すべてがCOWだったからな!」

 ※見つかりまくると貰える称号です


 何故だか解らないが、その一言で不安が爆発したレリアだった。

 もう諦め半分でレリアは子供たちと一緒に食事を開始する。

 レリアはとてつもなく不安に感じているが、一応実力の方は大丈夫だと確信していた。

 あの時に感じた殺意、あれは人間を十人や二十人殺した程度での物ではない。

 更に家からちょっと買い物に行く感覚で脱走し、子供たちに食事を振舞っている。

 ならば、たとえ計画に穴が有ろうとも、子供を全員救出することはできるかもしれない。

 加えて、恐らくロゼ達もこの事に気付いている筈、そしてロゼの嗅覚であれば、襲撃に使用した刺激物の匂いを辿り、此処まで追いかけるだろう。

 そして、あの二人も、ロゼの後に続いてくるはず。

 上手くいけば、五人でここに居る子供たち全員を解放することだって可能だ。

 嬉しそうにみんなでチャーハンを食べていたら、見張りが気付いたらしく、こちらを確認してくる。


「おい、さっきから何をしていやがる」

「(今気づいたの?)」

「あ、見張りさん、他の連中も呼んできてくれ、今アンタらの分も作るから」

「何でよ!?」

「解った、おーいお前ら!飯の時間だ!!」

「何!?私がおかしいの!?今までの見分まるっきり無意味だった!?」


 だが、どういう訳なのか、見張りは、他の仲間たちも呼び出し、食事会が始まってしまう。

 他の盗賊たちも檻の前にやってくると、彼ら全員にも、ジャックは特性のチャーハンを振舞う。

 この異様な光景に、レリアは首をかしげ、今まで自分が学んだ常識が、全て間違いなのでは?と、自分を見失い出してしまう。

 ジャックとしては、連邦軍人として、たとえ犯罪者であろうと、人道的配慮から、捕まった日からずっと、彼らに食事を振舞っていたのだ。

 という、単純に軍人としての働きを行っているだけである。



 それに、男所帯であることも在って、こういったアジトでの潜伏期間は、基本的に味気ない物ばかりになってしまう。

 こういった状況で、シンプルな味付けであっても、ちゃんとした料理にありつけるのは、彼らとしても嬉しい事だ。

 それから十数分後、ジャックの制作したチャーハンが無くなり、皆が食べ終わり、盗賊たちは、その場で眠りだしてしまった。

 実は作り直した時に、強烈な麻酔効果を持つキノコをぶち込んだので、睡眠薬マシマシのチャーハンと成ったのである。

 この卑怯なやり方に、流石のレリアもあきれ返ってしまう。


「やれやれ、知らん人から貰った物を食べるなと、親から教わらなかったのか?」

「(きったな)」

「さてと、まぁ、残りは外に出てるし、後は、頭目を眠らせて、あのパツキンエルフを黙らせれば、救出は完了だな、あ、それから。ちょっと良いか?」

「な、何?(凄い真剣な顔、まさか、今度こそ本当にまじめな話?)」


 計画を立てたジャックは、レリアに近寄ると、内緒の話があると、子供たちから離れだす。

 今回はふざけた様子は一切無く、かなり真剣に話を始める。


「あの子達の胸元、よく見ろ」

「……(なんて思った私がばかだったわ)」

「ふざけた話じゃねぇ」


 等と言ってきたので、とりあえず子供たちの胸元を見てみると、其処には謎のタトゥーが入れられている。

 それは、レリア自身も見たことの有る代物だった。

『奴隷の刻印』

 かつて奴隷に入れられた刺青のような物、魔力の籠ったインクを、体に塗りつけることで、対象の動きを完全に手中に収める物。

 奴隷制の撤廃が盛んになっている今のご時世では、滅多に見かける事の無い代物だ。


「あれは……」

「あれのせいで、子供たちはこの檻から出られないみたいだ、頭目どもを捕まえたら、教会の聖職者か何かに口添えを頼んでも良いか?二日前門前払いくらってな」

「……貴女、意外と考えているのね」

「まぁな、子供が死ぬのは、もう見たくねぇ……幸い、主導権はここの盗賊連中じゃねぇから、騒ぎに乗じて、何て事は無い、後は、代金だけだ」

「は!?子供たちからお金取る気!?」

「ああ、俺はビジネスで戦ってる、子供でもそれは例外じゃない」


 そう言ったジャックは、子供たちに支払いの話を始めだした。


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