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子供好きも度が過ぎれば犯罪 中編

 何処とも知れぬ洞穴の中で、レリアは目を覚ます。

 地べたに直接寝かせられるという扱いを受けていたと思えば、今度は目の前に柄の悪い男と、対面することに成る。

 明らかにマズイ事態でしかない。


「……随分、乱暴なおもてなしね」

「あー、レリア殿下、いきなりの無礼、あー、ゆるしてくれ、何分、急用だったもので、はぁ……(せっかく考えてた台本が台無しだ)」


 男はふんぞり返りながら、というよりは、疲労に犯され、ストレスにやられている感じである。

 身なりや、周囲の取り巻きが持つ武器には一貫性が無い辺り、山賊か盗賊の類で有る事は間違い無いだろう。

 腕は縄で拘束されているが、この程度であれば、すぐに抜け出せる自信はあるが、レリアはあえて不動を選択。

 頭目の背後に居る金髪のエルフ、二本のククリ刀を持つ彼女は、かなりの強者、歯向かったとしても、返り討ちに遭ってしまうと、自身の中の勘が告げている。

 最近戦闘はロゼに任せていたので、恐らく腕は鈍ってしまっている。

 ここは、素直に従っておく方が賢明だ。


「はぁ、怖い顔をするな、俺達は金さえ手に入ればそれで良いんだ」

「……その前に、聞いてもよろしいでしょうか?」

「何でしょう?」

「何故私の正体を?」


 レリアが質問する成り、周囲の取り巻きは、高らかに笑いだす。

 正体を知ったのは二日前、レリア達が泊っていた宿で響いた声を耳にした時だ。

 実は数日前から、レリアの存在には気づいていたのだが、その時に聞こえた言葉と、その後の会話で、レリア本人であるという事を認識した。


「……(どう考えてもアリサさんのせいね)」


 彼らの説明を聞いたレリアは、大声で正体をばらしたアリサには、罰としてシルフィとイチャコラしてもらおうと、心に決めた。

 それに、ロゼが苦手な刺激臭を宿中に振りまき、煙で視覚を奪ってからの拉致、かなり綿密に計画を練っている。

 彼らが随分前から狙ってたというのも、本当だろう、でなければ、最も警戒するべきロゼの弱点が、臭いである事を知っている辺りからもわかる。


「それで、頼みというのは、やはりお金なの?(しかし、どこから情報が漏れた?私がこうしている事を知っているのは、一部の元老院だけの筈)」

「それもあるが、こんな所に王族が居る、これを知られれば、はたしてどうなると思う?」

「……名誉、ですか」

「話が早くて助かる、はぁ、やっとまともな奴がきた」

「(盗賊がまともな奴って)」


 こんな人知れぬ洞窟に、王族が連れ去られてしまった。

 そんな事が知れ渡れば、王家に泥を塗り、護衛に失敗したロゼも、どうなるか容易く想像できる。

 オマケに、今回の件に関わっている二人は、問答無用で斬首刑だろう。

 それらが無くとも、こんな失態を口外されたくなければ、大金を払えという事位、簡単に想像できる。


「はぁ……おい、こちらのお姫様を、お部屋へお通ししろ、俺は寝る、マジ疲れた」

「あ、ああ、おい、早く立て」


 乱暴に縄を引っ張られ、無理矢理立たされたレリアは、メンバーの一人に連れられて、洞穴の更に奥へと連れられ、鉄格子の前に立たされる。

 そこで、レリアは信じられない光景を目の当たりにする。

 鉄格子の奥には、皆治療は施されては居るが、傷を負っている年端も行かぬ子供たちが十人近く収容されている。

 この光景を見て、レリアは思い出した。

 ギルドの掲示板に掛けられていた盗賊の襲撃、村から子供が大勢連れ去られた、という旨の文が書かれていた事を。

 恐らく、この子供たちは、その町から連れ出されたのだろう。

 流石に目立った事はできないと、見て見ぬふりをしていたが、まさかこんな所で犯人と出くわすとは思いもよらなかった。


「……この近くにある村を焼いたというのは?」

「俺達だ」

「子供たちを連れ去ったのも?」

「ああ」

「それと……あれは、えっと……何ですか?」


 怒りを抑えながら質問をするレリアは、最後に一番気になっていた問題を、盗賊に聞き出した。

 レリアの刺した指の先には、一人の女性が居り、鉄格子の中だというのに、やけに明るい表情を浮かべ、更には捕まっている女児を抱きかかえ、愛でている。

 愛でられている子供は、少し動揺はしているものの、まんざらでもない感じではある。

 容姿は、この辺りでは珍しい黒髪を、馬の尾のようにくくった、白い肌の少女。

 目を引くのは、つい最近知り合ったばかりの、アリサの着用している物と同じ、黒い突起の付いたスーツを着ている事。


「ああ~ここは天国だね~、いい子いい子~」

「……」

「あの」

「知らん」

「え?」

「なんか、暇だからって」

「……どういう事?」

「俺が聞きたい」


 盗賊は目をそらし、レリアの質問に適当に答えるが、本当に彼も知らないらしく、レリアは質問を止めてしまう。

 そして、レリアを連れてきた盗賊Aは、新入りだ、と、一言いうと、謎の女性は、レリアをじっと見つめだす。

 血の様に赤い瞳は、まるで、レリアが何ものであるかを、見極めようとしているようにも見える。

 その眼光で、かつての喧嘩生活で身についた野性の勘が告げだした。


「(こいつはやばい、やばすぎる)」


 もしも、今この状況で、短剣を携えていたら、レリアは反射的にそれを鞘からすぐにでも抜いていただろう。

 だが、そんな事をすれば、確実に首を取られていたかもしれない。

 数秒間、たった数秒間だというのに、その数秒が、まるで数時間に感じられる程に、押しつぶされそうな圧力をレリアは感じていた。

 だが、何故か一番近くに居る筈の子供達は、その覇気のような物の影響は受けて居ないらしく、平然としている。

 むしろ、何も怖い事なんてないのに、怯えているレリアに、疑問の顔すら向けてしまっている。

 その数秒後、子供を下ろした謎の女性は立ち上がり、先ほどのような猫なで声では無く、殺意の籠った声を発した。


「……なんだァ?てめェ」

「(……え?もしかして、私キレられてる?)」


 始めて会ったというのに、何故かそう思えて仕方がないレリアであった。

 暴れん坊時代の頃にも、彼女の様に挑発してくる雑魚は居たが、それとはまったく違う、無言の圧力だけで、圧倒されてしまう。

 だが、とっさに身構える。


 立ち上がったという事は、子供を抱いている時以上に自由であるという事だ。

 特に警戒するべきは、彼女の腰に差されている刀、それがどんな業物か知らないが、それを使えば、檻ごと切断される。

 そんな恐怖を覚えながら、檻の向こうに居る猛獣と向き合う。

 心臓が異常な速度で鼓動し、冷や汗も滝の如く流れ出る。

 檻の中に居るというのに、鉄格子がただの玩具にしか見えないうえに、この異常な殺意に、見張りの盗賊Bも同行しているAも、恐怖におののいている。


「そ、それじゃぁな~」

「あ!逃げた!」


 厄介事に巻き込まれたくないのか、レリアを連れて来た盗賊は、外でブルブル震えている見張りを残して、逃げるように戻って行った。

 おかげで、呼吸さえ難しい位、重たい空気の中に残されてしまうという事態に発展してしまう。

 心なしか、洞穴の中の温度が上がっている気がする。

 まるで、彼女の怒りに比例しているかのように……

 何をそんなに怒っているのだろうか?そしてこのような化け物を、あの盗賊たちは、如何にして捕らえたのか。

 レリアはとてつもなく気になって仕方がなかった。


「あの」

「あ?」

「何をそんなにお怒りに?」

「……決まっているだろ」


 女性は、自身が怒っている理由も解らないのか?とでも言いたげな表情を浮かべると、子供たちを後ろに下げさせ、腰のポーチから、白い棒を一本取り出し、火をつけた。

 燃えだした白い棒を吸い、息を吐いた時に、白い煙が出た所を見ると、煙草の一種であることが解る。

 煙草を持ちながら近づいて来た女性は、口に溜まっている煙を吐き出すと、怒りの理由を述べる。


「お前みたいなババアが、この無邪気の園を汚してきたからだろうが!害虫女!!」

「初対面に滅茶苦茶失礼ね!!」


 姫として生を受け、その半分を喧嘩に費やしたとはいえ、初対面でいきなりここまでの暴言を吐かれたのは初めてである。

 だが、本人は自分が悪いとは思ってないらしく、当たり前のように言い返してくる。


「失礼?失礼はキサマだろうが!このロリ空間に、二十歳以上の女がいるとか、不快極まりないわ!!」

「貴女頭どうかしてるの!?」


 二人が言い争っていると、後ろに下げられていた子供たちが、女性に群がりだし、何か怒り出した。


「お姉ちゃん、なかまはずれはダメ」

「う」

「このお姉さんもいれてあげよう」

「ドム」

「それと、そのモクモクも、ここじゃすわないって、やくそくしたでしょ」

「グフ」

「ちゃんと、ごめんなさいしてね」

「ゴッグ」


 レリアから見れば、少女たちからの言葉の数だけ、女性の胸に剣が突き刺さっているように見え、まるで本当に刺されたように、女性は倒れこんでしまう。

 数秒間悶絶すると、女性は手袋を外し、手の甲に煙草を押し付けながら、レリアに急接近する。


「この度は申し訳ございません!!」

「手!手ぇ大丈夫!?」

「大丈夫!溶けた鉛を頭からかけられたよりは全然平気だ!」

「何で生きているのよ!?」


 根性焼きをしながら謝る女性は、子供たちに言われた通りに、レリアに謝るが、とてつもなく怒っているような表情を浮かべているので、誠意は感じられなかった。

 そして、謝った女性は、怒っていた子供たちに、寄って行くと、レリアの時よりもよりも深々と頭を下げだす。

 すると、ちゃんと謝れたと、ご褒美と称して、何人かの女児たちに頭を撫でられると、恍惚な笑みを浮かべて卒倒した。


「ありがとうございまひゅ~」

「……何なの?この人」

「……何時もこんな感じだ、早い所入ってくれ」

「嫌よ、こんな変態の居る牢屋……他に無いの?」

「無い」

「……あの頭目が、何であんなに疲れていたのか、解ったわ」


 渋々と檻の中へと入ったレリアは、子供達に撫でられて、夢心地となっている女性を見る。

 先ほどまで発していた圧倒的な覇気は、一切感じられず、室温も徐々に下がりだしている。

 とりあえず、自分には手をだしてはこないだろうというのは、先ほどの彼女の発言から解る。

 ただ、何故彼女程の実力者が、どうしてこんな所で子供達と戯れているのだろうか?

 彼女程の実力があれば、あの用心棒らしきエルフも、倒せるのかもしれない。


「(もしくは、あれだけの実力を持っていたとしても、あのエルフには及ばないという事なの?その通りであったとすれば、ロゼやアリサであっても、救出は困難かもしれないわね)」

「ここを、こうして編むと……ほら、ハシゴができるよ~」

「わぁ」

「すっげぇ」

「ねぇ、ねぇ、他には?他には?」

「待っていなさい、お姉ちゃんがすぐに教えてあげるからね~」

「……(呑気すぎる)」


 目の前で呑気に毛糸をいじる彼女は、とても捕まっている自覚が有るようには見えないが、少なくとも、こんな所に閉じ込められている子供達からすれば、光のような存在だ。

 彼女の遊びに、男女問わず、興味を示しており、捕まっているようには見えない程、明るく振舞っている。

 彼女が何故こんな所に居るのか、なおさら気に成る。


「ね、ねぇ」

「……なんだ?」

「あの、貴女はどうしてここに居るの?あのエルフにでも捕まったの?」

「……は?どうやって負けるんだよ、あんな雑魚」

「は?」


 レリアは一瞬だけ耳を疑った。

 目の前に居る変態は、あのエルフの事を雑魚と言った。

 しかもキョトンとした態度を取り、なおかつ真顔で返事をしている辺り、本気で言っているのだろう。

 要するに、彼女は此処からいつでも出られるような状態にあるという事でもある。

 とりあえず、気に成ったので、レリアは此処に来ることに成った経緯を訪ねる。


「じゃ、じゃぁ、何でこんな所に?」

「なんだぁ?そんなに知りたいのか?いいだろう、教えてやる……そう、あれは十年前の……」

「どこまで遡るつもり?」

「冗談だ、そうあれは……何年前だったか、そう、死体転がる廃墟で、俺は運命の出会いを……」

「真面目に話して」

「解った、まじめに話す、えっとな、確か三日前の事なんだが……ホワンホワンホワン」

「よくある回想の効果音自分で言わないでちょうだい」


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