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大事な家族とは、定期的なやり取りを 後編

「ん、トイレ」


 急な尿意で目を覚ましたシルフィは、バックパックから取り出した懐中電灯片手に、トイレへと向かい、用をたした。

 眠気がまだ残る中で、トイレから部屋に戻る途中、酔いも大体冷めてきた事を感じていた。

 同時に、何かとてつもなく恥ずかしいやり取りをアリサとしていた気がしたが、思い出せる程頭が回らなかった。


「ん?アンタは」

「あ、ロゼさん」


 ウトウトとしながら、部屋へと戻っていると、ロゼとばったり出くわし、わずかな眠気も、すぐに消えてしまった。

 不気味な周辺の雰囲気と、ロゼの強面が合わさり、かなり怖い絵面となっているものの、頭から生えるウサギの耳が、それを緩和してくれている。

 対面した二人は、その場でじっとするだけで、これといって会話を挟む様子は無かった。

 出会ったばかり、という事も有るのだが、そもそも他人と話すことに、まだ慣れていないシルフィと、人付き合いの苦手なロゼ、という組み合わせのせいでもある。

 そのせいで、お互いに会釈しただけで、間を持たせようにも、非常に重たい空気が漂ってしまっている。


「……一先ず、どいてくれるか?漏れそうだ」

「あ、ごめんなさい」


――――――


 数分後

 とりあえず、尿意を解消したロゼに、シルフィは待機中に考えていた話題を持ち出した。

 それは、ロゼとレリアの関係である。

 なんの前置きも無く、突然二人は付き合っているのかと、訪ねたおかげで、ロゼは慌てふためく事になった。


「えっと、ロゼさんて、カーミンさんの事、好きなの?」

「わ、私と姫様は、そんな関係ではない!戯れ言を言うな!」

「え、でも、レリア様と居る時、何時も視線がいやらしいし」

「ぐ」

「近寄られると、顔赤くするし、脈も上がるし」

「ウグアッ」

「あと、鼻も近寄ってる時の方が、活発に動くし」

「止めてくれ!頼む!それから誰にもいうな!」


 顔を真っ赤に染めたロゼは、慌ててシルフィを黙らせ、このことを誰にも言わない様に口止めした。

 だが、シルフィからしたら、バレバレなのに隠しておく意味は有るのだろうか?と言った所である。


 そして、二人は場所を宿屋の屋根の上に移動し、月を見上げながら話を始める。

 しかし、騎士の身分でありながら、レリアに恋をしている。

 という事を知られたロゼは、再び顔を真っ赤に染め上げてしまう。


「騎士ともあろうものが、一国の姫にこのような大胆な……くッ、殺せ!」

「殺さないから」

「良いか!この事は誰にも言うな!」

「わ、わかったよ、でも、その代わり、一つ聞いていい?」


 顔を真っ赤にしながら、自殺を懇願しだしているロゼをなだめたシルフィは、さっそく本題に移りだす。

 従者が、仕えている主人に、恋をする。

 こうなった場合、二人の関係は、どうなってしまうのか、それがシルフィの聞きたい事であった。

 シルフィが密かに思いを寄せる少女、アリサは、恐らく今は亡き主人である、ヒューリーに、未だに想いを寄せている。

 従者と主人、この二人の関係が実る事が有るのか、従者側は、どのような感情なのか、当事者のロゼに、ぜひとも聞いてみたかった。


「その、やっぱり、主従関係でも、一緒になりたいって、思うものなの?」

「……そんな事言われてもな、先ず、身分が違う、という時点で、この思いが実る事は無い、実るとしたら、主人が追放されるなりしても、一緒に居る場合、だな、もしくは、主人の方から、そう言う話を持ち掛けられる位だ、ただし、両者とも、滅多に無いと思った方が良い」

「そっか、そうだよね」


 ロゼからしてみれば、身分違いの時点で、レリアへの思いは諦めていると言っても過言ではない。

 二人の間を隔てる身分という壁、これが無くなりさえすれば、両思いであった場合に、恋が実る可能性はある。

 もしくは、限りなく可能性の低い方向の可能性として、主人の方から、告白を受ける場合。



 しかし、この世界においては、従者を雇えるほどの経済力や、立場を持っているとすれば、自らの家柄を重要視し、身分の釣り合う者同士が婚姻を行う。

 仮に、レリアからロゼへ婚姻の話が持ち掛けられたとしても、王族である以上、関係を継続させるためには、身分を捨てるしかない。

 その前に、ロゼの首が社会的に飛ぶか、物理的に飛ぶかの話が持ち掛けられても、おかしくはないのだ。

 だからこそ、ロゼは自分とレリアの為にも、その想いを心の奥底へとしまっている。

 そんな話を聞いたシルフィは、更に厄介な状況に成ったと、内心考えていた。


「(アリサの想いは、本当に成就することは無い、でも……)」


 ヒューリーはもう死んでいるし、身分の違いが有るのだから、諦めて欲しい。

 そんな風に、アリサの弱みに付け込もうと、チラリと考えたが、そんな事はしたくなかった。

 横に居るロゼが、とてつもなく悲しそうな表情を浮かべてしまった所を見ると、とてもそんな事をしようとは、思えなかった。

 アリサが森から出してくれたおかげで、シルフィは自分の世界をより広げる事ができた。

 まだ知らない事や、見た事も無い物を見るチャンス、様々な種族と触れ合う機会を、アリサは与えてくれた。

 弱みに付け込んで、自分と付き合え、なんて事をすれば、アリサから貰った恩の全てを仇で返してしまう。


「(どうすればいいのかな?あの子に振り向いてもらうには)」


 アリサに振り向いてもらう事は、本当に難しい事であると、シルフィは再認識することとなってしまった。


「大丈夫か?」

「え、あ……うん、大丈夫」

「そうか、ならいい」

「あのさ、改めて聞いていい?」

「なんだ?」

「ロゼさんが、カーミンさんの事好きに成った理由って?」

「ああ、そう言えば、その話から始まったんだったな……好き成った理由か」


 パレードなどで、何度か見かけているうちに、その美しさのとりこに成った。

 ロゼがレリアの事を好きに成った最初の理由は、それであった。

 暫くして、駐屯先の砦で働いていたら、パレードで見かけていたレリアとは、正反対の彼女と出会い、剣を交えた。

 何とか勝利をおさめ、更にしばらくした後に、レリアお付きの騎士として、仕える事に成った。

 それから、陰でレリアの活躍をずっと見てきた。

 近衛たちの話では、砦で見た時のように、かなりの暴れん坊だったらしいが、そんな話が嘘のように、レリアは立派に姫としての役職を果たしていた。



 それからさらに時間が経ち、レリアの口から、一緒に旅へ出ようという提案が出た。

 目的は、国内の視察である。

 元はただの平民であったロゼの意見を伺いながらであれば、より効率よく、民の暮らしを知ることができるという理由で、抜擢された。

 そうして、各所を回り、レリアは実際に目にする事になった。



 温室でヌクヌク育っていたら、決して知りえない民たちの事実。

 必要以上の税を徴収される民、種族や文化の違いで生まれる小さな争い、魔物や盗賊のせいで、焼かれてしまった村等。

 特に、レリアが気になっていたのは、盗賊団によって、村や集落で、略奪などの被害が出ている事だった。

 この辺りでも、数日前に村が焼かれ、何人かの村民は連れ去られてしまった事には、レリアは憤りを感じていた。


「……まるであの人の気持ちが解ってるみたいだけど、何で?」

「私は鼻が利く、だからある程度他人の考えている事が解るんだよ」

「……ウサギって、耳じゃ?」

「鼻も利くんだよ、普通のウサギだって……よく鼻ピクピク動かしてるだろ?」

「あ~、あれ、可愛い仕草だから、見た時、狩る時少し躊躇しちゃうよね、食べるのにも、結構罪悪感凄いし」

「……なぁ、できれば、ウサギを食う話はやめてくれるか」

「え?何で?」

「私がエルフを食う話をしたら、どう思う?」

「……ごめんなさい」


 ロゼの特技やうんちく、これまでの旅路を聞き、少し話題を逸れてしまったが、ロゼが何故、レリアの事を好きに成ったのか、その話に戻る。

 途中からただのレリアの自慢話となってしまった為、経緯等は聞かず、シンプルイズベストで、好きに成った理由を聞いてみる。


「で、結局なんで好きになったの?」

「……匂い、だな」

「匂い?」


 シルフィからすれば、なんとも訳の分からない理由だった。

 先ほど、ロゼの口から言われたように、嗅いだ匂いで、ロゼは他人の考えがある程度わかる。

 しかし、ロゼの種族であるラビット族には、彼女程の嗅覚を持つ同胞は存在しない。

 幼いころから持っていたその能力のせいで、人の裏側の気持ちまでわかってしまい、周囲の人間を信じる事ができずにいた。

 ロゼの周りに居た同族たちは、彼女の能力を知る成り、不気味に感じ、徴兵の際には、町はずれの砦に派遣される事になっても、良い厄介払いができたと、反対する者は居なかった。



 そして、敗北を知ろうとして、砦を訪れたレリアに出逢い、その匂いを嗅ぐなり、彼女に惹かれるようになった。

 寂しい、そんな匂いが、ロゼの鼻を刺激したのだ。

 姫ともなれば、必然的に人間関係は非常に硬くなる。

 幼いレリアにとって、友達と遊ぶ機会なんて無いに等しい環境では、寂しくなるのも頷けてしまう。

 お付きとなってからは、レリアの寂しいという気持ちは、すっかり無くなり、姫として、しっかりと勤めを果たすようになった。

 だが、権力者というのは、後ろめたい事を考える者が多い為、まるで生ごみの中にぶち込まれたような気持ちに、ロゼは成っていた。

 そんな中にあっても、レリアだけは、純真でまっすぐな思いを掲げていた。

 それが消臭剤のような役目を担ってくれたおかげで、彼女の近くに居るだけで、心が安らぐのだ。


「つまり、表も裏も、すてきな人だから、好きに成れたの?」

「ああ、この人の為ならば、私は、死ぬことができると、初めておもえたのさ」


 柔らかな笑みを浮かべるロゼを見て、シルフィは思う、本当にロゼは、レリアの事が好きなのだと。


 ――――


「(帰りが遅いから、気になって探してみれば、何でロゼと一緒に?)」


 同時刻、アリサはシルフィの帰りが遅い事が気になって、探してみれば、何とロゼと一緒に談笑している場面を、アリサは見つけてしまった。

 二人は何故か気が合うのか、普通のガールズトークをしているように見える。


「(……なんだろう、またあのモヤモヤが)」


 ある程度の会話を行えるアンドロイドであるアリサであるが、そもそも口下手なシルフィとは、滅多な事で話すことは無い。

 余計な事は話さない、と言えば聞こえは良いかもしれないが、シルフィからの情報収集の必要が無くなってしまい、話題が無いのだ。

 そのせいもあってか、町を出て、ここに来るまでに話したことと言えば、魔法関連の話題程度だ。

 老人たちの会話や、会社の同僚連中との会話で、何を話せばいいのか、ある程度は解って居るつもりであったが、最近は何を話せばいいのか、分からなくなってきた。


「(だが、このまま彼女と仲良くなっても、結局は、別れることになるのだから、必要以上に仲良くなる必要は……無いよな、早いところ、このモヤモヤとも別れたい、不愉快だ)」


 何とかモヤモヤを抑えようと、そんな事を自分に言い聞かせていると、宿一帯が煙で覆われだした。


「何だ?」


 こんな時に敵襲かと思い、ブレードを手にして辺りを警戒する。

 視界が無くなる程の濃度を持つ煙であるが、アンドロイドであるアリサには一切効果の無い攻撃だ。

 赤外線や暗視装置を駆使し、辺りを見渡しているが、特にエルフらしい姿は見えず、苦しんでいるシルフィとロゼ位しか、認識できない。


「苦しんでる?」


 よく見れば、煙を吸ったロゼとシルフィが、何やら悶絶している事に、アリサは気が付き、すぐに駆け寄った。


「大丈夫ですか?」

「ゴメン、ちょっと、無理」


 二人の症状は、顔を青ざめ、吐き気を催して、行動不能状態と成っていた。

 ロゼに至っては、夕食と胃酸の全てをぶちまけかねない勢いで吐いている。

 ただの煙ではない事は、分かった、後は何が含まれているかが問題だ。

 煙の成分をスキャンしてみると、かなり刺激の有る匂い成分が大量に含まれている事が判明した。

 感覚の鋭いエルフが少しでも嗅げば、すぐに行動不能になってしまうだろう。

 宿の中でも、匂いで起きた客たちが、バタバタと慌てているのが良く解る。

 この混乱に乗じて、こちらを暗殺する算段だと考えたアリサは、ロゼとシルフィを庇うようにして、警戒を開始する。


「(だが、一向に攻めが来ない、何を考えている?)」


 疑問に思っていると、突如吹き荒れた強風と共に煙は晴れ、何の気配も無く、ただ単に激臭のする煙と、謎の風が吹いた程度だ。

 ただのいたずらかと、アリサは考えていると、少し嫌な予感が過ぎった。

 この宿で、このような事をして狙われる危険性のある存在と言えば、アリサかシルフィ、そしてもう一人居ることに、アリサは気が付いた。


「まさか、姫様が狙い?」


 アリサの予想は、当たっていた。

 この騒ぎに乗じて、レリアは何者かによって連れ去られていた事を、アリサ達は数分後に知る事になる。



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