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目上の人との交流は、神経を使う 後編

 約束の時間となり、集合場所である服屋へと赴いた。

 きちんとした格好になる為の服を持っていなかったアリサは、仕方がなく、その上にマントを羽織るという、ほとんど何時もと変わらない服装で、出向く事になってしまう。

 だが、レリアはアリサの恰好には特に言及しなかった。

 何も言及しなかったのは、現在のレリアはお忍びの状態であるから、というのが起因しているようだ。

 今の彼女は、ただのカーミン・ロートという一人の少女。

 実際レリアも、とても姫君が着用するとは思えないような服装をしている。


 それどころか。


「別にそんな気を使わなくても良かったのよ」


 等と、あっさりとした発言までされてしまった。

 気苦労が全て無駄に成った事に、アリサは消沈する結果と成ったが、マイペースなお姫様のテンションに流され、重い足取りで店へと入る。


――――――


 到着した店は、レリアがこの町に来てから少し気になっていた店らしく、誘ってきた本人もかなり楽しみにしていた。

 この町の中では、それなりに大きな店舗で、品ぞろえも悪くは無く、普通の私服から、防具まで、多種多様な品ぞろえの店である。

 そんな店に足を踏み入れたシルフィは、目を丸くした。


 里に有る服屋と言えば、その辺の駄菓子屋程度の広さしかなく、品にいたっては、見飽きてしまう程の単調な物しかない。

 だから一部の女性陣は、基本的に服は自作する事が多い。

 加えて、自作した服や装飾を、フリーマーケットじみた催しで、販売して、日々の生活のたしにすることもある。

 故に、今目の前に広がる様々な服装を前に、シルフィは唖然としてしまっていた。


「こんなに、有るの?」

「あら?こういった場所は初めて?」

「うん」

「(まぁ、あの里の規模からして、そうだろうな)」


 まるでおもちゃ売り場に来た子供のように、はしゃぐシルフィの姿を面白がりながら、レリアは一緒に見てまわる。

 ただ、気になってしまうのは、現在のアリサの立ち居振る舞い。

 今の彼女は、完全に従者のような感じになっている。

 ロゼからすれば、自分のポジションを奪われたような気がしてならないといった具合に、なんともいえぬ気分になってしまっている。


「……」

「(この子、従者だったのかしら?)」


 アリサの従者らしい振る舞いに、レリアは彼女の過去に首を突っ込みかけるが、ここはあえて聞かなかった。

 そんな二人の様子を、気にも止めることも無く、シルフィは周辺の服を片っ端から見て回っていた。

 町に出てから、色々な服装を着ている人達を目の当たりにしてはいたものの、ここまでの種類を、ゆっくりと見るのは初めてであるからだろう。

 色々と見て回っていると、一際目立つ服が、シルフィの目に留まる。


「(なんだろ、これ)」

「おや、和服まで有るんですね、この店」

「ええ、どうやら色々な国の服を取り揃えているようね」


 いつの間にか追いついていたレリアも、シルフィが目にしている和服に、注目する。

 この大陸から東側に位置している国には、日本のような文化を持つ国が存在している。

 大陸外との交渉の為に、何度か会合を開いた際、訪れる側にもなった事が有るレリアからすれば、見慣れている代物だ。

 だが、シルフィからしてみれば、物珍しいことこの上ない。

 和服を物珍しそうに見ているシルフィに、レリアは近寄ると、耳打ちをする。


「試着してみる?」

「え?」

「可愛い服装で、あの子の視線を釘付けにしたいと思わない?あの子、和服に反応してるし」

「そ、それは……はい」

「じゃぁ決まり、この緑の奴なんて良いじゃないかしら?」

「試着をご消耗でしたら、お手伝いいたしますよ」

「大丈夫、こう見えて気付けは覚えているの」


 顔を赤らめながら了承したシルフィを、レリア自身が選んだ和服と一緒に、試着室へと入り込んだ二人は、その中で着替えを始める。

 勝手がわからない事を懸念したアリサも、手伝う事を申し出るが、レリアに断れてしまう。

 どうやらレリアは、現地の人間から着つけのやり方を教わっていたらしく、特にこれと言った問題は無いらしい。

 二人が着替え終わるまでの間、待機するロゼはアリサに質問を投げかける。


「……初めて会った時から気になっていたことが有る」

「何でしょう?」

「お前はゴーレムか?それとも、マリオネットか?」

「……何故そう思うのです?」

「……匂いだ、お前の匂いは、とても人間の物とは思えない、オマケに、何を考えているかも読めない、難しいだけ、という事もあるが、こんなのは初めてだ」


 ロゼの言葉を聞いた瞬間、アリサは腰のブレードに手を当てた。

 アラクネ以外の存在が、自分の事を生物ではない何かであると、知られた。

 もし彼女が口外すれば、自分が人ならざる者であるという事を、シルフィに知られてしまう。

 それを危険視し、脅しの為に抜刀しようとした。

 その瞬間。


「ッ!?」

「安心しろ、誰にも言ったりはしない、かすかだが香る、誰にも知られたくないという匂いが、だが、その剣を後一ミリでも抜けば、首を飛ばす」


 気付いたころには、アリサの首にロゼの愛刀の刃が触れていた。

 普通の人間が相手なのであれば、彼女の気分次第で即刻首を刎ねていただろう。

 しかも、剣を持つロゼの瞳は、奈落の底のような目をしており、殺す事には何の躊躇も無い、死神とでも形容できそうな瞳だ。

 アリサは思う。


「(何だ?こいつ)」


 明らかに初めて会った時や、酒場での彼女とは別人と言っても良い程に、ロゼの雰囲気は違っていた。

 スレイヤーを倒すべく、幾千幾万という戦闘データを組み込んできたというのに、この失態はいかんともしがたい。

 下手をすれば、脊髄の役割を持つ金属骨格諸共、切り落とされてもおかしくはなかった。

 だが、二人はこんな所で斬り合うのも、一向にかまわん、というような考えを持たないこともあって、すぐに剣を納める。


「賢明、というよりは、私が話さなければいいだけか」

「ええ(初めて会った時から思っていた、この女、スレイヤーと同等か?)」

「安心しろ、お前が姫様、いや、カーミン様に手を出さなければ、私はこの秘密を守ろう、私の騎士道に誓って」

「……お気遣い感謝します」

「ほら、終ったわよ~」


 二人のいざこざが終わると、緑ベースの和服を着込んだシルフィが、試着室の中からレリアと共に出て来たので、二人も傍に寄る。

 着なれない和服に戸惑いながらも、シルフィは頬を赤らめながら、アリサを見る。

 和服を着たエルフは、アリサの世界では珍しくはないとはいえ、この世界では随分と異例な格好ではある。


「なかなか似合うではありませんか、流石ですh、カーミン様」

「ロゼ、私では無くて、彼女を褒めなさい」

「いえ、私は貴女以外の女性は、全員同じに見えますので、違いが判りません」


 デリカシーに欠けるロゼの発言に、カチンと来たレリアは、ロゼの顔面に一発入れ、KOさせる。

 というような、とても姫君とそのお付きの騎士のやり取りには見えないやり取りを、シルフィは無視しつつ、一番意見の聞きたいアリサに訊ねる。

 両袖の端をもちながら、着つけてくれた着物を、アリサに見せつける。


「ね、ねぇ、如何かな?」

「フム、まぁ、そうですね、似合うには似合うのですが、何かが足りないですね……」


 何かが足りないと言って、アリサは辺りを見渡すと、その辺に有ったぬいぐるみと、ボックスから生成したお盆二枚と湯呑二つを、シルフィに渡す。

 湯呑を乗せたお盆を、シルフィの両手に一枚ずつのせ、頭に黒いウサギのぬいぐるみを乗せると、すっきりしたらしく、アリサは納得したように肯く。

 両手に湯呑の乗ったお盆、頭にはウサギのぬいぐるみ、周りの連中からしてみれば、何の恰好だと言った所である。


「ねぇ、何?この恰好」

「マスターの推しキャラの一人です、似た格好をしていたので、つい」

「(う、またマスターさんの話)」


 とりあえず、アリサがなぜこのような格好をしたのか解ったのは良いが、それがシルフィからした恋敵であるマスターの話になってしまう事に、シルフィは胸を痛める。

 その横でやり取りを見ていたレリアは、二人の仲が進展するのは、当分先であるという事実に、頭を抱えてしまう。

 色々とマズイ空気が形成されてしまうが、アリサはそんな事を気にすることなく、さらなる爆弾発言をする。


「後は、こちらをどうぞ」

「何それ?」


 アリサがシルフィに渡したのは、女性用の胸パッド、今アリサ達が居るところから其処まで遠くない所に売られている。

 アリサが持ってきたのは、三カップ程アップするお試し用の物だ。

 どんなものなのか、レリアがシルフィに耳打ちで教えた瞬間、シルフィは顔に筋を浮かべ、あからさまに怒りを表する。


「マスターの推しキャラは、もう少し有りますから」


 等と、笑顔で意味不明な供述をしたために、顔を真っ赤に染めたシルフィは、アリサの顔面に平手打ちを決めた。


「どうせ私は妹だけじゃなくて、貴女より小さいよ!!」


 と、怒りの一撃に、アリサは吹き飛ばされていった。

 もしレリアの様にグーでやっていたら、頭部の金属骨格で手の骨を全て折っていたかもしれない。

 怒りから肩で呼吸しているシルフィに、レリアは耳打ちをする。

 聞きたいのは、アリサの好み等をどこまで熟知しているかと、シルフィ自身、どのような事で自分をアピールできるのか、である。

 もう少し仲を深めたいのであれば、やはり相手の好みなどを知っておいた方が良いし、より自分が魅力的であるのか、アピールポイントを目立たせた方が良いのだ。


「貴女、料理とかは?できるの?」

「え、えっと、人並み程度にはできるかな」

「じゃぁ、掃除とか、面倒くさいとか、思ったりしてる?」

「え、あ、その、ちょっとね」

「……」


 アリサとロゼが起き上がるまでに、レリアはシルフィに色々と問いただしてみる。

 その結果、家事関連は本人的に面倒に感じている節の有る返答が大半を占めていた。

 やはり、家事などは、お互いにできた方が良いと、レリアは考えている。



 レリアとロゼの二人は、旅を始めてから、家事の類に苦戦していた。

 ロゼは元民間人で、洗濯や掃除なんかはある程度できるのだが、料理の方は、魔物の肉を焼くだけで、それ以上の事はできない。

 レリア自身も、身の回りの事は、大体侍女や従者にやらせていた、というより、やられていた環境で育っていた為、家事の心得は皆無に等しい。

 旅の最中でも、レリアは最低限の家事は覚えたが、そっちの方向では、やはりロゼに頼りっきりである。

 それではいけないと言うのは、嫌でもわかってしまう。

 だからこそ、家事はお互いでカバーしあえる関係の方が、仲も深まりやすいだろうから、面倒には思わない方が良いと、レリアはシルフィに伝える。


「面倒でも、家事とかできる所をアピールすれば、もう少し家事を頑張ってみたらどう?」

「……あの、別に嫌ではないよ」

「え?」

「それに、面倒だからやらないって言うのは、個人的にちょっとヤダな」

「どういう事?」

「だって、掃除をやらないと、部屋が汚れて、もっと面倒になるし、洗濯だって溜まるともっと面倒になるし、そうなるのは嫌だから、面倒でもちゃんとやってる」

「そ、そうなの(しっかりしているのか、していないのか)じゃ、じゃぁ、もう一つ質問いい?貴女はあの子の事、どれくらい知っているの?」

「……どれくらい」


 一応、家事の方ではシルフィは問題ないというのはわかったが、次にレリアが質問したのは、アリサをどのくらい知っているのか、という事。



 この質問には、シルフィ自身、どう答えればいいのか、解らない部分が多い。

 そのせいで、シルフィはすっかり黙ってしまった。

 何しろ、出会ってまだ一か月も経過していないのだ。

 アラクネからは、アリサの正体がアンドロイドである事実を告げられたが、はっきり言ってそのくらいだ。

 種族が判明しただけで、本名はもちろん、どんな理念を持っているのかさえ、解らない。

 いや、厳密にいうと、彼女の行動理念は、今は亡きマスターからの命令を遂行する事。



 命令を遂行するという一心だけ、町を守ろうという部分は、きっとヒューリーからの命令の一環だから、彼女の意思ではないのだ。

 アリサが心から何かをしたい、そう言った行動が見られない。

 救えと命令されているから、町の復興に手を貸し、町に被害が出ない様に行動する。

 そして今も、向かえと言われているから、目的地へと向かっている。


「(それから、私を鍛えているのは、自身の目的の為、つまり、彼女の意思ではない)」

「えっと、何か有ったの?」


 真剣な顔つきで悩むシルフィに、レリアは心配するが、苦い顔でシルフィは首を横に振った。

 シルフィからすれば、アリサの力に成れれば、それで良いのだ。


「何もない、何もないけど、あの子の事、もっと知りたいとは思ってる」

「……あの子に伝えたい事があるなら、言える時に言っておきなさい、人間なんて、寿命以外で死ぬ要素なんていくらでもあるんだから」

「……ありがとう、カーミンさん」

「……湿っぽい空気に成ったわね、さ、あのバカ二人は置いておいて、次を見に行きましょう」


 湿っぽい空気になってしまったが、気分転換を行うべく、和服を戻したシルフィを連れて、レリアは次の服を見に行った。


「(バカって、姫様ぁ~)」

「(なんだ、このモヤモヤした感じ)」


 おいて行かれた二人は、片やバカと言われ涙目になり、もう片方は、モヤモヤした気持ちになっていた。


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