新たな旅立ちには、新たな仲間を添えて 後編
次の町へと移動を続けていたアリサとシルフィは、エルフの里から極力離れた位置の森の中で、手ごろなブロッサム達を集めていた。
長時間森に居ては、彼らに見つかる危険性があるので、狩りを終えれば、すぐに草原に出て、彼らの神経を逆なでして、種を乱射させる。
この訓練を続けているのだが、まだシルフィは、恐怖がぬぐえないようだ。
魔法に重要なのは、やはり属性の性質を理解し、きちんとイメージすることにある。
炎であれば、熱や発生に必要な条件と言ったように、炎とは何かを根本的に理解していれば、より強力かつ、低燃費で放てる。
しかし、シルフィの場合は、一体何の属性なのか不明で、イメージ事態が難しい。
だが、この正体不明の属性を使いこなせれば、非常に強力な魔法使いになりうる。
それこそ、スレイヤーにも匹敵するレベルのエリート戦士になれる。
とはいっても、まだ強力な爆発を引き起こす事しか解っていない。
とりあえず今は、もっとも印象深く爆発をイメージしてもらってる。
しかし、それでは不十分らしく、十回に三回くらいは不発で煙が出て来る。
そんな状態が続いていた。
何とかシルフィの属性の正体を掴もうと、魔法に関するアーカイブを除いてもみたが、彼女の属性に関するファイルは無く、ナーダですら、彼女の能力を把握できない。
ナーダは、連邦に先駆けて、エーテル関連の兵器を採用しただけあり、魔法に関してのデータは、連邦以上に豊富な場合がある。
そのおかげもあって、アリサの動力である、エーテル・ドライヴの小型化にも、連邦よりも先に成功した。
もしかしたら、連邦の方に彼女の属性に関するデータが入手できる可能性も有るが、敵陣なので、それは難しいだろう。
アラクネも、一応連邦の出だが、彼女の居た二十年前の連邦では、申し訳程度の研究しかされていない。
彼女に聞いたところでも、無駄な事だろうと、あえて聞かなかった。
そんなこんなあって、今日も訓練に性を出していたら、アリサ達が襲われていると勘違いしたのか、騎士姿の女性が、ブロッサムの群れに突っ込んでしまう。
シルフィの魔法攻撃も同時に射出され、爆発に騎士は巻き込まれてしまった。
「「……」」
パラパラと小石や土が降って来る中で、アリサとシルフィは、爆発の起きた方角を、硬直しながら見つめていた。
小物程度であれば、塵一つ残さず吹き飛ばすシルフィの攻撃。
何者かは知らないが、人間が直撃をくらってしまえば、生きていられる保証はない。
「とりあえず、残っている物が有れば、埋めてあげましょうか」
「怖い事言わないで!!」
「いや勝手に殺すな」
シルフィが涙目になっていると、爆炎の中から甲冑の音を響かせながら、ウサギの耳を生やした夜色の髪の少女が出てくる。
うさ耳の少女こと、ロゼは、鎧に付着しているホコリを叩きながら、一切の怪我がない事を二人に伝えた。
というか、彼女の皮膚は愚か、鎧にも一切傷がついていない辺り、シルフィの攻撃は、ロゼに一切通じなかった事を示している。
「しかし、コイツが無かったら、痛いじゃ済まなかったぞ、全く、あんなことができるなら、最初からやってくれ……心配して損した」
「ご、ごめんなさい、私、冒険者なんだけど、まだ魔法が未熟で、この子に手伝ってもらってて……」
「そうか、しかし、魔法くらい最低限身に着けておけ、命取りになるぞ」
「ご、ごめんなさい」
どうやら、携えている二本の剣を盾代わりにしたらしいのだが、それでもシルフィの一撃をくらって、火傷一つ負っていないというのは、おかしな話だ。
しかし、小物を塵にできるような攻撃をぶち当ててしまったのだから、アリサ達は、謝罪と説明を行った。
流石に、魔法の扱いが未熟で、その練習の為にブロッサムらを利用したというところには、少し良い訳臭く思われてしまった。
未だに魔法が使えない状態だというのに、冒険者をやっているというのは、あり得ない事なのだから。
「やれやれ、とりあえず、詫び賃代わりに、この二体は貰うぞ」
「え……あ、どうぞ」
ロゼが詫び賃代わりと二人に提示したのは、先ほどアリサが捕まえたキラー・ブロッサムの生き残りだった。
二体とも、少し焦げてはいるが、ロゼ達のクエスト達成条件である蜜の収集は、十分可能な状態である。
つまり、シルフィの爆撃から、自身の事を守りつつ、更に二体のブロッサムを軽傷で守ったのだ。
割と油断ならない存在なのは、間違いないと、アリサは確信した。
「(しかしこの人、どこかで……)」
「ロゼ~大丈夫なの?」
「大丈夫です、h、カーミン様」
「(ひ?)」
「(あれ?この人も何処かで……)」
ロゼが蜜を採集していると、レリアも二人の元へと歩いてくる。
因みに、カーミンというのは、レリアがお忍びで町の視察を行う為の偽名。
視察の間は、カーミン・ロートと言う名前で活動しており、ロゼもそれに倣って、カーミンと呼んでいるのだが、長年の癖で、姫様と毎回呼びかける事がある。
そして、蜜集めを四人で行っている中で、アリサは二人を何処かで見た事ある事に気が付き、イリス王国の重役に関するデータを、蜜集めの片手間に漁りだす。
蜜集めを終えた四人は、改めて自己紹介をした。
「えっと、改めまして、Eランク冒険者のアリサです」
「ぱ、パーティメンバーの、シルフィです、ランクは、Eです」
「これはご丁寧に、私はCランク冒険者のカーミン・ロート、で、こっちは相方の」
「ロゼだ、一応Cランク冒険者をやっている」
「(カーミン・ロート、カーミン?……カーマイン?)」
「さて、自己紹介も済んだところだし、こうなったのも何かの縁、良かったら一緒にお食事でも如何かしら?」
アリサが何か引っかかりだした辺りで、レリアが食事にと提案がなされ、アリサは思考をそちらに戻し、提案を受けるか悩みだす。
別に受けても良いのだが、先日の一件もあるので、できれば断っておきたいところである。
だが、何故だか断ってはいけないような気がして仕方が無かった。
アリサには、この世界における重要な人物や、施設、文化等のデータも組み込まれている。
目の前に居る二人に見覚えがあるという事は、重要人物の可能性がある。
一応、連邦とのいざこざが終わった後には、この世界との交流も考えているので、国の重要人物とのコネクションを築くことも重要。
とりあえず、不足してきたアイテムの買い出しもあるので、今回は一旦受ける事にした。
「(まぁ、こんな所に居るって事は、追放された悪役令嬢か何かだろう、とりあえず、重要人物である可能性が有るのなら、コネクションを築くのも、悪くはないな)」
「あの、姫様、このような何処の馬の骨とも解らぬ連中と食卓を囲むというのは、少々軽率ではございませんか?」
「ただ見て回り、話を聞くだけではだめです、このお二人を通して、冒険者の暮らしがどのような物か、知ることのできるいい機会でしょ」
ヒソヒソと話す二人であったが、実は思いっきり人選ミスだったことに気付くのは、それはまた、別の話。
――――――
その日の夜。
ここに来るまでに、アリサ達が道中に討伐した魔物から剥ぎ取った素材を売り飛ばし、ロゼ達も、依頼の終了の受付を行った。
しかし、依頼をこなしたのはいいものの、レリアは自分用の蜜が取れなかった事に、少しショックを受ける事と成った。
それから道具屋にて、アリサ達は消耗品の補充を行い、レリアとロゼの泊っている宿と同じ宿に、アリサ達もチェックインし、食堂で一緒に食事を開始。
女騎士、エルフ、一国の姫、アンドロイド、なんとも奇妙な組み合わせであるが、傍から見れば、ただの女子会でしかない。
因みに、周りには声をかけよう、などと企てる者も、少なからずいるのだが、ロゼから発せられる謎の気迫に圧倒され、すぐに断念してしまっている。
「な、なぁ、あの嬢ちゃん、怖すぎないか?」
「ああ、話しかけないのが吉だな」
「というか、あそこは俺達が混ざって良い領域じゃない、諦めよう」
食事を行う中で、アリサは再び目の前に居る二人の事について、調査を継続していた。
インプットされている貴族や、王国関係者の顔写真と照らし合わせた結果、イリス王国の姫と、近衛兵の一人であることが判明した。
「(おいぃぃぃ!何でそんなVIPが、こんな場末の酒場で冒険者やってんだよ!?てっきり追放された悪役令嬢かと思ってたわ!)」
思いもよらない正体に、突っ込んでしまうアリサであったが、その感情を表面に出すことも無く、心の中で叫んだ。
とうのレリアは、酒が回った影響もあってか、口が軽くなり、自分が姫である事をうまく隠しながら、世間話を独り言のようにして話しており、アリサは適当に相槌を打っている。
因みにロゼは、レリアに変な虫が寄り付かない様に、番犬として機能している。
それはそうと、レリアの世間話を適当に受け流しながら、アリサはチラリと、シルフィの方を向く。
とても会話に参加できる気配ではなく、酒にばかり目が言っている、典型的なボッチ状態だった。
つまり必然的に泥酔してしまう可能性は高い状態。
必要以上に酔われた後で、再び地獄のリサイタルが開かれ、最悪の事態に成ったらと思うと、警戒せざるを得なかった。
だが、シルフィはあまり飲みすぎなければ、ちょっと甘えて来る程度なので、それほど飲まなければ、害は無い。
なので、出来るだけほろ酔いで止める様に、アリサは注意する。
「あの、シルフィ、今日はお二人も居るので、お酒は程々に」
「はーい」
「あら、気を使わなくても良いのよ、今日は好きなだけ飲んで頂戴」
「いえ、その、彼女は酒癖が悪くて、もしかしたらお二人に暴行してしまう恐れが」
「え?私そんなに酒癖悪い?」
「はい」
「即答!」
「あらあら」
二人のやり取りを、ニヤニヤしながら眺めるカーミンは、何時もよりおいしく感じる酒を傾けた。
とはいえ、やはり気を付けていなければ、本当に泥酔しかねない。
アリサは極力シルフィのアルコール摂取量を監視しながら、飲み会を再開する。
だが、今のレリアは、とても平和を望む国の姫が浮かべてはいけない表情を浮かべている事に、ロゼ以外は気づかなかった。
とりあえず、隣のロゼは無視して、楽しそうに話している感じを出しながら、シルフィの事をチラチラと見ると、シルフィはなんとも言えない表情で、アリサを見つめだす。
「(あらあら?この子やっぱり)」
シルフィの何かに気が付いたレリアは、変な笑みを浮かべると、注がれている酒を傾け、よからぬ事を考え出した。
とても一国のお姫様がしてはいけないような顔をしながら、自分の欲望を叶えるための方法を模索する。
「(この場で、イチャイチャして、というのも、変な流れよね、かといって、今の私は姫ではない、せめて一国の姫として、発言できれば……)」
そうして、レリアの頭に、謎の電流が流れると、浮かび上がってくる。
悪魔的かつ、天啓のひらめき。
恐らく付き合っていないであろう二人。
だが、シルフィはアリサの事を意識している事には、間違いはないのだ。
そんな二人をくっつける為の方法を思いつき、丁度酒が無くなったロゼを連れ出して、酒場の外へと出て行った。
「ささ、ロゼ、ちょっと道具屋でそろえる物が有るから、護衛お願い、それと、お二人は私達の部屋で待っていて頂戴」
「え?あ、ちょ、h、カーミン様!?」
「あ、私達の部屋は、205号室の二人部屋よ」
「え、あ……はい」
「……」
嵐が過ぎ去ったような感じに成ったアリサへ、初めてのヤキモチを焼いたシルフィは、酔いつぶれる様にして寄りかかる。
「シルフィ?」
「(やっぱり、よく話す方が、アリサは好きなのかな?)」




