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新たな旅立ちには、新たな仲間を添えて 中編

 アリサ達が活動する大陸には、主に三つの国によって統治されている。

 他民族が入り乱れるが故に、平穏と公平を重んじる、イリス王国。

 強力な軍事大国として名をはせている、ストリア帝国。

 宗教を主な統治方とし、規律を厳格な物とする、シランド公国。

 因みに、アリサ達が滞在している国は、その内の一つであるイリス王国だ。


 この三国家は、古来より領土や資源、考え方の問題でよく衝突していた。

 しかし、ここ暫くは落ち着いており、むしろお互いに魔物退治の協力体制を取りながら、互いに互いを支え合っていた。

 それを可能としたのは、信じる宗教が同じであるというのも、起因していた。

 戦争の際も、三国が共通して持つ、宗教の戒律を最低限のルールとして採用している。

 現在はこの微妙なバランスを継続するために、度々会合が行われ、仮初の国家間の平和が維持されている。


 そして、イリス王国王女、レリア・カーマイン・イリスは、王室の中で最年長かつ、優秀な彼女は、次期王位継承者と名高かく、もうじき王位を譲り受ける立場にあった。

 しかし、レリアは国外の関係よりも、国内の状況に目を光らせ、身分を隠しながら旅をしていた。

 外交も大事であるが、それ以前に、国を形作る民たちが不満を募らせてしまえば、内部から崩壊してしまう。

 そんな状況を回避知る為にも、各地を巡って、民衆の立場になって国の視察を始めた。

 父である国王からの許可は取っており、しっかりと護衛もつけて、お忍びで旅をしている。


 現在は場末の宿で、護衛の騎士と共に宿泊し、今日一日の活動の準備を行っていた。


「ふぅ、大分こういった生活にも、慣れてきたわ」

「それは何よりですが……そのようなお召し物は、どうかと」

「ロゼ、私達はお忍びで来ているの、こういった服であっても、しっかりと着こなす必要が有るのよ」


 現在のレリアは、とても王族とは思えない程、ラフで動きやすさを重要視しているような服装。

 確かに、姫と言うよりは、盗人(シーフ)が着るような、革製のジャケットや、ナイフといった軽装である。

 というか、レリア本人としては、ドレスのような豪華な服よりも、こう言った服の方が好きなのだ。

 そんな彼女の素振りに、護衛のロゼは、王族としての気品を忘れないように、もう少しだけ気品のある服装を身に着けて欲しい所であった。

 しかし、今はただの町民に扮する身、今の服装が最適だと、レリアは考えている。

 王族特有の赤い髪は、大きめのバンダナで隠しているが、ロゼとしては、まだ気負つけて欲しい部分がある。

 曰く、気品のある香りのせいで、嗅ぐ人が嗅げば、すぐにわかってしまうらしい。


「(せめてあの匂いをどうにかしなければ……)」

「(匂いで判別できるのは、貴女の嗅覚が異常なだけよ)」


 護衛のロゼは、生まれながらにかなり鋭い嗅覚を持っており、たとえ視認していなくても、相手の位置や体制を、一瞬にして判別できる。

 加えて、剣術の腕も並外れている。

 出自自体は、徴兵によって、衛兵に駆り出された一兵卒。

 そこから、姫であるレリアの護衛にまで、成り上がった経歴を持っている。

 そのうえ、騎士という役職が、彼女に合っているらしく、瞬く間に出世し、こうして今の役職に就いたのだ。

 一つ問題があるとすれば……


「(姫と視察の旅、嬉しいが、私の理性が持つだろうか?)」


 ロゼは、一国の姫に淡い恋心を抱いていた。

 王国のパレードで、何度か見かけては、その美しさに目を引かれ、いつの間にか心も惹かれていたのだ。


 専属の護衛とはいえ、所詮は兵士という身分、姫とはあまりにも身分が違いすぎる。

 結局は、政略婚等で、何時かは違う家に嫁ぐ事になるのだから、その恋心は諦めているのだが、やはりまだ諦めきれていない部分がある。

 そのことも有って、今回の旅の護衛に選出された時は、本当に嬉しく思った。


 だが、手出してしまわないかと、自分でも不安になるレベルで、彼女へ好意を寄せている。

 そんなロゼの苦労を知らずか、レリアは、極力姫と騎士である事を隠すために、という理由でやたらと距離が近いことが有る。

 変に勘違いを起こしてしまう程のアプローチは、ロゼの精神に負担がかかっていた。

 加えてロゼの種族、ラビット族は、年中発情期とも呼べるくらい、性欲が強いので、なおさらである。


 そして、今はというと……


「さ、いきましょう」

「(姫様の手の温もりが直に伝わってくるぅぅ)」


 支度を終えたレリアは、ロゼの手を直接握り、外へと移動した。

 その時に、ロゼの手へと、レリアの手の温もりが伝わり、ロゼの精神をゴリゴリ削りだす。

 しかし、騎士としての強靭な精神力を行使して、表面上は冷静でいる……つもりなのだが、レリア曰く顔に出ているとのことで、あまり隠せてはいないらしい。

 そして、手を握っている時のレリアは、恥ずかしがっているロゼを見るのを楽しんでいた。


「(ふふ、必死に隠しているけれど、私にはわかるわ、まぁ、他の人からすれば、誤差の範囲だけど……可愛い)」


 そんなこんな、二人は先ず冒険者ギルドへと足を運び、クエストの掲げられている掲示板に目を通す。

 民衆の感情も大事なのであるが、やはり、今の平和を維持しているのは、皮肉にも魔物達のおかげでもある。

 根絶させたと思いきや、また別の場所から違う個体が現れる。

 そんなイタチごっこのような状況であっても、彼らが居るからこそ、今の平和があるのだ。


 かつては、魔物の絶滅を掲げ、三国の軍が協力し合って、討伐に当たっていた過去があった。

 だが、今と成っては、魔物達を根本的に滅ぼそう、なんて考える人間は少なく、むしろ魔物達は、生活の為の資源として受け取られている。

 どんなに飢餓に陥りやすい環境であっても、そこにしか住めない魔物の素材は高く売れ、肉は食料となり、皮や角などは、衣服や装飾になる。

 そうやって魔物を使った儲け話はいくらでもある。

 だからこそ、魔物を退治することを、主な生業とする彼らのギルドには、必然的に魔物に関する情報が入りやすいのだ。


 オマケに、このギルド内でも飛び交っている噂話からでも、治安の事や、納税関連の話を聞く事だってできる。

 あと旅の資金確保もできる。

 国の為の視察とは言え、こちらにまで国民の血税を使う訳にはいかない。

 それに、冒険者がどれだけの収入を得ているのか、知る事だってできる。

 今後の旅の資金の確保に最適な依頼を探すべく、掲示板を眺める二人は、丁度よさそうなクエストを見つける。


「キラー・ブロッサムの蜜の採集、これにしましょう」

「はい」


 キラー・ブロッサムは、その物騒な名前に反して、意外と需要の高い魔物の一体だ。

 蜜は甘味を作る為の材料となり、花弁は嗜好品、茎は軟膏の原料、種は熱して絞れば、油が取れる。

 種を取る為に飼育する場合もあるが、それでは加工品用の個体の生産が追い付かない場合があるので、頻繁に討伐の依頼が届いているのだ。

 特に、蜜を使ったパンやクッキーは、レリアや庶民たちの間でも、結構人気だったりする。

 しかも、レリア的にはちゃっかり自分の分の蜜も集めるつもりでいる。


「ふふ、蜜を使った黒パン、楽しみだわ~」

「(姫様の舌がどんどん庶民的に)」


 若干の心配を抱えるロゼを横目に、掲示板の羊皮紙をもって、受付へと赴くと、依頼を受領し、目的地へと移動した。

 キラー・ブロッサムと出現しやすいとされているのは、基本的に平原か森林とされている。

 普段は地面に根を張って、地面と太陽光から栄養を摂取しているので、パッと見はただの花だが、接近すればかなりデカいので、分かりやすいのが特徴だ。


 依頼を受注した二人は、狩場となる平原へと足を矛部。

 一応、近くにある森に行けば、簡単に見つかるらしいのだが、あそこにはかなり排他的な思考を持っているエルフの里がある。

 そこまで大きい森とは言えないが、流石に民衆に被害が出ていることに、国も辟易しており、何度か和平交渉が繰り広げられている

 今でも、この近辺の領主が、何とかできないかと、使節を送っていることも、レリアは、この辺りを訪れた際に、聞いている。

 だが、何の進展も無く、最終的には里を焼き払おうなんて案も出てしまっている位だ。

 それでも、和平を何より厳守するイリスの方針に反している為、今でも何度か交渉が進められている。

 流石に姫直々に行けば、多少は話を聞いてくれるかもしれないと、この近辺にたどり着いた時は思っていた。

 しかし、そんな危険地帯に、レリアを行かせられないとして、満場一致で反対されてしまい、仕方がないので、引き続き領主らに任せている状態。

 悔しさをはらみながらも、目の前のクエストに集中する。


「必要な蜜の量は、ビン十個分でしたね」

「ええ、一体につき五本前後ですので……四体程程狩ればよろしいですから、すぐに終わります」

「……二体よ」

「……申し訳ありません」


 一般人の出なので、仕方は無いが、ロゼには、もう少し勉学に励んでほしいと、頭を抱えてしまう。

 謝罪を入れたロゼは、レリアの後ろで、誤魔化すようにして大きく深呼吸をする。

 一晩中場末の埃っぽい部屋で過ごしていたことも在って、草原地帯の自然あふれる香りに、肺等の呼吸器系が癒される。

 大きく息を吸っている最中に、ふわりと、そよ風がなびき、風上に居るレリアの香りも一緒に吸い込んでしまう。


「(あ、いい匂い……って、私はなんて事をぉぉ!!)」

「(あの子、私の香りで悶絶しているって、感じね)」


 クールぶって歩みを止めないロゼであるが、若干の歩き方の差異に気が付いたレリアは、今のロゼの心境を見抜く。

 悶絶していた筈のロゼは、すぐにキリっとした感じに戻り、背中の片手剣に手をかけ、レリアの事を庇うような陣形を取る。


「お下がりください」

「どうかしたの?」

「いえ、この匂い、目標と人間、それから……何かいます」

「な、何かって?」

「解りません、人間ではない何かが……」


 二振り有るうちの一振りを手に取り、ロゼを前衛にして、警戒しながら、レリアと共にその場所へと移動する。

 接近して行く度に、二人の少女の声と、標的のキラー・ブロッサムの攻撃音がロゼの頭の耳に入って来る。

 何やら敵を前にして口論をしているように聞こえる。

 そして、遂に二人は、その少女たちを目にする。


「イヤアァァァ!!」

「はいはい、頑張ってください、成功率を上げられて来ますから」

「そうなんだろうけど!怖い事に変わりは無いの!」


 蒼髪の少女と、エルフの少女、この二人が、足が絡まって行動不能になっているブロッサム達の前で、何やら口論をしていた。

 会話の内容はうるさくて聞こえ辛かったが、少なくとも、エルフの方は完全にパニックに陥っている。

 そんなエルフを、鎧を着用する蒼髪の少女は、背後のエルフの少女を大量のブロッサムから、雨の様に降り注ぐ攻撃からかばっている。

 状況はどうあれ、二人の少女が危機に瀕しているのであれば、助けないわけにもいかないのだ。


「ロゼ!」

「は!」


 レリアの命令で動き出したロゼは、背中のもう一本の剣を抜き、キラー・ブロッサムへと駆けて出す。

 ロゼの得物は、剣というよりは、片刃の剣の先に、斧が取り付けられたような、特徴的な見た目を持っている代物。

 かなりクセの強い武器なのだが、本人的には使いやすいらしく、何時も愛用している。


「ちょ、危ない!」

「え?」


 ブロッサム達の所へとたどり着いた途端、ロゼは謎の光に包み込まれ、爆発に空きこまれてしまった。



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