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新たな旅立ちには、新たな仲間を添えて 前編

 レンズの町を出て早数日。

 アリサとシルフィはエルフの里がある森を避けながら、次の町を目指していた。

 この数日間、これと言って二人の仲が進行することは無く、むしろ旅を始めたばかりの頃に戻ってしまったような感じだ。

 シルフィに至っては、アリサと目を合わせる事も出来ず、会話の途中で噛むのはもちろんではあるが、何故かツッコミだけは平常運行だった。

 そして現在、二人はというと……


「イヤアァァ!」

「早くしてください、あちらさんの体力だって無限では無いのですよ」


 花型の魔物、キラー・ブロッサム数体を相手に、シルフィの魔法修行を行っていた。

 キラー・ブロッサムの主な攻撃方法は、ツル状の触手による近距離攻撃と、種をマシンガンの如く射出する遠距離攻撃。

 その性質を見込まれ、アリサに被害者と言う名の練習相手として、その辺から拉致られてきた。


 状況としては、エーテル・ギアを装着し、シルフィをかばうアリサに向けて、ブロッサムらが大量の種を、雨の如く降り注いでいる感じである。

 というのも、ただ単に練習するだけでは、シルフィの魔法が上達しないので、いっそのこと実践形式でやらせる事にしたのだ。

 しかし、ゴブリンたちの様に群がられては、二人が誤爆する可能性があるので、わざわざゴブリンより数の少ない彼らを捕まえてきたのだ。


 だが、キラー・ブロッサムたちは、本来は自らの触手で、自走が可能な魔物。

 そんな彼らが、何故接近せずに種をまき散らしまくっているのかと言うと。

 アリサに捕まった時、足を絡ませられまくった挙句、地面に埋め込まれた為、身動きが取れない状態にあるからである。

 加えて、全員の顔?に生えている花びらを引きちぎるという、彼らの逆鱗に触れる行いをしたため、全員から容赦なく一斉射をくらっている状態にある。

 そんな状況で、アリサに庇われながら、シルフィは魔法を放つために躍起になっていた。

 種一発の威力は、小口径の自動小銃程度

 この世界の安物の鎧では、簡単に貫通される攻撃を、嵐の如く放たれているので、シルフィは魔法どころでは無かった。


「それより、大丈夫なの!?そんなに攻撃を受けて!」

「大丈夫です、この程度で壊れていたら、あんなに必死に探しません」


 エーテルの浸透しているネオ・アダマント合金装甲は、対戦車兵器にも耐える防御力を持っている。

 小口径のライフル程度であれば、何の問題も無いのだが、ほとんど生身のシルフィからすれば、安心できる状況ではない。


「ウワアァァァ!!もう、何でも良いからなんか出て!あそこに居る魔物全員倒せるような何かぁぁ!!」


 我武者羅に手をかざしながら叫んだ瞬間、シルフィの手から、あの変な色の光の玉が出現する。

 今回は不安定な軌道ではなく、しっかりとした軌道を描き、速度もアリサのエーテルガン並みの物と成った玉が、ブロッサム達へと直進する。

 ブロッサムらの繰り出す大量の種を焼失させながら進み、着弾した光の玉は、大爆発を引き起こした。

 爆炎は全てのブロッサム達を包み込み、魔石諸共吹き飛ばしてしまう。


「(なんか出ちゃった)」

「(やっぱり、この子の適性属性が解らない)」


 爆風を浴びながら、アリサはシルフィの魔法を観測するが、相変わらず、シルフィの使える魔法の属性が解らずにいた。

 町を出て数日、複数体のキラー・ブロッサムたちの協力の元、何度か同じ事を行ったというのに、進展がないのだ。


 今の段階で解って居ることと言えば、ちょっとした出力だけで、小物程度であれば、魔石諸共簡単に吹き飛ばせる威力も持っている、という事位。

 加えて、弓に魔力を込めた場合にも、回復魔法が阻害されるという不可解な現象が起こる。

 と言っても、アレンの回復魔法が発生しなかったのは、シルフィの攻撃によるものなのか、それとも彼自身のミスなのかは不明だ。

 弓やブレードなどに魔力を込めた場合は、エーテルガンと同様に、本人が指定していなければ、最も適性の高い属性が優先的に発揮する。

 なので、シルフィの攻撃による物の可能性も有るが、まだ憶測の域だ。


 そんなこんな、夜を迎えた二人は、明日に備えて野営を行う。

 火を囲む構図は、出会ったばかりと大して変わらないが、心なしかシルフィは距離を取っていた。

 というか、完全に離れてしまっている。


「……あの、日に日に離れていませんか?なんか(正しい意味で、私何かやっちゃいましたか?)」

「え!?あ、いや、その、気にしないで(気持ちに気が付いたから、恥ずかしいとか、言えない)」


 シルフィは気にしないで欲しいと言っているが、もはや上司から同行するように言われている状況。

 アリサとしては、下手に離れて、見失う事になるのは避けたいところであるので、できる限り傍に置いておきたいのだ。


「……あの、できれば、(見失わないように)傍に居てくれませんか?」

「え!あ、えっと、うん(えっと、これって近寄っていいのかな?)」


 アリサのセリフと、微妙に食い違った受け取り方をしたシルフィは、勇気を出して、アリサの元へと歩みよる。

 しかし、まだ接触できるレベルまで接近できる程、シルフィに度胸は無いので、隣に座る程度に収まる。


「……(傍に来すぎでは?)」

「(やばい、超恥ずかしい!)」


 アリサの隣に座ったシルフィは、自分の心臓がはち切れそうな程に、鼓動しているのを感じていた。

 同時に、顔が自分でもわかる位、赤く染めてしまっている。

 アリサからすれば、火を挟んで対面に居てくれればよかったのに、隣に来たことは、疑問でしかなかった。

 とはいえ、これで見失う事は無いので、安心ではある。

 やけに心拍数が高い事や、無駄に近い事には、疑問でしかなかった。

 シルフィの視点から見て、焚火に照らされるアリサは、何処か色気を帯びており、何時もの数倍近く可愛く見えていた。


「(やばい、なんか意識が遠のいて……)」


 恥ずかしさと緊張で、キャパオーバーに成ったシルフィは、アリサの肩に頭を乗せて気絶してしまった。


「……(こんな体勢で良く寝れるな)」


 自身の肩にもたれかかりながら、眠りに入ったシルフィを、アリサは膝枕状態にして、ちゃんと安眠できるようにする。

 ぐっすりと眠るシルフィを横目に、アリサは今後のプランを大まかに確認しだす。


 極力市街地には近づかず、このまま森を避け、この先の町をいくつか抜け、国境を超える。

 そしたら、その先に有る山岳地帯に入り、そこに設置されている空軍基地にて、軍と合流を果たす。

 市街地に入らないのは、シルフィの故郷である里の連中の手によって、無用な被害が出てしまわないためだ。

 面倒なので、里を壊滅させてから行こうかとも思ったが、町を出てすぐに、この近辺で特殊な衝撃波が観測されたと、本部の方から通達があった。


 それは空間転移の際に発生する代物、現在のナーダには、空間転移を行う意味がないので、恐らく連邦の行った物である可能性が高い。

 つまり、スレイヤー等の先発隊が、既にこの世界に到着しているという事にもなる。

 となれば、無用な戦いはせずに、息を潜めつつ、早いところ本隊と合流しておきたいところだ。

 下手に砲撃を行っても、送り込まれたのがスレイヤーであった場合、居場所を大声で教えてしまうような物。


 とはいえ、暗殺者達の方から仕掛けてこない筈が無いのだ。

 あれから数日、あの二人はただの裏切り者であったとしても、既に向こうの準備が整っている可能性だってある。

 襲われるのは、明日か、一週間後か、それとも今かもしれない状況、警戒は怠らない方が良い。


「ん、アリサ……」

「シルフィ?」


 考え事をしていたら、シルフィに名前を呼ばれたと思ったが、ただの寝言であった事が判明する。

 だが、どんな夢を見ているのか解らないが、何故かシルフィの目から、ポロポロと涙が零れ落ちていた。

 思い出してみれば、シルフィは酔った時などに、度々涙を流していた。


「(まぁ、彼女も、彼女なりに、悲しい事があったんだな、まぁ、初めての友達である私が居るのだから、少しはたよっても……)」


 考えてみれば、里ではいじめをうけ、孤立し、初めての友達と言える妹は、家出をし、親は殺された。

 きっと、今まで寂しい時間を過ごしてきたに違いない。

 そう考えていると、シルフィから見て、ルシーラとはどのような立ち位置なのか、少し気になりだした。

 どのような経緯で義理の姉妹に成ったのか、シルフィの口からは語られてはいないが、姉妹になる前は、言ってしまえば友人関係に近いのだろう。


「(そう考えると、初めての、友達は私ではないのだな……なんだ?なんか、モヤモヤする……いや、妹だ、ルシーラという女は、あくまでも、この子の妹なんだよな、私だって、姉さまの事は、友人というよりは、普通に姉妹だと思っているし、きっとシルフィだって……)」


 何故だか、シルフィの妹であるルシーラの事を考えていると、言い訳じみた変な言葉が次々と浮かび上がり、モヤモヤした感じもどんどん膨れ上がって来る。

 何とかこのモヤモヤを払拭しようにも、こんな事は初めてであった為、対処法が解らず、アリサは混乱してしまう。

 そして原点に返り、そもそも、自分とシルフィは、一体いつ友人となったのか、という考えになる。


 あくまでも協力関係、友人とかそういった関係では、断じてないのだ。

 故に、シルフィが誰と仲良くしようが、誰と付き合おうが、自分には関係ないと、アリサは自分に言い聞かせだす。


「(……誰かと仲良くする、シルフィが?私、以外、と?……)」


 だが、シルフィが別の誰かと一緒に楽しそうにしている所を想像した途端、何故か悪化してしまった。

 その理由が解らず、アリサは頭を抱え、頭の上に大量の『?』マークを形成し、起動してから一番大きな疑問を抱える事と成った。


 翌朝、起きたシルフィを見て、一晩中感じていたモヤモヤの晴れたアリサであったが、アリサの膝枕を堪能していた事を知ったシルフィは、滅茶苦茶動揺する事となった。



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