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何時だって別れは寂しい 後編

 話を終えたアリサとシルフィは、モンドへの謝罪、そして今回の褒賞を頂き、町を出るべく、町の入口へと移動した。

 そこでは、ラズカとアラクネが見送りの為に、スタンバイしていた。

 モンド本人は、仕事が立て込んでいるという理由で、この場にまではついてこなかった。


「もう、行くのね」

「はい、我々の存在は、この町にはあまりにも危険ですから」

「ごめんなさい、色々と迷惑かけちゃって」

「本当、でも、事が済んだら、また来てよね、待ってるから」

「ええ、それと、これは私達からのせん別、何かの役に立つと思うわ」


 何気ない四人の受け答えが終わると、アラクネは自身の生成した最強の糸等の各種糸、ラズカは二枚のハンカチ(ラズカお手製)を、二人に手渡した。

 初めて家族以外から贈り物を渡されたシルフィは、心を躍らせ、思わず二人の事を抱きしめる。


「ありがとう、今回の件が片付いたら、きっとまた来るから」

「大げさよ、贈り物一つで」

「そんな事言って、私が初めてプレゼントした時は、貴女もこんな感じだったでしょ」

「ちょ、ラズカ」

「(ハンカチはともかく、糸は役に立ちそうだな)」


 三人のやり取りを横目に、アリサは渡されたアラクネの糸の用途を考えていた。

 人名救助や、最悪の場合の換金アイテム、最強の糸であれば、武器にもなるのだ、シルフィ達がいちゃついている間にそれらの事を考え出してしまっている。

 数分程じゃれ付いたシルフィを引き離したアラクネは、考え事で固まっているアリサを振り向かせる。

 今から話す事は、アリサからすれば説明不要の事ではあるのだが、シルフィも居るので、念のため話しておく事にした。


「これから、貴女達の旅路は、とても険しい物になるだろうけど、スレイヤーってやつにだけは、何が有っても、無茶はしないでね」

「スレイヤー?」


 あえて、というよりは、本当に心配でしかなく、スレイヤーと呼ばれる存在の事を、アラクネは、アリサからのある程度の知恵を頂きつつ、スレイヤーについて話した。

 アラクネ自身、スレイヤーという存在は、噂程度にしか知らないが、アリサと一戦交えたことで、その存在の異常さと、信憑性を確かな物にできた。

 彼女がアリサの知恵無しで出せるアドバイスと言えば、噂で聞いた外見位だ。

 黒髪の女っぽい男。

 蒼髪の小柄な少女。

 無精髭を生やす初老の男性。

 十人十色な外見を教えたアラクネは、シルフィを引き寄せて、アリサに聞かれない様に耳打ちをする。

 警告、というより最後の恋愛相談だ。


「名前、聞けると良いわね」

「は、はい」

「シルフィ、行きますよ」

「解った!」


 二人はラズカとアラクネに手を振りながら、町を後にした。

 アリサとシルフィの背中を見守る二人、特にアラクネは、二人の旅の安全を祈り続けていた。

 元連邦の研究員として、ある程度は軍の動きの速さを実感している。

 彼女の予想では、もう既に先発隊が到着していても、おかしくは無いという事だ。

 この広い世界でばったり出くわす、という事は、非常に低い確率であるが、無い事は無い可能性がある。


「(いえ、変に心配するよりは、信じた方が良いわね、あの二人なら、きっと何とかなる……と、良いんだけど、あいつら相手だと、生き残れるか不安になるわ)」


 昔馴染みの研究員たちの事を思うと、不安でしかないアラクネであった。

 技術の進歩は、体感していなければかなりの速度で進む。

 一緒に働いていたからこそ、彼らの事ならば、相当強力な兵器が完成しても、おかしくはないのだ。

 同時に、昨晩思考が回らずに、考え損ねていた一つの疑問が、アラクネの中を巡っていた。


「(職場を転々としている、という事は、中古のパソコンが複数の企業を回っているような事、売却されたと成れば、その当時のデータを消されていても、おかしくはない、なのに、何であの子は全部覚えているのかしら?)


 アンドロイドを売却するうえで、必要な事は、データの削除だ。

 アリサは企業で働けるレベルのスペックを持っていると成れば、会社の機密情報などを持っていても、おかしくはないのだ。

 アンドロイドやパソコンの売買を担う店であれば、データ消去のサービスも行っている。

 なのに、全てを覚えている。

 一度であっても、データ消去を忘れは、かなりの問題なのだが、アリサの場合、初起動から全ての事を覚えている。

 これは異常な事だ。


「(貴女は、一体何者なの?)」


――――――


 アリサへの疑問を募らせるアラクネの事はつゆ知らず、アリサ達は先を急いでいた。

 先へと進むアリサは、ふとシルフィの方を向き、様子を見る。

 頬を赤らめながら、自分の事を見て来るシルフィと目が合うと、目をそらされてしまう。

 そんな事は気にせず、アリサはシルフィの印象を改めて考えた。


「(あの子、やっぱり私の事を人間だと、思っているのだろうか?)」


 正直言って、シルフィの本心が解らない以上、まだ信じきることはできない。

 このまま隠しても、後々ばれて、軽蔑さてしまう位であれば、いま話した方が良いかもしれないと考えた。

 だが、今話そうと言う行動までは至らなかった。

 もしもシルフィが、自身の事を人間であると考えているのであれば、このまま、信じさせておいた方が、今後の関係を良好のまま、維持できる可能性の方が高い。

 だったら、このまま信じさせておいた方が、良いかもしれない。

 たとえ、任務の途中までの関係だとしても。


「(よし)」


 意を決したアリサは、シルフィに手を差し伸べる。

 突然の事に、シルフィは戸惑うが、流れで自分の手も、微笑みながらアリサに差し出す。


「これからも、よろしくお願いします、シルフィ」

「……うん、よろしくね、アリサ」


 シルフィの手を握ったアリサは、ちょっとだけ微笑む。

 マスター以外で、初めて笑う事の出来たシルフィに、何かを救われたような感覚に成りながら。

 そんなアリサを見て、シルフィは心を少し躍らせた。

 始めてアリサを微笑ませることができたのだ。

 これで、勝ったとは思えないが、たとえ、敵う事が無くとも、初めてのこの気持ちに、応えたかった。

 恋をした人に、好きな人が要るというのであれば、その好きな人に、最後の願いを託されたのであれば。

 その願いをかなえる事に貢献したい、たとえ一番になれなくとも、少しでも、彼女に振りむいてもらえれば、それで良いい。


 異世界で出会ったエルフとガイノイド。

 二人の前途多難な旅は、まだ始まったばかりである。


――――――


 某所にて。

 この世界のどこかに、複数点在しているナーダの基地。

 それら全てを統括する、現在のナーダ最高幹部ヘンリーの執務室。

 最高幹部と言っても、他の幹部たちは全員、スレイヤーの手によって殺されるか、捕縛されてしまったので、現在の幹部は、彼一人である。

 これから攻め込んで来るだろう連邦軍への迎撃プランや、配備計画、やることは山積みになっている。

 事務処理能力に特化しているアンドロイド複数機を秘書代わりに使い、山のような仕事を片付けていた。


「どうぞ、ヘンリー様」

「気遣いどうも、ラベルク、君の入れるお茶はとても美味しいよ」

「恐縮です」


 そんな彼に、お茶を差し入れた一人の少女、AS-Iラベルク。

 黒中心のメイド服のような服を纏う彼女も、アリサと同様、アリサシリーズの一機、現在は、というより、現在もヘンリーの駐在する基地で、雑務をこなしている。

 以前までは、マスターのヒューリーの元で、メイドのような仕事をしていたが、一年ほど前から、この基地に配備されている。


「加えて、こちらは妹からの報告になります」

「ああ、たしかに、下がっていいよ」

「失礼いたしました」


 妹、アリサからの報告書を手渡したラベルクは、執務室を後にして、今日の最終業務をこなすべく、この基地の最深部へと移動する。

 この基地には、ラベルク達アリサシリーズの根幹を成す施設が複数存在する。

 最深部には、その中で最も重要な設備、量子コンピュータ『マザー』がおかれている。

 アリサ達が送信した情報や、ナーダの持つ機密情報が詰まっており、アリサシリーズだけでなく、ナーダの根幹さえも担っている。

 ラベルクも、アリサと同様に、ヒューリーの最終命令を果たすべく、ここで勤務している。


「マスター、貴方の望む未来を、必ず私達姉妹が実現いたします、その為にも、このマザーは、誰にも傷つけさせません」


 一番の指令は、目の前に有るマザーを守る事だ。

 その為であれば、何だってできるつもりでいる。

 そして、今日の最終業務を行うべく、マザーの前に設けられているコンソールに触れ、自身とマザーをリンクさせる。

 リンクすれば、後はメッセージを受け取るのみだ。

 ロスターと書かれたファイルを選択し、そこに書かれた報告をラベルクはまとめる。

 まとめた報告の大まかな内容は、何者かが空間転移装置によって、移動してきたという事を示す衝撃波が観測されたという事だ。

 ここ最近ナーダで、空間転移を使うような事は無かった事を考えると、恐らく連邦で有る可能性が高い。


「ロスター様……わかりました、こちらでも手筈を整えましょう」

「一人で会話して、楽しい?」


 メッセージを受け取ったラベルクに話しかけたのは、アリサを半分近くまで小さくしたような少女だった。

 AS-103-02カルミア、一部はアリサと同様の技術を用いて制作されているが、ひじから先と、膝から先の四肢は完全に機械化されている。

 小さくとも、その見かけに反するように、カルミアは不敵な笑みを浮かべながら、ラベルクへと近寄っていく。


「カルミア様、いらっしゃっているのでしたら、お声位……」

「まぁまぁ、それより、何してたの?お姉ちゃん」

「お答えする義務はございません」

「え~……ま、いっか、それより、さっき、私達姉妹って言ったけど、それ、アタシも入ってんの?」

「当然です」

「ふ~ん、ま、入っていようがいまいが、アタシには関係ないけど、じゃぁね」

「はい」


 カルミアは、質問の答えを聞くなり、ラベルクがまだマザーとリンクしつつ、業務を進めている事を確認しながら、部屋を後にする。

 部屋を出ると、カルミアは少し駆け足で、ラベルクに用意されている部屋へと移動する。

 アリサシリーズは、ある程度人間に近い扱いをされているので、休息用のベッドと、作業用の端末や衣服等が用意されている専用の部屋を設けられている。

 部屋に到着するなり、カルミアは電子ロックを足跡の付かない様にこじ開けると、部屋に入ろうとする。


「(あいつには何かがある、ククク、アンタの化けの皮、アタシが剥がしてやる)」


 始めて会った時から、カルミアはラベルクの事を怪しい眼で見ていた。

 マザーに接続しようにも、接続の為のコードも不明、バックドアのパスワードさえも、解読できずにいる。

 他にも、色々な方法でラベルクのアラを探していたが、腹立たしい事に、ただの完璧アンドロイド、という事位しか判明しなかった。

 残るは、目の前に有るラベルクのマイルームだけである。

 電子ロックの解除コード解析に、かなりの時間を費やしたが、遂に開ける事に成功したのだ。


「……」


 誰にも見られない様にこっそりとラベルクの部屋の中に入り、電灯をつけた瞬間、カルミアは絶句してしまった。

 部屋には、いかがわしい服装を着たり、仕事をこなしているアリサのポスターが、辺り一面に張られていた。

 それだけではない。

 恥ずかしそうに受け入れ態勢を維持する、アリサがプリントされた抱き枕まで、ベッドの上に一つと、別のデザインの代物が、数本壁に立てかけられていた。

 しかも本棚には、大量の姉妹物のウスイホンに、数十冊のアリサのアルバムが収納されている。

 体を小刻みに震わせるカルミアは、少しずつ後ずさりをしながら、部屋を出ようとしたが、背中に何かが当たり、動きは止まる。

 さび付いたブリキの人形のように、ぎこちない動きで首を動かし、背後を見ると、恐怖しか感じない笑みを浮かべるラベルクが佇んでいた。


「……え、えっと」

「おいたは、これで七回目ですよ、カルミア様」

「え」


 ゆっくりと扉を閉めながら発したラベルクの恐怖発言で、カルミアは硬直し、同時に扉は重々しく閉じる。

 その後、カルミアの絶叫が木霊するも、その叫びは、誰の耳に入る事は無かった。


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