第三話 クラスメイトでも、フルネームを忘れていることは有る
アリサとシルフィが脱走し、数時間が経過した。
追っ手を免れたことを確認し、一息つくと同時に、話し合い、と言う名の拷問を行っていた。
当然、何故シルフィが、アリサと似たようなスーツを着ているのか、それを聞き出すための物である。
現在のアリサは、組み込まれているシステムによって、第三者を一般市民として認識している場合、攻撃を行うことができないように設定されている。
だが、ただいたぶるだけが、拷問ではない。
快楽などを与えたり、巧みな言葉づかいを用いて、相手に取り入る、などの工夫を凝らす必要がある。
その方法も、当然アリサの記録に組み込まれている、その中で、特に有効そうな方法を算出し、実行に移していた。
「あ、ちょっと、其処は……ン」
「フム、此処ですか、では、もう少し激しくいきますよ」
「まって、これ以上……ン、ザラザラして」
ピチャ、ピチャと、アリサの精巧に作られた舌が、シルフィの敏感な部分を舐めまわす。
異常なまでに人間に近く制作されたアリサの口は、唾液に近い質感をもった液体を分泌し、舌も、人間のそれとほぼ同じ物だ。
責められ続けるシルフィの頬は、徐々に赤く染まり、甘い声が、のどから湧き出てくる。
「ちょっと、イ、イ」
潤滑液のようにヌメル唾液に、少しザラザラ感の強い舌、それらで敏感な部分を舐められ、とうとうシルフィは、限界を迎えてしまう。
「イヒャハハハ!!待って、くすぐったい!それ以上【耳】舐めないで!!」
※耳舐めているだけです
この世界の、と言うかこの作品のエルフは、耳をいじると、足の裏をくすぐったような反応をするという性質を持っており、それに目を付けたアリサは、重点的に耳を攻めていく。
「では、ちゃんとお話しいたしますか?話さないというのであれば、飴みたいに吸い尽くしますよ」
「話す!と言うか、こんな事、しなくても、普通に話すから!!お願いだから耳舐めやめてぇ!!」
シルフィの強制される笑いの混じった絶叫が、森にこだました。
今の悲鳴で、アリサの攻めは終了し、大爆笑のせいで乱れた息を整えつつ、何故異世界人であるシルフィが、アリサの世界で採用されている最新式の装備を使用しているのかを話始める。
「と言うか、これ、私のじゃなくて、お父さんの奴なんだよ」
「お父上?の?」
「うん、お父さん、里の外から来たエルフなの、もう五百年くらい前に、来たって聞いてる、こういうのも、その当時から持ってたって」
そして、シルフィは身に着けている装備の数々を、アリサに見せる。
曰く、シルフィの父親が里の外で、活動していた時に使用していたものの数々、それらが、アリサの前に並べられ、余計に矛盾が生じる。
メモ帳や無線機、軍用のコンバットボウに、高周波マチェット、異世界の通貨、旧式のインスタントカメラ、連邦軍正式採用の九ミリ口径ハンドガン、フラッシュライト、それと、家族写真etc.
カメラとハンドガンはともかく、マチェットとコンバットボウ、そして着用しているスーツ、これらは数年前に開発された新型、五百年前にあるわけがないのだ。
まだ何か隠している事があるのでは、と考えたアリサは、再びシルフィを拘束し、息がかかるくらいまで、顔を耳もとに近づける。
「待って!待って!私なんか変なこと言った!?」
「フム、耳をあまがみした方が、よかったですか?」
「何で!?ちゃんと話したでしょ!」
「甘く見ないでください、これだけの装備が、五百年も前に有る訳ないでしょう、仮にあったとしても、動作不良は必死ですよ」
「そ、それについてもちゃんと話すから!お願いだから耳はやめて!」
「……」
静止も聞かず、アリサは涙目に成っているシルフィの耳を、ラーメンをすする様に吸い付き、結果、シルフィはさらに絶叫を上げた。
「ひっぐ、話すって言ったのに……」
「ごめんなさい(何で私、こんな事)」
何故そのような事をしてしまったのか、自分でもわからない状態に成ってしまったアリサは、泣いてしまったシルフィの事を宥め、どうにか話をしてもらえるよう説得した。
「ウッグ、とりあえず話すね」
「はい、えっと、やりすぎてごめんなさい」
涙目になりながらも、装備が新品同様の保存状態であるのかの説明を開始する。
故郷の里では、狩人として以外にも、森の外へ、情報の収集を行うというものがある。
シルフィの父親はその仕事についており、仕事のついでに、タイムカプセルと呼ばれる、マジックアイテムを購入してきた。
魔力を流し込むことで、入れた物の時間をストップさせ、ほぼ永久的に良好な保存状態を維持するという代物だ。
そしてもう一つ、沢山の物を収納する事の出来る、アイテムボックスと呼ばれるマジックアイテムに、装備類を収納し、タイムカプセルの中でずっと保管していたのだ。
「と言う感じ」
「なるほど(それらのアイテムに関するデータもある、それに、うそ発見器にも、これと言って反応も無いな)」
「信じてくれた?」
一応本当の事を話したのだが、まだ何か問い詰めてくるのでは、と考えたシルフィは、自分の耳を塞ぎ、アリサからちょっと距離を置いてしまう。
先ほど静止なんて一切聞かず、耳をすすられたのだから、警戒して当然である。
「大丈夫ですから、もう舐めたりしませんから」
「本当だよね!もう舐めたりしないよね!?」
「……」
「無言は止めて!」
しかし、アリサとしては、まだ腑に落ちないことがあった。
シルフィより見せられた家族写真に写っているのは、シルフィを含めた三人のエルフ。
一方は金髪で、シルフィよりも長身の女性そして、もう一方はシルフィ同様に、緑色の髪をしている。
その緑色の髪の方、アリサのデータベースに随分と前に、登録されたリストの中に入っていたのだ。
因みに、アリサの世界では、エルフだのドワーフだの獣人だの、普通に生活しているので、銃をぶっ放してるエルフなんて、その辺に居る。
エルフィリア准尉、年齢は170歳相当、登録当時は軍曹であり、任務中の事故で三年前に死亡し、二階級特進を受けたというデータがあった。
しかし、シルフィの話によれば、五年前に死亡しているというのだ、余計に謎は深まるばかり、もういっそのこと、彼女の話は無かった事にした。
少なくとも、シルフィの一件は、遂行中の任務にあまり関係ない、なんて言い訳を考えながら。
それともう一つ、シルフィに訪ねたいことが有った。
「あの、一つよろしいでしょうか?」
「何?」
「写真に映っていた、もう一人の方ですが、彼女は一体」
「ああ、ルシーラちゃんね、私の義妹、その子を見つけるのも、私が外に出る理由なの」
「妹、様?」
それを聞いた瞬間、アリサは写真の撮影データをもう一度展開、再び妹であるという方を見てみると、姉であるはずの、シルフィとの差が歴然に成っている。
比較しても、身長は妹の方が高く、出ているところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいるという、グラビアアイドル並、シルフィはまるで男のような体格である
「今、私の胸が小さいとか思った?」
「いえ、別に……」
「はぁ、別に良いよ、それに、義妹なの、血が繋がって無いの、お父さんが森で倒れてるところを助けたの」
「外から来た人たちで構成された一家ですか」
「まぁね……えっと、そういえば、自己紹介してなかったね、私はシルフィ、貴女は?」
「(……こんな怪しい奴に本名名乗ってもな)アリサです、と言うか三話目でようやく自己紹介って」
「三話目?」
「こちらの話です」
自己紹介を終えたころで、二人は森の外へと歩みを進めていく
二人の事を監視する影に、気づくことも無く