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抜歯直後は結構痛い 後編

 アリサらに捕縛されたアレンは、近くの街道に連行されると、アラクネが生成した強靭な糸を織って制作したロープで捕縛された。

 抜け出そうともがくが、その強度に阻まれ、ただ無様に喚きだしている。

 そんな中で、シルフィはこの状況に疑問を抱いていた。

 以前は殺すことを強要してきたというのに、何故か今回は捕縛を選んだアリサの考えが、どうしても解らなかった。

 そのおかげで、ロングレンジから、急所を外しつつ、相手の戦力を削げるような位置を狙え、等という無茶な指示をもらう事になった。


「ねぇ、何で今回は、殺さないの?」

「……何で、ですか?……まぁ、ただ一つ言えるのは」


 他人に聞こえない位の声量で、アリサに質問すると、アリサは、早く解放しろと、喚き散らしているアレンの元に歩み寄る。


「こういう奴は、ただ殺すより、こうして吊るし上げた方が良いでしょう」


 そんな彼女の後ろ姿は、何処か怒りを孕んでいるように、シルフィには見えていた。

 何時も感情を表にすることのないアリサが、珍しく、怒っている。


「(どうしたんだろう)」


 心配してくれているシルフィを気に留めず、アリサはアレンの前に立つ。

 すると、アレンは今にも食ってかかってきそうな眼光を、アリサに向け、己の中に燃え滾る怒りを露わにする。


「貴様、一体どんな卑怯な手を使った!?」

「卑怯な手?」

「そうだ、そうでもなければ、全てにおいて、圧倒的に勝る俺が、お前たちなんぞに負ける訳nッ!」


 キレ散らかすアレンの顔面に、アリサの靴底がぶち当てられ、更にアリサのつま先が、彼の鼻先を直撃する。

 戦闘の為に改良が施され、更にはアーマーを纏っている足から繰り出される一撃は、せっかく止まった血を、もう一度噴出させるには、十分な威力だった。

 血を滝のように吹き出し、痛みにもがくアレンを、アリサはまるで、ゴミを見るかのような視線を送る。


「無様ですね、あんなに偉そうな口を叩いておきながら、こうして人間たちに捕縛されるとは」

「……黙って聞いていれば、卑怯な手を使うような劣等種に、そんな事いう筋合いがあると思っているのか!?」

「……そうやって、自分たちの敗因が、卑怯な手による物と決めつける、そんな事だから、彼女の奇襲に気が付かなかったんですよ、狩人であれば、奇襲なんて基礎の基礎でしょうに」

「黙れ!あんなの偶然だ!何の取りえも無い無能に、そんな事できる訳が無い!」

「有るんですよ、それに、彼女は無能ではありません(まぁ、私もあんな距離から狙うとは思わなかったが)」

「何だと!」


 アリサは語りだした。

 短い期間ではあるが、自分の見てきたシルフィという少女を。

 酒癖が悪く、ツッコミでしか話せないシャイ女、目立った取りえなんてない。


 だが、何故彼女が今まで生きてこれたのか、先ほどの魔法の練習で、アリサには何となく解っていた。

 何度か話に聞いていた。

 父親から何百年物間鍛えられ、学び舎を卒業しても、狩人の義務である訓練の時間以外でも、何時も練習を怠ることは無かった。


 あの弓による狙撃も、簡単なものではない、というか不可能に近い、しかし、シルフィはやった。

 長年磨き続けてきた狙撃技術を駆使して、アレンの戦力を削ぐことのできる箇所を狙撃した。

 それだけじゃない、彼女のスキルである鬼人拳法は、一年や二年如きで、会得できるような簡単な技術ではない。

 血の滲むような努力と、気の遠くなるような期間が必要だ。

 それを使用しても尚、アラクネに勝てなかった辺り、不完全な状態であるのは明白、だが、発動にまでこぎつけている。

 余程の執念が無ければ、そこまでたどり着く事は、不可能と言える領域だ。


「それに、貴方は言いましたよね、どれだけ努力しても、貴方たちと同じ所まで行けないと」

「そうだ!凡人は天才に踏みつぶされる、弱肉強食の理に従ってな!」

「でも、あなたは敗北した、才能に溺れ、努力する事を怠り、更には彼女の伸びしろと、我々の戦力を見誤った、そして、弱肉強食の理に従って、踏みつぶされた、努力の『天才』であるシルフィに」

「!?」

「そして最後に、貴方は私の前で、言ってはいけないセリフを言った」

「何だと」

「お前は、私のマスターを侮辱した」


 アリサの言う言葉を理解できたのは、誰も居なかった。

 何故なら、会話を最初から最後まで聞いていたシルフィからしても、彼らはアリサの身内をバカにするようなことは、言っていなかった。

 アリサのマスターは、口癖のように言っていたセリフがある。


『可能性を信じない者に、大事は成せん』


 そんな信念のもとに、アリサのマスターは、数々のアンドロイドや、革新的な技術を作り上げてきた。

 努力をするという事は、自分にある成長の可能性を信じているという事だ。

 アリサのマスターもまた、幼年時から読み書きができる天才だった。

 それでも、あふれ出るる知識欲に従い、自分を伸ばし続け、ずっと自分を高めてきた。

 その結果、アリサや、装備品の数々が作られた。

 アリサからすれば、あのセリフは、シルフィだけでなく、自分を救ってくれた恩人の全てを否定するような発言だった。


「……何のことだ?」

「知らなくても良い事ですよ、個人的な事ですから、でも、マスターを侮辱する事は、私は許しません」


 だからこそ、許す事ができずに、直接殺さずに吊るし上げるという方法をとってしまった。

 一先ず、今回は町民たちの目もあるので、すぐに殺す事はしないが、牢屋にぶち込まれるなりしたら、暗殺する予定だ。

 今は衛兵たちに引き渡すべく、こうして待機している。


「(そろそろ到着しても良い頃合いだが……ん?なんか天気が)」


 待機していると、突如天気が急変し、山に落雷でも落ちたかのような轟音が響き渡った。

 落雷というよりは、爆発のような物であったが、同時にアリサのセンサには、より明確な反応を拾う。

 嫌な予感が過ぎったアリサは、ほくそ笑んでいるアレンへと、銃口を押し付け、尋問を開始する。


「あなた、まさか仲間がいたのですか?」

「……そうさ、予定は狂ったが、これで俺達の目的は達成できた、同僚のユリアスが、目的を達成した」

「クソ、皆さん!民間人を逃がしてください!」


 拷問で口を割ったというよりは、アレンは自ら白状した。

 計画の詳細までは話さなかったが、ユリアスも来ていることは、白状した。

 そもそも、アレンの目的は時間稼ぎだ。

 万が一アリサ達との闘いで苦戦した場合、町で騒ぎを引き起こし、厄介なアラクネ達の注意を引き、ユリアスが封印を解除する時間を稼ぐ。

 それが今回の目的だった。


「一体何があったの!?」

「解らないわ、でも、この感じ、多分封印が解けたんだと思う!」


 ラズカがアラクネに何が起きたのかを訪ねた時、先ほどと同じ位の落雷が発生し、封印されていたという魔物が姿を現す。

 そして、その魔物を見たアレン達は目を丸くする。


「あれは、まさか」

「ユリアス、良くやった!」

「やぁ、随分面白い恰好だね、如何だい?僕の新しい相棒、ユニコーンの雄姿は」


 ユリアスの搭乗する魔物は、白い毛並みと、立派な一本の角を持つ馬型の魔物、ユニコーン。

 かつてこの近辺で大暴れし、封印されたとされている、危険な個体だ。

 そんな存在をテイムしたと成れば、反旗を翻そうと話し合っていた時の話は、嘘でないと、アレンは確信した。

 そして何より、里で一番のモンスターテイマーの名は、伊達ではないと称賛した。


「さぁ、早く助けてくれ、そして、俺達の天下を!」

「……人間如きに捕らえられる雑魚が、随分と偉そうに」

「何!?」

「でも、感謝しているよ、貴方がアラクネや、其処の人間たちの気を引いてくれたおかげで、こうしてこの子をテイムできたのだから……これで、里の覇権は、僕だけの物だ」


 その発言で、アレンは、自身がただの捨て駒であると確信し、怒りの表情を浮かべる。

 だが、捕縛されている今の状態では、何かできる訳でもなく、ただ喚くだけに留まってしまう。

 そんな彼へと、紫電の走るユニコーンの角が向けられる。


「(コイツ、まさか)皆さん!早くこちらへ!」


 発生するエネルギー量を瞬時に悟ったアリサは、瞬時にシルフィらを一か所に集め、影響が出ないように、フィールドを用いて防御する。

 その瞬間、アレンに向けて強烈な一撃が繰り出され、彼の体は、塵一つ残さずに消え去ってしまった。

 同時に、鳴り響く雷鳴と、強烈な衝撃波が、アリサ達に襲い掛かる。

 フィールドによって阻まれた分は、特に被害は出なかったが、アレンの居たところは、完全に吹き飛ばされていた。


「……なるほど、これなら本当にこの辺り一帯を滅ぼせそうですね」

「そうだね、私も手伝うよ、このままだと、暗殺者云々言ってる場合じゃない」

「私も協力させてもらうわ、元々私の役目でもあるんだから」

「なら、私が協力しないわけには、行かないよね、何ができるか、解らないけど」


 ユニコーン達の脅威に気が付いた四人は、彼の前に立ちはだかり、ユリアスも三人の方へと敵意を向ける。

 里の乗っ取りが目的である彼にとって、アリサ達は如何だって良いのだが、今ここでウオーミングアップしておくのも悪くないと、戦闘態勢をとる。


「フフ、君達が、僕のウオーミングアップに手を貸してくれるんだね」

「ええ、まぁ、ウオーミングアップで終わりにしますけどね」

「良い覚悟だね……じゃぁ、いくよ」


 険しい表情を浮かべたユリアスは、魔力でできた手綱を操り、体中に紫電を纏ったユニコーンと共に、三人へと突撃する。

 そして……


 ユニコーンは何も無い所でずっこけ、盛大に事故ると、強烈な慣性の法則によって、搭乗していたユリアスは、地面に叩きつけられた。

 結果、肉体的に弱いユリアスは、この事故で全身を打撲し、ユニコーンは痙攣をおこしながら、行動不能に成ってしまった。


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