表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
スイートピー編
335/343

天龍 前編

 突如出現した巨大な白銀の龍。

 全長三千メートル、直径四十メートルはあるだろう巨体をリリィ達へ見せつけた。

 少し高度をさげた龍は、リリィ達の頭上を通り過ぎる。

 龍の近くの空気は押し出されて突風となり、地上のリリィ達へと襲い掛かる。


「ギャアアア!!」

「シルフィ!」


 とばされかけたシルフィの腕を、リリィはがっしりと掴んだ。

 一見すると龍との距離は目と鼻の先のように見えるが、実際には数キロ程離れている。

 だというのに、アーマーを装備するシルフィや、他のメンバーを吹き飛ばす突風が襲った。

 この現象を前に、ドレイクはマルコにしがみ付きながら注意喚起を行う。


「あれだけの巨体だ!移動だけでも強風が吹き荒れるぞ!!」

「飛ばされるぅぅ!」

「アタシらに掴まれ!吹き飛ばされたら救助されるかわからねぇぞ!」

「マルコ!踏ん張って!」

「ワウウウ」


 何人か飛ばされそうになるが、レッドクラウンやマルコにしがみ付く。

 リリィですら地面を掴んでいなければ、飛ばされかねない風速。

 一部は武器を地面に突き刺して耐えているが、それでも飛ばされかねない。

 バランスの制御をカルミアにゆだねながらレッドクラウンは、通り過ぎたドラゴンのデータを急いで集める。


「全長三キロは有る、直径もかなり……質量はヴァーベナ級以上だよ、それに、見た目の印象よりより遥かに高速で動いてる」

「クソが、距離感が狂うな」


 動くだけで空間が振動し、嵐が吹き荒れる。

 それだけ膨大な質量の魔物が、空を飛んでいるだけでもあり得ない。

 風が収まった辺りで、リリィはルシーラの胸倉を掴む。

 何しろ、あんな魔物は聞いた事もないのだ。


「何ですか!?あの化け物!」

「だから言ったであろう、天上最強の生物だ、余も初めて見る」

「天上最強の生物!?そんな話微塵も聞いた事有りませんよ!」

「仕方なかろう、奴の生息地は、本来天上、お主らの言葉で言うのであれば、宇宙空間だ、先ず見かける事は無かろう」


 ペラペラと話すルシーラだが、その顔はポーカーフェイスを気取っていても、焦りが見える。

 何しろ、宇宙空間に生息するドラゴンが相手だ、流石の彼女も怖気づいている。

 だが、その焦りはドラゴンの存在だけでは無かった。


「しかし弱ったな、あれは正しく全生態系の頂点と聞く、正攻法では勝てん」

「よしてください、そんな発言魔王がして良いと思っているんですか?」

「無理を言うな、貴様余が何でもできると思うなよ、余だって解らない事も有るし、泣きたい時だってある」

「……はぁ、クソ、一体如何すれば……ん?」


 ルシーラの話を受け入れながら、リリィは上を向く。

 くだんの龍は、はるか上空で咆哮を上げていた。

 その音波は多少のラグを伴って、リリィ達に直撃。

 まるで質量を持っているかのように、大気や彼女達の身体を震わせる。


「うるさ!!」

「雄叫び一つでこれか!」

「おい!何か来るぞ!」


 デュラウスの発言の通り、龍のすぐそばに大量の岩石が出現。

 まるで隕石のように、リリィ達の元へ一直線に進む。

 隣のプラネットドラゴンのせいで分かりにくいが、一つ一つの直径は十メートルを超えている。


「あれ隕石だよ!」

「クソが、全部こっち来るぞ」

「チ、任せろ!」


 高速で接近してくる隕石から皆を守るべく、ルシーラは周辺にフィールドを展開。

 直後に、隕石群は彼女達の周囲とフィールドに直撃する。

 隕石による直接的な被害は無かったが、地面に激突した隕石の影響で地揺れが起こる。

 地割れと共に地面を伝い、フィールド内のリリィ達に襲いかかる。


「ヌワ!こ、これ程とは」

「一撃で世界の形を変えかねない力だな」

「て、危ない!危ない!こっち来てる!アイツの爪がこっち来てる!」

「何だと!?」


 視界は砂塵にまみれているが、シルフィにそんな物は関係ない。

 彼女の指さす方から、直接的な攻撃が来ているのは明らかだ。

 その言葉を信じたドレイクは、すぐさま指示を出す。


「総員退避!全力でこの場から離れろぉぉ!!」


 言われなくてもわかる事であるが、全員左右に散る。

 龍の手が到達する前に、顔や首の部分が通過。

 同時に吹き荒れる突風は、リリィ達の逃走を阻む。

 それでも、シルフィの発見とドレイクの指示が早かったおかげで、何とか全員退避に成功する。

 シルフィの事を連れたリリィと、彼女達に付いて来た者達は、先ほどの隕石に身を隠す。


「はぁ、はぁ……皆さん!大丈夫ですか!?」

「な、何とか」

「お前らと関わっていて一番死ぬかと思った」

「でも、どうしよう、あれ」


 リリィの方に来たのは、シルフィの他に、ヘリアンとロゼ、他数名である。

 ヘリアンの言う通り、今回の相手は対処が難しそうだ。

 とはいえ、リリィ達の元に来たのは部隊の半数程度。

 他のメンバーの安否は、不明のままだ。


「てか、他の連中はどうした?」

「そうだよ、マリーちゃんもいない」

「……だめ、無線が通じない」

「こんな場所で、無線が通じない、となると、かなりマズイ」


 先ほどまでの攻撃のせいか、大気中のエーテル濃度のせいか、無線が上手く通じていない。

 イビアとヘリアンがチェックしてくれたが、この状況で通信できずに連携が効かないのは致命的だ。

 それに、このまま隕石に身を隠してばかりでは、広範囲の魔法で一掃されるのがオチだ。

 一矢報いるためにも、隕石の上に立ったリリィはショットガンを構える。


「これ以上好きにできると思うなよ、ヘビ野郎!!」


 オーバー・ドライヴを使用しつつ、リリィは最大出力の砲撃を行う。

 性能の向上のおかげで、ショットガンの威力は従来の倍以上。

 大気中の高濃度エーテルすら物ともせず、龍の腹部へと直撃。

 しかし、その瞬間リリィの砲撃は、完全に弾かれてしまう。


「バカな!」


 攻撃が弾かれた事に驚いていると、腕輪を介してリリィ達に話しかけて来た。


『今のはリリィか、無駄な事を』

「ルシーラ!無事でしたか」

「あ、そっか腕輪、マリーちゃん!ルシーラさん!他の人は無事!?」

「私の団員が一人足りん!そっちに居ないか!?」


 彼女の無事に安堵したシルフィとロゼは、リリィ達の所に居ないメンバーの行方を尋ねた。

 どうやら、この状況であっても、腕輪の機能は無事らしい。

 話したい事が色々有ったルシーラだが、他のメンバーの安否だけ先に伝えておく事にする。


『……安心しろ、ハーフエルフの隊長と、お主らの団員も含め、全員こちらに居る』

「良かった」

「それは朗報だ」

「それも良いですが、さっきの私の攻撃は無駄ってどういう事ですか!?」


 リリィも生存者がいる事は嬉しく思うが、先ほどの『無駄な事』発言が気になっていた。

 そもそもの要件はその解説だったので、ルシーラは話を始める。


『奴の外殻はオリハルコン以上だ、しかも周辺に常時守りを展開し、物理的干渉から身を守っている、生半可な攻撃では傷一つ付かん』

「さっきので最大出力ですよ!どうすれば良いんですか!?」

『そうだな、ザラム氏の斬撃なら、かろうじて傷を入れられるかもな』

「ふざけるな!」

『ふざけとらん、奴はアースドラゴンすら捕食する、それと、体内から殺そうなどと考えるな、内部も相応に頑丈だ、食われに行くような物だ』


 声色からして、ルシーラは冗談を言っている訳ではないらしい。

 今は亡きザラムで、ようやくダメージを与えられる。

 ルシーラの予測通りであろうと、そうで無かろうと、リリィの攻撃が弾かれたのは事実だ。

 しかし、どんな相手でも、生物である以上は弱点がある筈だ。


「……では、どこか弱点が?」

『知らん』

「知らんのかい!さっきから偉そうに解説しといて!」

『バカを言うな、別に余は魔物の研究者ではない』


 リリィの期待は、たった一言であしらわれた。

 元魔王であるルシーラでも、知っている事と知らない事が有るのだ。

 言い合いをする二人を他所に、シルフィは上空へ昇って行く龍を視界に収めていた。


「……ねぇ、リリィ、ルシーラさん」

「な……何ですか?」


 上を見上げるシルフィは、龍を見ながらリリィの身体を軽く叩いた。

 言い合いで熱くなっていたリリィは、少し落ち着く。

 その事を確認したシルフィは、龍の方を指さす。


「多分、あれが弱点だよ」


 シルフィの異常視力のおかげで、何か見えているようだが、リリィの機能でも龍の弱点らしき部分は見えない。


「……いや、どれですか?」

「あ、そうだったね」


 気付いたシルフィは、リリィとリンクした。

 おかげで、リリィにもシルフィの視力が付与される。

 その視力を利用し、リリィはシルフィの指さす頭部を注意深く観察する。


「……あ、あれって」

「見えたみたいだね」


 リリィの見た物は、腕輪や通信を介して全員に通達。

 二人の目が捉えたのは、プラネットドラゴンの頭部に、下半身を埋めているクラブ。

 どうやら彼女が龍と同化して、制御を奪っているように見える。

 今のクラブの姿を見たルシーラは、低めの声で侮辱する。


『あの恥知らずめ、よりにもよって他力本願とはな』

「見た感じ、彼女はまだ弱っているようですよ」

「うん、多分ザラムさんの攻撃が、アイツを苦しめてるんだと思う」


 確認できるのは、クラブの上半身だけ。

 その身体はほとんど肉が露出しており、顔も半分しか治癒できていない。

 シルフィの言う通り、クラブの身体はザラムの力によって再生すら上手くできない状態なのだろう。

 しかも、まだ今の身体に慣れていないのか、随分もたついた様子だ。


『では、リリィ、シルフィ、我々は遠くへ退避する、今回ばかりは力になれそうにないからな……お前達であの怪物を討て』


 ルシーラの横で話を聞いていたのか、ドレイクが随分と無茶な事を言い出した。

 しかし、良い判断ではある。

 バルチャーは龍と同等のスピードを出せるが、攻撃の回避を疎かにする事に成る。

 下手に動いて、リリィ達の足かせになる位なら、遠くへ避難した方がいいだろう。

 それを分かりきったうえで、リリィはため息をつく。


「……無茶ぶりを言ってくれますね」

『だが、それ以外に手は有るまい』

「……しかたありませんか……と言いたいですが」

『どうした?』

「次の攻撃が来ます!」


 リリィ達が話している間、クラブの操る龍は攻撃準備を整えていた。

 尻尾に魔力を充填させ、身体をひねっている。

 どう見ても、尻尾で攻撃しようとしている。

 その事に気付いていたリリィは、腕輪を介して注意を促した。


『クソ!退避しろ!』


 あの巨体から繰り出される斬撃、どれ程の被害が出るか想像もつかない。

 とても回避と攻めを両立できるとは思えず、リリィ達も回避に専念する。

 全員がその場から退避すると、タイミングを見計らったかのように、龍の一撃が繰り出される。


「来るぞ!!」

「ダメだ、間に合わない!」


 縦に振り抜かれた尻尾から、赤黒い斬撃が発生。

 まるで世界のその物を切り裂いているかのように、逃げるリリィ達へ襲い掛かる。

 地と大気は揺れ、大地は切り裂かれていく。

 同時に発生した突風にさらされるリリィの腕輪に、ルシーラから通信が入る。


「ギャアア!」

『リリィ!無事か!?』

「な訳有るか!」

『ならば良い!』

「何が!?」

『このままでは全員消し飛ぶ!我々で止めるぞ!!』


 襲い掛かる暴風の中で、ルシーラは無茶苦茶な提案を出した。

 だが、その提案を呑まなければ、シルフィだって骨も残さずに消えてしまうだろう。

 深くため息をついたリリィは、刀を引き抜きながら賛同する。


「はぁ……シルフィ達を救いましょう!!」

『その意気だ!』


 渋々飛び上がったリリィは、上空でマリーと合流。

 彼女は既に槍を構えながら力を解放しており、髪も白金となっている。

 遅れを取らない為にも、リリィはオーバー・ドライヴを使用する。


「止められるんですか!?」

「知らない!でもやるしかない!」

「ですね!」


 改めて目の前にした斬撃は、まるで電波塔のように大きい。

 しくじれば、飲み込まれてしまうのは必至だ。

 それを認識している二人は、出せるだけの力を全身に込める。


「手ぇ抜かないでくださいよ!」

「解ってる!」


 斬撃が間合いに入り込んだ瞬間、二人は力を解放する。


「奥義、火之迦具土!!」

「ジ・エンド!!」


 リリィの炎の斬撃、マリーの赤黒い魔力による一撃。

 この二つの技は、龍の一撃と衝突。

 両腕を中心として、全身をハンマーで殴られたような衝撃が襲い掛かる。

 攻撃を受け止めた瞬間、リリィの視界に緊急のアラートが響き渡っている。


「グアッ!踏ん張ってくださいよ!マリー!」

「リリィこそ!!」


 大気圏に突入する小惑星を押し返しているような感覚が、二人に襲っていた。

 今にも押しつぶされそうであるが、斬撃の進行は何とか防いでいる。

 その反面、辺り一面に余剰エネルギーが散り、暴風が吹き荒れる。

 巻き込まれるシルフィ達は、たまった物ではない。

 それでも、直撃して消滅するよりはマシだった。

 彼女達を守るために、リリィ達は力を振り絞る。


「グ、ガ、アアアアア!!」

「ウグ、アアアアア!!」


 更に力を込めた事で、反発しあった力は破裂。

 リリィ達は、その衝撃に巻き込まれてしまう。


「グアア!」

「アアアア!」


 この場に居た全員の視界は、ホワイトアウトした。

 それだけの光がまき散らされながらも、シルフィは二人の元へ向かおうとする。


「リリィ!マリーちゃん!」


 衝撃波が収まると同時に、シルフィはストレリチアのスラスターを吹かした。

 強烈な光の中で有るが、今の彼女には関係ない。

 全員目を眩ませている中で、シルフィだけは、下ろしていたバイザーのおかげで、通常の視界を確保していた。

 カルミアやエーラに心の中で感謝しながら、シルフィは地面に落ちそうな二人を掴まえる。


「掴まえた!」

「シルフィ!無茶しないでください!」

「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!」


 二人を抱えたシルフィは、何とか地面へと降下していく。

 途中で二人からの補助も有って、無事に着地する。


「はぁ、はぁ、ビックリした、二人共、大丈夫?」

「ええ、何か」

「結構疲れた」


 シルフィはゆっくりと地面に降り立ち、抱えていた二人を下ろし、安否を確認する。

 どうやら、怪我は無いらしい。

 代わりと言うのなら、体力をかなり持っていかれたと言った具合だろう。


「……無事で何よりだけど……体力が」

「ええ、でも、全員消し炭だけは避けられました」

「安心もしていられないよ、あんなの、何度も防げるわけじゃ無い……」


 攻撃を防げたとは言え、何度も来られたら全て防げる自信は無い。

 今の一撃だけでも、かなり消耗したのだから。

 しかし、ルシーラとリンクするマリーは、嫌な気配のする後ろを振り向く。


「それに、結構マズイ」

「え」


 マリーにつられた二人も後ろを振り向き、目を見開いた。


「……ウソでしょ」

「勘弁してくださいよ」


 三人の眼前には、地上でもよく見ていた裂け目が大量に出現していた。

 一つ一つの大きさはまばらで、一貫性は無い。

 だが、出現している場所が問題だった。


「……この内装、ヴァーベナやライラックの艦内、それに、他の裂け目は彼らの居る宙域です、しかし何故こんな所に……まさか、さっきの押し合いで?」

「多分ね、さっきの衝撃で、ダンジョンと向こうが繋がったんだと思う」

「そんな、よりにもよって、あそこには避難した人達もいるのに……もしここで魔物が出てきたら」


 口元を隠すシルフィの言葉の通り、この裂け目から魔物が溢れたら、艦内は戦場と化す。

 この状況を前に、リリィはマリーの方を向く。


「……マリー」

「何?」

「皆を集められますか?すぐにです」

「……できるよ」

「作戦を立て直します」


 リリィの提案をのんだマリーは、シルフィと協力して、散り散りになったみんなを集めだす


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ