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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
スイートピー編
331/343

ラストミッション 後編

 志願兵の招集と、自由時間の終了後。

 格納庫にて、志願兵やリリィ達を招集し、最後のブリーフィングが行われる。

 出撃するメンバーは列を作り、先頭に立つ少佐とモニターを視界に収める。

 彼らの視線を集める少佐は、彼らの事を見渡す。


「(……こんなに集まるとはな)」


 集まったのは、歩兵換算で中隊規模のメンバー。

 中には航空機や、エーテル・アームズを駆る者もいる。

 その多くは、ストレンジャーズや元ヴァルキリー隊の面々。

 彼らの中に紛れて、シルフィの世界の住民からの志願兵もいる。


「今回集まってくれた事、感謝する、では先ず、降下してすぐの事を伝える」


 少佐の言動に合わせ、チハルはタブレットを操作。

 作戦地点となる場所を映し出すが、リアルタイムの映像は出せない。

 どんな魔物が居るのか、どんな状態に成っているのか、それは実際に行かなければ、今は何も解らない。

 なので、地上部隊から最後に送られてきた映像を元にした図が映された。


「我々の向かう場所は、事の発端となった地、旧ハイエルフの森だ、戦況の悪化に伴い、ここに展開していた部隊は撤収させたため、魔物は今も増え続けている、これを止めるには、縦穴を確保し、その最奥のダンジョンコアを奪取しなければならない」


 大まかな作戦概要を説明すると、映像に情報が付け加えられる。

 その情報は、推定されるエーテルの濃度だ。

 今回ばかりは、何時も以上に注意する必要がある。


「なお、注意しなければならないのは、この戦場のエーテル濃度、可能な限りのドローンを展開するので、通信は問題無いが、エーテル兵器の性能は、かなり制限される」


 この情報に、兵士達はどよめく。

 推定されるエーテル量を形成しているのは、クラブの天。

 撃ちだされたエーテルは、大気中のエーテルと干渉し、霧散してしまう危険が有る。

 そうなれば、使える武器は実弾か近接武器。

 誘導兵器は使えない事は無いが、有線式以外意味は無い。


「加えて、これは既に伝えてあるが、深刻な大気汚染が予想される、ヘルメットの損傷には注意してくれ……以上の事を注意しつつ、作戦を進めて欲しい」


 注意事項を述べた後、少佐はチハルの方を向き、アイコンタクトを取った

 その目に反応したチハルは、モニターの映像を切り替える。

 モニターには、作戦の概要を伝えるために、必要な情報が表示される。


「降下してすぐ、リリィを除いた、アリサシリーズ各員の先制攻撃により、敵に損害を出す、後続の部隊は彼女達を援護し、進路を切り開く、最後に突入部隊を前線に出し、縦穴を確保、ダンジョンへ突入する……彼女達をダンジョン内部へ届け終えた後、彼女達以外は撤収する」


 少佐の口から伝えられた内容に、隊員達はざわついた。

 折角志願したというのに、ダンジョンへの突入は一部の者。

 とは言え、それは仕方がない。

 航空機で入る事はできないうえに、内部は更に地獄。

 よほど腕に自信が無ければ、生きて帰ることは不可能だ。

 そして、突入部隊となるメンバーの名が、少佐の口より伝えられる


「ではこれより、突入部隊を通達する……ミアナ、キレン、マリー、シルフィ、そして、リリィ、君達に頼みたい……なお、勇気の有る者は、突入部隊と共にダンジョンへ入る事を許可する」


 そう言い、少佐はモニターの映像を切ると、スーツを直す。

 ピッシリとした着こなしと姿勢を維持し、少佐は全員に向かって敬礼する。


「君達に世界の命運を託す、以上、解散!装備の最終チェックを済ませろ!」


 鶴の一声で、各隊員は装備のチェック作業に入る。

 突入部隊の援護が終了すれば、即時撤退する。

 この内容に不満を垂れる者もいるが、これも仕方がないのだ。

 今は後が無い状態、突入後の撤退は許可できない。

 つまり、縦穴から先は一方通行。

 ダンジョンの中で死ぬか、作戦を成功させるかの二択だ。


「(こんな状況だ、彼女達には悪いが、突入後の撤退は容認できない)」


 拳を握りしめた少佐は、こんな作戦を提案した事を悔いる。

 相手は、刻一刻と勢力圏を伸ばしている。

 下手をすれば、銀河全体を呑み込む恐れがあるというのなら、何としてでも今すぐ終わらせなければならない。

 焦りすぎる気持ちを感じていると、格納庫にラベルクを筆頭としたメンバーが、大荷物を持って数名訪れる。


「あら?ラベルクさん?」

「どうも、皆さんのお食事をお持ちいたしました」

「あ、そうか、すまない、早速配ってくれ」

「はい」


 少佐に頭を下げ、彼の分の食事を渡したラベルクは、早速食事の配給を開始する。

 簡単なランチボックスを受け取った少佐は、少し笑みを取り戻す。


「(確かに、腹が減っては何とやら、か)」


 腹の虫を鳴らしながら、少佐はフタを取る。

 勢いよく上がった湯気と、その中身に、少佐は思わず笑ってしまう。


「(ふ、随分とベタなメニューだ)」


 ラベルクが作って来たのは、縁起を担いでか、カツ丼だった。

 しかも全員分手作りしたらしく、まだ湯気が上がっている。

 せめて美味しい物をという、彼女なりの配慮だろう。

 色々な事に感謝しながら、少佐は食事を始める。


「(これが、我々のラストミッションになるかもしれないな)」


 ――――――


 その頃。

 ドレイクもラベルク達から食事を受け取り、ひと時の休息を楽しんでいた。

 その隣で、プラムは不思議そうに手を進めていた。


「……」

「どうした?」

「いえ、こういう、ゲン担ぎ?が有るのは知っていましたが、本当にやるとは思わなくて」

「ほとんど気休めみたいな物だ、それに、強化人間にも食事は必要だ、食べておいて損はない」

「それもそうですね」


 ドレイクに諭されたプラムは、大人しくかつ丼をかきこむ。

 ヴァルキリー隊に入っていた頃の食事と言えば、SF映画に出て来るような味気ない物。

 こうして真心のこもった料理は、滅多に出なかった。

 しかし、このような食事がとれるのは、今や兵隊特権のような物だ。


「……しかし、我々だけこのような食事を摂って、よろしいのでしょうか?避難民は、今も貧しい食事を」


 数が多いだけに、避難民の食事はかなり貧しい。

 艦内の備蓄、本星や現地住民の持ってきてくれた食材。

 これらを用いても、すぐに無くなってしまう。

 全ての人間の口の量を作らなければならないので、糧食班は毎日大忙しだ。

 そんな中で作ってくれたのだから、ラベルク達はかなり奮発してくれたらしい。


「言うな、みんな気にしている……それに、そう思うのなら、我々が勝利すれば、この程度いくらでも振舞える」

「確かに……あの子達にも、早く美味しい物を食べさせなければ」

「……」


 プラムの呟いた言葉に笑みを浮かべたドレイクは、再度食事を再開。

 以前の彼女は、国の為だ、という物にばかりこだわっていた。

 しかし、何時ぞやの散歩が功を奏したのか、ドレイク達に寄った思考になっている。

 そんな彼の笑みに、プラムは目を細める。


「何か?」

「いやなに、そろそろ、我々の戦う理由が解って来たと思ってな」

「……はい」


 器で赤く染まった顔を隠しながら、プラムは肯定した。


 ――――――


 ドレイク達のすぐ近く。

 ウィルソンは図らずも、ロゼ達の方に移動していた。

 折角なので同僚と食べたかったが、とてもそんな雰囲気ではなかった。


「どうした?」

「アカン、ええ空気すぎて、近寄れん」

「そうか、確かに、あのハーフエルフ共、仲がいいな」


 レリアに恋い焦がれているだけに、ロゼにもその手の感情は有る。

 そのせいか、恋愛面の乙女の勘が地味に働き、ドレイク達を前に口元を緩めてしまう。

 だが、その話を聞いた騎士団の面々。

 特にミシェル以外のメンバーは、表情を曇らせた。


「前の戦いで色々功績立てたのに、むしろ高嶺の花のようになって殿方が近づいていないのよね」

「ああ、こっちもさっさと良い人見つけろって、母上がうるさくてな」

「もういっそ、同性でもいいので、誰かとお付き合いしなければ」


 という愚痴をこぼす三人は、貴族の出身。

 家を継がせるために、同じ位の身分の貴族との結婚は重要。

 特にウルメールは、先の大戦の功績で再興したとはいえ、没落していた家。

 折角立て直せたのに、むしろ上に見られすぎて、男性が寄り付いていないのだ。

 他の二人も、早く良い人を見つけろと、両親や使用人辺りからネチネチ言われている。


「ねぇ、ミシェル、貴族で誰か良い人知らない?」

「ヒヒ、私、そう言うの興味ない」

「冒険者はそう言うの気楽でいいな」


 明らかに検討違いの助け舟だった事に、三人は大きなため息をついた。

 そんな暗い話をする彼女達を横目に、ウィルソンは少し自重していた。

 貴族の方々の前で、恋愛の話はあまりよくなかったと。


「……地雷踏んでもうたわ」

「貴族も大変だな」

「そう言うたら、アンタ貴族や無かったな」


 忘れているかもしれないが、ロゼは元平民で、レリアのスカウトがきっかけで今の地位に居る。

 その事を思い出したウィルソンを横目に、ロゼは彼女達の方を向く。


「……」


 彼女達のように、騎士として戦う貴族にとって、名誉や面子は大事だ。

 ならば今回の戦いに参加し、勝っても負けても、彼女達の家は英雄視される。

 それでも、彼女達にも家族は居る。


「お前ら」

「はい?」

「これが最後通告だ、もう後戻りはできない、それでも、参加するか?」


 ロゼの言葉を前にして、四人は互いに顔を合わせ合った。

 しかし、全員そろいもそろって、覚悟を決めているかのように目を鋭くする。


「愚問ですよ、世界の危機なのですから」

「ま、今回も生き残ってやるよ」

「ええ、ここは我々の世界でも有りますから」

「ヒヒヒ、魔物退治は、そもそも私の専門、全員捻り潰す」

「……そうか」


 ちゅうちょを微塵も感じない返答に、ロゼはほほ笑んだ。

 彼女達の反応に、ウィルソンも親近感を抱いた。


「(どこの世界も、戦士の持つ志は、同じっちゅうことか)」


 ――――――


 その頃。

 ヘリアンに薬を注射されたイビアは、目を覚ました。

 熱はすっかり下がり、視界も開けている。

 身体にミミズが這いずっているような感覚が有ったが、それも収まっている。


「……そう、やっぱり、私は居残りね」


 気を失う前の最後の記憶は、ヘリアンに注射をうたれる所。

 その記憶のせいで、今回は居残りであると確信してしまう。

 しかし、その言葉は、すぐに否定される。


「別に、置いて行く気は、無い、今は、一人でも仲間が、欲しい」

「へ、ヘリアン!?」


 ヘリアンはイビアのすぐ横で、ラベルクから貰ったカツ丼を口にしていた。

 だが、その言葉に、イビアは目に影を落とした。

 先ほど気絶させておいて、そんな事を言われても説得力がない。


「……でも、私はお払い箱、でしょ?」

「いや、さっきの貴女は、平静を欠いていた、だから、連れて、行けなかった、でも、今は、大丈夫」

「何を言って……」


 落ち込みながら上体を起こしたイビアは、頭に敷かれていた物に気付く。

 それが何時も使用しているスーツである事に気付いたイビアは、スーツを広げる。


「これ」


 遠まわしに来てくれと言っている事に気付き、イビアはヘリアンの方に顔を向けた。

 顔を向けられたヘリアンは、すぐ傍に置いておいた弁当を差し出す。

 しばらく栄養剤しか摂れていなかったので、ガッツリしすぎかもしれないが、食べた方がいいだろう。


「ちゃんと食べて、空腹で、倒れられたら、困る」


 弁当を笑顔で受け取ったプラムは、早速胃袋に詰め込み始める。

 そのついでに、ヘリアンは先ほどの少佐の説明をもう一度話した。


 ――――――


 ラベルクが食事を持って来た一時間後。

 多くの者が食事を終え、最後の調整に勤しむ。

 リリィとシルフィは、装備の整備を完了し、後は他の隊員の完了を待つだけだった。

 つかの間の休息の中で、リリィの隣に立つシルフィは矢をいじりだす。


「こういう時の空気、どうも慣れないよ」

「でしょうね、皆さんピり付いてますから」


 大きな戦いが始まる前の空気。

 これまで何度も味わってきたシルフィだが、とても慣れた物ではない。

 本来なら慣れない事が一番良いが、緊張で心臓が強く鼓動している。

 そんなシルフィの背をリリィがさすっていると、マリーが二人の元へやって来る。


「お姉ちゃん?大丈夫?」

「あ、マリーちゃん、大丈夫、それより、用事はもう大丈夫なの?」

「うん、ヘリアン辺りに、武器とか渡して来ただけだから」


 用事を終え、戻って来たマリーは、シルフィの隣に立つ。

 久しぶりに家族がそろい、喜ばしい筈なのだが、どうにも素直に喜べなかった。

 これからこの三人と、七美とキレン達で、死地へ行かなければならないのだ。

 円満に話そうとも思えないが、マリーはこの空気に耐え切れずに、話を切り出す。


「二人共、ちゃんとこの腕輪着けてる?」

「え、うん、ちゃんと大事にしてるよ」

「この腕輪なら、現在の地上でも、マトモな通信ができますから、ダンジョン内部でも重宝すると思いますので」


 そう言いながら、三人は身に着けている腕輪を、互いに見せ合う。

 三か月前にマリーがルシーラと共に制作した物で、戦いが始まってからかなり愛用している。

 通信機も兼ねており、リリィとマリーの居る区画では、やり取りが容易だった。

 笑みを浮かべたマリーは、二人に聞こえないような声で、ボソリと呟く。


「やっぱり私、貴女達と家族になれて良かった」

「ん?何か言いました?」

「いや、ただの指輪しか渡さなかったリリィより、いい仕事したなって」

「チ」


 誤魔化すためだったとは言え、失言が過ぎたマリーに、リリィは襲い掛かる。

 向かってきたリリィを前に、マリーは応戦。

 軽く取っ組み合いが始まってしまい、シルフィは仲裁に入る。


「何か言ったか!?この駄肉エルフが!」

「襲い掛かって来る位ならアンタもマシな物作れば良かったでしょ!」

「コラ!重要なのはこれからなんだから!喧嘩はやめなさい!!」


 というシルフィの言葉も耳に入らないのか、二人は離れなかった。

 しかし、シルフィは見ていて微笑ましさを覚えた。

 二人共殺し合うでもなく、ただ仲の良い喧嘩をしているように見える。

 リリィもマリーも、元々人付き合いが上手い訳でもなかったので、こうして喧嘩する相手も居なかった。

 それだけに、二人に友情じみた物を感じると、笑みが浮かんでくる。

 とは言うものの、そろそろ止めなければ、いい加減少佐の逆鱗に触れてしまう。


「貴様ら!!今がどういう状況か解っているのか!!?」

「あ」


 だが、既に遅く、少佐の雷が三人を直撃。

 三人の頭に拳骨が降り注ぎ、出撃準備が終わるまで正座する羽目になった。


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