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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
スイートピー編
315/343

終始の天秤 中編

 里の大穴から脱出したリリィは、補給と報告のために揚陸艇へと戻っていた。


『リリィ、何が有った!?』

「時間が有りません、要点だけ言います!里の地下から、大量の魔物が溢れています!このままでは市街地に被害が!」


 報告を行いながら、リリィは視覚データを揚陸艇と姉妹達へ送った。

 井戸水の如く湧き出る魔物の大軍。

 リリィが見ただけで、現状は解らないが、魔物の大軍が上がってきている事に変わりは無い。

 この報告を受けて、少佐はすぐに指示を下す。


『了解した!アリサシリーズ各機に通達!出撃可能な機体は、すぐに出撃し、魔物の足を止めろ!残りの部隊は整備終了次第、彼女達を援護!リリィ、君も補給を受けてくれ』

「はい!」


 少佐の指示を受けて、リリィは補給と調整を受ける為に揚陸艇へと戻る。

 元々準備を済ませていた姉妹達は、指令が下ったと同時に出撃。

 マリーの介抱を終えたデュラウスも、少し不機嫌になりながら飛び立つ。


「あの女、何考えてやがる!?」


 デュラウスに続き、ヘリアンもライフルを携えながら追いつく。

 更に、カルミアやイベリスも追従する。


「世界が滅びる、とか言ってた、多分、これがそう」

「クソが、ダンジョンは長らく籠った事有るが、あんな量見た事ねぇぞ!」

「念のため、色々積んできて正解だったよ」

「とにかく、わたくし達で抑え込みますわよ!」


 話を挟みつつ、五人は里の有った場所に到着。

 そこは、リリィ達が戦った事で、もはや森ではなく、クレーターの有る平原となっていた。

 クレーターを昇り、どこかへ行こうと、魔物達は地を這いずっている。

 その姿を観測するレッドクラウンは、まるで地獄を見ている気分だった。


「……本当に理性が有るとは思えない、隊列も汲んでいないし、むしろ踏み越えてる」

「まるでゾンビ映画だ、あれが市街地に入ったら、被害位じゃすまないな」

「なら」


 レッドクラウンの観測情報を聞いたイベリスは、ランチャーを構える。

 宇宙で使用していた巨大な物ではなく、地上戦闘用に制作した物だ。

 イベリスの身長程の大きさの砲を二門脇に抱え、同時に引き金を引く。


「空中から一気に殲滅いたしますわ!」


 放たれたビームは、魔物ごと地面を削る。

 イベリスに続き、カルミアも攻撃を開始する。


「アタシらも行くぞ!」

「了解!」


 何時もより重装備、重装甲のレッドクラウンは、ミサイルやバルカン砲による制圧を開始。

 両腕に二門ずつ装備されたバルカン砲は、大量のエーテル弾をばらまき、次々と魔物達を撃ち抜いている。

 背中に背負うミサイルコンテナからも、ミサイルの雨が降り注ぐ。

 精密な誘導は必要無く、目を瞑っていても当たる状況なので、手あたり次第に撃って行く。


「クソが、まるで演習だ!」

「実戦だから、気は抜かないでね!」

「俺は降下してやる!当てんじゃねぇぞ!」


 相変わらず射撃兵装を持たないデュラウスは、大剣を片手に降下。

 カルミア達があまり狙って居ない場所へ降りて、紫電をまといながら大剣を振り回す。

 弱体化しているリリィと異なり、万全なデュラウスは、大量の魔物を一振りで蹴散らしていく。


「おい!なんか飛び上がって来たぞ!」

「鳥型や虫型……敵の航空戦力!」

「そっちは、私がやる!」


 デュラウスが暴れだすと、空を飛べるタイプの魔物が出現。

 そちらは、ヘリアンが対処に当たりだす。

 ちょこまかと動くような相手だが、ヘリアンの射撃技術によって、次々撃ち落とされていく。


「新型ライフル、調子いい!」


 狙撃用のライフルではないが、精度と貫通力を徹底的に伸ばした新型。

 銃の制作を趣味としている彼女が、この五年で作り出した傑作。

 それを二丁持ち、スタイリッシュに撃ち抜いていく。


「クソが!数が多すぎる!」

「対処しきれませんわ!」


 シールドキャノンと、手持ちのランチャーを交互に打つイベリスの砲撃は、まるで空爆。

 カルミアと共に、編隊を組んだ爆撃機並の働きを見せるが、それでも魔物の数は減らない。

 デュラウスも、一騎当千の働きを見せているが、魔物の供給量の方が上回っている。


「チ、ヘリアン!聞こえるか!?」

「何!?」

「縦穴を直接叩く!進路を開いてくれ!」

「了解!」


 カルミアから頼まれ、ヘリアンは穴の付近に居る空中の魔物を撃ち抜く。

 開かれた進路を辿って、カルミアは穴の上空へと移動。

 記憶しているポイントに狙いを定め、レッドクラウンの口を開ける。

 そして、デュラウスにも解るように、拡声器を使用する。


「久しぶりにぶちかますぞ!!」

「了解!」

「避けろ!デュラウス!」


 デュラウスが退避した事を確認し、取っておきのビーム砲を繰りだした。

 細いビームだが、その出力は折り紙付き。

 周囲が赤く染まり、直撃せずとも魔物が焼け死ぬ。

 山の形を変えた実績もあるビーム砲は、縦穴の魔物達を蒸発させていく。


「あッづア!アッヅ!テメェ!クソガキ!もうちょっとタイミング見ろ!!」

「うるせぇ!勧告しただろうが!」


 照射されたビーム砲の近くから、デュラウスがギリギリで離脱してきた。

 地味に髪がチリチリになっており、少し巻き込まれたらしい。

 彼女達の口論を無視し、レッドクラウンは地上の観測を行う。


「たく……とりあえず口論は後にするか」

「そうだね、縦穴の方はどうにかなったみたいだけど、まだ周りにいる」


 先ほどの砲撃のおかげで、何とか縦穴からの増援は防げた。

 しかし、既に外に出ている魔物は、まだ健在だ。

 空の敵を撃ち落とすヘリアンも、隙を見て縦穴と地上の敵を確認していく。


「……ん?」

「どうかしまして?」

「いや、何か、縦穴から……」


 縦穴の中から何かが昇ってきている気がしたヘリアンは、空中で停止。

 彼女につられて、イベリスも頭部のバイザーを下ろす。

 暗くてわかり辛いが、確かに何かが昇ってきている。


「ッ!?地中から来る!!」

「何!?」


 ヘリアンが忠告すると同時に、縦穴から巨大な個体が出現。

 ライオンと鷲が合わさったような魔物、グリフォン。

 かなり珍しい個体が、デュラウス達の前に、その雄姿をさらす。


「ぐ、グリフォンだと!?」

「いや、もっとデカい!」

「は!?」

「来る!」


 グリフォンは、デュラウス達に向けて、大量の風魔法を放つ。

 まるで機銃掃射と思えるような攻撃を前に、姉妹達は急いで回避行動を取る。


「デカいってどういう事だ!?」

「グリフォンはデカくて七メートルだ!だがアイツは体格だけでも十五メートルは有る!」

「データ照合完了、カルミアの言う通り、あれは、エルダー・グリフォン!」

「上位種って事か!」


 風魔法の掃射をかいくぐりながら、レッドクラウンはデータを照合。

 その結果、グリフォンの上位種、エルダー・グリフォンであると判明した。


「正体は解りましたが!今は対処に集中を!」

「だな!」


 イベリスに注意され、デュラウス達は周囲に気を配る。

 彼女達がグリフォンに目を奪われている間に、魔物達の流出は進んでいた。

 どうにか地上の魔物を片付けたいが、通常のグリフォンまで出現してくる。


「状況はクソか、デュラウス!イベリス!お前達は地上を優先!アタシとヘリアンで、この鳥どもを殺る!!」

「分かった!大物はくれてやる!」

「では、ご武運を!」


 カルミアの指示で、二人は地上に移動しようとする。

 しかし、エルダー・グリフォンは、狙いすましたかのように、その巨大な翼を羽ばたかせる。

 羽ばたきによって、羽の一部が散り、意思を持っているかのように、デュラウス達へ襲い掛かる。


「おい、ウソだろ!?」

「こんな能力まで!?」


 羽根は刃のように鋭く、弾丸のように早く飛翔し、ドローン兵器のように不規則に動き回る。

 デュラウス達の進路を妨害しつつ、攻撃を加えて来る。

 おかげで、下の魔物達の妨害に支障がでてしまう。


「なら!」


 デュラウス達を援護するべく、ヘリアンとカルミアは、グリフォンへ攻撃を仕掛ける。

 ヘリアンの早打ちで通常のグリフォンは、次々と撃ち抜かれていく。

 単発射撃でありながら、まるで機銃掃射並の連射を発揮させ、その全てが命中。

 肉壁になられる事を防ぐと、カルミアは二門のロケットランチャーを構える。


「焼き鳥になりやがれ!」


 全てのロケットを撃ち尽くす勢いで、カルミアは引き金を引く。

 使用されているのは、エーテルを用いた対戦車弾。

 通常の炸薬より強力な爆発が起こり、グリフォンの巨体を破裂させていく。


『ギュオオオオ!』


 ランチャーによって身体が引き裂かれ、グリフォンの悲鳴が響き渡った。

 砲撃で怯んだ事で、羽根の攻撃が止まり、大きな隙が出来上がる。

 その瞬間を、デュラウスは見逃さない。


「この、鳥野郎が!!」


 紫電をまとう大剣によって、グリフォンの胴体は真二つに切り裂かれる。

 それでも、攻撃を行おうとしてくる素振りを見せたので、イベリスが追撃に入る。


「させませんわ!」


 攻撃を放たれる前に、イベリスの二門のエーテル・キャノンが炸裂。

 上半身と下半身が離れ離れになった、グリフォンの身体のほとんどを消滅させる。


「脅威を排除!」

「これで下の連中に集中できる!」


 落ちて行くグリフォンの死骸を無視しつつ、デュラウスとイベリスは下方向の魔物に目をやる。

 既にクレーターからあふれ出る程の量が吹き出しており、対処を急がなければならない状況だ。


「ヤッベ!もう溢れてんじゃねぇか!!」


 デュラウスが急いで降りようとすると、魔物の群れの一部が爆散する。

 それだけではない、何かに貫かれたように、一直線に魔物が葬られた。


「え、援軍か!」

「その用ですわ!」

「みんなー!大丈夫!?」


 どうやら、今回護衛に来た部隊が駆けつけて来たらしい。

 しかも、シルフィまで加入している。

 とは言え、戦力差は焼け石に水だ。

 今回は戦争をする予定では無く、持って来たのは揚陸艇の格納庫に空きが出る位の分だけ。

 武器も弾薬も、自衛目的の物から戦闘用の物に変えているが、物量差は埋まらないだろう。

 シルフィも空中の敵を次々撃ち落としているが、気休めにしかならない。


「てかシルフィ!何でお前まで!?」

「皆が頑張ってるのに、後ろで待機なんて嫌だからね!マリーちゃんは医療班の人たちに任せてるから、大丈夫だよ!」


 マリーを医療班に任せたシルフィは、ストレリアに身を包んで援軍に来ていた。

 とはいえ、こんな危険な場所に来た事には、カルミアはご立腹だった。

 しかし、解読が仕事だったとは言え、シルフィも訓練は欠かしていない。

 力を発揮できる場所では、発揮したかった。


「クソが、ま、その優しさには、何時も感謝してるよ!」

「(本当に丸くなったな~、お姉ちゃん嬉しい!!)」


 カルミアの感謝のセリフと共に、レッドクラウンの増加装甲を展開。

 中に仕込んでいたミサイルを、一気に放出させ、地上と空中両者の敵を一掃する。


「無理はするなよ!ブランクも有るだろうし!」

「ありがとう!多分マリーちゃんもリリィもそうだけど、町からの増援もすぐに来るよ!」

「そうか、なら、シルフィは空中の連中を頼む!アタシらは地上をやる!」


 ミサイルを撃ち終えた装甲をパージしたカルミア達は、デュラウスと共に地上へ降りて行く。

 彼女を見送ったシルフィは、ヘリアンと共に空中の敵に専念する。

 シルフィの射撃能力は、やはりヘリアンと並んでおり、百発百中で、ドローンの操作もなまっていない。


「あの子、腕は落ちてないみたいだね」

「ああ、リリィとマリーが来るまで、アタシらで何とか持たせるぞ!」

「わかった!」


 降下と同時に、カルミアは地上に居たサイクロプスに一撃を入れる。

 落下の速度とレッドクラウンの重量によって、その巨体は破裂。

 間髪入れずに、カルミアは背中の尻尾を使用し、地上の魔物を掃討して行く。


「デカい奴らまで出てきやがったか!」

「……レーザー通信回復、揚陸艇とも連絡が取れるよ」

「そうか!悪いが少佐につないでくれ!」


 どうやら、友軍の中に通信装置を身に着けた機体が居たらしく、通信が回復した。

 高濃度のエーテルが充満している中では、通信が扱えないが、特殊な装置で通信強度を高めれば、何とか通信はできる。

 回復した通信を用いて、カルミアは少佐に連絡をつける。


「少佐!聞こえるか!?」

『ああ、どうやら通信は無事に回復したようだな』

「それより、リリィとマリーの出撃を急いでくれ!サイクロプス級まで出てきている!今の地上部隊の火力じゃ、対応しきれない!」

『そんなにか……分かった、各隊に通達!強力な個体も出現している!地上部隊はアリサシリーズの援護に集中!戦線を押し返す事は考えるな!援軍が来るまで、戦線の維持を考えろ!』


 補給の物資を頼んだのはカルミアである為、現在の部隊の火力は把握している。

 融和政策による軍縮で、配備できる兵器の数は減少しているが、その分性能は向上させている。

 それでも、火力はせいぜい三割増し程度。

 アリサシリーズに追従する僚機としては、申し分ないかもしれないが、現状では足止めがせいぜいだ。


「地上部隊の扱いは良いけどよ!これ、どうやったら終わるんだ!?」


 通信していたカルミアに割り込んだのは、この状況の終了が解らないデュラウス。

 何しろ、湯水のように魔物が溢れ出るこの状況。

 撃破しても、撃破しても、減るどころか、むしろ強い個体が出現してきている。


「知るか!とりあえず、リリィにあの穴に突入してもらうしか、道がない!」

「穴の奥で何か起きている事は間違いないからね!」

「成程、元を断つわけか!」


 カルミアが考えているのは、あふれ出ている場所、縦穴の先に有るかもしれない元凶を断つ事だ。

 その為には、リリィやマリーのレベルでないと、突入は難しい。

 マリーは体力が消耗しているだろうが、リリィは調整と多少の休息後でも、十分戦える。

 このような扱いは気が進まないが、これがアンドロイド兵の強みだ。


「でも、リリィも結構やられてたし、そんなにすぐ来るかな?」

「来る!シルフィが来てんだ!下手したら調整途中でも来る!」

「だな!」

「……気持ちはわかるけど……(せめて調整はすませてよね)」


 現在のリリィは調整中だが、この戦場にはシルフィが居る。

 下手をしたら、中途半端な調整で来る危険が有る。


「てな訳だ!少佐!リリィの調整はどれ位かかる!?」

『エーラが言うには、後五分だ!』

「そうか、カップうどんでも作って、待ってるとするか!」

『ああ、それまで、何とか持たせてくれ!』

『ああああ!!シルフィ!シルフィが居ねぇぇぇぇ!!』

『おい!まだ調整終わってねぇんだから暴れんな!マリー!ちょっとコイツ押さえつけろ!』

「……」

「……」

「……」


 通信を終了しようとした時、明らかにリリィの物としか思えない叫びが聞こえて来た。

 大方、揚陸艇内の監視カメラにでもアクセスしたのだろう。

 そのせいなのか、随分と荒れているらしいが、どうやらマリーは復活したらしい。

 彼女の言葉を聞いて、黙ってしまう三人だったが、気を取り直して戦闘を再開する。


「さ、さて!何とか持たせるぞ!!」

「あ、ああ!」

「元気で何よりだよ!!」


 リリィの到着を待って、カルミア達は戦闘を再開する。



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