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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
スイートピー編
312/343

最強のスレイヤー 中編

 

 揚陸艇にて、少佐達は自分の目を疑っていた。

 リリィとマリーの奮闘によって、クラブの身体は消滅した。

 二人と同様に、揚陸艇で様子を見ていたメンバーも安堵した。

 喜んでいた矢先、二人が苦戦したクラブが百人以上現れたのだ。


「ば、馬鹿な、こんな事が」

『少佐!指示をくれ!すぐに助けに行く!』

「ッ……」


 同様する少佐に、通信を行ったデュラウスだが、彼女の申し出は却下された。

 助けに行きたい気持ちはわかるが、彼女が行っても無駄だ。

 相手は一人でも、リリィとマリーのコンビを圧倒出来る。

 増えた事で、戦闘力にどれ程変化があるか不明だが、数を考えると、彼女達が行っても、焼け石に水だろう。


「(増えたら弱体化してくれるか?いや、そんなデメリットが有るような事をしてまで、百人以上に増えるか?それとも、あれだけ増えて弱体化しても、十分な戦闘力を持っているのか?)」


 少佐が願うのは、分裂によってクラブの戦闘力が低下しているという事。

 だが、少佐にはその確証がない。

 不安の募る少佐は、重い腰を上げるように指示を下した。


「分かった、アリサシリーズ各機に通達!リリィ達を援護し、敵性勢力を排除せよ!」

「待って下さい!何かが高速でこちらに接近しています!!」

「な、何だと!?」


 チハルからの報告は、デュラウス達にも届いていた。

 許可が下り次第、すぐに飛び立つつもりだった彼女達も動きを止めた。


 ――――――


 その頃。

 百人以上のクラブを前に、リリィ達は戦意を喪失していた。

 しかも、しっかりと統率が取れているのか、全員が邪魔になっている様子がない。

 彼女ら全員は、リリィとマリーの事を見下すようにほほ笑む。


「もう忘れたか?私を倒したければ、この身体の全てを消さなければならない」

「さっき私は、首から全て再生させた」

「その時、前の身体は、貴様らは放置していただろ」

「こんな簡単な事も解らないとは、途方も無く頭が悪いな」

「……ヤッベ」


 見下すクラブのセリフで、リリィ達は思い出した。

 クラブの首から下は、完全に放置していたのだ。

 その身体から、彼女は再生と増殖を行ったのだろう。


「……チェックメイトか?」

「かもね」


 一人でも圧倒されていたというのに、この大人数。

 流石の二人も、諦めムードだった。

 そんなリリィ達を見て、クラブ達は笑みを浮かべる。


「流石の貴様らも、この数の私を殺しきることは、不可能だ」

「分かっただろ?貴様らがどれだけ愚かであるか」

「お前らを殺した後で、勝利の美酒を味わった後、最後のエルフィリアを殺す」

「これで、復讐は完了だ」

「……」

「……」


 向かってくるクラブ達は、自らの目的をベラベラと話してくれた。

 そのおかげで、二人のやる気は再燃。

 最後のエルフィリアと言えば、もうシルフィしかいない。

 彼女を殺される位なら、ここでまた死ぬ気で戦った方がマシだ。


「マリー」

「リリィ」


 無理矢理立ち上がった二人は、クラブ達を睨む。

 もう一度武器を手に取り、進もうとする。


「シルフィを殺す気なら」

「どんな事があっても」

「お前を殺す!!」

「お前を殺す!!」


 武器を構える二人を見て、クラブ達は嘲笑する。

 百人以上の笑い声がリリィ達に降り注いでも、戦う姿勢は変えようとしない。


「……無謀」

「無駄」

「何をしようと」

「私の望む全てが叶う」

「いや、勝利の美酒も、復讐も、全て叶わない」


 聞き覚えのある声に、リリィとマリーは振り返った。


「ッ!」

「し、師匠!?」


 後ろに居たのは、二人の師匠でもあるザラム。

 しかも青年姿で、戦う気満々である事が伝わって来る。

 二人の無事を確認したザラムは、二人に笑みを浮かべながらリリィの肩に手を乗せる。


「え?」

「交代だ、お前達は下がっていろ」


 そう言いながら、ザラムは前へと出た。

 この光景に、クラブは目を細めた。

 彼女からしてみれば、見知らぬ鬼人が、自分の腕を過信して前に出て来たのである。


「……何者か知らんが、身の程をわきまえないゴミが、また死にに来たか、全く、目障りなんだよ!そこのゴミクズと、まとめて消して」

「……おい」

「ッ!」


 クラブの言葉を遮りながら、ザラムは彼女を睨みつけた。

 その眼光はクラブ達の恐怖心を貫き、全員の動きを止めた。


「俺は今この子達と話している、独り言なら他所でやれ」

「き、貴様、少しは自分の立場を考えろ!誰に向かってッ」


 蚊帳の外の扱いをするザラムに対し、頭に血を昇らせ、激高したクラブ。

 だが、唇、舌、喉に違和感を覚え、途中で怒鳴るのを止めた。


「……ッ!?」


 その瞬間、怒鳴っていたクラブの舌と唇が落ち、声帯の部分がパックリと割れた。

 何が起きたのか、一瞬解らなかったが、ザラムの刀を納める姿を見て、すぐに解った。

 百メートル以上離れる間合いから、彼の刀がクラブの声を出すための器官を切り裂いたのだ。


「少し黙っていろ、後で相手をしてやる」

「(こ、この距離からアイツを切ったのか!?)」


 リリィとマリーが押そうと引こうと、最初の一回以外は一切傷つけられなかった。

 それが、遥か遠くの目標であるクラブを切ったのだ。

 驚く二人の方を振り返ったザラムは、手招きを行った。

 そんな彼に従うように、デュラウスが駆け寄って来る。


「な、何でアンタがここに?」

「何、この戦い、俺が与かろうと思ってな、それより、そいつらを連れて、早く行け」

「けど、アンタ一人で大丈夫なのか?」


 リリィ達を連れて行くように命令されたデュラウスは、百人以上居るクラブ達に目をやる。

 先ほどザラムに斬られた個体の傷は、既に治っている。

 それを皮切りに、全てのクラブはザラムの事を睨みだす。


「この、小汚い鬼人如きが」

「この私の、ハイエルフの顔を切っただと?」

「何処までも頭の悪い奴らだ!まとめて、殺してやる!!」

「うるさい奴だ」


 鞘に収まっている刀に手を置いたザラムは、今にも襲い掛かって来そうなクラブ達に狙いを定める。

 そして、常人では絶対に見えないような速度で、刀を振った。

 次の瞬間、全てのクラブの足がバラバラに切断され、全員が地べたに倒れる。


「な!」

「何が!?」

「……」


 この光景に、マリーもデュラウスも目を丸め、口をあんぐりと開けた。

 リリィも、存在しない物を見つけてしまったように硬直している。

 何しろ、彼の攻撃する姿を認識できたのは、シルフィとリンクするリリィだけ。

 ザラムはたった一度刀を振り、発生させた斬撃でクラブ達の太ももを消し飛ばしたのだ。

 人間技であるかどうか、それ以前の話だった。


「……これで分かっただろ?」

「そ、そうだな、俺達がいたら、アンタの邪魔になるな」

「う、うん、私達は、離れた方が、良さそうだね」


 マリーですら恐怖を覚える程、ザラムの実力がはっきりした。

 修行の時、何度もザラムにコテンパンにされたが、その時の彼ですら本気では無かった。

 そう考えただけで、ザラムが急に恐ろしく成ってしまう。

 邪魔にならない為に、揚陸艇へ下がろうとする。


「いや……」

「え?」


 ザラムの勝利を確信するマリー達だが、リリィだけは表情が穏やかではなかった。

 何か不安が有るようで、冷や汗を流しながらも、リリィは刀を納める。


「行きましょう……何にしても、私とマリーは、休息が必要です」

「お、おう……お前ら、飛べるか?」

「何とかね」

「私も、一人で行けます」


 リリィとマリーを連れて、デュラウスは揚陸艇へと帰って行く。

 三人の後ろ姿を見送ったザラムは、改めてクラブの方を睨む。

 全員足の再生は終わっており、揃いも揃ってザラムへ殺意を向けている。


「鬼人如きが」

「この私に、土くれを舐めさせるとは!」

「万死だ、万死に値する!!」

「……」


 殺意を向けてくるクラブ達を前に、ザラムは刀を構える。

 彼の顔は、僅かに焦りが見え、冷や汗が少しだけ垂れる。

 そんな彼に気付かず、クラブ達は動き出す。


「三分の一はあのゴミ共を追え!残りはあの害虫だ!!」


 一部のクラブはリリィ達を追いかけるべく、背に翼を生やす。

 残りはザラムの方へと、全速力で襲い掛かって行く。

 刀を構えるザラムは、向かってくるクラブだけでなく、空を飛ぶクラブにも狙いを定める。


「……」


 ゆっくりと息を吐き、ザラムは目を見開く。


志那(しな)都比(つひ)古神(こかみ)


 技の名を唱えた瞬間、ザラムは刀を振るった。

 そして、空中であろうと、地上であろうと、全てのクラブの首が飛び、続けざまに体が粉々に切り裂かれる。


「(ば、馬鹿な!?何が、一体何が起きた!?百人以上の私が、全員!)」


 クラブが体感したのは、まるで風魔法による攻撃。

 それによって、身体がバラバラになった。

 しかし、感じたのは初級程度の風魔法。

 その筈が、全てのクラブがバラバラとなったのだ。


「(……マズいな)」


 だが、ザラムはこの結果に不服だった。

 予想では、この倍以上ダメージをクラブに与えたつもりでいた。

 それも、斬られた事に気付かない程、繊細で柔らかな風の斬撃を放った。

 結果の方は、見ての通り。

 クラブの身体はサイコロステーキ程の大きさまで斬れたが、もっと細かくなる予定だった。

 最近ロクに本気を出していなかったせいで、気づけなかった。

 自分自身の、身体の衰えに。


「(思った以上に、寿命が迫っている……技のキレも、以前の三分の一か?いや、それ以下だ)」


 肉の雨が降る中で、ザラムは衰えを悔いた。

 老衰を送らせるために、老人で居たのだが、それでも老いが止まる訳ではない。

 それは認識していたのだが、思ったよりも老化は進んでいた。


「……とはいえ、今の俺の斬撃を受けて、液状化しないだけの防御力か、たいしたものだ、そこは誇ってもいいぞ」

「……ッ、この、化け物が!!」


 リリィ達の時よりも遅い回復速度で、クラブは身体を再生。

 人数は先ほどの倍以上に増やし、クラブはザラムの事を囲う。

 これを見て、ザラムはクラブの異常性に気が付く。


「成程、どれだけ増えるかはお前の思い通り、しかも強さもそのままか、だが」


 もう一度向かってくるクラブに対して、ザラムはもう一度身構える。

 実力もそのままで、いくらでも分身を作る事が出来る。

 それでも、クラブは諦める事をしなかった。


「所詮は、井の中の蛙か」


 結果は先ほどと同じ。

 何百人で来ようとも、ザラムは全てのクラブを粉々になるまで切り裂いた。

 しかも、今度は攻撃の手を休めず、更に小さく、細かく切り刻んでいく。

 反撃も一切許さず、ひたすらに切り刻んでいくが、ザラムの焦りは消えない。


「(困った、勝てそうにない……ならば)」


 焦りにより、わずかに呼吸と剣筋が乱れる。

 その辺は上手く抑え込み、より早く動く。

 冷や汗を流しながら斬っているザラムは、何となくわかってしまった。

 クラブを完全に倒すには、全ての細胞を消し去らなければならない。

 今のペースでは、先に寿命が来てしまう。


「(クソ!再生が追い付かない!だが、このままであれば負ける事は無い)」


 ザラムの現状を知らないクラブだが、負ける気はしなかった。

 再生は追いついていないが、ザラムの剣速との差は、頭一つ分程度。

 全て斬られる前に、先にザラムの方の体力が尽きる。

 だが、そんな勝ち方はクラブのプライドが許さない。


「(だったら、もっと再生と増殖を早める!!)」

「ッ、更に数が!」


 思いついたのは、再生と増殖の加速。

 どんなに斬られたとしても、細胞の数はどんどん増え、ザラムの攻撃を上回りだす。


『フハハハ!これだけの数、貴様でもさばけまい!!』

「小癪な」


 斬撃の嵐とよべるような攻撃の中で、徐々に多くのクラブが人の形を取り戻す。

 そして、数百の単位の数から、今度は数万にまで増えて行く。

 攻撃が可能な程に回復した個体から順に、遠距離から攻撃を開始。

 その間であっても、クラブの増殖は続く。


「死ね!」

「鬼人如きが!」

「厚かましい!!」

「(よく言う、だったらその手で俺を殺しに来い)」


 偉そうに魔法を使用するクラブだが、ザラムからしてみれば、臆病風に吹かれているだけだ。

 近づけば、斬り刻まれる事が解っている。

 だからこそ、離れた場所から魔法を撃っている。

 魔法程度では、ザラムの手で構築される刀の結界は破る事はできない。


「チ、だが、そんな状態が何時まで持つ!?」

「貴様が攻撃する度に、敗北の時は迫る一方だ!」

「どんなに攻撃しようとも、私は増えるだけ、貴様の負けだ!!」

「もはや打開する術はない!!」

「……」


 確かに、今の状態では分が悪すぎる。

 相手はザラムが対処できないレベルで増え続け、更に体力の限界も近づいている。

 今の状態では、ザラムがジリ貧になって負けてしまう。


「本当の事を言われ、言葉も出ないか……ならばそのまま朽ち果てるがいい!!」


 増えたクラブ達は、一気に前へと出る。

 煽り散らしたはいいのだが、やはりこのまま体力切れを待つのは趣味ではない。

 だったら、この物量で押しつぶしてしまえばいい。

 そう考えたクラブは、動く事の出来る個体の全てが自爆覚悟で特攻してくる。


「……この状況の打開策?簡単な事だ」


 次々と斬撃を超えて来るクラブを前に、ザラムは刀を握る力を強める。

 そんなザラムの様子を見たクラブは、攻撃の手を緩めずに嘲笑する。


「馬鹿め、もはや何をしようと無駄だ!!」


 ザラムをバカにした、次の瞬間。

 彼を覆っていた大量のクラブは、一瞬にして消え去った。

 全てではないが、もうじき十万に差し掛かるという所で、九割以上が持っていかれた。


「……な、何が、起きた?」


 生き残った一割のクラブ達は、ザラムの居る場所を睨む。

 そこには、黒い髪を生やした青年は居らず、代わりに白金の髪を靡かせる青年が立っていた。

 彼の服装がザラムと同じである事に気付いたクラブは、目を丸める。


「き、貴様、まさか」

「……それさえ上回る力で、剣を振るえばいい、ただそれだけだ」


 マリーやシルフィと、同じ髪に変わったザラム。

 よく見れば、クラブとマリー以上の輝きを放っており、心なしかガタイも良くなっている。

 いや、更に若返ったと言った方がいいのかもしれない。

 それだけ、ザラムの様子は変わっているのだ。


「そ、その姿は」

「何だ?進化した存在が、お前らだけだと思っていたのか?」

「あり得ない、いや、それ以前に、許されるものか、我々エルフ以外が、あの姿になるなんて」


 ザラムの姿をみたクラブは、あからさまな動揺を見せた。

 これでもクラブは、ルドベキアから様々な知識をもたらされている。

 今の二人のように、白金の髪を持つ存在こそが、完全な上位種とされている。


「……いや、許される筈がない、許されるものかぁぁぁ!!」


 喉がはち切れそうな程の大声を出したクラブは、先ほど以上の速度で分裂と増殖を開始。

 再び数の暴力を行い、ザラムに攻撃を仕掛ける。


「許される、全ての生命には、進化できる資格を持っているからな」


 クラブのセリフに反論しながら、ザラムは迎撃する。

 いや、迎撃と呼べるような生易しい物では無く、猛攻をクラブへとぶつける。


「おのれ!おのれ!子汚い種族が、我々ハイエルフと肩を並べる何て……害虫風情が!駆除される以外の選択肢はない!!」


 怒りを表面に出しながら、クラブ達はザラムに特攻していく。

 魔法を駆使し、身体を刃にして挑み、あらゆる方法を試す。

 それでも、ザラムの戦闘能力を上回る事は出来なかった。

 どんな方法を試しても、クラブはザラムに触れる事すらできていない。


「死ね!死ねッ!死ねぇ!!」


 四方八方から地上に居るザラムへと襲い掛かる。

 完全に逆上しているのか、逃げたリリィ達を追う事を忘れている。

 その事が原因なのか、クラブの特攻には迷いがなく、ザラムを殺す事だけしか、頭にない。


「(……そうだ、全ての生命には、進化していい資格が有る、だが、何時も進化を目指す奴は、とても資格が有るとは言い難い奴らばかりだった)」


 先ほどの自分の発言を思い出したザラムは、不意に昔の事を思い出した。

 神がかりな剣術を披露しながらも、ザラムは涙を流す。


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