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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
スイートピー編
311/343

最強のスレイヤー 前編

「……首切ったなら、早くこれ抜いてくんない?」

「はいはい、少しお待ちを」


 斬撃で飛ばされたクラブの首を横目に、リリィはマリーの胸に刺さっている物を引っこ抜く。


「ッ!」


 心臓を貫かれていただけに、マリーの顔は苦痛で歪み、胸の穴から大量に出血する。

 更なる激痛が走ったが、自前の再生能力と回復魔法によって、その全てが治療された。


「それにしても、こんな姿になってまで復讐何て、随分恨みを買いましたね」

「ほんと、あの時殺しとくんだった……」


 マリーとシルフィへの憎悪だけで、変異したと思われるクラブ。

 ただの化け物に身を落としてまで、復讐を果たそうとする事に呆れながら、リリィは彼女の身体をその辺に捨てた。


「……」

「ッ?急に何?」


 クラブを取り逃がした事を後悔するマリーに、リリィは抱き着いた。

 リリィの方からそんなスキンシップをしてくる事なんて、全然なかった。

 とまどうマリーだが、何故そんな事をしたのか判明する。


「……何だ、姉さんか」

「うん、良かった、大事に至らなくて」


 今のリリィの身体の主導権を握っているのは、シルフィの方。

 先ほどクラブへの不意打ちに成功したのは、ほとんどマグレ。

 クラブがリリィの事を、アンドロイドである事が知らなかったからこそ、心臓を貫いただけで油断を見せてくれた。

 なので、マリー達が心臓を貫かれたのは作戦でも何でもない。

 本当に危ない所だったのだ。


「それにしてもアンタ、胸貫かれておいて、よく無事だね」


 それは置いておき、何時までもリリィに抱き着かれているのも、調子が狂うので、マリーはリリィの事を引き離した。

 引きはがされたついでに、リリィは自分の状態を話す。


「当然ですよ、私の動力は、みぞおちの少し下あたりですから、胸を貫かれた所で、どうという事ことはありません」

「成程、弱点は胸じゃないんだね」

「そう言う事です……向こうは、ちゃんと弱点を切り落としましたから、大丈夫ですよ……多分」


 そう言いながら、リリィは首を落とされたクラブの身体を睨む。

 ロータスの天を使用した斬撃であれば、再生能力は働かない。

 正攻法で首を落としても生きているジャックであっても、先ほどの方法であれば殺す事が出来る。

 同じ理由で、クラブがどんなに強力な再生能力を持っていても、これで終わりの筈だ。


「(そうだ、大丈夫なはず、なのに、何だ?この違和感は)」


 リリィを包む違和感。

 ルドベキアの用意した試練にしては、簡単すぎる。

 そのうえ、クラブの首の感触が、あまりにも軽すぎた。

 これらのせいで、どうにも不安が抜けない。


「……く、くくく」

「ッ!」

「まさか!?」


 聞こえて来る筈のない笑い声が、リリィ達の耳に入り込んだ。

 その瞬間、リリィとマリーは勢いよく、クラブの首の方を向いた。


「貴様ら如きが、私の首を取れると思っていたのか?」


 そこには、首から身体を再生させていっているクラブの姿が有った。

 しかも、その速さはかなりの物。

 わずか数秒で、首から下の全ての再生が完了してしまう。

 この光景には、流石のマリーさえも目を見開く。


「ウソだろ、アイツ、あの剣の能力を上回っているというのか!?」

「確かに、普通の人間であれば、首を取られた時点で終わりだ、だが、この私は特別だ、細胞一つ一つが脳のような物、倒したければ、私の身体を細胞一つ残さず消す事だ」

「チ、あの女、面倒な事を」


 クラブの説明を聞いたリリィは、ルドベキアにかつてない程の殺意を覚えた。

 マリーと二人で戦っているというのに、かなり苦戦した。

 そんな奴の細胞を一つ残さずに消す何て、無茶もいい所だ。

 だが。


「……マリー」

「……うん」


 刀を握り直したリリィは、マリーにアイコンタクトを送った。

 その視線に答えたマリーも、両手の剣を持つ力を強める。

 二人の動作を見たクラブは、見下すようにして笑みを浮かべる。


「何だ?もう小細工は通用しない、所詮、奇襲は奇襲、二度目は無い」

「……」


 そんなクラブを前にしたリリィは、大きく息を吸い込む。


「合わせろよ!マリー!!」

「分かっている!!」


 叫んだリリィは、クラブへと突撃。

 マリーもリリィの後に続き、地面を蹴り飛ばす。

 しかも、二人とも今回は最初から本気の状態だ。


「来い、殺してやる!」


 二人を迎え撃つべく、クラブは腕を六本に増やし、二人と衝突。

 多数の腕を用いて、クラブはリリィ達と切り結ぶ。


「(早い、だが、シルフィの目と、あの人の剣術なら!!)」


 クラブの一撃は、確かに速く重い。

 だが、今のリリィには、シルフィの動体視力と、ザラムから授かった剣術が有る。

 それらを駆使し、リリィはマリーと共に、息をさせる間も与えない程の連続攻撃を行っていく。


「(修行したんだ、前のような結果にはしない!)」


 リリィの攻撃に合わせるマリーは、前大戦の時の雪辱を思い出す。

 あの時も、二人で戦う事となったが、ジャックには歯が立たなかった。

 同じ事に成らない様、ザラムの元で修業した。

 その効力を示すように、二本の剣を振るう。


「チ、調子に、乗るな!!」

「(ッ!この色!)」

「(やっぱり、コイツも天を!)」


 圧倒的な攻撃を前に、クラブは勢いよく腕を振るわれた。

 ムチのようにしなる腕を、二人は回避。

 クラブの腕から放たれた斬撃は、赤黒いオーラをまといながらリリィ達の背後を切り裂き、地面を焼く。

 これを見た二人は、クラブが天を使用している事を確信した。


「こっちのセリフだ!」


 しかし、驚いている間も無く、マリーは体勢を直す。

 腕を振り抜いた状態のクラブへ向けて、魔法を使用する。


「エクスプロージョン!!」

「ッ!」


 クラブの周囲に、赤黒い炎が一気に噴き出し、大爆発を引き起こした。

 先ほどクラブが出て来た球体に使用した物より、遥かに強力な魔法。

 発動する寸前に、クラブは四本の腕で自らを包んだ。

 マリーの魔法が襲い掛かり、腕の表面を焼いていく。


「チィィ!」

「(クソ、手ごたえがない!)」


 彼女を倒すには、身体を完全に消し飛ばす必要がある。

 それがはったりだろうと、そうで無かろうと、それに相当する攻撃をしたつもりだった。

 それなのに、彼女の身体はどんなに焼かれても再生する。

 マリーの魔法ですら、今のクラブの再生能力を超えられていない。


「だったら、これで!!」


 マリーの攻撃が終了すると同時に、リリィは切り込む。

 防御状態を維持するクラブに対して、全力で刀を振り下ろす。


「炎落とし!!」

「無駄な事を!」


 白金の炎をまとう刀は、クラブの左半身に直撃。

 今度は全体重をかけ、さらにブースターによる加速も加えている。

 その筈が、クラブの身体は傷を負わず、リリィの攻撃を弾き返す。

 間髪入れずに、リリィは遠心力を加えた横薙ぎの型を繰り出す。


「炎討ち!!」

「無駄だと言っている!!」


 リリィの一撃は、クラブの首を捉えたが、油断していないクラブに対しては無力。

 切断どころか、刃が通らない。

 マリーの言う通り、刀に練り込まれている天を上回る力を持っており、直に触れても全く影響がない。

 その事に驚くリリィへと、クラブは右手を突きだす。


「エアロ・スピア!!」

「危な!」


 魔法が発生する前に、リリィは飛び上がって回避した。

 繰り出された風の槍は、リリィが先ほど居た所を消滅。

 間を入れる事無く、クラブは四本の腕を展開する。

 四本の腕は、リリィを包み込み照準を向ける。


「読んでいる!」

「こっちもな!」


 先ほどの魔法と同じ物を撃とうとするクラブへと、マリーも同じ魔法を同じ数繰り出す。

 魔法は相殺され、クラブの腕も爆発に巻き込まれる。

 それでも、クラブの腕はノーダメージだった。

 爆炎から出て来るクラブへと、リリィはショットガンを向ける。


「ならこれで!!」


 引き金を引かれたショットガンから、極太のエーテルが射出。

 銃身を崩壊させながら放出されるエーテルに、クラブの身体は飲み込まれる。

 その光景を見ていたリリィは、銃身を取り換えながら難しい表情を浮かべる。


「……マジかよ」


 削られた地面の上に、クラブは腕をシールドのように変形させて佇んでいた。

 表面を焦がした程度で、それもすぐに再生してしまう。

 腕を元に戻したクラブは、リリィ達の事を睨みつける。


「……遊びはこれで終わりだ」


 片腕を巨大な刃に変形させたクラブは、全力で地面を蹴り飛ばし、マリーへと接近。

 そのスピードは、シルフィとリンクするリリィの目に映っても、反応ができない物だった。


「はや!」

「グァッ!」


 気付いた頃には、クラブはマリーを蹴り飛ばしていた。

 彼女も反応する事が出来ずに、攻撃を許してしまったらしい。

 その事に驚く暇も無く、クラブはリリィへと三本の腕をつき出す。


「邪魔だ」

「ッ!」


 三本の腕からは、異なる属性の魔法が放たれた。

 寸前の所で、マリーから貰った腕輪のシールドを展開し、何とか受け止めたが、衝撃によってリリィは吹き飛ばされてしまう。


「行くぞ!」


 飛んで行ったリリィを無視したクラブは、四本の腕をしまうなり、マリーの方へと移動。

 ダメージに苦しむマリーは、すぐに迎撃態勢を取る。


「もはや貴様なんぞ、恐れるに足らん!」


 以前までのクラブは、マリーに連想する物を見ただけで、強い恐怖を覚えていた。

 今となっては、そんな畏怖の対象であった彼女でさえ、ただのカカシのように思えてしまう。

 実際、先ほどの蹴りの感触だけで、マリーの身体はかなりダメージが入っていた事がわかる。

 肋骨は半分以上折れ、粉々になった骨は彼女の破裂した内臓に追い打ちをかけていた。


「プッ、これ以上やられるか!」


 口に溜まった血を吐き出したマリーは、傷を治し、クラブを迎え撃つ。

 今のクラブは、動きやすさを重視し、余計な物を廃した状態。

 速さの面は、先ほどとは比較にならない。

 巨大な刃となった腕一本を振り回し、二刀流のマリーを圧倒する。


「ほら如何した?もっとマジメにやったらどうだ!?」

「チ」


 猛攻の最中、クラブはマリーの事を煽った。

 僅かに悔しさをにじませながら、マリーは迎え撃っていく。

 悔しさからくる焦りは、ルシーラが抑え込むが、それでも実力の差は如何ともしがたい。


「それとも、マジメにやってこれか!?だったら、悪かったな!!」

「ズッ!」


 マリーの僅かな隙をついたクラブは、強烈な足蹴りをお見舞いした。

 クラブの身体は、まるで骨格が無いかのような動きを見せる。

 鞭のようにしなり、普通に蹴り飛ばすより、遥かに強力な蹴りが、マリーを襲った。

 蹴りをマトモに受けたマリーは、上空へと飛び上がる。


「この私を侮辱した事、後悔しろ!」

「ッ!」


 一緒に飛び上がったクラブは、背中に羽を生やしてマリーに追い付く。

 そして、空中に浮くマリーへと、移動しながら連続攻撃を繰り出す。

 生やした翼を駆使し、全方位から斬りつける。


「貴様は、生き地獄を味合わなければならない!!」

「ガハ!」


 マリーの身体を何十回も切り裂いたクラブは、続けて腕を彼女の腹部に突き刺す。

 その上で、刃に変化させた腕を切り離し、マリーを地面へと叩きつけた。

 動きを止められたマリーへと、クラブは瞬時に腕を再生させ、両腕を構える。


「死ね!ルシーラ!!」


 マリーへ向けて、まるで台風を一点に集中させたような魔法を打ち出す。

 高温と強烈な風を含んだ塊は、マリーへ直撃。

 刃と化した風は、地面を切り裂き、巨大なクレーターを形成した。


「……」


 余韻と言えるような風を受けながら、クラブは下を睨む。

 直撃すれば、大抵の肉体は破裂したようになり、辺りに肉片や鮮血が飛び散っている。

 だが、地面にはクラブの腕の分の血しか飛び散っていない。


「私でも見えなかった……貴様、まさか」

「はぁ、はぁ……とっておきの瞬間移動、こんな所で披露する事に成るなんて」


 振り返ったクラブの視界に、腹部の傷を抑えるマリーが居た。

 少し息が上がっているが、傷はすぐに回復させた。

 先ほどマリーが使ったのは、影移動の上位互換である瞬間移動。

 影と影の間ではなく、亜空間を移動する魔法だ。

 ザラムとの修行の成果で、もっと特別な場面で披露するつもりだった。


「……やはり、貴様もか」

「私も?」


 クラブの発言に首を傾げたマリーだったが、突如クラブの姿が消えた。

 その次の瞬間、マリーの首にレイピアのように細い刃が突き刺さる。


「ガ!」

「だが、貴様だけが使える技だと思うな」


 マリー同様、瞬間移動を使用したクラブは、背後を取る成り、指を鋭くしてマリーの喉を突いていた。

 クラブも使用できると知ったマリーは、歯を食いしばりながら瞬間移動を行う。


「ッ!」

「ほう」


 同じく、クラブも瞬間移動を使った。

 二人の姿は消え、移動の完了と共に衝突する。

 何度も同じ事が行われ、その度に衝撃波が辺りにまき散る。

 しかし、クラブの方が、一枚上手だった。


「だが、私程ではない」

「しまッ!」


 最終的に、マリーはクラブに背後を取られてしまった。

 巨大な刃へと変えられた腕に天をまとわせたクラブは、マリーの首を狙う。

 もはや回避も防御も不可能な状態。

 驚いたマリーは、身体を硬直させてしまう。


「させるか!!」

「リリィ!?」


 攻撃が入る直前で、間にリリィが割って入った。

 まるで、クラブ達が出て来る場所がわかっていたかのようなタイミングだ。

 刀を用いて、横から来るクラブの刃を受け止める。


「ッ!重いぃ!」

「邪魔するなと、言った筈だ!」

「ギャ!」

「リリィ!」


 リリィの事を吹き飛ばしたマリーは、怒りに染まった表情で、両腕を変化させる。

 クラブの身長以上の腕へと変化し、まるで複数の刃の付いた触手。

 それが複数付いた腕は、二人へと襲い掛かる。


「身の程をわきまえろ!貴様らでは、私は絶対に倒せない!挑んで来る前に、まず自分がどれだけ、わい小でぜい弱な存在であるかを意識しろ!!」


 激怒したクラブは、複数の触手を使ってリリィ達を滅多裂きにしていく。

 悲鳴すら上げる間も与えられず、リリィとマリーは、辺りに鮮血を散らす。

 しかも、クラブはこの連撃の最中、一切急所を狙っていない。

 首も心臓も狙わずに、ただ一方的に切り裂き続ける。


「その愚かで低能な頭、少しは働かせろ!!」


 最後に、クラブは二人に向けて、純粋な魔力を固めた物を叩きつける。

 揚陸艇さえ包み込みそうな程大きな塊は、リリィ達を呑み込み、大爆発を引き起こす。

 爆炎から出て来たリリィとマリー。

 二人はほとんど気を失いながら、地面へと落下。

 受け身の一つも取れず、地上に激突した。


「……ッ、マリー、後で土下座してくださいよ」

「……い、言われなくても……熱した鉄板の上でも、ドライアイスの上でも、どこででも、頭こすりつけるよ」


 全身を走る激痛に耐えながら、二人は後で謝る約束を取り付けた。

 何しろ、クラブがここまで力を付ける原因を作ったのは、マリーと言える。

 実際、マリーも過去にクラブを殺しておけば良かったと後悔している。


「でも、その前に、まだやれる?」

「ええ、まだ、手も足も、動きますよ」


 立ち上がった二人は、痛みをこらえながら顔を上げる。

 降り立ったクラブの姿を捉えるなり、恐怖を覚える。

 それでも、リリィは刀を、マリーは槍を構えた。


「……まだやる気か、まるで死肉を漁る野良犬だな」


 両腕を刃に変えたクラブは、二人へと接近していく。

 そんな彼女を前に、二人は踏み出る。


「アイツには、生半可な攻撃は通用しません」

「なら、私達が持ってる全部をぶつける」


 リリィは、義体の出力を限界以上に引き上げる。

 マリーも、身体が悲鳴を上げる位に、鬼人拳法による強化を行う。

 二人のオーラは合わさり、互いの武器に魔法が宿る。


「攻撃だけに集中しろ!!」

「受け身は無視!!」


 完全に最終手段と言えるように、二人は同時に飛び出す。

 クラブが出したスピード以上の速度が叩き出され、接近してくるクラブとの間合いを詰める。

 有効範囲に到達した二人は、技の名を叫ぶ。


「壱の奥義・火之迦具土!!」

「四の奥義・雷之神!!」


 二人が扱える、最強の技。

 それが同時に繰り出され、クラブと正面衝突する。


「ば、バカな!?」


 防御を働かせていた筈のクラブの身体は、バラバラに砕け散った。

 攻撃を行った二人は、受け身を取り損ねて地面へ転がる。

 無理矢理姿勢を直した二人は、クラブの方を向く。


「まだまだ!!」

「今度こそ消し去る!!」


 リリィはショットガンを、マリーは槍を構える。

 そして、二人は可能な限り強力な攻撃を行う。

 白金の魔力と、赤黒い魔力が交差し、射線上の全てを消しながら突き進む。

 クラブの肉片も例外ではなく、長時間の照射によって、完全に消滅する。


「……どう?」

「……」


 完全に損傷したショットガンを捨てながら、リリィはクラブが居た場所を睨む。

 今のリリィは、シルフィとのリンクによって、機械の目と彼女の目を同時に扱える。

 先ほど、マリー達の瞬間移動先を見抜いたのはその応用。

 時間だけでなく、亜空間さえ見る事の出来る目で、クラブの細胞が残っていないか、注意深く見渡す。


「……どうやら、消滅したようです」

「よ、良かったぁ~」

「ええ」


 リリィの報告を受けて、マリーは座り込んだ。

 ダメ元ではあったが、どうやら上手く行ったらしい。

 これまで前にした相手で、本当に最上級だった。

 ルドベキアの最後の試練、というだけはあった。


「……でも、あのルドベキア族長が、最後の試練というには、少々簡単すぎる気が」

「簡単?こっちは死にかけたんだけど……私やたらと、ヘイト?買ってたみたいだし」

「ま、それは昔の貴女に文句言ってください」

「はぁ……ッ!?」

「ッ!?」


 与太話をしていた二人は、あのドロドロとした物を再び感じ取った。

 先ほどまで戦っていたクラブと、同じ物だ。

 しかも今度は、一つではなく複数。

 吐き気を催す程の怨念が、津波のように押し寄せて来る。


「……そんな、まさか」

「……り、リリィ、あれ」


 振るえながらさされたマリーの指先を、リリィは恐る恐る視界に映す。

 その光景を見たリリィは、思わず刀を手放してしまう。


「は、はは、私、目を如何かしたか?く、クラブとかいう奴が、何人にも見える」

「だ、大丈夫ですよ、残念ながら、確認できるだけでも百人近く居ますよ」


 百人を超える数のクラブが、隊列を組んで並んでいたのだ。


「勝利の余韻は、味わえたか?」


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