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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
スイートピー編
308/343

最後の試練 前編

 緊張をほぐす間も無く、ルドベキアとの話しは続いた。

 重苦しい空気の中、判明した事は一つ。

 ルドベキアは、リーデルと呼ばれる組織の一員で、現在の構成員は彼女のみ。

 組織の方針は、高度なテクノロジーを駆使して、有人惑星の人類が、争い等で滅びない様に観測する事。

 話を聞いた少佐は、一度紅茶で気を静め、質問を挟む。


「質問を良いか?」

「何かしら?」

「……リーデルと言う組織は、つまり、星間戦争のような争い事を事前に防ぎ、友好の道を進ませる組織で、合っているかね?」


 ルドベキアの小難しい説明を、少佐は単純にして確認した。

 どうやら、彼の解釈は合っていたようで、ルドベキアはほほ笑みながら頷く。


「ええ、人々が共に手を取り合い、未来へと進む可能性を信じる、それが私達の目的……だったのだけど」

「何時しか腐敗してしまい、今や後継ぎを探していると?」

「はい」


 簡潔にまとめた少佐の話に、ルドベキアは全て肯定した。

 腐敗したリーデルは、彼女の手によって滅ぼされている。

 しかし、少佐にはまだ、一つだけ聞きたい事があった。


「……気になるのだが、何故貴女は、ハイエルフにこだわる?七美君やキレンのように、他にも有力な人間は沢山いる筈」


 ルドベキアのハイエルフに対する執着は強い。

 少佐が見て来た限りでは、シルフィ達以外にも、進化の可能性がある者は居るというのに、ルドベキアはハイエルフにこだわっている。

 その事に、少し疑問があったが、ルドベキアは答える。


「ええ、確かに、シルフィやマリー以外にも、進化の予兆は見られました……ですが、私が求める結果に必要なのは、デュアル・ドライヴの力、それを最も引き出せるのは、ハイエルフの使用する天です、だからこそ、私はハイエルフを生み出す事に、躍起になっていたのです」

「……言い分は解りましたが、しかし、その為に貴女は、どれだけの人命を」


 ルドベキアが、ハイエルフにこだわる理由は分かった。

 だが、その目的のために、数え切れない人間が犠牲となった。

 彼女の引き起こした戦争や、実験による被害者。

 その全てが彼女の望む平和のためだったとしても、許される事ではない。


「……確かに、私は命を山ほど奪ってきました、ですが、そうしなければ、もはや間に合わないのです」

「間に合わない?」

「ええ、ハイエルフの寿命は、二千年にも及びます、ですが、私は二千五百年もの間、生き続けてきました」

「二千五百!?」


 本当かどうかは不明だが、彼女の年齢を聞いた少佐は、思わず身体を震わせた。

 いや、彼だけではなく、出席していたメンバー全員同じような反応を見せた。

 通常のエルフの寿命は千年程だが、彼女はその倍以上生きている。

 驚きを隠せないリリィ達を前に、ルドベキアは仮面に手を当てる。


「……私の脳機能を保持するこの仮面と、老化を遅らせる薬で誤魔化して来ましたが、貴方方と戦っている時には、既に限界を迎えつつありました」


 ルドベキアの持つ仮面の主な機能は、老衰に比例して衰える脳機能の維持。

 しかし、いくら彼女でも、永遠に機能を維持させる事はできない。

 今や仮面の効果は気休め程度にしかならず、寿命は刻一刻と迫っている。


「……それで、急ぐかのように、非人道的行為を続けていたと?」

「はい、恨み、憎んでもらって構いません、これで、私の目的を達成できるというのであれば」

「……貴女と言う人は」


 返されてきた言葉に、少佐は困惑した。

 寿命が尽きる前に、目的を達成したい。

 その気持ちはわかるが、その為に倫理観の全てを捨てるような事は、容認できない。

 しかし、それだけ意思が強いという事でもある。

 生半可な覚悟では、全ての人類から憎まれる道何て、進もうとは思わない。


「気持ちはわかりますが……本人の承諾も無しに、そんな大役を押し付けるのは、いかがな物かと思います」


 話を聞いていたリリィは、シルフィの意を汲んでいないとして、反論した。

 何しろ、シルフィは彼女の目的を、今まで知らなかった。

 急に呼び出して、いきなり人類を導く大役を押し付けられては、困惑もいい所だ。


「それと」


 急に席を立ったリリィは、前の大戦から愛用しているショットガンを取りだし、ルドベキアの頭に向ける。

 彼女の行動に、メフィスとフェレスは身構えるが、ルドベキアは微動だにしない。


「仮にシルフィが断ったら、容赦なく撃ちます……他の人類がどうなろうと、私は知った事ではありませんし、これ以上貴女の手のひらで踊る気も有りません」

「よせリリィ、こんな所でコイツ殺したら、面倒な事になるのアタシらだぞ」

「チ」


 カルミアの言う通り、今の彼女はこの国のトップに居る。

 そんな彼女を白昼堂々暗殺何てことがしれたら、今度はイリス王国から追い出される事に成りかねない。

 舌打ちしながら銃を下ろそうとするリリィを前に、ルドベキアはほほ笑む


「構わないわ、どうせ、もう半年も持つかどうかと言う所です……それに、私の後任は、既に彼女達に頼んでありますし、貴女方が私を殺したという事は、一切不問にいたします」


 メフィスとフェレスの警戒を解かせたルドベキアは、リリィの提案を承諾した。

 ルドベキアの予測では、自分の寿命は半年もてば良いという所。

 ここで死ぬのは不本意ではないが、そこで死ぬのなら、所詮そこまでだったと、諦める覚悟はできている。

 それに、後任は既に決めている。


「それでは……貴女の意思、聞いてみようかしら?」

「わ、私?」

「ええ、貴女はどうしたいの?この世界を」

「え、えっと……」


 やはりシルフィの顔はうつむき、耳もペタリと下がってしまう。

 完全に困り果てており、言葉も詰まっている。

 周りの皆も、これはシルフィの問題である為、特に口出しをする様子も無い。


「(……私にそんな力が、本当にあるのかな?)」


 先に思い浮かんだのは、自分にそんな力が本当にあるのか。

 確かに、今まで不可思議な現象を起こしてきたかもしれないが、そもそもシルフィにその自覚が無い。

 当然、ハイエルフに進化しているという自覚も無い。


「(……でも、あんな戦いは、もう嫌だ)」


 しかし、本当にそんな力が有るというのなら、ルドベキアの後を継ぐ事も、やぶさかではない。

 今のカルミアの町でのような平穏を、皆が謳歌し、戦争なんて経験する事は無い。

 そんな理想を現実に出来るようになるのであれば、どれだけ良いだろうか。


「……私は、貴女が言うような力が、本当にあるか解らない、でも」

「でも?」

「戦争も無くて、皆が解り合える世界が実現できるなら、私は」

「……それは、その覚悟が有ると、捉えて良いの?」

「……そう、なのかな?でも、リリィがそばに居てくれれば」


 左手の薬指の指輪を眺めながら、シルフィは答えた。

 どんな時だって、リリィがそばに居たからこそ、進んで来る事ができた。

 仮にルドベキアの言う通り、世界を変える力を扱えるのであれば、リリィと共に成し遂げたい。


「私は、頑張れる気がする」

「……そう」

「……」


 シルフィの回答に、リリィはショットガンを下ろした。

 少々不服ではあるが、彼女が選んだ道だ。

 シルフィと同じ道を進めるのであれば、どんな未来でも構わない。


「シルフィ」

「ッ、な、何?」

「……どんなに辛い事があっても、私は、貴女の味方ですよ」

「……ありがとう」

「……」


 惚気だした二人を視界に入れながら、ルドベキアはほほ笑み、隠し持っていたスイッチを操作する。

 彼女の仕草に気付いたのは、七美とヘリアン。

 二人は示し合わせたように身を乗り出し、食器類を蹴散らしながらスイッチを没収する。


「ッ」

「これはなんだ!?」

「……答えて」


 スイッチを片手に持つ七美と、ルドベキアに銃口を向けるヘリアン。

 そんな彼女に、メフィスとフェレスは身構え、リリィ達も戦闘態勢を取る。


「ふ、ふふふ」

「何が、おかしい?」


 妖しい笑みを浮かべだしたルドベキアを前に、ヘリアンは銃の安全装置を解除。

 一触即発の空気の中、ルドベキアは質問に答える。


「まだ、足りないのよ、あの二人は、まだまだ成長できる」

「それで?何をした?」

「最後の試練よ、これを乗り越えられなければ、私の望みは叶えられないだけじゃない、銀河の全てが滅ぶわ」

「何で、そんな事を」

「この試練を乗り越えられないという事は、どうあがいても、人は進む事が出来ないという事、だったらいっそ、全部滅ぼして、ゼロからスタートさせた方が、潔いでしょ?」

「ッ、七美!」


 ルドベキアの言葉に、嫌な予感を覚えたヘリアンは、七美の持つスイッチに照準を変える。

 意図を察した七美は、スイッチを投げようとするが、ルドベキアはあざ笑う。


「無駄よ、もう私にも止められない、滅びるかどうかは、貴女達の頑張り次第よ」

「……何をしたのか答えてください」


 質問をはぐらかすルドベキアに痺れを切らしたリリィは、彼女の胸へとショットガンを押し当てる。

 既に死ぬ覚悟を持つルドベキアには意味のない事であるが、快く答える。


「何が起きるのか、それは言えない、けど、貴女達が行くべき場所は言えるわ」

「それは何処です?」


 より強くショットガンを押し当てられながら、ルドベキアは答える。


「始まりの場所、この物語の最初の地よ」


 シルフィの生まれ故郷。

 そこに行けと、ルドベキアは間接的に伝えた。

 何をしたのか解らないが、彼女が何かをしたという事は、絶対にマズイ事が起こる。

 全員顔面を蒼白させながら、警戒を解除する。


「……メフィス、フェレス、彼女達を外へ案内しなさい」

「は、はい」

「クソが、こちらカルミア!異常事態発生!すぐにアタシらを回収しろ!」


 ルドベキアが外への案内を頼む中で、カルミアは外の仲間と通信した。


 ――――――


 数分後。

 メフィスとフェレスの案内で、外へ出たリリィ達は、空中で待機していた揚陸艇に回収され、すぐに里へと向かった。


「……教皇様、お客人がたをお返ししました」

「……あいつ等、嫌い」

「あら、ありがとう」


 彼女達を見送り終えたメフィスとフェレスは、ルドベキアの居る部屋へと戻った。

 二人共、さんざん無礼を働いていたリリィ達に、すっかり嫌悪を抱いている。

 そんな無礼者の集まりに対して、寛容に接するルドベキアを、称えればいいのか、貶せばいいのか解らずにいる。


「し、しかし、教皇様、彼女達の態度は、いかがな物かと……ご命令下されば、イリス王国へ書簡を送りますが」

「気にしなくていいわ、私は彼女達に、ああいう態度を取られても仕方のない事をしたのもの」

「そう、なのですか」


 メフィスは、彼女の返答に違和感を覚えた。

 この国が作られてからずっと、ルドベキアは教皇として国を支えて来た。

 今や大陸中に信徒を持ち、一国家として認められている。

 そこまで一代で持って来た彼女が、恨みを買っていた事に、内心驚いている。


「(先の話は、私には半分も理解できなかったけれど、教皇様は、一体何を)」

「(……組織の再建以外の方法として、宗教を開いてみたけれど、やはり、人による組織は、大きくなる程、腐りやすいわね)」


 リリィ達の会話と行動に疑問符を浮かべるメフィスの目の前で、ルドベキアはこの世界での事を思い出す。

 ルシーラをけしかけ、世界中で戦争を引き起こし、魔物を世界へばらまいた。

 当然のように、故郷を追われ、様々な物を失った人達が急増した。

 そんな彼らを救済する目的で、この宗教を開いた。

 一つの物を信仰する事で、組織の再建とは別の方法で、世界を平和に導けると思った。

 しかし、物事は、そう簡単にはいかなかった。


「(宗教といえど、所詮は組織である事に変わりは無い、地位を狙う為に、裏金や汚職が出て来る……大きく成れば、どんなに目を凝らしても、腐った部分を見過ごしてしまう……)」


 何度か幹部クラスの部下に嵌められ、見せしめにされかけた。

 だが、そんな事でルドベキアが死ぬはずない。

 むしろその場を使い、彼女の正当性を証明させる、絶好の場に利用した。

 神罰の名のもとに、処刑しようという輩を、逆に彼女の力で始末したのだ。


「(……でも、リリィ達のような機械であれば、少しでも減らす事が出来る)」


 そこで、ルドベキアが目をつけたのは、機械による公平性。

 人間がもたらす、歪な公平や平等より、AIによる診断の方が、余程信頼できる。


「(けど、ザイームのように、全てをコンピュータの中で管理しようなんて、逃げも同じ、それを否定した彼女達なら)」


 ザイーム達の掲げた、人間をネットワーク内で管理するという方法。

 これは、確かに効率がいいかもしれないが、ルドベキアにとっては、現実から目を背けた方法だった。

 どう考えても、あれはザイーム達が永遠の勝者として君臨する為に、絶対に下克上されない為の状況を作っていた。

 人類の為と言いながら、彼らは自分達の利益と地位の事しか考えていない。

 だからこそ、リリィ達には、ぜひとも台無しにしてほしかった。


「(……さて、後は)」


 これから起こる事が終了すれば、恐らく全ての決着がつく。

 ならば、自分のような老いぼれは必要無い。

 これからは、若い者が担う事だ。


「メフィス、フェレス」

「は、はい」

「……どうしました?」

「……以前お話した通り、私の死後、後任は貴女達に任せます」


 以前から通達していた事だった。

 メフィス達姉妹は、かなりのやり手であり、ルドベキアが最も信頼を寄せている。

 だからこそ、彼女達には、死後の後任を任せてある。

 改めてその事を伝えた事で、二人は反射的にひざまずく。


「は、はい」

「……わかりました」

「……これからの事、どうかよろしくお願いしますよ」


 立ち上がり、二人の元へ歩み寄ったルドベキアは、彼女達の頭をなでる。

 今まで生きていて、ようやく見つけた、本当に人助けを好む人間。

 先ほどリリィ達にも話したが、ルドベキアの寿命は、残り僅か。

 あと半年ほど生きていられれば、本当によく持った方だ。


「(……さて、彼女達の最初の仕事は、ここの信者たちの避難指示と、防衛網の構築ね……今回ばかりは、私でも制御ができないから、ちょっとだけ協力しないと)」


 そして、彼女達に最初に任せたい仕事は、先ほどルドベキア自身が起動した物から、この町の市民を守る事。

 彼女の予測では、次の戦いは、数か月という長期戦となる。

 試されるのは、二つの世界の連携。

 それが果たされてこそ、ルドベキアの思惑通りとなる。

 とは言え、今回ばかりはルドベキアでも予測がつかない状況になる。

 ある程度の協力はするつもりだ。


「さ、頭を上げて、二人共」

「は、はい」

「……はい」

「申し訳ないけど、この部屋を片付けておいてください……私は、少し休みます」

「わ、解りました(教皇様は、よく自分の部屋に籠る……数か月の時も有れば、数年の時もあって、時間はまばらだけど)」


 メフィス達に部屋の片づけを頼んだルドベキアは、寝室に入る。

 ベッドと鏡台があるだけの、質素な部屋。

 寝泊まりする事も有るが、大体はシルフィの里への移動なんかに使用する、目隠し用の部屋だ。


「……さて」


 ベッドに座ったルドベキアは、昔の友人の顔を思い出す。

 随分と会って居なかったが、最近久しぶりに会いたくなった。


「久しぶりに、彼に会いに行ってみますか」


 そうつぶやくと、転移先を認識し、魔法によってワープする。



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