表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
スイートピー編
307/343

教皇 後編

 ずっと影も形も無かったルドベキアが、目の前に居る。

 そう認識した瞬間、デュラウスと少佐、マリー、ヘレルス以外は拳銃を引き抜き、彼女へ照準を合わせる。


「ちょっと皆さん!」


 敵意満載の皆を前に、ヘレルスは声を上げた。

 それと同時に、部屋の影からもう一人の人間が、ルドベキアを庇うように出現。

 メフィスとは対極に、銀色のラインが入ったローブを着ており、魔法使いの杖らしき物を持っている。


「……敵?」

「いいえ、お客様ですよ、フェレス」

「……殺気、感じる」

「仕方のない事です、貴女はお姉さんと一緒に、もてなしの用意を」

「……はい」


 ルドベキアの説得に応じたフェレスは、警戒を解く。

 しかし、リリィ達は銃を下ろす事は無い。

 もはや少しでも動こうものならば、ハチの巣にしてやろうという雰囲気だ。

 そんな彼女達を置いておき、部屋に明かりが灯る。

 ルドベキアの命令の通り、メフィスとフェレスは、おもてなし用に大きなテーブルと、人数分の椅子が用意される。


「……こんな殺気だらけの中で、よく準備ができますね?」

「……というより、あの二人なんなの?リリィと同じアンドロイド?」

「いえ、それにしては金属反応を感じません」


 テーブルにクロスが敷かれ、焼いておいたお菓子やお茶が、次々と出て来る。

 その手際の良さは、ラベルクも顔負けだろう。

 僅か数分で準備が終わり、ルドベキアは席に着き、メフィスとフェレスは、その両隣に立つ。


「さ、そのような物騒な物はしまって、よろしければどうぞ」


 仮面で顔半分が見えないが、口元に笑みが浮かぶ。

 だが、リリィ達からすれば、その口は血まみれの吸血鬼のように錯覚した。

 そして、マリー以外は同じ事を考える。


『(よろしくねぇよ!!)』


 ルドベキアが居る、と言うだけでも警戒に値する。

 見ただけで、精神異常を起こす何かが飾ってあるかもしれない。

 変なガスが、知らない内に充満するかもしれない。

 聞いただけで、体調異常を引き起こす音が流れているかもしれない。

 もはや、呼吸はおろか、五感を使う事すらためらってしまう。


「……お茶は飲みませんか?」

「飲めるかよ」

「そうですか、では私は、遠慮なく」


 未だに銃を下ろさないカルミアの返答を前に、ルドベキアはお茶を傾ける。

 だが、この行動だけでは、信用は勝ち取れない。

 解毒不可能な毒が盛られていても、彼女が相手では通じないだろう。


「……ふぅ、以前より美味しくなっているわ」

「ありがとうございます」

「……」


 お茶の感想を述べたルドベキアに、メフィスは一礼した。

 その様子を見て、シルフィは銃を下ろし、一人で席に着こうとする。


「あら、久しぶりね、シルフィ、元気そうで何よりよ」

「……どうも、その節は」

「ちょ、シルフィ!」


 シルフィの手が椅子に触れる前に、リリィはその手を抑えた。

 背もたれに、触れただけで死ぬ毒が塗ってあるかも。

 そう考えただけで、危険でしかない。


「(スキャン結果は……異常無さそうだが)」


 リリィに搭載されているスキャン機能で、どこまで分析できるか解らない。

 結果に異常が無くても、何か仕掛けられている可能性は否定できない。

 その誤解を解く為か、メフィスは二人の元にやって来る。


「……どうぞ、遠慮なさらず」

「……では、ちょっと待ってくださいね」


 警戒のおさまらないリリィは、隠し持っていたナイフを使い、シルフィの座る所を徹底的に調べる。

 ワイヤー、センサー、隠しスイッチ。

 何が仕掛けられているか解らない。


「……」

「り、リリィ?そ、そこまでやらなくても」

「ダメです、何が仕掛けられているか」


 血眼になってトラップを探すリリィだが、やはり見つからない。

 もしかしたら、ゲームの隠しアイテムのように、巧妙に隠しているかもしれないと思うだけで、疑心暗鬼が収まらない。

 そんなリリィに嫌気が刺したのか、マリーは一人、席に着こうとする。


「……疲れたから座るね」

「ああああああ!!」


 自分で椅子を動かし、どっしりと席に着く。

 礼儀も一応教えたつもりだったが、無視するように座った。

 しかも、メフィス達が用意したティーセットにも手を出す。


「……ん、美味しい」

「オイイイイ!命知らずにも程が有るだろ!?」

「……大丈夫そうだから、私も座るね」

「ええええ!!?」


 流石のシルフィも嫌気が刺したのか、彼女も席に着く。

 しかも、マリー同様に、お菓子を食べ、お茶を嗜む。

 もう親戚の家にでも訪れたかのように、遠慮が無い。

 そんな二人を見て、リリィはかなり戸惑ってしまい、硬直してしまっている。


「……」

「あんなリリィ、初めて見た」

「ですが、わたくしでも、同じようなリアクションを取っていたかと」

「全くだ、逆に何でアタシらこんな冷静なんだ?」

「あれだろ?他人の焦ってる姿見た方が、逆に安心する、みたいな奴だろ?」


 仰天するリリィのおかげか、他の姉妹はもちろん、少佐達まで落ち着いてしまっている。

 とは言え、少佐と七美、エーラは警戒を完全に解いた訳ではない。

 何しろこの三人は、長年にわたってルドベキアと戦ってきた。

 それこそ、腰を据えて話した事何て一度も無い。


「……どうした物か」

「ヴィルへルミネ、仮面被ってても、アイツの顔は間違えようもない」

「ああ、もう二度と顔合わせ無いと思ってた、てのに」

「あ、あの、皆さん、何が有ったのか解りませんが、これ以上の騒動は」


 ギスギスした空気が収まらない彼女達を前に、ヘレルスは力なく説得を始めた。

 何しろ、この件に関しては、ヘレルスは完全に蚊帳の外。

 少佐達に何が有ったのか、知る由も無い。

 急に拳銃を抜き、折角用意したもてなしにも、無礼を働く。

 とても教皇様を前にした人間の取る行動とは、思えない。


「……けど、どうするよ少佐?シルフィ達は大丈夫そうだが」

「いや、流石の私も、今回ばかりはどうしたら良いか」

「私もだ、アイツとお茶食何て、反応弾を枕にして寝る方が安心する」


 ヘレルスには悪いが、ルドベキアの前でお茶を飲むのは、どうも恐怖心が出てしまう。

 正に、蛇に睨まれた蛙の、カエルの気分である。

 この状況に嫌気がさしたレッドクラウンは、一歩踏み出る。


「……はぁ、ヘレルスさんに悪いし、僕も行かせてもらうよ」

「アタシもそうさせてもらおう、アイツの想い通りになるのは癪だが、そうしないとマジで話進まないな」


 一応、シルフィとマリーは美味しそうにお茶をしている。

 遅延性の毒でも入っている危険があるだろうが、もう疑っても仕方がない。

 メフィスとフェレスの実力も不明慮なので、直接首を取りに行くのも危険だ。

 諦めたカルミアとレッドクラウンも、一緒に席に着く。


「大丈夫か?」

「けど、ヴィルへルミネから、招待してるのに、だまし討ちが無い、多分、大丈夫」

「……確かに、ウソの情報で釣り上げた所に、大軍なりなんなり送り込んで、何てことがあってもおかしくないからな」

「彼女がいる、その情報がアテになった事なんて、一度も無かったとお聞きしておりますわ」


 消えない少佐の不安に、ヘリアン達は答えた。

 ルドベキアが居るという情報程、信用できない物は無かった。

 だが、招待された先に、本人がちゃんといる。

 これは極めて異例な事だ。


「おら、リリィ、何時まで気絶してんだ?」

「ヘア!……私は何を」

「ずっと、気絶してた」


 とりあえず、ずっと立ったまま気絶していたリリィの頭を叩き、再起動させると、デュラウス達も席に着く。

 もう疑う事さえ野暮な気がしてきた少佐やリリィ達も、椅子に腰を掛ける。


「……随分と時間がかかってしまいましたが、何とか信頼していただけた、と言う訳でも無さそうですね」


 苦い笑みを浮かべながら、ルドベキアは全員が椅子に座ってくれた事を喜んだ。

 実際、ルドベキアを相手に、信頼なんてできない。

 リリィ達は全員座っているが、側近であるメフィスとフェレスは、かしこまった状態で立っている。

 何か仕掛けて来るとすれば、彼女達の方が有利だ。

 警戒を弱めず、カルミアは今回の招待の目的を問いただす。


「それで?黄泉の国からなんのようだ?ヴィルへルミネ、いや、教皇様、とでも呼んだ方が良いか?」

「呼び方は何でも結構ですが、そうですね、ここはシルフィ達に合わせて、ルドベキアでお願いします」

「……わかった、それでルドベキア様?今回はどの様なご用件で?」


 とても失礼かもしれないが、招待がルドベキアと知るだけでも、もう礼儀を出そうと思えない。

 彼女はその辺りを気にしていないのか、カルミアの質問を受け入れる。

 カップを置いたルドベキアは、微笑みながら答える。


「そうね……要件は二つあるのだけど、一つは、答え合わせ、かしらね?」

「答え?」

「そう、色々とヒントはあげたし、仮説くらいは立てられたと思うのだけど」

「……それは、何の仮説でしょうか?ヴィルへルミネ、いえ、ルドベキア様」


 心当たりはあるが、念のため少佐は質問した。

 それに、ヒントをあげたと言う事は、ここまではやはり、彼女の思い通りだったのだろう。

 その事に憤りを覚えるリリィ達に対し、ルドベキアはホホ杖をつきながら笑う。


「そうね……先ずは、ジェニーがここに来た理由」

「アンタの研究所の事故で、魔石が暴発し、タイムトンネルのような物が形成され、過去へ送った」

「ん~、まぁ正解かしら」

「……意味深な事言いやがって」

「じゃ、第二問」

「何問出す気だよ」


 ――――――


 ルドベキアからの問題に答えたエーラだったが、まだ次々と問題は出された。

 そのほとんどは、三日前の会議で出た内容に関係する物だった。

 天の特性や、デュアル・ドライヴとの関係性。

 シルフィの身に何が起きているのか。

 ジャックや七美達の出生。

 リリィ達の使用する、ドライヴの核の生成方法。

 その他にも色々と聞かれ、エーラやリリィは、それに答えていく。

 そんなやり取りをする事三十分、ルドベキアの質問は終了する。


「う~ん、八十九点かしら?……予想の九十五より下回ったけど……及第点ではあるわ……でも、シルフィが半分以上、私の本の内容を把握していなかったのが、一番の誤算ね」

「シルフィ」

「……ごめん」


 ルドベキアの採点に、エーラとリリィは不満があった。

 だが、その理由は、シルフィが本の内容をあまり理解していなかった事が原因だった。

 とは言え、テストで言えば、及第点は行っている。

 ルドベキアとしては、九十五点は行ってほしかったらしい。

 それでも、十分な程に理解していると言っていいらしい。


「でも、気を落とす事は無いわ、結構難しく書いちゃったし」

「自覚してるなら、教科書位解りやすくしてくださいよ」

「それじゃ、謎解きが面白くないでしょ?」

「……何が目的なんですか?貴女」


 完全にゲーム感覚で話しているルドベキアだが、彼女はそう言う部分がある。

 そうでも無ければ、今まで集めた情報でテスト感覚の採点や、謎解き呼びしている時点で、もはやゲームでもやっている気分なのだろう。

 そう思うリリィは、ルドベキアに対して強気に質問した。


「……目的、ね……それを話すのが、二つ目の要件よ」


 カップを置いたルドベキアは、リリィの質問に答えた。

 二つある要件の内、一つは彼女の目的の開示。

 そう聞いた瞬間、全員の視線は、ルドベキアへと向く。


「それで、目的とは?」

「……まず、私達の正体について、簡単に話しておきましょう」


 笑みを崩したルドベキアは、自らの正体を打ち明けるべく、胸に手を当てる。


「私は、いえ、私達は、この銀河に存在する、全ての人類を見守る為に結成された組織、『リーデル』……何時考えても、ちょっと大げさな名前ね」

「……リー、デル」

「ルシーラさんの予想当たっちゃったよ」


 揚陸艇で、図らずも話題にでた、ルドベキアが何らかの組織の人間と言う仮説。

 それが当たった事に、シルフィとリリィは目を丸めた。

 その横で、不機嫌になった七美は、ルドベキアを睨む。


「……リーデル……統率者の意だが……人類を見守る、随分と大仰な使命だな」

「……ええ、私もそう思うわ」

「それで、誰が創設したのだ?やはり、貴女か?」


 七美の発言を受け入れたルドベキアに対し、少佐は更に質問した。

 そんな大げさとしか思えない組織の創設、一体誰が行ったのか、気になる所だ。

 しかし、その質問に対して、ルドベキアは少し困った顔を浮かべる。


「……ごめんなさい、実は、私にも解らないのよ」

「何だと?」

「……そうね、もう何万、いえ、幾千万とよべるほど昔に創設された、という事は聞いているわ」

「そんなに前から」

「でも、もう私達は、リーデル何て大げさな名前を名乗れる程、偉くはないのよ」


 ため息交じりに、ルドベキアはカップを傾けた。

 統率者の意を持つ、リーデルと言う組織。

 創設者が何者だったのかさえ分からない程、長く続いて来た。

 だが、それだけ長引けば、当然腐敗は起こる。


「どんなに賢明な存在が組織を創り上げたとしても、長引けば、カビは生えるし、腐る事も有る……他の人類が滅びない様に見守るという思想も、やがて腐り果て、まるで喜劇のように楽しむようになってしまったの」

「つまり、組織は腐り果て、貴女だけになってしまったと?」

「ええ、腐り果てた彼らでは、もはや使命を全うできない、そう判断した私は、多くの同胞を殺し、彼らのまいた、災いの種を回収してきました」

「……では、私のお義母様、いえ、五十嵐蓮の世界が滅びたのは?」

「はい、恐らく、私が回収し損ねた種が原因かと」


 悲しそうな声色で話すルドベキアだが、全てを信用できる訳がない。

 災いの種とやらを回収しておきながら、何故混沌を振りまいているのか。

 どうも彼女の言っている事と、やっていることは、別のように思えてしまう。


「……ですが、貴女はどれだけの人を殺したのですか?どれだけ、戦火を振りまいたのですか?」

「ええ、確かに、私の行いは、とても償いきれない物……ですが、リーデルを再建するには、この方法しかありませんでした」

「再建?何故そのような事を?」

「……内輪での揉め事を解決せず、異星文明と接触しても、植民地支配をしていた頃と、同じ事が起きてしまう、それを防ぐためにも、陰から人類を導かなければならなりません」


 ルドベキアは、リリィの問いかけに次々と答えたが、どうにも要領を得ない。

 今まで彼女がしてきた事を考えると、まるで逆の事をしている。

 戦争でリリィ達をかき乱し、多くの人間の命を奪ってきた。

 そんな人間が、陰ながら人類を導く何て、どうにも胡散臭い。


「確かに、貴女の言う事はもっともですが、貴女方の助力が無くとも、人類は銀河を旅できる程の力を手に入れられると思いますが?」

「でも、私達の力も無しに、銀河を旅できる程の技術を得れば、いずれ貴女達のような存在が産まれてしまう、その時の用途は、恐らくただの戦闘マシーンでしょう」

「……下手をすれば、強力な力を持った惑星同士の星間戦争が引きおこると?」

「ええ、だからこそ、必要だったのです、次世代のリーデルを守る為の、剣と盾、そして、共に愛し、歩める存在が」


 リリィとシルフィを視界に収めたルドベキアは、優しく微笑んだ。

 次の世代を担う少女と、以降の世代を守り、共に歩める存在。

 ルドベキアの長い人生の中で、ようやく見つけた希望。

 それが、彼女達なのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ