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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
スイートピー編
303/343

間の悪いお誘い 中編

 会議の途中で届いた、シランド公国からの手紙。

 ヘレルスの信仰する宗教と、公国のトップからの物だったため、会議は中断。

 無視する事の出来ない事だったので、部屋の明かりを点け、カルミアが読み上げる形で進む。


「えっと、なになに?『拝啓、カルミア殿、急なお手紙をお許しください、本日は、貴女と、その御姉妹方と異世界の方々を、わたくし共の教会のへ、ご招待いたします』」


 読み上げた内容に、全員硬直した。

 何しろ、国のトップからのお誘いだ。

 この大陸のもう一つの国、ストリア帝国からも、そんなお達しは来ていない。

 しかも、異世界人となれば、宗教を行う者にとって、異教徒以上の異端だ。

 招待する道理はない筈だ。


「それ、レリアさん知ってるんですか?一応私達、イリス王国の傘下ですよ、外国の王と面会となると外交扱いに……」

「え、えっと、とりあえず、お電話いたしたのですが……」


 リリィの疑問に、ヘレルスはそっぽを向いた。

 冷や汗をかきながら、ここに来る前の事を思い出す。

 一応、先日の一件が有ってから、簡単にやり取りができるように、レリアには電話が与えられている。

 据え置きの物であるが、やり取りには十分な物だ。

 手紙が来てすぐに、ヘレルスは彼女へと電話した。


「その、許可は下してあるとの事で、内政や公国との関係に問題を起こさなければ、招待に応じてもよい、との事です」

「アタシらの事信用しすぎだろ、あの暴力姫」


 レリアからのOKサインに、カルミアも呆れた。

 何しろ、問題が起きないという事が考えられないのだ。

 必ず誰かしらが問題を起こす未来しか見えない。

 下手をすれば、カルミア達が新たな戦争の火種になる危険性が有るのだ。


「ですが、急にそんな事を言われましても、我々には色々と事情が」

「けど、アタシもイリス王国の関係者に変わりないからな……無視する訳にはな、それに、姉妹でって書いてあるから、お前らも招待されてるな」


 会議の内容のせいで、呑気に面会なんてやっている気にはなれない。

 だが、無視をしたり、断ったりしたら、何を言われるか解らない。

 しかも、姉妹で行く事が推奨されている。

 他に何か指定がないかと、カルミアは更に手紙に目を通す。


「……日時は、三日後の昼か……ん?乗り物は、空を飛ぶ物でも結構、と書かれてるな」

「な、何で飛行機の使用、暗黙の了解?」

「あれか?空は神様の領域だけど、気にしなくていい、とかか?」


 読み進めたカルミアは、日時と乗り物について書かれている事に気付いた。

 手紙によると、飛行機も使えるとの事。

 恐らく、領空侵犯のような事を気にしなくていい、と言う事なのだろう。

 宗教をやっている以上は、神様の居る空を汚すなと言う声も有るかもしれない。

 だが、ヘレルス達の神栄教は、基本的に地上を敬う事に重きを置いている。

 その事を忘れているカルミアは、ヘレルスに確認を取った。


「え、えっと……教皇様がおっしゃっているのなら、全体に通達がされているかと……それに、以前総本山に赴いた際は、友好的であれば、ぜひお話がしたいと伺っております」

「……なら、大丈夫ですかね?」

「だな、てか、暗黙の了解みたいだし、気にする事も無いだろうな……コイツに行くメンバーは、後で少佐と話し合うか、後、こっちからも手紙書かねぇと」


 カルミアとリリィの間で話が進み、二人は承諾する。

 そして、カルミアは手紙を持ってきてくれたヘレルスのほうを向く。


「ヘレルス、ありがとうな、持ち場に戻ってくれ」

「はい、それでは」


 お礼を言われたヘレルスは、カルミア達に一礼し、部屋を出て行く。

 そして、カルミアは少佐の方をむく。


「そう言う訳だ、後でな」

「ああ、しかし、いちいち忙しいな」

「全くだ……クソが、ただの実験機から、随分出世しちまった」


 今のカルミアは、政治に関わる事になった世界初のアンドロイド。

 しかもその出自は、計画を凍結され、廃棄されかけた実験機。

 完全に成り行きではあるが、随分と出世している。

 その事を聞いていたリリィは、腕を組みながら頷く。


「いやぁ、本当……おかげで面倒な事貴女に押し付けられてラッキーですよ(そこまで出世してくれて、姉としても誇らしいですよ)」

「もっと建前押し出せクソ姉が!」


 完全に本音と手前が逆になっているリリィの発言に、カルミア以外ずっこけた。

 こういう場合、長女であるリリィが責任を持つのだろう。

 しかし、リリィは少尉と言う微妙な部分に落ち着いている。

 スレイヤーも辞退し、今の階級以上も望みそうにない。

 ある意味では、ジャックよりだらしないと言える。


「そう言う所、ジャックに似て来たな」

「ま、私、あの人の元で色々と教わりましたから」

「……そうだったな」


 優れたAIを持っているとは言え、大元がコンピュータである事に変わりない。

 最初に教育された環境の影響を受けやすく、その役目を担ったのはジャック。

 彼女の影響は、大きいのだろう。


「……邪魔が入ったが、会議を続行していいか?」

「ん、ああ、そうだったな……シランド公国へ派遣するメンバーは、カルミアと話し合い、後程通達を行う、くれぐれも粗相のないように……エーラ、続けてくれ」

「わかった」


 再度部屋の電気を消したエーラは、話を再開するべく、端末を操作する。

 先ほどからかなりウズウズしていたので、操作の手が地味に焦り気味だ。


「さてと、さっき、シルフィの身体の変化や、異変に関して話した訳だが」

「ええ、本当に天使のようで、ビックリいたしましたわ」

「本当、あれはもう、新しい宗教、開きたい……あ、でも、イビアがうるさいか」

「あ、起きたんですね」


 リリィの攻撃から回復したイベリスとヘリアンは、送られてきた視覚データに驚いていた。

 何しろ、本当に天使のようになっていたのだ。

 それを聞いたエーラも、頷きながらその時のデータを映し出す。


「その時のワンシーンがこれだな」

「はい」


 映し出されたのは、鈍い銀髪になったシルフィの姿。

 しかも、リリィの言う通り、天使の羽や輪が見える。

 リリィのセンサーアイで捉えているので、錯覚という事は無い。

 本当に驚くべき姿だが、一番驚いているのは、本人だった。


「……え、私あの時、あんな事に成ってたの?」

「はい、とても美しかったです、今思い出しても、あの時はうっとりしかけました」

「……マリーちゃんは知ってたの?」

「……さぁ、私、あの時気絶してたから」

「そうだったね」


 困惑するのは、マリーも同じ事だ。

 何しろ、彼女も気絶していた身。

 シルフィの姿を見ていたのは、あの状況ではリリィだけだ。

 しかも見る事の出来たのは数秒。

 データが足りないどころではないので、解析も進んでいなかった。

 しかし、マリーは一つ心当たりが有った。


「でも……あいつは、お姉ちゃんの事をハイエルフって呼んでた」

「ハイエルフ?エルフの上位種の事、だよね?」


 少し腹を立てながら、シルフィは昔の事を思い出した。

 里の暗殺者の一人であるクラブが、意気揚々と語っていたので、よく覚えている。

 とは言え、なんとも腹立たしい思い出だったので、あまり思い出さない様にしていた。

 シルフィの言葉に反応し、エーラは頷く。


「そうだ、だが、ハイエルフと呼べる者は、もう存在しない」

「え、でも、スノウちゃんが」


 クラブが言うには、金色の髪と言うのは、ハイエルフの証。

 つまり、シルフィを除いた里のエルフ達は、ハイエルフという事に成る。

 スノウは元々、シルフィの居た里の住民。

 ハイエルフと言って良いかもしれないが、そこはデュラウスが補正する。


「いや、スノウとウルフスが言うには、あの里に居た連中は、ハイエルフになるかもしれないってだけで、実際はただのハーフエルフだったらしい」

「デュラウスの言う通りだ、遺伝子調査の結果、定義的に言って、ハーフエルフであるという結果が出た」

「そ、そうなんだ(あのクソ女ども、とんでもない勘違いしてるじゃん)」

「(シルフィが見た事無い位ブチギレてる)」


 クラブ達が勘違いしていると知ったシルフィは、妙に黒い笑みを浮かべた。

 上位種か何か知らないが、クラブ達のせいで、何人もの犠牲者がでた。

 しかもそれは、とんでもない勘違いだったのだ。

 その勘違いを鼻高々に語っていたのだから、憤慨しかない。


「お姉ちゃんのあんな顔初めてみたんだけど」

「ま、クラブとか言う暗殺者が、民間人虐殺してた大義名分が、とんだ勘違いだったみたいだからな……それに、そんなクソを取り逃がしちまった……気分悪いだろうぜ」

「何でアンタがそんな事知ってるんですか?」

「あ」


 当時の状況を見ていたカルミアは、思わず口を滑らせた。

 かつてシルフィは、里の暗殺者の頭目であるクラブを、マチェットで滅多斬りにした。

 と言うのも、クラブは部下と一緒に、町の住民を虐殺したのだ。

 そんな彼女を取り逃したのは、シルフィにとって一生の恥みたいな物だ。

 しかし、取り逃がしたのを知っているのは、ウルフス達位だろう。

 この中では、当事者のリリィとシルフィしか知らない事の筈だ。


「あ、えっと」

「おい、クソガキ」

「……」


 カルミアの頭を掴んだリリィは、目の前に持ち上げる。

 リリィ達が危険にさらされ、シルフィも死にかけていた。

 そんな状況でも、カルミアは高みの見物をしていたのだ。


「……いや、その、あの時、お前らの監視がアタシの任務だったから、ついでに戦闘データの収拾もしてた」

「そーですかぁ~、シルフィが死にかけてるってのに、テメェは」

「し、仕方ねぇだろ!あの時ヤサグレてたんだよ!アタシ!それにあの時のデータのおかげで、デュラウスが完成したんだから!結果オーライだろうが!」

「何がオーライだ!色々と大変だったんだよこっちは!」

「……」


 喧嘩を始めるリリィとカルミアに、エーラは冷たい視線を向けだす。

 早く進ませたいのに、話題が上がる度にこれだ。

 いっその事、ルドベキアの目的を一言告げて終わりにした方が良いとさえ思える。

 そんなエーラに気付いたのか、レッドクラウンが仲裁に入る。


「もう二人共、エーラがイライラしてるから、その辺に」

「……チ、仕方ありませんね」

「レッドクラウンが言うなら、この辺にしておくか」


 互いに唾を吐き捨て合うかのように、二人は距離を取る。

 確かに、何度も話を遮られたせいか、エーラの顔が引きつりつつある。

 その様子を見た二人は、素直に従った。


「……続けるが、ルドベキアが連中を騙していたと言うよりは、里の幹部共が、勝手に拡大解釈していたってところだろ……だが、笑える話だ、自分たちを上位種と誇っておきながら、自分たちが貶していた奴が、本物に成っちまうんだから」

「ええ、ですが、ルドベキアはそんな連中を集めて、一体何を」

「……本物のハイエルフをこの世に誕生させる、それが目的らしい」


 シリアスに語られたエーラの発言に、部屋にいる全員がざわつく。

 彼女らが落ち着くのを待たず、エーラは更に続ける。


「ジェニーの遺した本には、デュアル・ドライヴの製造法まで書かれていた、本来なら、これと天を組み合わせる事で、エルフ共の進化を促進させて、ハイエルフを生み出すつもりだったようだが、思わぬ巡り合いがあった」


 端末を操作するエーラは、四つの研究データが映りだす。

 人体の模写と、対象の人物のデータ。

 それを見た七美は、目を丸めた。


「エーラ、右上のデータ、それ」

「ああ、ジャックの身体的な特徴だ、他にも、七美、シルフィのデータだ」


 ルドベキアとの面識が無い筈の、七美とジャックのデータ。

 彼女達の身体検査でもしていなければ、得られないようなデータばかりが映っている。

 このデータには、シルフィも驚きを上げる。


「それ、お母さんたちのデータだったの?」

「そうだ、実名じゃなくて、番号で記録されてるからな、お前が気付かなくても無理も無い」


 データは一目見て誰か解らない様に、名前の部分は番号が振り分けられていた。

 他には、身体的特徴や能力程度しか書かれていない。

 それだけでは、ジャック達の身体的特徴のデータを持っている人物しか、詳細はわからない。

 エーラは、書かれているDNAや血液型をみて、ジャック達の物と照らし合わせ、誰の物なのかを導いたのだ。


「けど、本当なのか?それがお姉ちゃんやあたしのデータだって」

「DNAのデータを見るに、それは間違いない、一つだけこっちのデータに無かったから、こっちの世界の住民だろうが……それより、見る限りでは、シルフィのデータはかなり厳重に取っている」


 やはり近くに居ただけに、シルフィのデータはかなり詳細に書かれている。

 それを読み込んだエーラは、何故ジェニーの存在を許したのか知る事が出来た。

 更には、何故自分が作った筈の里を、自らの手で壊滅させた訳も判明した。


「これを見てわかった……と言っても、仮説にすぎないが……奴にとって、あの里の住民は、もう必要が無かったんだ……シルフィ、お前が産まれたおかげで」

「私?」

「そうだ、奴がお前に肩入れしたのも、お前が記憶を無くす前、その時既に、他の連中より先んじて、ハイエルフの領域に片足を入れていたんだ!」


 シルフィににじり寄ったエーラは、とんでもない事を口走った。

 一番言葉を疑ったのは、それを間近で聞いていたシルフィ。

 昔の記憶はあやふやではあるが、自分がそんなに優れていると思った事は無い。

 何しろ、彼女の前には何時もマリーが居たのだ。

 驚くシルフィ達を横目に、エーラは更に続ける。


「だが問題が起こった、マリーが脱走した事で、ジェニーが殺される事に成った、そのせいで、シルフィの心が折れ、成長も止まってしまった……それで奴は、シルフィの記憶を消し、力も封印した……私達が、彼女の心を補強する事を期待して」

「……」


 エーラの仮説を聞くシルフィ達は、言葉を無くした。

 そうなると、本当に全部ルドベキアの思うままだ。

 とはいえ、仮説は仮説だ。

 本当であるか否かは、本人に聞いてみないと解らない。

 聞いた所で話してくれるかは別として。


「でも、何故シルフィはそこまでの進化を?里の人は、いわばルドベキアが厳選した人達ともとれる筈ですが」


 硬直する皆を押しのけたリリィは、全員が感じていた疑問を口にした。

 何しろ、ルドベキアがヴィルへルミネだとすれば、厳選にミスが有ったとは考えにくい。

 彼女が選び抜いたエルフ達が、外来の子であるシルフィに抜かされるとは思えないのだ。


「……」

「エーラさん?」

「すまん、ちょっと言いにくくてな……」


 何時になく暗い顔を浮かべるエーラは、リリィの疑問に答えようとする。

 リリィの言っていた疑問点は、エーラも感じていた。

 だが、今映っている項目を調べるにつれて、嫌な事が判明したのだ。


「……この項目によれば、その、なんだ……ジャックも七美も、この目的のために作られた、デザイナーベイビーって事が分かった」


 七美の事をチラチラと見ながら、エーラは苦しそうに説明した。

 それを聞き、七美は怖い物を見るかのように、自分の手を見つめだす。

 デザイナーベイビーは、単純に言えば遺伝子組み換えを行った人間。

 エーラ達の世界では、人道的な面を考慮して、違法となっている技術だ。


「……すまん、七美、変な事言っちまって」

「いや、いい、おかげで合点がいった……」

「合点?」

「ずっと気になってた、あたしとお姉ちゃんが、何で別々の世界に居たのか、アイツが作った存在だって言うなら、生まれた場所が違っても頷ける」


 七美の言う通り、二人は姉妹でありながら、別々の世界で生まれた。

 初めて顔を合わせたのは、エーラ達の住まう世界。

 しかも、七美の両親は不明、本人も出身すらわからない状態だった。

 この話を聞いたリリィも、先ほどの疑問の答えが出た。


「……お義父様の施術方法は、ヴィルへルミネが提唱した物、つまりシルフィは、彼女が作り出した技術の間に生まれた存在」

「……私は、私達は、あの人のおかげで、生まれてこれた?」

「そうなるな」


 次々と出て来る考察に、みんなすっかり沈んでしまった。



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