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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
スイートピー編
301/343

スレイヤー 後編

 リリィが改めてザラムの元へ行き、しばらくして。

 エルフィリア宅にて。

 今日のシルフィは、完全にオフ。

 やるべき家事も終え、暇つぶしに、リリィがオススメしてくれた映画に目を通していた。


「う、血も繋がらない子供を助ける為に、民間人の身で、エイリアンの巣窟に単身攻め込む何て……」


 無駄に豊かな感受性を働かせ、普通の人なら泣かないようなシーンに、シルフィは涙を流す。

 大分古い映画だが、リリィがオススメするのも解る物だ。

 時間を忘れ、シルフィは映画を終始ハラハラしながら視聴。

 終わるころには、なんとも言えない満足感に包まれていた。


「はぁ……良かった~」


 エンドロールを前にしながら、シルフィは目の前のティッシュで涙をぬぐい、身体を伸ばす。

 そして、ソファにより深く座る。


「……マリーちゃんも、リリィも居ないし……お買い物も、この前したし……今日はヒマだな~」


 家の中で一人、シルフィはリラックスする。

 マリーは用ができたという事で、最近は夜まで何処かへ行っている。

 リリィも、何時帰って来るか解らない。

 ふとした寂しさに襲われながら、シルフィはソファに寝転ぶ。


「(……やっぱり、一人は嫌だなぁ)」


 この町は、里と違って賑わっており、誰かを陥れる事も無い。

 なので、里に居る頃よりは、寂しくない。

 だが、エルフにとって、五年間と言うのは、人間の一か月程度。

 そのせいなのか、まだ母であるジャックが、近くにいる気がする。

 居ないと自覚するだけで、寂しさはより増してしまう。


「……ほんの数か月だったけど、なんだかんだ、楽しかった」


 生前のジャックは、シルフィの花嫁修業に付き合っていた。

 一番付き合ってくれたのは料理。

 何時もとなりに立っては、出汁の取り方や、調味料を入れる順番何かを教えてくれた。

 エルフの人生は長いので、少しでも長い間、美味しい物を食べていて欲しいという事だった。


「……ッ」


 母親との思い出を振り返っていると、急な頭痛が襲った。

 反射的に閉じたシルフィの目に、リリィの姿が映り込む。

 修行を終え、帰宅した姿だ。


「……帰って来る、のは解るけど……日にちがねぇ~」


 最近見えるようになったのは、他人の感応だけではない。

 ある程度だが、未来を見られるようになった。

 不意に来る事も有れば、意識して見る事もできる。

 だが、問題なのは正確な時間等が、自分でもはっきりしない事だ。

 その辺は修行で何とかなるらしいが、今はそんな余裕も無い。


「様子、見てみよ」


 予知とは言え、リリィの姿を見てしまった事で、シルフィの寂しさは限界を迎えた。

 せめて姿を見たいと思い、シルフィは久しぶりに千里眼を使用する。


「……あれ?」


 この時間帯であれば、リリィはザラムと打ち合っている筈だ。

 だが、何故かザラムは、一人で薪割りをしている。

 そして、シルフィが千里眼を使った事に気付いたのか、ザラムは呟く。


『リリィなら、もう帰ったぞ』

「え」


 その言葉を聞いて、シルフィは飛び起きる。

 同時にまばたきをした為、視界は戻ってしまい、もう一度使用する。


「あ」


 町に目を向けると、すぐにリリィの姿を見つけた。

 荷物を下げ、楽しみな様子で帰路についている。

 しかも、既に家のすぐ近くに居る。

 解った瞬間に、シルフィはソファから立ち上がる。


「帰りましたよぉ」

「ッ!」


 丁度人肌が恋しい時に帰って来てくれただけに、シルフィは思わず玄関に走る。

 あまりの勢いに、リリィは呆気にとられながら、タックルじみた動きのシルフィを受け止める。


「オフ!……し、シルフィ?」

「……お帰り」

「た、ただいま」


 予想外の反応に驚きながら、リリィはシルフィを抱きしめる。

 久しぶりに味わう、お互いの柔らかさと温もりに、二人は笑みを浮かべた。


 ――――――


 数分後。

 リリィは荷物を片付け、何時もの部屋着に着替えた。

 二階からリリィが戻って来るまでの間、シルフィはコーヒーを二つ用意。

 テーブルに乗せ、近くのソファに座る。


「どうも、着替え終わりました」

「……ん」

「……」


 リリィが二階から降りて来るのを確認するなり、シルフィは自分の隣のクッションを、手で叩く。

 どことなく不機嫌な感じもするが、招かれたリリィは、シルフィの隣に座る。

 その瞬間、シルフィはリリィの膝の上に頭を乗せる。


「……何か、怒ってます?」

「怒ってるって言うか、寂しかった」

「そうですか、それは、すみません」

「頭撫でて」

「はいはい」


 シルフィのリクエストに応えて、リリィは頭をなでる。

 ツヤツヤな髪を堪能しつつ、リリィはシルフィの表情が緩んでいく事に和む。

 本当にシルフィは、孤独を嫌う。

 リリィが心置きなくザラムの元で修業できたのも、マリーが居てくれたから。

 それなのに、マリーの姿は何処にも無い。

 買い物に行った、と言う訳でも無さそうだ。


「ところで、マリーは何処に?今日は彼女も休みと記憶していますが」

「……あの子、最近帰りが遅くて……何時も基地に寄ってるらしいから、変な事に巻き込まれてる訳じゃないと思うけど」

「……そうですか」


 マリーの仕事は、この町の農業の手伝い。

 彼女の実家が農家だったので、そのノウハウを活かして働いている。

 級金も貰っているが、収穫時には、お駄賃代わりに野菜を貰ったりしている。

 軍で集団生活をするより、マリーに有った仕事だ。


「では、久しぶりに二人きりですね」

「うん、それに、最近全然甘えられなかったから……」


 膝から頭を放したシルフィは、今度はリリィの隣に、密着しながら座る。

 互いに体温を感じ、息をする音が聞こえる程、密着する。


「その分、甘えさせてね」

「……よく言いますよ、妹に甘えていたクセに」

「リリィじゃないと取れない養分があるの!」

「……」


 自分が言われる側になるとは、思いもしなかったリリィだった。

 とは言え、悪い気はしなかった。

 喜ぶリリィの手を、シルフィはこっそり握り締める。


「……前より、ゴツゴツしてるね」

「はい、一応、手も生体パーツですから、刀を握っていれば、タコもできます」


 何時も体中を触られているだけに、リリィの手の変化は良く解る。

 ザラムとの修行のせいで、滑らかだったリリィの手はゴツゴツになっている。

 だが、これはリリィが頑張って来た証拠だ。

 責め立てる訳にいかないが、正直悲しい。


「また、戦いになるの?」

「そういう予測です」


 何時起こるのか解らないが、この先に大きな戦いが有ると予測されている。

 だから、リリィもザラムの元で修行し、他の姉妹も、それぞれの方法で準備を整えている。

 その事は知っているが、シルフィとしては、もううんざりしていた。


「……もう、嫌だ」

「……」


 少し涙を浮かべたシルフィは、思わずつぶやいた。

 今日に至るまで、何度も戦争に参加してきたが、その度に死人の脳波を受け取って来た。

 しかも前の戦いでは、何十人とその手にかけた。

 自分で殺した時は、他人が殺した時よりもダイレクトに来る。


「確かに、貴女の性格を考えると、死者からでる感応はお辛いでしょうが」

「それも有る、けど……」

「けど?」


 リリィも、シルフィとは感覚が違うが、気持ちは解る。

 だが、シルフィは別の部分にも、苦労していた。


「前の戦いの時、大勢の意思が、私の中に入って来たの……リリィとリンクしてる時も、多くの人の意思が流れ込んできたけど、あの時はずっと我慢したけど、でも」

「……シルフィ」


 徐々に震えだすシルフィを、リリィは抱き寄せた。

 それでも落ち着かず、シルフィは更に語る。


「だんだん、気にならなくなってきたの、どんなに殺しても、その人が生きたいという意思を踏みにじった事が、当たり前みたいになって」

「シルフィ」

「今思うと、私の心がすり減ってたんだよ、心を潰して、はは、心置きなく戦おうとしてた、ふ、ふふ……それに、徐々に楽しいって思えてた、そんな事、もう嫌だよ」

「シルフィ……」

「おかしいよね、リリィは戦いの中で感情を得て来たのに、私は、戦う度に、感情が消えていくなんて、こんなの……自分が、怖い」

「ッ」


 どんどんネガティブになって行くシルフィの口を、リリィは自分の口で塞ぐ。


「んぐ!」


 ついでにソファに押し倒し、暴れだすシルフィを力ずくで抑え込む。

 呼吸が辛く成って来たのか、シルフィは徐々に落ち着き出す。

 そして、本当に限界になったのか、リリィの背中がバンバンと叩かれる。


「ブハ!はぁ、はぁ」

「ふぅ……」

「なに、すんの」


 ソファに倒れるシルフィの問いかけを無視し、リリィは彼女の胸に手を当てる。

 以前より少し成長したかもしれないが、そうとも言えないような、シルフィの胸部。

 皮膚と脂肪の下に存在し、生きる証を伝えるべく、絶え間なく動き続ける器官、心臓。

 恥かしさと、暴れた影響なのか、バクバクと動いている。

 脳波を計測するまでも無く、赤くなった顔だけでしっかりと解る。

 今のシルフィが感じているのは、羞恥だ。


「脈が早まり、顔面部分が好色に染まる、多少の窒息を加味しても、貴女は今、恥ずかしいと感じている」

「そ、そりゃ、慣れてても急に舌入れたり、歯とか歯茎なんて舐めてきたら、恥ずかしいって」


 口元に手を添えたシルフィは、リリィにされた事を口にした。

 夜の営みをしていても、急な攻めと、久しぶりのキスのせいか、かなり恥ずかしそうだ。

 しかし、リリィには丁度良かった。


「本当に感情がすり減っていたら、そうはなりませんよ」

「……」

「感情と言うのが一番現れるのは、やはり心臓です、他は訓練すれば良いですが、やはり、心臓は難しい物です、しかし……私のは」

「あ」


 リリィはシルフィの手を取り、自分の胸で挟み、奥の方に当てる。

 鼓動は無く、少し熱がこもっている程度。

 ドライヴは人工血液を巡らせるためのポンプの役割があっても、心臓のように鼓動はしない。

 だからこそ、本当に動揺しているのか解り辛い。


「私だって、恥ずかしいと思っても、鼓動は早まりません、今なら顔が赤くなると言った事は有りますが、私には、このドキドキが無い、そのせいで、本当に感情が芽生えたのか不安になる事だってあります」

「……ご、ゴメン、勝手な事言っちゃって」

「大丈夫です、むしろ、よく今まで我慢しましたね」


 先ほどのシルフィの症状は、戦争帰りの人間が起こすパニックに似ていた。

 そう考えると、理性を維持できずに、自分勝手な事を言っても仕方がない。

 むしろ、よく今まで発作を起こさなかったと言える。


「それに、私は貴女のおかげで、私はこうして、感情を芽生えさせられました、なら、貴女の感情が本当に死んでしまった時は、私が必ず治します、だから、安心してください」

「リリィ……」


 シルフィは、リリィの事を力いっぱい抱きしめた。

 零れ落ちる涙は、シルフィの感情をリリィに伝える。


「(……何が来ようと、必ず守る、彼女の命だけじゃない、感情も、私が、私達が守る)」


 この先に何が有るのか、それはまだ解らない。

 だが、何があっても、リリィはシルフィを守る事を決めた。

 決意を固めたリリィと一緒に、シルフィは起き上がる。


「……ん、ありがと、元気出た」

「はい、どういたしまして」


 わずかに残った涙をぬぐいながら、シルフィは笑顔を浮かべる。

 その顔に、リリィはほほ笑む。

 無理な笑みではなく、ちゃんとした笑顔だ。


「(マリーも言っていたが、やっぱり、シルフィの笑顔は良いな)」


 シルフィの笑顔を見ていると、リリィは思わず、またキスをしてしまった。


 ――――――


 リリィ達が惚気ている最中。

 軌道エレベーターに隣接する、宇宙ステーションにて。

 エーラはまとめた情報を持って、七美と共に使用する為の宇宙船を目指していた。


「……それ、本当なのか?」

「ああ、早いとこ、少佐達に伝えないとな」


 軌道エレベーターは、地上から大気圏外をつなぐ、巨大なエレベーター。

 いちいちロケットを飛ばす必要も無く、より低コストで宇宙へ行ける施設だ。

 以前はこの後で、軍用の艦船に乗り、長時間かけて移動していた。

 今や旧連邦政府が作り出したリングのおかげで、交通が遥かに楽になった。

 だが、まだ一般的に使用はされておらず、新政府によって厳しく取り締まっている。


「けど、リングの使用の許可は出てるのか?」

「勿論だ、イキシアに話を通したら、使わせてくれるように手配してくれた」

「そうか、流石准将様」


 取り締まりの方は、准将へと昇進したイキシアの手配で、使用の許可が出た。

 何しろ、割と緊急事態でもあるのだ。

 遅かった、何て事にならないように、エーラは急ぐ。


「(こういう時、無重力は助かる)」


 普通に歩いていたら、途中で息切れを起こしていただろう。

 しかし、ステーション内は基本的に無重力。

 三年近く宇宙で過ごしていたおかげで、素早く動けている。


「……お、あれか?」

「みたいだな」


 急いでいると、プラカードを掲げる人間を見つけた。

 カードには、ストレンジャーズ御一行と書かれている。

 おかげで案内人と確定できたため、その人の元へと駆け寄る。


「あんた、准将の言っていた案内役か?」

「あ、エーラ技術士官様ですか?」

「ああ……どうやら、時間通りに着けたみたいだな」


 腕時計で時間を確認したエーラは、目を鋭くする。

 案内役の人を急かす訳ではないが、急いでほしい気持ちは強い。


「……頼むぞ」

「は、はい」


 無自覚に出てしまっている威圧に、案内役の人はすっかり押されてしまう。

 彼女の後を追いながら、エーラはまとめた内容を思い出す。


「……」

「何が解ったんだ?」

「色々だ、何でジャックがあんな物を持っていたのかも、な」

「……」


 今までに無い表情を浮かべるエーラの後を追いながら、七美も気を引き締めて行く。



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