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親知らずは抜いとけ抜いとけ 中編

 本隊と連絡をとった翌日、天気のいい青空の元、パン屋に訪れていた。

 尚、シルフィは昨日の事を全く覚えていなかった。

 パン屋は喫茶店のような物も兼ねており、この近辺のカップルが良く足を運んでいる。


 アラクネ達と、色々と話したい事があるので、二人も呼んでいるが、少し遅れているので、先に席を取って待っている。

 二人が来るまでの間、目の前に広がる百合畑を眺め、この光景に大分慣れ始めたシルフィと一緒に、今後の方針を話し合っていた。

 通信した際に、一緒に送られてきた指示書に従い、指定された目的地へのルートを話し合っている中で、アリサはふと、有る事を思い出す。

 会話を中断したアリサは、ポツリと呟いた。


「ノルマが達成できていません」

「急に何?」

「ノルマです、まだ未達成のノルマが、まだいくらかありますので、出発は明日にしましょう」


 軍の上層からの命令が有るというのに、こんな事を言っているのは、彼女の特殊な命令系統にある。

 アリサシリーズは、一般的に普及しているアンドロイド兵とは、命令系統が異なる。

 軍の上層部からの命令を絶対の物とする一般シリーズとは違い、アリサ達は創造主である、マスターの命令を最優先事項として認識する。


 だが、現在はマスター本人が死去している為、暫定的に軍の幹部に命令権限が移植されているが、それでも最優先事項は、マスターからの指令だ。

 彼からの最終命令である、この世界に救いを、この命令だけは、軍からどのような下知が下されようとも、優先しなければならない。


 今回上から下された命令は、現在地の最寄りにある、空軍基地へ向かう事だ。

 基地と連携を取り、必ず追いかけて来るだろう連邦軍、彼らを迎え撃つための準備を行う事になった。

 そう言った旨と、これからの旅路を、シルフィに伝えていたら、突然そのような事をつぶやいたのだ。

 急な話の方向転換に、シルフィは目を細め、どうせくだらない事だろうと、考えていた。

 一瞬、何か仕事でやり残した事があったのかもしれないと、考えが過ぎったが、ギルドに登録する前の会話を思い出したシルフィは、また何か変な事を言い出すと予想した。


「一応聞くけど、そのノルマって?」

「私なにかやっちゃいましたか?的な事を、私はまだやっていません、異世界物だというのに、此れは致命的です」

「……例えば?」

「地形を削ったり等、皆さんが開いた口がふさがらず、目ん玉が飛び出しかねないような事を、涼しい顔でやってのけ、その一言を言うという事です」

「できるの?」

「まぁ、私にそのようなチートは無いので、連発は無理ですから、とりあえずアラクネさんに頼んで、近くの山吹き飛ばす許可を頂きましょう」

「何恐ろしい事考えてんの!?許すわけ無いでしょ!自分の家みたいな物なんだから!」

「できれば、そのおかしいって、弱すぎるって意味でしょう?とか言ってみたいですね」

「なんか以前より暴走しようとしてない!?」


 変な気を起こさせないように、シルフィは話題を元に戻し、方針に関する方向へと起動修正していく。

 目的地である空軍の基地への道のり、一番の問題は、ルートが正反対であり、最短ルートは、シルフィの故郷である森を通過することだ。

 当然そんな事をしようものならば、以前の暗殺者の仲間に加えて、里の狩人たちも相手にすることに成ってしまう。

 仕方がないので、急がば回れの考えで、森を大きく迂回する方向にするのが、最善であるが、アリサは。


「ではいっそのこと、私の砲撃で里を全滅させましょう、邪魔な木々も一緒に吹き飛ばします」

「しれっと、人の故郷更地にしないでくんない!」

「良いんですよ、エルフの森なんて燃えてなんぼです」

「良いわけあるか!迂回して行くとか、そう言う感じにしてよ!」

「仕方ありません、では折衷案で、迂回しながら更地に変えるで」

「結局更地に変えてんじゃねぇか!」


 それからも、何が何でも更地に変えようとするアリサを、何とかなだめ、更地に変える方向を回避させ、迂回ルートでの進行を考える。

 目的地は、森を超えて、町を数個過ぎた後にある山岳地帯に存在する。

 当然山岳地帯特有の魔物も住んでおり、道のりも険しいので、難所ともいえるポイントだ。

 基地そのものは、山岳地帯を切り開き、平地にした所に建設されている。

 場所は周囲の人間や衛星写真でも解らないように、立体映像のような物でフィールドを形成し、完全に偽装されている。


「まぁ、そんな道のりでも、私が吹っ飛ばせば、簡単に行けますよ」

「だから、何でもかんでも吹っ飛ばそうとするな!如何したの!?なんか今日やたらと吹っ飛ばそうとしてない!?」

「うるさいですよ!私よりも先に迷言言いやがって!有頂天に成ってんじゃじゃねぇぞ!」

「何で時々そんな口調悪くなるの!?」


 今日のアリサは、どうにかして地形を吹っ飛ばす方向に、話を強引に持っていこうとしており、もうダメだと、シルフィは内心諦めだしてしまう。

 諦め半分、紅茶を傾けると、目の前に居るアリサの後ろに、見覚えのある影が出現し、その両手には、きらきらと光る糸が握られていた。


「あら、アラクネさん、お話し合いはもう終わったのですか?」

「ええ、できればあんたのクビを取る話し合いもしていいかしら?」

「あらぁ、私なんかやっちゃいましたか?」

「あら~、言えたじゃない、私の山吹き飛ばすことも無く」

「大丈夫です、冗談ですから」


 アリサの背後を取ったのは、先ほどアリサに住処ぶっ飛ばす宣言をされたアラクネであった。

 話しぶりと、顔に青筋を浮かべている辺り、先ほどまでの会話を聞いていたのだろう。

 彼女の気分で、すぐにでもアリサの首を取れる立ち位置であるが、一応本人の力では、アリサの首を取ることができない事位は、分かっている。

 その事もあって、アラクネは直ぐに首の糸を外す。


「全く、まぁエルフの森の二・三焼かれようが、知った事じゃないから、すぐにでもぶっ飛ばしてくれば良いわ」

「アンタもかい!」

「そうですね、焚き(エルフ)火種(もり)ですもの」

「てめぇらエルフに親でも殺されたのかよ!」

「殺されたというか……私達の故郷のお約束というか」

「文化?でしょうか」

「アンタらの故郷どんな文化なの!?(でも、あんな連中、炎で焼け死ぬ位苦しんで死ねって、思った事は有るけど、とても言えない)」


 シルフィのツッコミが店内に木霊したその後、購入したサンドイッチを持ってきたラズカと合流し、二人と相席をする。

 ツッコミ時以外は内気に成りがちなシルフィは、人数が多く成った途端、少し気まずい感じに成ってしまう。

 今回、アリサが聞きたいといっていたのは、アラクネがこの世界へと流れ着き、山に住み着くまでの経緯だ。

 ついでに、彼女が言っていた山の奥にあるという、近づいては成らないというポイントの事も、一緒に訊ねてみた。



 アラクネの本名は、ニア・フラウ、この世界の、今の彼女の根城である山に偶然たどり着き、その当時に、山を統治していた先代のアラクネと出会った。

 蜘蛛と遺伝子レベルで融合したこともあって、仲間として迎え入れられ、先代のアラクネから、この世界で生きる為の能力を授かる代わりに、山の次期統治者として任命される。

 当然ニアは反発し、帰る方法を模索したが、帰る事ができない事と、先代の死期が迫り、蜘蛛達の存続が難しいと告げられた。

 その時に、山の秘密も明かされた。

 山には、先代の更に先代の頃に封印されたという魔物が封印されているという事を。

 封印された魔物は、この辺り一帯を滅ぼしかけたという程、強力な魔物であるため、もしも封印が解ければ、どうなるのか解らないことも、先代から告げられている。

 この世界の蜘蛛達への興味と、封印が解けて、この世界の人間と蜘蛛達が滅びるかもしれない、そう考えたニアは、先代と血の契約を交わし、アラクネの名を継承した。


「つまり、近寄ってはいけないというのは」

「そ、その魔物が封印されているっている場所、まぁかなり険しいところにあるし、罠とか見張りが居るから、簡単にはいけないんだけどね」

「……そういえば、そんな話、聞いたことが有る」

「そうでしょうね、貴女の家の人間と、先々代のアラクネが、その魔物を封印したらしいから」


 アラクネの話を聞き、ラズカは子供の頃聞かされていた昔話を思い出し、息をのんでいた。

 幼少期の頃から聞かされていた昔話、魔物と戦士が、協力して悪魔を封印したという物だ。

 今までフィクションとしか考えていなかった話が、実は本当の話だったと聞かされて、ラズカは驚きを隠せずにいた。


「大丈夫なんだよね?その封印って」

「ええ、余程の事が無い限り、解けたりはしないわ」

「その発言がフラグに成らないと良いですが」

「怖い事言わないで頂戴」


 恐る恐る聞いたラズカの質問に、冷静に答えたアラクネであったが、アリサのKY発言で、一気にその場が凍り着いてしまう。

 そんな中であっても、アリサは空気を読まずにとある疑問を投げかける。

 軍の研究員になるには、最低でも二十歳を越えなければならないのだ。

 彼女がどれくらいで研究所に入ったのか解らないが、最低年齢二十歳で入ったとしても、四十は超えている。


「そういえば、アラクネさんって、結構若作りですよね、もう四十k」

「フンッ!」


 年齢の話を持ち掛けた瞬間、アラクネの鋭い蹴りが、アリサの顔面を直撃し、地面に倒れこむ。

 倒れたアリサの胸倉を掴みながら、アラクネはアリサの耳元でそっと囁く。


「〈アンタねぇ、こういうところ初めてなんだろうから、解らないでしょうけど、女性の年齢を訪ねるのはNGよ、データにくわえておきなさい〉」

「了解、女性の年齢は煽る際にのみ発言するように、設定を変更いたします」

「それも結構NGよ!」


 アラクネのツッコミが響いた後、普通のガールズトークが始まった。

 万年ボッチのシルフィも、初めての経験に心を躍らせながら、会話に参加する。

 ラズカの祖父の現状、全員の趣味や、好きな食べ物、普通のガールズトークが繰り広げられた。

 そんな中で、ラズカの口から、別のベクトルのNGワードが出て来る。


「シルフィって、エルフなのに魔法が使えないって、本当?」

「ゴフッ!」


 シルフィが胸のサイズ以上に気にしていることを言い放たれ、吐血しながらテーブルに倒れこんでしまった。

 テーブルの上に血文字で『怪力女』と書きながら気絶したシルフィを介抱しながら、今回はお開きと成った。


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