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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
スイートピー編
297/343

ある日の日常 中編

 チハルの一件が片付いた後、とある日の夜。

 シルフィはイビア達に呼ばれ、酒場へと足を運んでいた。


「と言う訳で集まりましたので始めましょう、アンドロイド被害者の会!!」

「いや、主旨が伝わらないんだけど」

「同じく」


 今回シルフィだけでなく、スノウまで呼ばれていた。

 シルフィとイビアは、酒を傾けるが、スノウはジュースを手にしている。

 飲み物が届き、乾杯をした後ですぐに切り出されたのが、先ほどの言葉。

 いきなり言い放たれたため、シルフィもスノウも、イビアの意思が伝わり切っていない。

 すると今度は、前置きも無く、イビアは立ち上がり、グラスを掲げる。


「……それでは始めましょう!アンドロイド被害者の会ぃぃ!!」

「ゴリ押ししようとしないで!!」

「一体なんなの!?被害者の会って!?」


 前置き無しで切り出したことを後悔しながらも、イビアは力押しで話を進めようとした。

 そんな彼女にツッコミをいれた二人。

 しかし、スノウが疑問を投げかけた事で、イビアは訳を話すべく、腰を掛ける。


「……取り乱したわ……ま、何が言いたいかって言うと、アンドロイドに惚れた者同士で、馴れ初め話とかしたかったの」

「ようするに恋バナがしたかったのね」

「なッ」


 イビアが何をしたかったのかは分かった。

 確かに、ここに集まっている三名は、アンドロイドに特別な感情を抱いた者達。

 シルフィに至っては、結婚している身だ。

 だが、スノウの場合、顔を真っ赤に染めながら立ち上がる。


「か、勘違いしないでよ!誰がデュラウスに何か惚れるのよ!!」

「別にデュラウスちゃんの事とは言ってないよ」


 耳まで赤くなるスノウは、全力で自らの好意を否定した。

 肩で息をし、落ち着きを徐々に取り戻すが、イビアはグラスを傾ける。

 年齢的に、まだ認めたりするのを恥ずかしがる気持ちもわかる。

 イビアもそう言う経験があるので、良く解る。


「……そういうけど、この前貴女、デュラウスの事つけてたわよね?」

「ッ」

「副官の事を取り押さえた時、その特徴的な金髪と耳が見えたのよ」


 実はチハルの件の際、スノウもデュラウスの事を追跡していた。

 スノウは今、デュラウスと共に暮らしている。

 エルフ基準で、軍に入れる年齢ではないので、町の飲食店でバイトをして、生活費を稼いでいる状況だ。

 丁度その日が休みだった事も有って、デュラウスを追っていたのだ。


「そ、それは……あ、アイツが!私に内緒で、朝早くに出て行くからで!べ、別に、アイツが浮気してんじゃないかとか思ってたわけじゃ無いから!!」


 顔から湯気が出ていると錯覚する程顔を赤くしたスノウは、必死に反論した。

 完全に墓穴を掘っている事に、全く気付いていないようだ。

 その事に気付いたシルフィは頭に手を置き、イビアもため息をつきながら、新しい酒をグラスに注ぐ。


「……誰も浮気調査してたのか何て聞いて無いけど?」

「んな!」

「それに、それデュラウスちゃんの事、好きだって言ってるのと同じだよ」

「ブベ!」


 シルフィとイビアに諭され、スノウはすっかり落ち着き、席に着く。

 しかも、恥ずかしさが限界突破してしまったせいか、机の上に突っ伏してしまう。

 むき出しの耳は、焼けた石のように赤色に染まっている。


「……さぁ、お姉さん達は笑わないから、自分に素直になりましょ」

「うっさい……こっちは同性に惚れたってだけで、色々整理付いてないのに」

「うん、わかるよ、私も、リリィが好きになった時、整理付きづらかったから」


 二百歳を超えていると言っても、人間で言えばまだまだ思春期の最中。

 自分の事を正確に解っていない時期に、同性に恋をしてしまったというのは、簡単には受け入れられないだろう。

 落ち込んでしまったスノウの背中を、シルフィは優しくさすった。


「……ところで、イビアさん、ずっと気になってたんだけど」

「なぁに?」

「貴女、何でヘリアンさんの事、好きになったの?」


 今まで聞く機会を逃していたが、何故イビアがヘリアンを好きになったのか、シルフィは聞いていなかった。

 折角恋バナをしようと言い出したのだから、この際聞いておく事にした。

 その質問に対し、イビアはグラスを揺らしながら語りだす。


「……そうねぇ……私は、ギルドの依頼で、ここの魔物を討伐しに来たのだけど……予想外の強敵に出くわしてねぇ……その時、丁度食料調達に出てたヘリアンに助けられたの……ま、その後で雇われたって感じ……好きになったのは、その後」

「そ、そうなんだ」

「でも、本当の所は、配下に加わってから、喧嘩三昧で、色々反発もしてたけど、三年間も一緒に居たせいかしら?」

「……」


 過去を語るイビアの表情は、どこか悲しげだった。

 同時にシルフィに見えたのは、イビアの仲間の姿。

 彼女を入れ、十名程のパーティだったが、大戦後には三名まで減っていた。

 生き残った二名は、以前の戦いで精神を病み、軍を離れてしまっている。

 その姿が、シルフィにははっきり見えてしまった。


「(……他者との感応……人の想いが強いと時々勝手に発動しちゃうから、こういう悲しいのは勘弁だよ)」

「あら、ちょっと湿っぽくなっちゃったわね」

「ああいや、えっと、ゴメン」

「とにかく、私は、アイツと居られるだけで、十分、これからも、貴女達に協力するつもりよ」

「あ、ありがとうございます」


 穏やかな笑みを浮かべながら、イビアはこれからも協力することを約束してくれた。

 その事に、シルフィは立ち上がって頭を下げた。

 彼女の実力は、リリィの力で増幅された視覚で見ていた。

 ヘリアンと並ぶ射撃の名手。

 彼女がいるだけでも、十分心強い。


「さ、こんな暗い話は終わりにしましょう……次は、スノウ……は、まだ回復してないのね」

「……で、でもまぁ、デュラウスちゃん、意外と可愛い所有るし、面倒見もいいしね」


 次はスノウの話に移ろうとしたかったが、まだ立ち直れていなかった。

 とは言え、デュラウスはヘリアンよりも解りやすい。

 シルフィとしては、話を聞かなくとも察しがついていた。

 しかし、デュラウスの名前が出たせいなのか、スノウはゆっくりと起き上がる。


「……ねぇ、シルフィ」

「あ、起きた」

「さっきから聞いてたけど、あんた、ヘリアンと後、イベリス?って奴はさんづけだけど、何でデュラウスは、ちゃん付けなのよ?」

「あ~、それ、私も気になってた」


 起き上がったスノウの疑問に、イビアも同調した。

 だが、聞かれたからと言って、シルフィとしては答える事は難しい。

 何しろ、自分でもあまり自覚していなかったのだ。

 一緒に居て、自然とそう言う呼び方になった。

 としか言えないが、デュラウスの場合少し心当たりは有る。


「う~ん、あんまり、自覚はしてないんだけど……デュラウスちゃんの場合……可愛いから?かな?」

「可愛い?あの血の気の多いデュラウスが?」

「そうだよ、どっちかって言うと、カッコいいでしょ」

「う~ん……何だろう、趣味が?あ、いや、本質が?かな?」


 言葉にする事は難しいが、シルフィはデュラウスの可愛い部分を何度か見ている。

 マリーに敗れてからはわからないが、割と可愛い部分は多くある。

 その部分を説明するのは、少し難しい。

 はっきりとしないシルフィに、スノウは鋭い目つきで睨む。


「……例えば?」

「意外と、甘いもの好きとか?……後は、恥ずかしさとかが頂点になると、口調が可愛くなる、とか?」

「何それ、全然知らないんだけど」


 シルフィから次々と言い渡されるのは、一緒に居た筈のスノウさえ知りえない情報。

 それを知っているシルフィに対し、スノウは茫然としながら背もたれによりかかる。

 その時感じたのは嫉妬。

 一緒に居た時間は、スノウの方が長い筈が、シルフィの方がデュラウスの多くを知っている。


「……私も、まだまだ子供って事ね……未だに軍にもいれてくれないし」

「いや、軍に入れるのは三百歳からだから」

「そうそう、年齢が届いてないだけだから」


 落ち込んでしまったスノウをなだめる年上の二人だが、沈んだ目は治らなかった。

 年齢的に言って、スノウは未成年である為、入隊は認められていない。

 それでも、以前の戦いに参加しただけに、断られたのは納得いかなかった。


「でも、前の時は戦場に連れて行ってくれたし」

「あのね、あの時は非常事態だったから、もう未成年を連れて行くわけにはいかないの」


 脹れるスノウに、シルフィは優しく伝えた。

 何しろ、以前のように、猫の手も借りたい状況ではない。

 今は補給も安定し、人員も確保できる状態。

 そこにスノウのような未成年を、軍に入れる訳にはいかないのだ。


「……私、アイツに憧れたんだ……それが、どんどん好意に変わって行った……格好良くて、頼りになって……そんなアイツの力になりたいって、いつの間にか思ったの……軍に入りたいのも、それが理由」


 ショックを受けながらも、スノウはデュラウスを好きになった理由を口にした。

 前の戦いで、自分がどれだけ無力なのかを実感するしかなかった。

 爆発に巻き込まれ、浮遊する死体。

 敵が近くに来ても、何もできず、恐怖で身体が動かなくなっていた。

 しかも、シルフィの本当の実力を目の当たりにして、その無力感は決定的な物となった。


「……貴女がブリッジで怯えてた時の事、覚えてる?」

「……そりゃね、何?嫌味?」

「違う、貴女、またあんな怖い思い、したい?」

「……嫌に決まってるでしょ?さっきまで生きてたやつが、目の前で死ぬ瞬間なんて、もう見たくない」


 優しい笑みを向けながら、シルフィはスノウの事を慰めた。

 少々辛い事を思い出させてしまったが、仕方のない事だ。

 嫌に決まっている、生きていた人間が、次の瞬間には肉の塊になっている瞬間何て。

 だからこそ、シルフィとしては、スノウには戦いに関わって欲しくない。

 それはデュラウスも同じ筈だ。


「なら、貴女は、もう戦いに身を置かない方が良いよ……デュラウスちゃんだって、きっと同じ事思ってる」

「……」

「あんな怖い事は、私達大人に任せて、貴女は、平和に生きて欲しい」

「その怖い事で、アイツが死ぬのは嫌、だから、私も隣で戦いたい……それっておかしい?」


 スノウの投げかけた言葉に、シルフィは顔を横に振った。

 かつて、シルフィも同じ事を思ったからだ。

 大好きになった人を守りたい気持ちは、良く解る。


「私もそうだったから、良く解るよ……だけど、絶対に帰って来る、そう信じるのも、立派な強さだよ」

「……うっさい」


 シルフィの言葉に、ホホを赤くしたスノウだが、素直に成れず、憎まれ口を叩いてしまった。

 だが、その言葉に感謝が乗っていた事を、シルフィの目はしっかり捉えていた。

 その事に、シルフィは笑みを浮かべながらグラスを傾けた。

 彼女達のやり取りに、イビアも微笑みを浮かべる。


「こう見てて思うのだけど……私達エルフって、機械系に弱いのかしらね?恋愛的な意味で」

「……どういう事?」


 アルコールで緩んだ顔を浮かべながら放たれた、イビアのセリフ。

 突拍子のない言葉に、シルフィは首を傾げてしまう。

 疑問符を浮かべるシルフィ達を前に、無駄にシリアスな感じで、イビアは続ける。


「多分だけど、私達エルフは、機械に心を奪われやすいのよ」

「……偶然だと思うけど」

「うん、流石に偶然でしょ」

「そうかしらね……」


 シルフィとスノウの反論を前に、イビアは更に酒を傾け、そっとグラスを置く。

 そして大きく深呼吸をすると、基地で見た光景を思い出す。


「……前大戦で敵対したヴァルキリー隊、その一部が、私達の軍門に下ったのは、知っているわね?」

「うん、確かに、何人かこっちに入ったとは聞いてるよ」

「……それで、大尉の側近に成った人を、貴女は知っているかしら?」

「確か……プラムさん」


 大戦の後、ヴァルキリー隊から何人かが、ストレンジャーズ兵として加わった。

 中でも、一番頭に残っているのは、プラムと言うハーフエルフ。

 彼女がこちらに加わり、顔を合わせた瞬間、深々と頭を下げられた。

 未遂だったとはいえ、ジャックを殺そうとした事に変わりは無いと。


「そう……貴女としては、少し思う所が有る人なのだろうけど」

「そいつがどうかしたの?」

「……何か、こう……ドレイク大尉に色目を使っている気がするのよ」

「……そう?」


 ストレンジャーズに加わってから、プラムは中尉として、ドレイクの側近として働いている。

 二人共生真面目という事も有り、少佐の負担もかなり減っていると聞く。

 イビアの目から見て、二人共かなり意気投合していた。

 そして、なんともお似合いだった。

 当時の事を思い出したイビアは、シリアスに考え込む。


「何と言うか、こう……出身も同じだし、改造人間っていう部分も同じで……お似合いと言うか……彼の機械の部分に心を奪われてそう、と言うか……」

「……」

「……」


 イビアの真剣な考察に、シルフィとスノウは首を傾げる。

 二人共プラムとはあまり関りが無く、正直微妙な所。

 と言うか、シルフィは本の解読と翻訳で、あまり基地には足を入れていない。

 スノウも、デュラウスに差し入れを渡すために基地に行く程度で、二人とはあまり面識がない。

 三人の中で、普通に基地で勤務しているのは、イビアだけだ。

 煮え切らない二人の態度に、イビアはテーブルを叩く。


「もう!そう思うなら、一回見てみると良いわよ!絶対あの人大尉に気が有るって」

「は、はい」

「私は遠慮しとく、明日から、ほぼ毎日バイトだし」

「ならヒマな日教えなさい、デュラウスにはお姉さんから言っとくから!」

「う」


 どうやら何としてでも見て欲しいらしく、かなり鬱陶しい。

 話を逸らそうと、スノウは無理矢理話題を変えようとする。


「……そ、そう言えばシルフィさん?」

「ん?な、何?」

「あなた、妹達のご飯って、大丈夫なの?」

「え、ああ、うん、作り置きしておいたから、チンして食べるように手紙置いてあるよ(……さ、流石に、電子レンジなら大丈夫だよね?)」


 ガラにも無く、近所の子供のような口調でスノウは話を適当に振った。

 シルフィも薄々感づいたらしく、話を合わせた。

 夜はこうして集まる事に成っていたので、リリィ達の食事は、予め用意してある。

 多少の不安はあるが。


 ――――――


 その頃。

 シルフィの帰りを待つ、リリィとマリーは、夕食を温め直していた。


「……」

「……」


 シルフィが作っていた鶏肉と野菜の煮物を、リリィが、レンジで温めた。

 一分程待ち、中身を取りだした結果、二人は向き合った状態で硬直していた。

 と言うか、マリーの目が殺意のみで構成されており、リリィが圧迫されている状態だ。


「ねぇ、スイッチ押すだけだよね?」

「……」

「何で変色してんの?」


 そう、リリィがレンジを使用した結果、煮物が何物かさえ解らない物になったのだ。

 お皿以外、全て紫色に変色しており、何故かスライムのようにうごめいている。


「……私、自分で作って食べるから、リリィが処分して」

「ちょ!何で私だけ!?」

「アンタが変異させたんだから!責任もって食べてよ!」


 と言う感じで、シルフィの心配は的中してしまっていた。



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