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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
スイートピー編
295/343

時間の流れ 後編

 シルフィ達がザラムの元を訪れた翌日。

 三人は朝食をザラム宅で済ませた後、挨拶をして帰宅。

 ゆっくりと森を進んだので、家に着く頃には、昼前となっていた。

 帰宅後すぐに着替えたリリィは、リビングにある愛用のソファーに腰をかけ、ダラダラと過ごす。


「はぁ~、やっぱりこの家が一番落ち着きますね~」

「うん、ザラムさんの古民家も良いけど、自分の家、って思える方が、落ち着くよね」

「はい~」


 すっかり羽を伸ばすリリィは、実家に帰って来たという気分になる。

 とてもアンドロイドとは思えない程、のんびりゴロゴロする。

 ザラムの元で修業している間は、お坊さんのような生活だったので、こうして休める時間が無かった。

 それだけに、何時も以上にダラダラしている。


「……でも、こういう気分になれる日が来るなんて、貴女と出逢う前は、考えられませんでしたよ」

「確かに、最初の頃のリリィは、暗かったもんね」

「これも時間の流れ、と言う物なのですかね?どんな物でも、必ず時間と共に常に変化する、これが一番の自然と言う奴ですね」


 時間経過による変化。

 ソファーの上でゴロゴロとするリリィは、その事について考える。

 かつては第三世代型のアンドロイドだったのが、今や第六世代型。

 世間だって、シルフィと出会ってから、良し悪しを問わなければ、かなりの変化が有る。


「(この世界は、私達の世界と友好を結びつつあり、向こうでも、多少ではあるけど、アンドロイドの見かたが変わって来ているらしいし、私達の行動の結果、と言う物か……ま、身内も身内で、結構変わってたりするか)」


 情勢の事を考えるリリィの脳裏をよぎったのは、自分の姉妹達。

 恐らく一番悲惨な過去を持っているカルミアは、今や一国一城の主。

 ヘリアンも、イビアといつの間にか良い感じの仲になっており、シルフィのストーカー頻度が減っている。

 イベリスとデュラウスも軍に残り、現在も活動している。

 その事を思い出していると、シルフィも同じ事を考えていたようで、姉妹達以外の事を話しだす。


「変化……確か、軍の方だと、お母さんの後はドレイクさんが継いで、ウィルソンさんは、デュラウスちゃんと一緒に、部隊の教官かぁ」

「ええ、軍曹が抜けてしまいましから」

「元々辞める予定って言ってたもんね」


 現在、部隊の教官は、デュラウスとウィルソンが請け負っている。

 ネロは加齢が原因で軍を引退し、今はチアキと一緒に農家を営んでいる。

 本来なら、連邦に襲われる前に除隊の予定だったが、運悪く、以前の戦争で艦長を務める事となってしまった。

 だが、今では念願のスローライフを、この町で送れて満足しているらしい。


「変化……確かに、人間の町とかって、いつの間にか発展してたりするか……お姉ちゃんとどこで過ごすか、あちこち回ってたけど、もう一度訪れた頃には、いつの間にか発展してたり、閑散してたりしたし」


 近くで話を聞いていたマリーは、リリィ達と会う前の事を思い出していた。

 マリーが家出をした理由は、シルフィと静かな場所で暮らす事を夢見た結果。

 島を見つけるまでの数百年、様々な場所を巡りに巡り、その変化を目の当たりにしてきた。

 と言っても、これは長命のエルフ特有の感性。

 聞いていたリリィは、小首をかしげてしまう。


「……それ、エルフ特有の感性ですよね、私には解り辛い」

「そう?リリィなら、解ると思った」

「でも、気づいたら十年二十年経ってたって言うのは、私達エルフの悩みみたいな物だね……近所の人と話してると、時間の感覚が余計に解り辛いんだよね」

「シルフィって、ずっと基地で生活していましたからね」


 顔に影を落としながら、シルフィは時間の感覚の違いを痛感していた。

 なんだかんだ言って、この町で腰を落ち着けるまでの間、エルフ以外と交流していたのは、一年半程度。

 しかも、町での住まいではなく、異世界の軍隊が鎮座する基地で生活していた。

 世間での時間の流れには、まだ慣れていない。


「そう言えば、私達が住んでたあの基地って、今どうなってるの?」

「あそこは連邦軍に接収された後、アリサシリーズの技術を盗みだされた後、実験施設のようになって居たようですが、現在は巨大船三隻の補給基地になっているそうです」

「ああ、あれね、どこで保管するのかなって思ってたけど、そこか」

「ええ、もっとも、もうしばらくしたら、宇宙へ上げるか、向こうで管理するようですよ」


 先の大戦で活躍した三隻は、現在は以前の基地で管理されている。

 流石にこの世界の港では、町程の大きさを持つ船何て収容できないので妥当な判断だ。

 それでも、やはり存在するだけでも、この世界の住民には畏怖の対象らしく、ライラック以外は、近いうちに宇宙へ上げるらしい。


「……向こうの世界か~、七美さんとエーラさん、向こうで過ごす事にしたらしいから、キレンさん、凄く落ち込んでたね」

「まだ二つの世界での行き来に関する取り決めが、確立されてませんからね」


 不意に出て来た向こうの世界という単語に、シルフィは七美達の事を思い出す。

 大戦後、ストレンジャーズのメンバーは、とある二択を迫られていた。

 この世界で生活するか、帰国するか。

 帰国したのは、除隊したメンバーがほとんどだったが、七美やエーラのような現役たちも、向こうで生活している。

 お互いの世界を自由に旅行したり、と言うのが理想的だが、日が浅いだけに、まだそう言う訳にはいかない。


「七美、私の叔母さんか……実家をそのままにできないから、帰ったんだっけ」

「ええ、ホコリまみれで大変だったと、エーラさんから知らせが有りました」


 七美が帰った理由は、もぬけの殻となった実家を放置できないとの事だった。

 姉と一緒に過ごしていた、思い出の詰まった家。

 それを残しては置けないと思う気持ちは、マリーにも良く解る。


「(……解るなぁ、その気持ち、私も、実家を見に帰ったら、無くなっててショックだったし)」


 だが、世界を巡る前に実家を訪れていたマリーは、朽ち果てた家屋を見つけていた。

 長い間放置され、劣化の進んだ家は、既に自壊していた。

 しばらく離れていた家がまだある、その事に、マリーは少し嫉妬した。


「でも、エーラさんが帰ったおかげで、本の解読のやり取りが、難しくなっちゃったんだよね~」

「あ、そう言えば、それ、どこまで進んだんですか?」

「ん~、何とか読破できたんだけど……単語が難しくて」


 ソファーの上でダラダラしていたリリィは、あの本の事に成った瞬間、勢いよく起き上がった。

 この五年間、シルフィはルシーラと協力しながら、内容を解読し、翻訳した内容を写し出す事に専念していた。

 修行中だったので、リリィは経過の方を

 しかし、問題はまだまだ山積み。

 読破には成功したが、完全に理解したとは言えない。

 ルシーラでも難しい単語の数々に、シルフィは気を落としていた。


「けど、大筋はわかりますよね?どんな内容だったのか、とか」

「内容は……こう、何かのレポートって感じだったかな?」

「そうそう、誰かの日記って感じもしたよ」

「レポート?日記?」


 二人の発言に、リリィは首を傾げた。

 日記であれ、レポートであれ、何故ジェニーが、そんな物を持っているのか。

 それも、ジャックですら解読の出来ない、謎の文字で記されている物だ。


「准尉は何故、そんな物を……しかも、お墓が掘り返される事を予測していたように、自らの遺体と一緒に埋める何て」

「そうだよね……一応、まとめた物は、コピーしてエーラさんに回してるけど、まだ返事が来なくて」

「そうですか……良かったら、今度データを見せてください、私も、僅かながら考察します」


 ずっと滞っていた、ジェニーに関する謎。

 最近、リリィとシルフィは、その真実を解く事が怖くなっていた。

 一歩ずつ、謎を解き明かしていく度に、今の生活が壊れてしまうのではないのか。

 そんな予感がして仕方がないのだ。


「(五年前、ルシーラが言っていた……私達は、誰かが用意したチェスの盤上で戦っているコマ……クイーン同士の戦い……なら、キングは?)」


 胸騒ぎを抑え込みながら、リリィはソファーに顔をうずめた。


 ――――――


 リリィ達が家でのんびりしている頃。

 エーラは、自宅兼ラボで、シルフィから送られてきたデータに目を通していた。

 難解な古代の言語は、シルフィ達の言葉で直され、エーラでも何とか読める程になっている。


「……コイツは、リリィ達のドライヴ、そのコア部分の製造方法か?」


 送られてきたファイルに記されていたのは、どれも目を疑うような物ばかり。

 マザーにさえ保管されていなかった、ドライヴのコアを製造するための方法。

 それだけでも驚きだというのに、そのコアの性質までもが記されている。


「……これって、要約すれば、天に反応したアイツらのコアは、その効力を高めるって事だろ?……いや、そう考えると、今まで観測できた不可解な現象も説明が……」


 レポートを読み進める事で、エーラの中で燻っていた疑問が、次々と解明されていく。

 リリィの攻撃を不可思議な方法で回避し、シルフィの観測能力が異常なまでに成長したのも、全て説明が付いてしまう。


「そうだ、アイツはあの時、ラベルクのドライヴを使って、リリィと戦った、それが起因したのか……一つであれだけの効果をもたらしたのなら、二つだったら……そうだ、あのトラック」


 今まで起こっていた不可解な現象。

 その全てのパズルを解いていくエーラは、トラックの事を思い出す。

 ジャックとアラクネを、シルフィ達の世界に送った、あのトラック。

 封鎖されていた基地から、何とか原型をとどめたまま発見され、エーラのラボへと送られた。

 そのトラックの映像をディスプレイに映し出し、改めて観察する。


「……事故でアラクネを送っちまった時に、装置が誤作動を起こしたせいで、アイツはあの世界に送られた、しかも、その後で見つけたのは、その世界の座標……偶然なんかじゃないな」


 映像で、トラックの荷台の内部を、エーラは映し出した。

 中に有るのは、積んでいた装置と一体化してしまった荷台。

 わざわざトラックの状態で使用したのは、ふざけていた訳ではない。

 取り分けるのが不可能だったために、トラックのまま使用するしかなかったのだ。


「……そうなると」


 レポートの最初を読んでいた時に生まれた疑念は、読み進める事で、確信へと変わっていく。

 そこに、以前ルシーラが述べた考察を当てはめる事で、信憑性が増していく。

 やがて考えはまとまり、激昂したエーラはデスクを殴る。


「クソ、結局私達は、アイツの用意した盤上で踊らされていただけか!」


 そう言うと、エーラは少佐に報告するためのレポート作りを始める。


 ――――――


 エーラが怒りに震えている頃。

 ルドベキアは暗い部屋の中で、椅子に座りながら、仮面に手を置いていた。


「……そろそろ、時間のようね」


 仮面から手を放したルドベキアは、座り直し、先ほどまで観測していた事をまとめる。

 連邦政府は、融和政策へと走り、リリィ達は、次の戦いの準備を始めている。

 人間達が和解の道を行こうとしているのは、実に喜ばしい。

 リリィ達も、力をつけてくれるのならば、別に危惧する事は無い。


「リリィ、先生の言う事は、しっかり聞くのよ……そして、一番の問題児も、先生の言う事は、ちゃんと聞いているのね」


 リリィ達の修行の様子を観測していたルドベキアは、その様子に笑みを浮かべた。

 そして、予防線でもあったマリーも、順調に安定している。

 マリーはルドベキアでも手の付けられない問題児だったので、シルフィに任せて正解だった。

 ついでに、彼女達を育てる師匠を、改めて観測を始める。


「……変わったわね、貴方は……そんな姿になってまで、生きることを望むようになるなんて」


 必死に鉄を叩くザラムの姿に、ルドベキアはほほ笑む。

 老人の姿を維持してまで、生きようとする彼の姿。

 彼女の記憶からは、そんな事は考えられない。

 オマケに、家族団らんを楽しむような姿何て、想像もつかない。


「(……最後に彼に会ったのは、何時だったかしら、その時間が、貴方を変えたのね……いけない、また)」


 記憶を巡らせていたルドベキアは、強いめまいと吐き気に襲われる。

 姿勢を維持できなくなったルドベキアは、ひじ掛けに強く手を付く。

 振るえる手を何とか駆使して、膝の上に置いていたポーチから、薬を取りだし、服用する。


「……時間が、無いわね……ふふ、でも、負けない、負けられない」


 不気味にほほ笑んだルドベキアは、薬のおかげで症状が軽くなっていくのを感じた。

 症状が軽くなるなり、ルドベキアは魔法を使用し、ワープする。


「ッ、ちょっと無茶だったかしら?」


 食らい部屋から、別の部屋へと転移したルドベキアは、まためまいに襲われた。

 だが、気合で症状を抑え込み、深呼吸をする。

 気分の悪さは、徐々に和らいでいき、部屋を見渡せる程に回復した。


「……さて、経過は……良さそうね」


 部屋の周囲を見渡すルドベキアの視界に映るのは、大量の触手。

 ネトネトと粘液が垂れ、不気味にうごめいている。

 植物の根のように、壁や天井を覆っているが、全て血の通う一体の生物。

 健康体である事を確認し、ルドベキアは部屋の中央に浮く球体に目を移す。


「……どうやら貴女も、十分育ったようね」


 胸をなでおろしたルドベキアは、笑みを浮かべた。

 目の前の球体は、周辺の触手が塊を形成し、心臓の鼓動のように、赤い光が点滅する。

 良好な健康状態に、予想通りの成長。

 計画を進めるには、十分な状態だ。


「……これで、天秤は釣り合った……どちらに傾くか、あの子達次第ね」


 笑みを浮かべたルドベキアは、部屋から退散。

 先ほどまで居た部屋に行き、椅子に座り直す。


「……後は、あの子達とお茶でもしましょうか……ふふ、お茶会に誘う為のウサギさんを探さないと……開催日は、何時にしようかしら」


 友人を招く為の準備をしようとするかのように、ルドベキアは日程と、招待する人物を考え始めた。


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