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親知らずは抜いとけ抜いとけ 前編

 スレイヤーが異世界へと赴いたなんてつゆ知らず、アリサは装備を発見した後、アラクネとちょっとした会話を挟み、宿へと戻った。

 部屋でアリサは、ボックスの一部を長距離通信用の端末に変え、ベッドに横たわっていた。

 通信中は敵からの傍受を警戒する等の理由から、意識データのほとんどを演算に回すため、義体制御が取れないのだ。

 尚、シルフィは連絡中に話しかけられても困るので、下の階で夕食を取ってもらっている。


『機体コードAS-103、経過報告を行います』

『コード認識、データのリンクを行います』

『了解』


 音声ガイダンスに従って、本部のコンピュータとリンクする。

 報告事態は書類に詳しくまとめているとはいえ、相手は人間なので、実際に会話して報告する必要がある。

 内容は、主にアラクネとシルフィ、そして紆余曲折あって刺客に付け狙われている事等だ。

 一応二人の事は、脱走兵的な感じにまとめておき、一先ず敵ではないと示しておいてはいるが、シルフィは謎が多いので、ちょっとフワッとしているのが否めない。

 加えて、今後刺客に狙われた際に、応戦できるように、警戒レベルを上げる申請も行うつもりだ。


 アリサ達アンドロイド兵には、大まかに四つのレベルが存在し、現在のアリサは最低のレベル1、セーフモードと呼ばれる状態だ。

 出来れば、レベル2の自己防衛モード位には上げて欲しい所である。

 自己防衛モードは、その名の通り、専守防衛を主としており、(その辺の装甲車よりも固い)義体に損傷を与える程の攻撃を受けた場合にのみ、応戦が許されている。

 レベル3は、相手の危険度に応じて、自己判断で対応を変える制圧モードだ。

 最大レベルのキラーモードは、老若男女問わず虐殺も行える、完全フリー状態だ、なので、作戦展開中以外で引き上げられることは無い。


 ――数秒後、通信が繋がり、男性の声が聞こえてくる。


『私はナーダ軍司令官、ヘンリー中将だ、では、さっそく報告を聞こうか』

『はい』


 アリサは、現在に至るまでの経緯を赤裸々に開示し、詳細を纏めた報告書も、同時に提出する。

 やはりシルフィやアラクネの事に関して、結構食いつかれたが、シルフィの動向許可と、アラクネの処分回避を認めて貰えた。

 内心ホッとしながら、アリサは話を進める。


『ご報告の内容に、何か不明慮な点はございましたか?』

『報告にあった刺客というのは、交戦しなければならないような存在なのか?』

『はい、今後も襲われないとも限りませんので、できればレベル2まで上げていただければ幸いです』

『……いいだろう、君の実証試験も兼ねて、レベル3まで上げよう、その代わり、戦果をしっかり残すように』

『ありがとうございます』

『では、今後の働きに期待している、以上』

『了解、ハイルナーダ(嫌な言葉だ)』


 通信が終了し、アリサは自分の状態を再び確認する。

 まさかレベル3まで引き上げてくれるとは思わなかったので、しっかりとセルフスキャンを行った。

 結果、レベル3までちゃんと引き上げられており、今までの様に事故を装って戦わなくて良くなった。

 対峙した相手が人間の時は、相手の脳波をスキャンし、敵意や殺意を確認した際に、交戦が許可される状態だ。

 殺しにかかってきている場合、殺害も許可されている。


「(これで刺客が複数人来られても、二人で対処できるな)」

「ただいまー!」

「お帰りなさい」


 セルフスキャンが完了した辺りで、酒で出来上がったシルフィが部屋に入ってくる。

 上体を態を起こして、顔を赤らめるシルフィと目を合わせた瞬間、数秒謎の間が出来上がると、シルフィは急に泣き出してしまう。


「ふえぇ~、一人ご飯寂しかったよぉ~」

「(酔うと本当に情緒不安定だな)」


 涙を垂らしながら、シルフィはアリサに抱き着き、ほとんどアリサを押し倒すような形で倒れこむ。

 アリサの胸に顔を埋めながら、シルフィはすすり泣く。

 彼女の話では、義妹と親族を失って久しい状態、更に性格や待遇から考えても、常に一人だったのだろう。


「ひっぐ、一人にしないで~」

「はいはい、好きなだけ泣いて良いですから、早く寝てくださいね」


 胸の中ですすり泣くシルフィの頭を撫でると、悲しみで染まっていた顔は、徐々に緩み、安らかな表情へと変わって行く。

 涙は引っ込み、呼吸も規則正しく成りだし、睡眠へといざなわれていくのを確認すると、アリサも記憶の整理を行うべく、スリープ状態に入ろうとした。

 その時、寝言の様にシルフィが呟く。


「今日のアリサ、なんか優しいね」

「ッ!?これはただのメンタルケアです!今後も同行したければ早く寝てください!」

「はーい」


 眠りについたシルフィを抱きながら、アリサは先ほどの自分の反応に対し、疑問を抱きだしていた。

 シルフィの優しいという単語を聞いた途端、急にその言葉を否定したくなってしまった。

 同時に、勝手に義体温が度上昇するという、謎の障害が発生。

 セルフスキャンでも、異常が解らなかった。


「……(なんだ今のは?バグか?まぁいい、とりあえず、スリープモードに入りながら調べるか)」


 原因究明と、記憶整理、エーテル・ギアの調整の為に、早いところスリープ状態に入った。



 ――その頃

 夜空に上った月に照らされる中で、二人のエルフが言い争いをしていた。


「何時に成ったら行くのですか、たかが人間と無能の異端児、この二人だけでしょう!」

「狩人の基本は辛抱、期が熟すまで、しばらく待ちなさい」


 事故とは言え、ベヒーモスの手によって傷つき、倒れ伏す仲間達を横目に、里の暗殺部隊の一人、アレンは今の状況にしびれを切らしていた。

 幾ら仲間が負傷しているとはいえ、アレンからすれば、アリサとシルフィはただの雑魚、いま動ける数名だけでも、十分殺せる。

 そんな彼の主張は、頭目であるクラブには通らなかった。

 アレンは部隊の中で最年少であり、まだ新入りと呼べる立場、その事も有るのだが、もう一つの理由があった。

 それは、彼女の右目にある。


「(エルフィリア、この潰れた右目の恨み、必ず晴らさなければならない)」


 クラブは、かつて里を抜け出したシルフィの妹、ルシーラに片目を潰されており、その怨恨から、シルフィの事は、苦しめて殺したいと考えていた。

 イャートに斥候を頼み、シルフィ達の監視を任せていたが、先走ったが故に殺されてしまい、更にはベヒーモスに手ひどくやられた影響で、数名はまだ動けない状態。


 部隊の中で最弱とはいえ、一人がすでにやられている状態、数人ずつ送るより、全員で行き、確実に仕留める方法を考えている。

 それも、全てシルフィの事を苦しめて殺すためだ。

 だが、人一倍プライドの高いアレンにとっては、そんな事どうだってよかった。

 エルフ族の面汚しであるシルフィを殺す。

 そんな事にこれだけ時間をかける事に、彼は我慢ならなかった。

 だが、頭目たるクラブの考えを覆すことはできず、怒ったアレンは、キャンプから遠く離れだす。


「クソ、老いぼれ共といい、あの女と言い、何故あんなにも奥手なんだ」


 神童、アレンは子供のころからそう言われて育ってきた。

 彼らの里に住むエルフは、平均十七歳ほどで魔法が使えるように、英才教育が施される。

 そんな中で、彼だけは弱冠十歳という年齢で、魔法の基礎の全てを学び抜いた。

 学び舎でも、誰よりも優秀な成績を収め、模擬戦でも負け知らず。

 文武両道で数々の女性から行為を抱かれていた。


 彼らの学び舎にある卒業の儀には、最も優秀な生徒を決める為の大会が存在する。

 当然優勝候補として名高かったアレンは、余裕で優勝を勝ち取り、優秀な狩人としても名をはせていた。


 それからしばらくして、ルシーラが里を抜けだし、彼女の追撃の為に暗殺部隊が派遣された。

 クラブは片目を失い、メンバーの多くが殺された。

 その後、実力を認められたアレンは、暗殺者という最も名誉ある地位になる試験を受けた。

 実際は人数合わせとはいえ、アレンは、最年少で暗殺者としての地位を獲得し、今に至る。


 そんなプライドから、まるで臆病ともとれるような、クラブのやり方に、不満を募らせていた。

 リーダーであるクラブは、無能であるシルフィ達の抹殺に怯えているように振舞っているだけでも、我慢できないでいる。

 更には、里の幹部たちも、この世で最も気高く、優秀な種族であるエルフの身で有りながら、何時までもこんな森に引きこもっている。

 それが、彼には我慢できなかった。


「フフフ、君も、僕と同じようだね」

「ッ!何だ、ユリアスか」


 そんな彼に同調したのは、暗殺部隊の一人、ユリアスだった。

 少年ともとれる見た目と、暗殺者とは呼べない体系を持つ彼は、実力は無いにせよ、魔物を従える、モンスターテイマーと呼べる能力を持っている。

 その能力を買われて、彼は暗殺部隊に編制された。

 年齢も、アレンと十年程しか変わらず、そのせいか、それなりに交流もある。


「僕も、こんなやり方には不満が有ってね、如何だい、此処は僕たちで行かないかい?」

「お前と?別に良いが、命令違反になって罰則、最悪死罪だ」

「その事だけど、あの二人の進行ルートの先に面白い物が有るんだよ」

「面白い物?」

「そうさ、それを使えば、二人の抹殺だけでない、里を乗っ取ることだって……」


 不敵な笑みを浮かべるユリアスの発言に、アレンは頬を緩ませ、賛同したアレンは、ユリアスの手を取り、協力を承諾する。

 里を乗っ取れば、募らせている不満の解消だけでない、世界そのものを、自分たちの手に納める事だってできる。


「変えよう、僕たち若者の手で」

「ああ」


 わからずやの老いぼれではなく、若者の手によって、エルフの天下を取る。

 そう考えただけで、アレンの気分は高揚していた。


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