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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
モミジガサ編
280/343

王都奪還 後編

 カルミア達が城に奇襲をしかけた頃。

 宇宙へ上がったライラックの艦橋にて、頭にタンコブを作ったルシーラが、艦長の元を訪れていた。

 目的は、レッドクラウンが飛び出した事の沈静である。


「と、まぁ、余の魔力を凝縮した物をこの艦に取りつけておいた、アヤツが居なくとも、十分戦える」

「……そう言う事であれば、通達をしてくれ、本気で焦ったぞ」

「すまん、人形遊びに熱中してしまってな」


 ルシーラが通達を怠っていたせいで、艦長も整備班も知らないままだった。

 ここに来てすぐ、大騒ぎになっていたので、リリィに一発入れられた後で、説明をして回っていた。

 とりあえず、既に鉄拳制裁を受けていたルシーラを見て、艦長は許す事にした。

 それに、今は戦闘前、面倒な事は後回しにする事にした。


「艦長!ヴァーベナより入電!戦闘配置に着いた模様!」

「……そうか、ルシーラと言ったな、お前も戦闘配置に付け」

「承知した、今回は済まない事をしたな」


 一言謝罪を入れたルシーラは、プロテアスを装着し、出撃ハッチへと赴いて行った。


 ――――――


 同時刻。

 リングの付近へと到着したヴァーベナは、敵の護衛艦隊を捉えていた。

 艦の内部では、非常警報が響き渡り、隊員達も緊張感を高めていた。


「ライラックの首尾はどうだ?」

「どうやら、彼らも配置に着いたようです」


 チフユからの報告を受け、ネロは帽子をかぶり直す。

 これから、今まで味方だった連邦と、全面的に衝突する。

 物量の差が圧倒的なのは、もはや言うまでもない。

 本来なら、ネロはもう軍を抜けていた筈が、こうして艦長として指揮を執る羽目になっている。

 憎たらしくも、面白い人生に、自然と笑みが浮かんでしまう。

 彼の姿をみて、チアキも笑みを浮かべだす。


「これで、アイツらに一泡ふかせられるッスよ」

「ああ……主砲、発射用意!」

「了解!」


 ネロの指示を受けて、チフユは主砲を起動させる。

 ヴァーベナの主砲は、かつて戦ったアーセナル・ドラゴンの右腕を改修した物。

 相応のエーテルが必要となるので、補助動力担当のリリィに連絡を取る。


「こちらブリッジ、リリィさん、エーテルの供給をお願いします」

『了解』


 供給を開始すると同時に、遠くにいる艦隊に狙いを定める。

 本来なら艦砲射撃であっても、有効な射程距離ではない。

 だが、リリィのエーテルを濃縮した主砲であれば、この距離は問題無い。

 それでも、万全を取り、ヴァーベナは前進を開始し、ネロは艦内にアナウンスを始める。


「チャージ六十パーセント、ヴァーベナ、前進開始」

「こちらブリッジ!これより主砲によって、敵艦隊に打撃を与える!総員!衝撃に備えろ!」

「チャージ、八十パーセント」


 敵の艦隊に接近しながら、主砲のチャージと、船速の加速が進む。

 徐々に距離を詰めていくと、相手の索敵にひっかかったようで、敵艦隊からの砲撃が始まる。


「チ、やはりこの距離でも見つかるか」

「ミサイル、接近してくるッス!」

「フィールド展開!速度を緩めるな!!」

「チャージ九十パーセント」


 今の距離では、エーテルを使用する砲撃の効果は薄い。

 その事は敵も知っているらしく、大量のミサイルが降り注いできた。

 だが、リリィから供給される、無尽蔵のエーテルのおかげで、強力なフィールドが展開。

 着弾したミサイルは、全て防ぎ止められ、これといった衝撃も無かった。


「流石だ、これ程衝撃を緩衝できるとは」

「チャージ、百パーセント!」

「よし、発射直前にフィールド解除、敵の横っ腹を貫く!」

「了解!」


 当初の予定通りの指示を下したネロは、衝撃に対する体勢を取りだす。

 今回の戦いが、主砲の初使用。

 エーラが大丈夫だと太鼓判を押していたので、それを信じる事にした。


「ヴァーベナ、最大船速!」


 エーラからの注意で、主砲の反動が強すぎるので、必ず最大船速を出す事になっていた。

 それに従い、ヴァーベナの出せる最大推力を叩き出す。

 前進による圧力を全身に受けながら、ネロは指示を下す。


「主砲、撃て!!」


 ヴァーベナの船体中央に有る、巨大な砲台から、蒼いビーム砲が射出される。

 巨大な地震が発生したかのような衝撃が、艦内に伝わった。


 ――――――


 その頃、リング間近の艦隊の旗艦にて。

 補足したヴァーベナより、高エネルギーを確認していた。


「て、敵艦より高エネルギー反応!」

「バカな、あの距離から!?」

「チ、うろたえるな!あんな距離からの攻撃が、当たる訳ないだろう!」


 艦長の言葉に、うろたえていたスタッフ達は、落ち着きを取り戻す。

 確かに、この距離であれば、ミサイルによる長距離攻撃が基本。

 エーテルのせいで、精密なミサイル攻撃は不可能だが、途中で霧散するエーテルよりも、確実に長距離攻撃を当てられる。

 それなのに、こうして砲撃を行ったという事は、敵は相当焦っていると取れる。

 だが、攻撃の確認をしていた一人が、違和感を覚え出す。


「……あ、あの、て、敵艦からの攻撃、当艦への直撃コースです!」

「気にするな、届いたとしても、たいした威力にはならない……いや、それどころか、脅しにすらならんわ」


 余裕で椅子にふんぞり返る艦長だが、あまりにも根拠が無さすぎる。

 今迫っている攻撃が、とてつもない物であった場合、射線上の味方さえ犠牲となってしまう。


「で、ですが、射線上には味方も!」

「ええい!うるさい!巻き込まれたとしても、損害は軽微だ!そんなに不安なら、回避行動を取らせろ!」


 そんな艦長の慢心は、艦隊に大打撃を与える事となった。

 怒りを含ませながら発された、艦長の言葉が言い終わると同時に、ブリッジ内はホワイトアウト。

 旗艦を含め、射線上にあった多くの艦隊が巻き込まれた。


 ――――――


 場所は戻り、ヴァーベナにて。

 予想以上の振動が、艦内を襲ったが、それだけでは無かった。

 とてつもないエネルギーの使用量のせいで、艦内が一瞬暗くなってしまった。

 今では艦内の電力も回復し、チフユは急いで状況を確認し始める。


「命中しました!」

「よし、ライラックにも通達、掃討作戦を開始する!リリィは艦にエーテルをチャージ!当初の予定通りの陣形で出撃しろ!」

「了解!」


 ネロの指示通り、艦載されている機体達は出撃していく。

 イベリスも、エーテル・ギアを装着して、ヴァーベナの周囲に着いた。


『こちらイベリス、対空防御は、お任せくださいませ』

「お願い、イベリス」


 ――――――


 程なくした頃、前進するライラックの周囲にて。

 艦の外にでたルシーラは、ヴァーベナの主砲の熱線を目にして、感傷に浸っていた。


「……成程、なんとも暴力的な砲を作った物だ」

「うひゃぁ、本当にあれ作り直したんだ」

「ほう、知っておるのか?」


 その隣で、ストレリチアを着込んだシルフィも、呆気にとられた様子で眺めていた。

 だが、ルシーラの言葉に、シルフィは小首をかしげる。

 実際に見た訳ではないが、ジャック達の目を通して、あの主砲の威力を目にした事は有る。

 本来の効果の方は、気を失っていたので知らないが、それでもかなりの威力である事は認識していた。


「うーん、実際の威力は初めてだけど、イベリスさん達の目から、凄いって言うのは、知ってる」

「……曖昧じゃな」

「ご、ゴメン、でも……ヘルメット無しで大丈夫なの?それに、無重力も平気みたいだし」


 今のルシーラは、ヘルメット無しで宇宙空間に居る。

 海中で見せた魔法の応用なのだろうが、海中と宇宙では、環境はまるで異なる。

 しかも、シルフィがジャックの補助を受け、ようやく慣れた無重力も、彼女はヘッチャラらしい。

 話は無線で行っているが、順応が早すぎる。


「なぁに、この程度感覚でどうにかなる」

「(この才能の差はなんなの?)」

『ルシーラ!何をしている!?早く行け!』

「おっと、どうやら、時間のようだ……砦の防御は、頼んだぞ」


 艦長からのお叱りを受け、ルシーラは兜を被る。

 彼女の任務は、先行して敵の注意を引きつける事だ。

 今の敵は混乱しているが、すぐに立て直すと思われるので、行動は迅速に行わなければならない。

 シルフィに防御を頼み、さっさと行こうとするが、ルシーラは立ち止まる。


「すまん、その前にマリーからだ」

「え」

「ッ……お姉ちゃん……お互い、頑張ろうね」

「うん、貴女は心配しないで、リリィと仲良くね」

「解った!」


 前線で一緒に活躍するリリィと、ちゃんと仲良くしてくれる事を一番に考え、マリーを見送る。

 シルフィに手を振りながら、マリーはお使いに行く子供のように出撃していく。

 彼女へと手を振り返し、見送ると、もう一人の護衛に話しかけられる。


「……まさかアイツの背中を守る事に成るとはな」

「あ、デュラウスちゃん……あれ?スノウちゃんは?」


 シルフィに話しかけたのは、彼女の新型エーテル・ギア、『アカツキ』を着用したデュラウス。

 直線的な動きを重点に置いているかのような、スラスターの配置や、極限まで装甲を削った作り。

 なんともピーキーな仕上がりであるのが、見て取れる。

 しかし、最近ベッタリなスノウの姿はない。


「アイツなら宇宙酔いでゲロゲロ吐いてる」

「あちゃ~」


 初めて宇宙に来た事も有って、スノウはダウンしてしまっていた。

 一応医療班に頼んでおいたが、そんな事どうでも良いかのように、デュラウスは話を続ける。


「そんな事より、アイツらが行けば、俺ら出番ねぇだろうし、そんな気張らなくていいだろ」


 そう、先ほどの砲撃によって、護衛艦隊の陣形は大きく崩れた。

 そこにルシーラとリリィを向かわせれば、すぐに終わるだろう。

 しかし、シルフィはデュラウスの言葉を否定する。


「……そうも言ってられないみたいだよ」

「何?」

「今、共有するね」

「頼む」


 治った目に、魔力を流し込み、視力を強化したシルフィは、リングが起動した事を目にする。

 そして、リングの奥から大量の艦隊や兵器が、続々と出現。

 ルシーラの事を抜かし、次々と進軍している。

 彼女の視界は、デュラウスにも共有され、彼女の言葉の意味を理解する。


「……成程、ルシーラだけで対処できるかと聞かれると……まぁ、大丈夫だろうが……展開が早すぎる」


 数をそろえただけで、ルシーラやリリィを止められるとは思えない。

 だが、リングから出て来る艦隊の展開の数が多すぎる。

 まるで、最初から襲撃を予期していたような動きだ。

 こういう時、リリィとルシーラは、奥へ行って艦隊を襲撃し、向こう側のリングを制圧する事が任務だ。


「……まぁいい、俺達は守りだ、軍人は指示があるまで、勝手に持ち場を離れるなってな……攻めは一部アキレアと攻勢チームに任せるか」

「そうだね……そう言えば、その剣、どうしたの?」


 デュラウスの構えた大剣は、ウルフスの使っていた物と酷似していた。

 だが、詳細は聞いていなかったので、今の内に聞いておく事にした。

 剣の事を聞かれたデュラウスは、可愛らしい笑みを浮かべながら話しだす。


「ああ、コイツは、ウルフスの剣に、お前たちが昔倒した、ユニコーンの角を搭載して、電撃の威力を強化した物だ、アラクネから良いの貰ったぜ」

「へ、へ~(……倒したって言うより、事故ったていうか)」


 なんとも良い笑みを浮かべながら説明したデュラウスだが、シルフィは口を引きつらせながら明後日の方を向いた。

 ユニコーンという魔物を相手した事は、その時の印象が強すぎて覚えている。

 何しろ、肉離れを起こして自滅したのだ。

 とても倒したとは言い難い。


「……さて、リリィの奴も出撃したようだが……敵さんも、ルシーラの奴を抜けて来たか」

「そうだね」


 デュラウスに続き、シルフィもストレリチアを大型のボウガンに変える。

 彼女達のはるか遠くからも、リリィが出撃する。


「……私も、あの子達には負けられないよね」


 ほほ笑んだシルフィは、狙撃の姿勢を取る。

 目標は、前進を続けてきている敵艦隊だ。


 ――――――


 リリィが出撃する、少し前の事。

 センペルビレンスの主砲を力強く握るイベリスの気迫に、リリィは圧倒されていた。


「……わたくしは、必ず」

「イベリス」


 いくら105型へと換装したとはいえ、リリィの性能には遠く及ばない。

 それでも、以前の戦いの時のように、誰も守れなかったなんて結果は、死んでもゴメンだ。

 このエーテル・ギアは、それを防ぐための物でもある。

 それだけに、かなり気合が入っている。


「防御、わたくしの分野ではありますわね」

「……話は聞いていますよ、私も、守らなければならない物が有りますので、そろそろ失礼しますよ」

「……ええ、お気を付けて」


 出撃しようとするリリィであったが、飛び立つ前に立ち止まる。

 話はチフユから聞いていたが、どうやらイベリスの無念は、思った以上に強いらしい。

 先ほどから、イベリスの言葉の全てに、重みと殺意が込められている。

 心なしか、黒いオーラも見える気がする。


「……闇堕ちして、私に襲い掛からないでくださいよ」

「……ええ、お約束いたしますわ」

「(やべ、目がガチだ)」


 イベリスと目を合わせたリリィだが、柄にもなく委縮してしまった。

 何しろ、今のイベリスの目は、底が無いと思える位真っ黒になっている。

 仮に犠牲の一人でも出してしまえば、本気で自爆特攻でもしてしまいそうだ。

 よく言えば責任感が強いと思えるが、悪く言えば気負い過ぎだ。


「イベリス」

「何か?」

「……いえ、武運を祈っております」

「ありがとう存じます」

「(慰めの声の一つでもと思ったが、何言っても闇に堕ちそうだ)」


 姉として、何か言っておきたかったが、向けられた重苦しい視線に、屈してしまった。

 しかたがないので、リリィは出撃する。


「(……けど、解らない訳じゃない、私も、シルフィを守り切れなかったら)」


 仮にシルフィを守れず、自分のせいで死なせたら、イベリス以上の場所へ堕ちてしまう。

 そして、シルフィを殺した奴は、簡単には殺さず、じっくりと苦しめ続ける筈だ。

 考えただけで胸を傷めるリリィには、そんな確信が有った。


「……いや、今回もアイツが居る、それに、このスターゲイザーなら」


 ガーベラを引き抜いたリリィは、急いでリングへと赴いていく。

 絶対にシルフィを失わない為に。


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