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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
モミジガサ編
275/343

解き放たれた巨人 前編

 総司令部から戻ったマクスウェルは、イリス王国の城の中で、座りながらソワソワしていた。

 ヴァルキリー隊数百名と、アンスロポス隊十五機。

 彼らがこの地上へと降りて来てくれた。

 この動きには、恐らく敵側も感づいている。

 そう思うだけで、どうしても落ち着けなかった。


「(こちらの戦力は申し分ない筈、あとは、奴らがどう攻めて来るか)」


 マクスウェルの考えでは、城下町を車両で突っ切ってでも、攻めて来ると予想している。

 無法者である彼らの事であれば、住民の犠牲などお構い無しだろう。

 それどころか、命をかなぐり捨てた特攻だってあり得る。

 城の兵士では、矢弾避け程度にしか役に立たないので、今城の警備をしているのは、連邦の兵だけだ。


「(だが、どんなに攻めて来ようとも、上からの増援が有る、それまで耐えれば、我々は勝てる)」


 今のマクスウェルは、首の皮一枚で繋がっている状態。

 次に失態を犯せば、今の地位だけでなく、命さえ無くしかねない。

 それ故に、増援が有っても、不安はとても強い。

 だが、マクスウェルは机を叩きながら立ち上がる。


「いや!勝てば良いのだ!負ければただのゴミ、ゴミどもに負けることはない!私は勝者だ!勝者になればよいのだ!いつの間にか消えていたメス豚の事なんぞ、気にする事はない!!」


 彼の脳裏をよぎったのは、情報部から来たリアマ少佐。

 彼女のおかげで、不安がとてつもなく押し寄せていた。

 しかも、この城に戻ったと思ったら、彼女は影も形も無かった。

 不安を押し殺すように、マクスウェルは激高した。

 肩で息をするほど叫んだが、冷や汗をかき、心拍数も高いまま維持しており、気休めでしかなかった。

 そんな彼の耳に、警報が入り込む。


「ッ!何だ、まさか!?」


 ――――――


 場外にて。

 警報を聞いて、外の警備隊は焦りに焦っていた。


「おい!あれは、揚陸艇じゃないか!?」

「この識別信号……馬鹿な、反政府勢力に撃墜されたんじゃないのか!?」


 城の上空から、強襲型の揚陸艇が急接近してきたのだ。

 減速する様子もなく、まるで揚陸艇その物をぶつけようとしているかのような動き。

 しかも、撃墜されたと思われていた機体だ。

 その解析結果も、部隊を混乱に陥れた。


「え、ええい!何をしている!各員!対空砲火!上空で破壊しろ!」

「りょ、了解!」

「ルプスクリーガ隊!対空攻撃!」


 瞬時に混乱を治めるなり、連邦兵はなりふり構わず、行える攻撃を始める。

 使える対空砲は全て起動させ、対空装備のルプスクリーガ隊も、上空へ攻撃する。

 砲撃の衝撃や、爆音が、辺りの大気を震わせる。

 まるで演習場のような光景が、城の中で繰り広げられる。


「撃て!撃て!砲身が焼けても撃ち続けろ!!」

「あんなので突っ込まれたら、城どころか町も吹っ飛ぶぞ!!」

「チクショウ!反政府勢力どもめ!!」


 一人の隊員が言っていたように、揚陸艇程の質量が、今の速度で突っ込んで来れば、被害は想像を絶するだろう。

 そんな事をすれば、市民にまで危険が及ぶ。

 上層の人格はともかく、ここに居る隊員は、正規軍の端くれ。

 たとえ異世界人たちであっても、守る義務を全うするべく、砲撃を続ける。


「撃て!撃てぇ!!」

「武器の制限なんか気にしていられない!通常兵器であれば、何でも使え!」


 圧倒的な弾幕の中を、揚陸艇は突き進む。

 回避する素振りも無く、装甲が剥げようが、内部から爆発しようが、お構いなしに落下してくる。

 撃ち返しも無く、相手は的でしかないが、単独での大気圏突破も可能な程頑丈な艦だ。

 だが、彼らの頑張りのおかげで、揚陸艇は爆散する。


「ッ!やったぞ!!」

「へへ!ざまぁ見やがれ!!」

「喜んでいる場合か!破片も撃ち落とせ!市街地に被害を出すな!」


 内部の動力系にでも引火したのか、揚陸艇は大爆発を起こした。

 そのおかげで、大量の破片が降り注いでくる。

 撃墜の余韻にひたる間もなく、今度は破片の迎撃に移る。


 ――――――


 同時刻、外の様子を見ていたマクスウェルは、胸をなで下ろしていた。


「全く、ヒヤヒヤさせる無法者どもだ……あんな事でここの防御を超えられると思ったのか?」


 安心し、気がぬけたマクスウェルは、近くにあった椅子にすわりこむ。

 そんな彼の背後から、一人の人間が歩いてくる。


「愚か者め」


 マクスウェルの隣に立ったのは、エレティコ。

 今回の増援要請を受けて、この城に派遣された。

 撃墜された揚陸艇を見上げる彼の言葉を、マクスウェルは賛同する。


「ッ、貴様か……お前の言う通りだ、どうやら、私は奴らを過大評価していたようだ、これで奴らも」

「愚かなのはお前だ」

「何?」

「俺達は戦闘配置につく、部下にもそう伝えろ!」

「何だと!?」


 戦斧を携えたエレティコは、部下達を連れて、怒鳴るようにしてその場を後にした。

 次々と城に降り注ぐ破片達を背景に、マクスウェルは周囲をよく見る。

 特に変わった様子はないが、次の瞬間、異常が発生する。


「ッ!爆発!?」


 ルプスクリーガの物と思われる爆発が、城内で起こった。

 それだけではない、あちらこちらから、徐々に銃声が響き渡って来る。


「どういう事だ、揚陸艇は、確かに破壊した筈」


 ――――――


 城の敷地内にて。

 降下に成功したカルミアは、自ら銃を取り、前線で指揮を取る。


「進め!城を制圧しろ!!」

「連邦どもめ!三年前の恨み、晴らさせてもらうぞ!!」

「死んでいった仲間のために!」


 彼らは、揚陸艇が爆散する前に逃げ出し、破片に紛れて降下。

 エーテル・ギアの恩恵によって、パラシュート無しでも容易に成功した。

 破片に気を取られていた連邦兵たちは、この異常な事態について行けていない。

 普通、軍で使用される兵器を破壊すれば、何らかの形で責任を取らなければならない。

 それも、材料費が国民の血税であるが故。

 そんな物を破壊する前提の作戦なんて、クビ何かでは済まない。


「ば、バカな!あいつ等、あれから降下したってのか!?」

「そんな、そんな馬鹿な事!」

「戦争ってのは、型にハマらない馬鹿な奴の方が勝つんだよ!」


 驚愕する連邦兵へ向けて、カルミアはライフルを撃ちこむ。

 カルミアとヘリアンが共同開発した特別製のライフルは、高出力のエーテル弾を撃ちだした。

 彼らのエーテル・ギアに着弾するなり、その威力のおかげで、外装を破壊。

 そのまま内部までえぐり込み、隊員の身体を焼失させる。


「行け!行けぇ!」

「今回の戦も、手柄あげてやらぁ!!」


 彼女に続き、護衛のオセロット隊も援護していく。

 そして、葵達もそれに続き、次々とルプスクリーガ隊を破壊していく。

 とにかく派手に動き、ロゼ達へ注意が向かないようにする。


「(派手過ぎて、陽動を疑われないといいが)……ん?ッ!?とまれ!!」


 どんどん進軍していくと、彼女達の目前に、巨大な破片が落ち、行く手を阻む。

 揚陸艇の破片だが、どうやら落ちていた物ではないらしい。

 それを示すかのように、人の手形のような物が、破片の隅に出来上がっている。


「(このデカい手)……あれか!」


 辺りを見渡すカルミアは、少し破損している塔の上に、人影を見つける。

 大きさや形状から見て、エーテル・アームズなのは間違いない。

 塔の上にいた機体は、スラスターを吹かせると同時に、大きく跳躍。

 今度は本人がカルミア達の前に立ちはだかる。


「……おいおい、また新型かよ」

「なんか、四年前思い出すな」

「……それに、一機だけではないようですよ」


 現れたのは、新型機であるアンスロポス。

 空中から現れる姿に既視感を覚えた葵だが、そう言っていられない。

 一機だけでなく、合計で五機が彼女達を取り囲む。

 その内の一機、恐らく隊長機と思われる機体が、カルミア達の前に降り立った。


『ミつけたぞ、このセカイにハビコる、ガンサイボウを』

「ッ!その声……あの時の」


 機体から発せられた男の声に、カルミアはライフルを握る力を強める。

 忘れる訳がなかった。

 言いがかりに近い事を言われながら、あの男に止めを刺されたのだから。


『ハンセイフセイリョクドモめ!コンドこそ、ワレワレの、セイギのテッツイをウけるがいい!!』

「来るぞ!」

『ジゴクで、そのケガれたスベてにザンゲしろ!!』


 ファナティクは、拳にナックルダスターを装着し、カルミア達へと襲いかかる。


 ――――――


 別の場所へ降下した七美とキレン、そしてマルコは、残りのアンスロポス隊にかこまれていた。

 他にも、ヴァルキリー隊や、一般の連邦兵まで混ざっている。

 普段は大人しいマルコも、今は狂犬のようにうなっている。


「ううぅ~」

「これまた、ヴィルへルミネの好みそうな兵器が来たな」

「……あれ、人が乗ってるの?」

「ああ、だが、随分とバカみたいな改造してやがるな……(機能の全てを失った強さ、か……大馬鹿だな)」


 アンスロポスを目にした七美は、槍を担ぎながら簡単に分析した。

 エーテルの流れを感じとり、パイロットの状態はある程度理解できた。

 以前から似たような物と戦ってきた七美からしてみれば、見飽きたものだ。

 とは言え、見た限りだけでも、その性能はおおよその検討が付く。

 マルコも、その辺をかぎ取っているのだろう。


「さて、と……見た限り十機に、雑魚がワラワラ、か……大丈夫そうか?」

「う~ん、後一体増えたら、マズイかな?」


 二人共ニヤニヤと話しており、表情からも余裕が感じ取れる。

 大丈夫だの、マズイだの、完全に比喩でしかない。

 一人五機倒す程度であれば、相手のエーテル・アームズを倒すのは容易だ。

 むしろ、強力なのがまとめてここに来てくれて、感謝さえ覚える。


「ワン!」


 二人の会話を聞いたマルコは、先ほどの獰猛な表情を無くし、一言吠えた。

 だが、表情が柔らかくなった事位しか、七美には解らなかった。


「……なんて?」

「えっと、その一体はこの子が倒す、だって」

「成程な……来るぞ!」


 七美の言葉通り、アンスロポス隊が襲い掛かる。


「(……やっぱり、僕が心配する事じゃなかったか)


 ――――――


 同時刻。

 ヘリアンとウィル、そしてイビア率いるレイブン隊も敵に囲まれていた。

 降下に成功したのは良かったが、降下して数分で、小隊規模の部隊に取り囲まれてしまった。


「よ、読まれてたの?」

「読まれてたっちゅうより、解っとったようやな……」


 この状況に、ウィルソンは目を鋭くした。

 何しろ、この手の作戦方法は、ストレンジャーズでも度々行ってきた。

 カルミアもストレンジャーズと関わりが多かっただけに、作戦の思考が似通っている。

 揚陸艇の残骸に紛れて降下なんて、彼らと関わりが深ければ、大体の見当はつく。


「なぁ、エレティコ」

「貴様らの考えなぞ、手に取るようにわかるさ」


 初老のダークエルフ、エレティコは、ウィルソンに対して殺意の籠った目を向ける。

 内心呆れていたが、今のウィルソンを見るなり、一週まわって殺意に変わった。


「……もはや、貴様は見るに堪えない……誰だ、誰が貴様をそこまで腑抜けさせた!!?」

「……腑抜け、か……」


 子供が出来たせいだろうか、エレティコの目に映るのは、腑抜けきったウィルソンの姿。

 だが、彼の言葉に、ウィルソンは鎌を持つ手を強める。

 その殺意は、この先に起こるだろう最悪の未来に向けられる。

 ここで彼を逃せば、彼の家族に危険が降りかかる。


「知りたかったら、先ずはワイをバラしてからにせい!!お前の得意分野やろうが!!」


 珍しくプッツンとキレたウィルソンは、殺意をエレティコに向ける。

 そんな彼を見て、少しは見直したのか、それは定かでないが、エレティコは彼の前に降り立つ。


「……そうか、ならば、聞くとしよう!!」

「ああ、来やがれ!」

「援護する!イビア!周りをお願い!」

「解った!」


 攻めて来るエレティコを倒すべく、ヘリアンも参加。

 イビアはヘリアンの指示に従い、周りの兵士を相手にする。


 ――――――



 城内にて、レリアとロゼ達は、隠し通路から城内へと潜入していた。

 随分使用されていなかったので、ホコリやただの蜘蛛巣を被ったが、背に腹は代えられない。

 そう思いながら、出入り口の一つである、レリアの自室に出るなり、髪や鎧についた汚れを払い、周囲を警戒していく。


『急げ!外の連中を援護するぞ!』

『反政府勢力どもめ!』

「……陽動は上手く行っているようね」


 あちらこちらから爆音や銃声が響き、内部にいる兵士も慌ただしく動いている。

 漏れて来る兵士の声や足音からも、それが伺えた。


「はい、敵兵のほとんどが外へ行っているようです」

「しかし、自分たちの城を攻め込む事に成るなんて」


 六人で城の中に入り込んだはいいが、なんとも妙な気分だった。

 何しろ、ロゼ達薔薇騎士団は、城の、いや、イリス王国の最後の盾になる予定だった。

 その筈が、なんの因果か、こうして自分の城に攻め込む事に成っている。


「さて、私達はマクスウェルを捕えて、父上達を開放する、その為にも、アイツの居る場所まで行くわよ」

「はい、奴の位置は、既に特定しております……最奥の謁見の間……完全に城をわが物顔で使ってやがる」

「解ったわ……それじゃ、行きましょう!私達の国を取り戻しに!」


 そう言いながら、レリアは先陣を切りだす。

 その前に、ロゼはレリアを静止させる。


「お待ちください!」

「グへ!」


 着ているスーツの首根っこを掴まれ、レリアは停止。

 そして、ロゼは怒りの籠った目でレリアを睨みつける。

 ぶつけられる眼力は、何時も以上に真剣で、流石のレリアも委縮する程に重い。


「あの、姫様、どうしてもというのでお連れしましたが、私達から決して離れないでくださいよ?貴女に死なれたら元も子も無いので」

「う、ご、ごめんなさい」

「あの、もう歩哨部隊はいなくなっていますよ」


 アンクルに言われ、落ち着いた二名も行動を開始しようとする。

 だが、その後ろで。


「ちょっとミシェル?何やって……」

「ゴメン、ちょっとひっかかっちゃって……」


 ミシェルの装備であるトゲ付き鉄球。

 それが隠し通路にひっかかっており、彼女はそれを無理矢理引き抜く。


「フン!」

「あ」

「……」


 当然、そんな事をすれば、大きな音を立てながら、壁は引きはがされ、使われた石材は崩れ落ちる。

 その結果には、流石のミシェルも黙ってしまう。

 勿論、奇襲に来た六人も、絶句してしまった。


『おい!今の音はなんだ!?』

『こっちだ!誰か居るのか!!?』


 明らかに毛色の違う音だったせいか、兵士数名が彼女達の方へ向かってくる。

 その声を聞き、ミシェル以外口が外れそうな程に口をあんぐりと開けてしまう。


「……ゴメン」


 ミシェルが謝罪をいれた瞬間、ロゼは部屋の前に来た連邦兵を扉ごと排除。

 部下達を手招きし、一気に駆けだす。

 その中で、レリアはこの状況に叫ぶ。

 もう奇襲の意味がない。


「奇襲の意味!奇襲の意味ぃ!!」

「しかたありません!このまま突っ切ります!」

「だからアイテムボックス入れていけって言ったんだよ!!」


 一斉に走り出すなり、向かってくる連邦兵を返り討ちにしながら、ロゼ達は最奥をめざしていく。


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