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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
モミジガサ編
272/343

戦う理由 前編

 カルミアの町の攻防があった一週間後。

 マクスウェルは宇宙へと上がり、シルフィの世界の月へと移動していた。

 宇宙艇から見える、何とも美しい宇宙と、間近で見る月の光景は圧巻だった。

 その光景の中に、大きな山さえスッポリと入ってしまいそうな、大きなリングが見えて来る。


「……あれがリング、既に完成していたのか」

「はい、これより、転移を開始します……こちら、連邦軍所属、コールス少尉より、管制室へ、現在、マクスウェル外交官を護送中、リングを起動させてください」


 宇宙艇を操舵するコールスは、リングから一定距離を取り、通信を開始した。

 無線と一緒に、ライトの点滅を使用したモールス信号を使用し、リングの管制室とコンタクトを取る。

 リングの起動には、膨大な量の電力とエーテルが必要なので、無線が通じづらい事はよくある。

 なので、宇宙艇に備え付けてある専用のライトの点滅で、通信を行う事に成っている。


「……お、通じたようですね……今、通信用の機体をこちらへ向かわせるそうです」

「そうか……エーテル技術は素晴らしいが、こういうのが面倒だ」

「全くです」


 エーテルを用いた技術は、人類に革新をもたらした。

 だがその反面、電子機器は扱いづらくなっている。

 今の状況が良い例だ。

 その事に憤りを覚えていると、通信の中継用装備を付けたエーテル・アームズが配置につき、レーザー通信が行われる。


『こちら管制室、パスを確認しましした、これよりリングを起動させます、誘導に従ってください』


 管制室の言葉通り、リングは起動。

 リング中に、気味の悪い色をしたゲートが出来上がり、誘導が行われる。


「……では、行きますよ」

「ああ」


 宇宙艇は前進し、数分後、リングを潜り抜ける。

 すると、あの気色の悪い色のゲートは無くなり、代わりに宇宙が広がる。

 感覚としては、ただリングを潜り抜けただけのように思える。

 だが、宇宙艇のコックピットから辺りを見渡すと、その考えが誤りという事に気付く。


「す、素晴らしい!」

「ええ、私も初めてくぐりましたが、よもや、これが現実になるとは」


 二人の目が捉えたのは、懐かしい故郷の姿。

 教科書やニュース等で、度々見ているだけに、見間違えるわけがない。

 人類の偉大さに、マクスウェルは改めて誇らしさを覚えた。


「少尉、人類の未来は明るいな」

「はい、人類の崇高なる未来は、遠くないかもしれません」


 何時も唱えている掲句は、数世紀先の遥か未来と思っていた。

 しかし、この状況を考えると、もはやその掲句は間近の事のように思える。

 その事に大志を抱きながら、二人は目的地へと移動する。

 連邦軍総司令部へ。


 ――――――


 秘匿された場所に設置された総司令部。

 そのデッキに案内された二人は、宇宙艇を降り、大勢のヴァルキリー隊に出迎えられる。

 彼らは式典のようにライフルを構え、マクスウェルへ敬礼する。

 その中から、最も階級の高い人物が前へと出る。


「……貴官は?」


 前へ出て、敬礼した兵士の階級は中尉。

 戦闘スーツでくっきりしている体のラインから見て、恐らくは女性。

 ヘルメットを脱ぎ、草色の髪と長い耳をさらすと、彼女は改めて敬礼する。


「どうも、プラム中尉です、本日は、司令部内の案内約を承りました」

「プラム……そうか君か!スレイヤー殺しというのは!」

「……はい、外交官殿にまで名を覚えられ、光栄の限りでございます」


 スレイヤー殺しという二つ名を聞いた瞬間、プラムは一瞬だけ顔を曇らせた。

 だが、すぐに姿勢を正し、顔に力を戻す。

 それでも、内心は屈辱感と劣等感にさいなまれていた。


「(……スレイヤー殺し、あんな物、ただの漁夫の利だ……アイツの右腕も取り逃がした)」


 所詮は漁夫の利で得た二つ名だ。

 その上、新型のテスト中に対峙したジャックの右腕を逃している。

 新型の性能のおかげで、互角の戦いを繰り広げたが、生身で戦っていたら、敗北していた所だろう。


「……それでは、新鋭機の元までご案内いたします」

「ああ、頼む」

「では、行ってらっしゃいませ」

「少尉も、案内ご苦労だった」


 敬礼するコールスと、ヴァルキリー隊の見送りを受けながら、マクスウェルはプラムの案内を受ける。

 あまりにも広い総司令部の移動を行う為に、移動用の車へと、二人は乗り込む。

 兵器の搬送を行うために、かなり広い作りとなっている。

 もはや、徒歩では移動に支障が出てしまう程だ。


「……しかし、総司令部というのは、ここまで広いのか」

「あ……初めての来訪でしたか」

「ああ、ここに司令部が移る前に、あの世界へ行ったからな」

「そうですか……私も、去年配属されたばかりですが、安心してください、ルートはしっかり頭に叩きこんであります」


 道中に会話を繰り広げながら、マクスウェルはソワソワと落ち着きがなかった。

 新鋭機を見に行くにあたって、覚悟を決めてはいたが、いざ向かっているとなると、どうしても緊張してしまう。

 設計がわかりやすく書かれた説明書を見た時から、このソワソワした気分が続いている。


「……どれ程で着く?」

「後十分程です」

「そうか……それで、君は、彼ら志願兵についてどう思う?」

「……とても尊敬できます、果たすべき大義と、忠誠心と、人類の崇高なる世界を作ろうという覚悟が、ひしひしと伝わってきました」

「そうか……私と同じだな」

「はい、それと、次の戦いは、確実な勝利をお約束します、我々ヴァルキリー隊のトップ二名が、今後の作戦に加わりますので」


 ――――――


 普通の公道を走るのと同じ要領で車を走らせること、およそ二十分。

 二人の乗る車は、目的の場所にたどり着く。

 まるで隔壁のように頑丈な扉に隔てられた、特別な部屋。

 その前に、二人は立つ。


「ここか?」

「はい、新鋭機専用の第一格納庫が、この先に有ります……プラム中尉です、マクスウェル外交官をお連れしました」

「は!ご苦労であります!」


 警備兵と敬礼を行うと、その扉が開かれる。

 しばらく通路を進み、もう一つの扉が開かれ、その中があらわとなる。


「ッ、これが」

「はい、リユース・エーテル・アームズ『アンスロポス』です」


 二人の視界に現れたのは、通常のエーテル・アームズより、一回り大きな黒い機体が一機。

 全体的にアスリートのようにバランスの良い体格で、従来の物より人間に近い。

 その機体だけが置かれているなら、まだ良い。

 特に目を引くのは、周辺に設置されている病院で使われているような機器。

 とてもエーテル・アームズの整備に必要とは思えないが、詳細を知るマクスウェルはその意味を理解する。


「……に、任務、ご苦労」

「ッ、これは、遠路はるばる、ご足労いただきありがとうございます」

「ああ、挨拶は良い……ところで、パイロットと話せるか?」

「はい、バイタルは正常ですので、会話は可能です」

「そうか」

「では、こちらのマイクで、どうぞ」

「ああ、ありがとう」


 研究員の一人に案内されたマクスウェルは、コンソールの前に立つ。

 珍しく挙動不審となりながら、呼吸を整え、視線を落とす。

 目の前の機器には、パイロットの容態を示す数値が、いくつも見られる。

 その中央に、会話用のマイクが置かれており、スイッチを押しながら話しかける。


「あ、あ、き、聞こえるかね?私は、マクスウェル、外交官を務めている」

『オお!これハ、マクスウェルガイコーカン!オハナシはキいております!』

「ッ、げ、元気そうだな……えっと、ファナティク軍曹だったか?」

『ハイ!』


 少々活舌がおかしいが、パイロットはずいぶんと元気そうだ。

 その事に安心しながら、マクスウェルは彼のプロフィールを思い出す。

 三年前、ストレンジャーズを倒すべく、異世界の基地へと出兵した人物だ。

 ファナティクの戦績は、アリサシリーズを一機大破させたことになっている。

 エーテル・アームズを駆る特殊な個体を、行動不能にまで追いやったそうだ。

 その際、身体の機能の全てを失う重傷を負ってしまった。


「……身体の機能を全て失ったと聞いたが、辛い所はないか?」


 機能を失った彼は、もはやアンスロポスの中でしか生きられない。

 この機体そのものが、生命維持装置にもなっており、接続が失われれば、彼の寿命は尽きる。

 つまり、この機体に乗ったら最後。

 二度と普通の人生は歩めない。


『ダイジョウブです、ココのスタッフは、ミなユウシュウですので』

「そうか……私がここに来たのは、他でもない、貴官がこの機体を駆り、戦いに赴く事に、志願した理由を聞きたい」

『……』


 マクスウェルからの質問に、ファナティクは息を飲んだ。

 本来なら、ドレイクのようにサイボーグ手術を行えば、普通の人生も送れた。

 だが、その道を拒み、アンスロポスのパイロットに志願した理由。

 それは、三年前の戦いが由来していた。

 志願を決めたその理由を思い出した途端、心電図の音が激しくなる。


『はぁ!はぁ!ヤツを、あのイマまわしきソンザイ、ヲ……ケっしてユルされるワケがない、いや!ユルされてはいけないのだ!』

「おい!どうした!?」

『コのスガタこそ、ワレワレのケツイ!オノレのミライを、フツウのジンセイをステテでも、ジンルイのミライをマモル!そのカクゴのアラワレだ!!』


 今にも拘束を引きちぎりそうな程、ファナティクの機体は揺れ動く。

 拘束具は決して破れないように設計されているとは言え、無理に暴れれば双方に異常が出る。

 その事を忘れてしまう程に暴れるファナティクを、マクスウェルはなだめようとする。


『ヤツらにワからせるのでス!ワレワレのタダしさヲ!アンドロイドとイうソンザイが、どれだけツミブカいか!』

「落ち着け!ここで異常が起きたら、君の望みは叶わなくなるぞ!落ち着け!」

『ッ!……はぁ、はぁ……』


 機体の中で呼吸しているのかはともかく、深呼吸をしているかのような挙動が垣間見える。

 どうやら、少し落ち着きを取り戻したようだ。

 だが、未だに怒りがくすぶっているようで、機体はかすかに震えている。


「……良いかね?君がかつて、その命をとして戦ったアンドロイド達は、人類に牙を向いている……今まで恐れていたことが、現実となったのだ……君の覚悟は解った、そして、その決意も」

『ッ……もったいなキ、オコトバを、アリガトウございまス』

「……君と同じように志願した者達と共に、人類の敵を、打ち倒してくれるかね?」

『ハイ!』

「……君達の覚悟に、最上の敬意を」


 マクスウェルは、自分にできる最高の敬礼を見せた。

 激昂した彼の言葉で判明した。

 彼の決意と覚悟。

 それは生半可な物ではない。

 この機体に乗った時点で、再手術で普通の人生に戻る事は不可能。

 恋人と添い遂げる事も、美味しい食事にありつく事もできなくなる。

 全てを捨ててでも、アンドロイドの破壊に賭けている。

 彼の愛国心と忠誠心に、マクスウェルは心から感謝した。

 その傍らで。


「(そうだ、私達には、果たさなければならない恩義が有る……ゴミのような人生だった私達を拾い、ここまで救ってくれた彼らの為に、この身を捨てる事なんて……)」


 プラムは、新たな決心をしていた。

 負け惜しみを言いながら、無様に死んでいったスレイヤー。

 そして、大義も恩も持ち合わせず、野蛮な事しかできない無法者達。

 彼らとは、根本から違うのだ。

 覚悟の在り方、決意の強さが。


「(今度こそ、終わらせてやる、この手で)」


 ――――――


 一方、カルミアの町にて。

 連邦の連中が大人しくなっているのを見計らい、カルミアとレリアは、宇宙の仲間に連絡を取っていた。

 ヴァーベナの位置を特定されたとしても、連邦に今すぐ向かうだけの余裕はない筈だ。

 町の修繕や、兵士の回復も落ち着いて来たので、そろそろ次の段階に入って良い頃合い。

 そう考えていると、映像がヴァーベナの艦橋が映し出される。


「しぶとく生きていて何よりだよ、ネロ」

『……貴官は?』

「あ……アタシだよ、カルミア、ちょっと義体を変えてね」

『そうだったか、印象が違い過ぎて解らなかった……ん?』


 今までは音声のみでの通信だったので、こう言ったビデオ通話は今回が初めて。

 ネロがカルミアの現在の姿を見たのは、これが最初だ。

 そして、もう一つの知らない顔に、ネロは少しだけ身を乗り出した。


「……そうだ、紹介がまだだったな、コイツはレリア、連邦の連中が乗っ取った国の姫だ」

「どうも、カルミアから話は聞いています」

『おお、そうでしたか……私はネロ、現在、ヴァーベナの艦長を務めております』


 レリアが姫だという事を聞いたネロと、そのほかの乗組員たちは、立ち上がって敬礼した。


「は、初めまして、でも、今回の私は、ただの町娘だと思ってください」

『いえ、そのような訳にはまいりません、どのような立場であっても、貴女は姫なのですから』


 そう言ったやり取りをしながら、ネロと乗組員たちは座り直す。

 レリアにとっては、本当にただの町娘と思って貰って構わなかった。

 何しろ、交渉は失敗し、連邦とのキレツを確実な物にしてしまったのだから。

 既に色々と自己嫌悪に陥ってしまっている。


「……レリアには悪いが、次の話だ……ヴァーベナの建造はどうなっている?」

『すでに主砲は実用段階に入っているようだ、各種機能の調整も、時期に終わる……短く見積もって、後二日か、三日、と言った所だ』

「そうか……明日、エーラとイベリスを、こっちへ呼んでもらってもいいか?作戦の概要を考えたい、それに、会いたい奴らだって、居るだろ?」


 ヴァーベナの主砲は、次の作戦では必須なる。

 なので、まだ不安を抱えたままというのは、容認できない。

 それだけに、エーラとイベリスを呼ぶのは、少々ためらってしまっていた。

 だが、あの二人だって、会いたい人物位は居る。

 ネロも、戦力が減る事は避けたいが、最近のエーラもイベリスも、少し働きすぎだ。


『……良いだろう、明日、二人をそちらに向かわせる』

「感謝するよ」


 お互いに敬礼した後、通信は終了する。

 これ以上は、ヴァーベナの位置が特定されかねない。

 エーラ達の来訪が決まり、身体を伸ばすカルミアは、横に座るレリアに目をやる。

 どことなく、目が死んでしまっている。


「……気にすんな、元々話聞くような連中じゃないんだよ、連邦政府ってのは」

「けど……」

「けども何も無い……だが、今回の敗北をきっかけに、向こうが狂行に出ないと良いけどな」

「狂行?」

「……ルシーラの言う通り、ヴィルへルミネが一枚かんでいたとすると、狂った兵器が来ても、おかしくない」


 カルミアが懸念しているのは、ルシーラの考察が完全に当たっている事。

 仮に当たっていて、何らかの方法で、裏から手引きしていたとすれば、珍妙な兵器が導入されても、不思議ではない。

 彼女は真の天才と言っても良い。

 造る兵器に、多少の癖があっても、その性能は破格な物だ。


「……ま、何が来ても、終わればそれまで、進めたら、また一歩進めばいい」

「……貴女のその精神が羨ましいわ」


 ――――――


 一方で、リリィは、すっかり落ち込んでしまったルシーラに頭を下げていた。


「あの、本当にすみません、まさかそこまで落ち込むなんて」

「……えっと、ゴメン、すっかり拗ねてる」

「……」


 マリーを経由して、ルシーラの意見を聞こうとしたが、まるでダメのようだ。

 それ程喋る事が得意でないリリィも、言葉を詰まらせてしまう。


「……あ、え?何?……わかったッ」

「ん?」


 だが、何やら決心をしてくれたようで、マリーからルシーラに、意識が切り替わる。


「……よし……リリィよ、謝罪はもうよい、余も、少々大人気なかったな」

「ご、ゴメンなさい」

「だから、もうよいと……はぁ、まぁよい……今回は、個人的な質問が有る」

「質問?」

「……お主らは何故、そこまで嫌われているのだ?」

「ッ」


 ようやく表に出て来たルシーラの質問は、なんともデリカシーに欠けていた。

 しかし、気になるのも無理はない。

 ルシーラはリリィ達の世界の事については、ほとんど知らないのだ。


「……そうですね、あいつ等にとって、私達は自然の摂理に反しているんだそうです」

「自然の摂理か……確かに、カラクリに自我を芽生えさせるなど、狂っている、と言えるのかもしれんな」


 ルシーラの言葉に、リリィは思考を巡らせた。

 意思を持っている機械だからこそ、自分の存在が狂っているという言葉に、少し迷いが産まれてしまった。


「(……意思を持った機械、連邦共がさんざん言っているが、本当に狂ってんのは、私達なのか、それとも、あいつ等なのか……)」


 狂気の兵器。

 そう言った物の規制は、使った後で行う事が多い。

 アンドロイド兵でも、意思を持ってしまえば、それは人間を戦地に送っている事と変わらない。

 そんな観点から、非人道的だと規制された。

 意思を持つアンドロイドであるリリィを見る目と言えば、化け物扱いされるのが、自然なのかもしれない。

 そんな彼女が、最前線で戦い、そして、人間と変わらない生活を送る。

 今の状況の方が、もしかしたら異常なのだろう。


「(……私達を、化け物と蔑む事が正しいのか、それとも、シルフィみたいに、人間のように接するのが正しいのか……その正しさを証明してくれる奴は、誰なんだろうな)」

「……それで?貴様は人類をどう思っている?」

「は?」

「滅ぼしたいのか?それとも、共存したいのか?」

「……私の望みは、シルフィと共に生きる事ですよ、人類なんて、その幸せな生活のために、利用できる存在、と言った所でしょうね」

「では、滅ぼす気はないのだな」

「はい」

「……では、迷う事などない、たとえ魔王であっても、人類を滅ぼす気が無ければ、害悪とはなりえぬ」

「……」


 ルシーラの言葉に、リリィはハッとなった。

 自分はただ、シルフィと生きたいだけだ。

 正しい、正しくない。

 そんな事は関係ない。

 ただ、意思を持った以上は、自分の人生を歩んでいきたい、それだけだ。

 他人の否定なんて、どうだっていいのだ。


「(……知らない不特定多数より、本当に好かれたい一人……彼女の為に、私は、私の人生を歩めれば、それでいい)」

「……迷いは晴れたか?」

「はい」

「では、祝いにこいつをくれてやろう」


 そう言ったルシーラは、リリィに青い石を渡す。

 次元収納より取りだされたそれは、そんじょそこらの宝石では敵わない位、美しい輝きを見せている。

 宝石に興味のないリリィであっても、うっかり見とれてしまう程。

 だが、どれだけスキャンしても、構造的にはただの宝石だ。


「綺麗な石ですが、私には必要n……」

「……」


 必要無いと言いかけたリリィに、ルシーラは自分の左薬指の付け根を指さす。

 意図を理解したリリィは、盛大に土下座する。


「魔王様ぁぁ!!ありがとうございますぅぅ!!」

「うむ、苦しゅうない」


 因みにこの後、一部始終を見聞きしていたマリーによって、ルシーラの一人喧嘩が、また始まったとか。


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