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エルフとガイノイドの百合劇場  作者: B・T
モミジガサ編
271/343

つかの間の休息 後編

 リリィ達がバカ騒ぎをしている頃。

 イリス王国の城にて。

 もはや、この城はすっかり連邦政府によって私物化されてしまっていた。

 城内には大量の武器と弾薬が運び込まれ、駐屯地も郊外から城内へと移されている。

 しかも、防御を固めるべく、移設型の砲台や、様々なビークルまで城に配備された。

 ネズミ一匹入る隙間も無い要塞となっているのだが、そんな安全地帯で、マクスウェルは憤りを覚えていた。


「クソ!一部の兵は捕縛か逃走、そのうえ、防衛を突破できなかっただと!」


 会議用に設けられた部屋で、逃げ帰って来た兵士の報告を受け、マクスウェルは机を勢い良く殴った。

 連隊規模という過剰戦力を、突貫の町に差し向けたというのに、部隊は敗走した。

 この事実を前に、怒り以上に焦りも覚えてしまう。

 残党程度にしてやられたとあっては、マクスウェルの地位も危うい。


「(どうすれば良い!?もはや数でどうにかなる相手ではないかもしれん!?)」


 相手の戦力が、連隊規模や旅団規模であれば、まだ言い訳はついたかもれない。

 だが、事実は違う。

 敵の規模は精々大隊から中隊程度しかない。

 十分の一程度の相手に、全体の半分近くを持っていかれた。

 しかも、揚陸艇は全て破壊されている。

 そのほとんどが、アリサシリーズによる物という報告だった。


「(おのれ……機械風情が、我々人間をどこまで侮辱する気だ!……だが、これ以上の失態は、私の首が……)」

「お困りのようですね」

「ッ!」


 冷や汗をダラダラと流すマクスウェルの後ろから、カツカツとヒールを鳴らす音が近寄って来る。

 通常の黒いスーツを着こなし、フルフェイスのヘルメットを被った女性。

 リアマ少佐が、タブレットを片手に入室してきた。

 彼女の姿を見るなり、マクスウェルは目を逸らす。

 何しろ、この状況は彼女の予想通りなのだ。


「(……結局、この女の予想通りか……あれだけの戦力を導入してもなお、勝てなかった)」


 彼女が提案した規模は、もっと多い物だった。

 仕方なく新鋭機のグリズリーを導入したが、それさえも良い結果はもたらさなかった。

 ヘルメットごしで顔が見えないので、マクスウェルは彼女が嘲笑の笑みを浮かべている妄想をしてしまう。


「……何の用だ?」

「どうやら、部隊は敗走したようですね」

「ッ……バカにしに来たのか?」

「いえ、この城の防衛戦力増強の提案を進言しに来ました」

「防衛の提案?奴らがここを攻めるというのか?」

「はい」


 リアマの発言を、マクスウェルは鼻で笑った。

 この城に攻め入るという事は、レリアの大事な城下町まで被害を出す事に成る。

 空中からエーテル・ギアと、エーテル・アームズを使っても、今の装備なら、迎撃は容易い。

 強襲型の揚陸艇でも使わない限りは、接近する事も困難だ。


「何を言うかと思えば、あのお姫様は、この国と町を愛しているという事だ、いくらアンドロイドに惑わされているとは言え、そんな大それたことを」

「アンドロイドだからこそ、この城への襲撃を強行するとは思いませんか?」

「ッ……」


 リアマの発言に、マクスウェルは息を飲んだ。

 相手は人間ではない、アンドロイドだ。

 プログラムの指示に、ただ従うのみの人形たち。

 思考という事をしない故に、哀れみも、哀しみも持たない。

 そんな奴らゆえに、この城に来ることくらいは考えられる。


「……それで、提案とは、何だ?」

「技術部の新鋭機を使用し、守りを固めます、それと、ヴァルキリー隊からも大隊規模の増援が許可されました」

「……そうか……そうでもしないと、奴らは止められそうにない……新鋭機の詳細を聞こう」

「はい、こちらに」


 彼女の言う新鋭機の詳細を知るべく、マクスウェルはタブレットを受けとる。

 そこには、アンスロポスという機体名のエーテル・アームズが記されている。

 厳密にいうと、リユース・エーテル・アームズという種類らしい。

 だが、その詳細を見た途端、マクスウェルは目を見開く。


「……おい、これは本当なのか?」

「はい」

「……バカな、こんな物に搭乗する者等、居る筈が」

「すでに三十名程、志願兵が集まっております、いずれも、反政府勢力との戦いで、痛手を被った者達です……中止するという事は、彼らの愛国心と忠誠心を否定する事に成りますよ?」

「ッ……わかった、許可する」


 リアマの威圧に押されたマクスウェルは、渋々承諾した。

 この機体に乗る事を志願した兵士達の愛国心、それはマクスウェルにも伝わって来る。

 もしくは、これ以上アンドロイドの蛮行を許せないという、正義感だろう。

 そんな彼らの意思は、絶対に無駄にできなかった。

 だがその前に、踏ん切りをつける為の準備が欲しい所だ。


「……だが、その前に頼みが有る」

「何でしょう?」

「……この部隊のリーダーとなる人物と話がしたい」

「解りました、彼は既に施術を済ませておりますので、一旦宇宙に上がっていただきます」

「解った、予定を開けておく」


 その準備は、リーダーと話す事だ。

 どんな心境で、どんな覚悟で、この特攻隊と同義と言えるような部隊に志願したのか、本人の声を聞きたかった。


「機能を失っても尚……人類の、崇高なる世界……その礎となってくれるか?」


 リユース・エーテル・アームズ『アンスロポス』

 返答によっては、この機体を駆る事を志願してくれた兵士達に、マクスウェルは心から感謝する気だ。


 ――――――


 一方、ヴァーベナにて。

 時間が許す限りに、建造を推し進めていた。

 この艦は、反抗の要でもある。

 一刻も早く、完成させておきたいところだ。


「配線接続作業急げ!」

「射撃システムのチェックはどれくらい進んだ!?対空警戒網は完璧にしろ!」


 エーテル兵器を作業用装備に換装し、超大型艦ヴァーベナの建造を急ぐ。

 元々艦の建造なんて専門外の作業であるが、ラベルクからの指示もあって、何とか作業は滞らずにいる。

 特に重要なのは、この艦の中央に設置されている主砲。

 カルドがアーセナル・ドラゴンに積んでいた物だ。

 その調整を、エーラは担っていた。


「(この艦の動力を直結させて、後は加速器を主砲に合わせて調節してっと……)」


 指が二十本あるのではないかという程のタイプ速度で、エーラはプログラムを構築していく。

 主砲は元々、この艦に設置させる予定の無かった物。

 搭載するには、艦の増築だけでなく、システムを再構築する必要も有った。

 本来ならプログラマーが何十人も必要な作業を、エーラは一人でこなしていく。


『主砲の調節はいかがです?』

「心配すんな、リリィの時のが高校の問題だったら、こっちは小学生の問題みたいなもんだ」

『恐れ入ります』


 通信してきたラベルクの質問に、淡々と答えていても、彼女の作業スピードは落ちない。

 リリィの一件の後、しっかりと休養を取ったおかげで、頭も体もイキイキしている。

 そのスピードには、ラベルクも思わず脱帽してしまう程だ。


「それより、イベリスの奴はどうだ?」

『彼女でしたら、宇宙での建造作業を進めております』

「そうか、それで?それだけを伝えに来た、って訳じゃないだろ?」

『はい、地上部隊から打診が有りました……どうやら、地上での活動拠点の防衛に、成功したとの事です』


 ラベルクからの報告に、エーラは笑みを浮かべた。

 反逆の第一歩は、何とか踏み抜いたのだから。

 後は、このヴァーベナの建造をすませ、地上の部隊と足並みをそろえるだけだ。

 敵がプランBを発動する前に間に合う事を、エーラは祈る。


「(間に合ってくれよ)」


 安心と同時に襲ってくる焦りと不安に、エーラは更に作業ペースを速める。

 このエーラの様子を見て、ラベルクはちょっと後悔した。

 何しろ、彼女がこうなってしまえば、また死ぬ寸前まで休むことをしない。


『(また死にかけないと良いのですが……)』


 ――――――


 ヴァーベナの外にて。

 内側と同じように、使える物を総動員して建造が進められている。

 イベリスも、サブアームを駆使して細かな部分の作業を続ける。

 いくら艦が大きくても、人間サイズでしかできない繊細な作業もある。


「(まさか、お料理や元のコンセプトが、こんな形で役立つなんて)」


 本人も忘れていたが、元々彼女は繊細な作業を売りとしたアンドロイドだった。

 しかも、チハルに料理スキルを叩きあげられたせいか、余計に手先が器用になっている。

 おかげで、ある程度の作業はスムーズに行えている。


「ふぅ、ここは終了ですわね」

『よう、生が出るな』

「……貴方ですか」


 作業の終了と同時に、イベリスの無線に通信が入った。

 通信を行ったのは、作業用に換装されたルプスのパイロット、カルロス。

 三年前の一件で、イベリスと行動を共にしたストレンジャーズだ。

 あれから二人は、何かと交流が有る。


「わたくしに通信を行っている余裕、貴方にあるのですか?」

『はは、手厳しいな、けど、無理すんなよ、お前が万全の状態じゃなくなったら、困るのは俺達だ』

「わかっておりますわよ……ですが、この船が完成しなければ、それ以上に困るのですよ」

『はいよ、んじゃ、お互い頑張ろうぜ』


 イベリスに注意されたカルロスは、敬礼してすぐに持ち場へ戻って行く。

 その背中を見送ったイベリスは、ため息をつく。


「はぁ……全く、シルフィといい、あの男といい、わたくし達を心配する必要はないでしょうに」


 そんな愚痴をこぼしながら、イベリスも作業を再開する。


 ――――――


 その頃。

 リリィ達の世界のどこか。

 ドレイクは、敵からの監視に警戒を行いながら、空中を移動していた。


「……そろそろか」


 エーテル・ギアで風を切るドレイクは、座標を確認しながら砂漠地帯まで降下。

 雲を突き抜けた事で、彼の着る新型のエーテル・ギアがあらわに成る。

 バルチャー・ライトニング

 ジャックの使用していたバルチャーの予備を、ドレイク向けに改修した物だ。

 運動性能は若干落ちているが、代わりに推力を重視した物となっている。


「……こちらドレイク、現着した」

『了解、誘導に従い、基地に入ってください』

「了解した」


 通信を切ったドレイクは、砂の中から出て来たハッチへと移動。

 誘導灯を頼りに、ハッチの中へと入り込む。

 内部へと入り込んだドレイクは、スラスターを切り、減速を行う。


「……ふぅ」


 無事に基地に入り込んだドレイクは、力を抜き、バルチャーの装備を取り払う。

 増加装甲やスラスターを取り除き、何時ものサイボーグ姿に戻る。


「……少佐に報告だな」


 ――――――


 身軽になったドレイクは、基地内にある執務室へと足を運んだ。

 執務室では、相変わらず少佐とチハルが険しい顔で書類とにらめっこしている。

 人手が不足している事もあってか、少佐の顔には疲れが見える。

 そんな彼の座るデスクの前に立ったドレイクは、ピッシリと敬礼する。


「ドレイク中尉、帰還いたしました」

「……お、無事に戻って何よりだ」

「は、もったいなきお言葉」

「……それで、向こうの動きはどうだった?」


 ドレイクの任務は、最近の連邦軍内部の調査。

 現地の諜報班と共に、あらゆる方法を用いて、連邦軍の情報をかき集めていた。

 とは言え、簡単な任務では無かった。

 内部に協力者を設けていても、セキュリティを突破するのは容易ではない。

 可能な限り集められた情報を、ドレイクは報告する。


「はい、奴ら、どうやら例の機体を使うようです」

「ッ……そうか、だが、あれを使うという事は、奴らもそれだけの痛手を被った、という事か……向こうの仲間も頑張っているようだな」

「ええ、我々も、負けては居られません」


 持ち帰った情報を少佐に送信しながら、ドレイクはわずかにほほ笑む。

 この状況になって、抜けてしまった仲間もいる。

 だが、仲間は自分たちだけではない。

 向こうの世界にも、大勢の仲間がいるのだと、再認識できた。


「……ドレイク、改めて、任務ご苦労だった、ゆっくり休んでおけ」

「いえ、大尉が抜けた穴は、私が埋めなければなりません、次の仕事にかかります」

「ドレイク……」


 静止も聞かずに仕事を続けようとするドレイクを、少佐は心配してしまう。

 ドレイクはサイボーグとは言え、内面は人間だ。

 肉体的な疲労は感じづらくても、精神面の疲労は有る。

 それに、ドレイクはマジメ過ぎる面もある。


「別にお前ひとりでこの基地を切り盛りしている訳ではない……それに、これは命令だ、休め」

「しかし……」

「ジャックは、いい加減に思えて、実は要領がよくて、オンオフがはっきりしていた……アイツがダメな所は、面倒な仕事から逃げたり、オフがあまりにもダラけ過ぎているだけだ……休める時は、休め」

「……了解しました」


 少し納得がいかない、そう言いたげに、ドレイクは敬礼する。

 だが、ジャックの話を聞いて、何となく理解はできた。

 彼女は確かに日がな一日、カフェや休憩所でダラダラしているように見えて、仕事自体はちゃんとこなしていた。

 無駄に要領がいいだけに、少佐は何時も頭を抱えていた。

 彼女が居た時の事を思い出しながら、少佐はドレイクを見送った。


「……さて、報告書を読むとするか」

「……あんな事を言っていましたが、少佐も、最近ロクに寝ていないでしょう?」

「そうだな……」

「……指揮官が弱っていると、部隊の士気の低下に繋がります、貴方も休んでください」

「ああ、報告書を読んだら、休むとしよう」


 ドレイクには偉そうに言ったが、少佐も満足に休めていない。

 いずれ来ると解っていたとは言え、連邦その物を敵に回す事に成ったのだ。

 逃げなかった者と一緒に、こうして部隊を再編しているとは言え、心労は何時も以上。

 だが、指揮官という立場上、十分な休息も必要だ。

 その事をチハルに諭されながら、少佐は報告書に目を通す。


「……やはり、連邦は軍備増強に走っているようだな」

「ええ、対テロ特殊部隊であるヴァルキリー隊の存在も、受け入れられているようです」

「そうだな……ん?」


 報告書に目を通していると、気になる人物が上がって来る。

 その人物に対しては、異様と言える位の熱量で調べられているのだ。

 プラム少尉。

 ヴァルキリー隊のエースの一人で、ハーフエルフ型の強化人間らしい。

 彼女について、やたらと調べられている。


「……プラム少尉、ドレイク同様に元スラムの孤児のため、苗字は無し……ナーダに拉致され、強化人間の施術を受けたのか……戦績は……ッ!?」


 報告書を読み進めていくと、何故こんなにも調べられているのかが判明した。

 戦績の中に、ジャックの抹殺と表記されているのだ。

 ドレイクがそれを知れば、何としてでも殺しにかかるだろう。

 だが、報告書によれば、彼女はまだ生きているらしい。


「……そうか、彼女が」


 強く拳を握りしめる少佐であるが、深呼吸をして怒りを鎮めていく。

 今にも激昂してしまいたい気分であるが、そんな醜態をさらすマネを、今はしたくない。

 何とか怒りを抑え込み、報告書を読み進める。


 ――――――


 ドレイクが執務室から出た十分後。

 身体を戦闘用から私生活用に切り替え、マイルームに戻り、ベッドに転がった。


「……」


 思い悩むように、ドレイクは電灯の付いていない天井を見つめる。

 節電というのもあるのだが、単純に今は薄暗い所が心地よいだけ。

 調査を進めていた時、ドレイクは一人の少女と出会った。

 その事を思い出すと、どうにも怒りが収まらない。


「(プラム……)」


 調査で連邦の基地へ赴いた時、彼女と戦う事になった。

 その時、プラム本人の口から聞く事に成ったのだ。

 ジャックを殺したのは、自分だと。

 だが、今になって思えば、彼女では無理な話だ。


「(あの女、素質は確かに良かったが、大尉を殺せる程では無かった……恐らく、例の衛星軌道兵器で弱ったところで、漁夫の利を得たのだろうな)」


 ジャックを殺した時の功績か、プラムには専用のエーテル・ギアが支給されていた。

 高性能で苦戦はしたが、それを差し引いても、ジャックに及ぶ物では無かった。


「(……次に戦う時は、俺が、この手で)」


 無駄という事は解っている。

 だが、仇を取らずにはいられない。

 胸の内に、ドロドロとした憎悪を宿しながら、ドレイクは天井に手をかざし、強く握りしめた。



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